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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第4章 鋼鉄
89/131

第4話 盾

ウドンターニー派遣から二週間。


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 その日は、普通の日だった。


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 午後二時。


 瀧本は、バイクで市内をパトロールしていた。


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 白いBMW R1250 GS Adventure。


 Arai製のヘルメット。


 いつもの装備。


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 「瀧本、異常はないか」


 ジョンソンの声が無線に入った。


 「ない。平和だ」


 「平和でいいじゃないか」


 「平和すぎて退屈だ」


 「贅沢を言うな」


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 瀧本は、市場の近くを走っていた。


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 人が多い。


 観光客もいる。


 子供たちが走り回っている。


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 「平和だな」


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 その時。


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 銃声が聞こえた。


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 瀧本は、バイクを止めた。


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 「今の音......」


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 また銃声。


 連続。


 自動小銃の音だ。


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 悲鳴が聞こえた。


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 「銃撃だ!」


 瀧本は無線を入れた。


 「ウドンターニー中央市場付近! 銃乱射事件!」


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 『了解! 全員出動!』


 ジョンソンの声。


 『瀧本、待機しろ! 一人で行くな!』


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 「無理だ。現場に急行する」


 『瀧本!』


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 瀧本はバイクを走らせた。


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 銃声が近づいてくる。


 悲鳴が増えている。


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 市場の入り口に到着した。


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 人々が逃げ惑っていた。


 パニック状態だった。


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 瀧本はバイクを降りた。


 M93Rを抜いた。


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 中に入った。


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 市場の中は、地獄だった。


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 倒れている人。


 血。


 叫び声。


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 そして、犯人がいた。


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 男が一人。


 AK-47を持っている。


 無差別に撃ちまくっていた。


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 瀧本は、犯人を見た。


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 犯人との距離は、約三十メートル。


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 射程内だ。


 狙える。


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 だが、その時。


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 犯人の足元に、子供がいた。


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 五歳くらいの女の子。


 泣いている。


 動けないでいる。


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 犯人が、女の子に気づいた。


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 銃口が、女の子に向けられた。


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 瀧本の体が、動いた。


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 考える前に。


 判断する前に。


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 体が、動いていた。


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 走った。


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 全速力で。


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 犯人が引き金を引いた。


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 瀧本は、女の子の前に飛び込んだ。


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 銃声。


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 一発目。


 胸に衝撃。


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 二発目。


 腹に衝撃。


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 三発目。


 四発目。


 五発目。


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 瀧本は、女の子を抱きしめた。


 背中で、弾丸を受け止めた。


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 六発目。


 七発目。


 八発目。


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 痛みは、もう感じなかった。


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 九発目。


 十発目。


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 「大丈夫だ......」


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 瀧本は、女の子に囁いた。


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 「大丈夫だから......」


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 十一発目。


 十二発目。


 十三発目。


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 視界が、暗くなっていく。


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 十四発目。


 十五発目。


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 「俺が......守る......」


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 十六発目。


 十七発目。


 十八発目。


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 銃声が、止まった。


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 弾切れだ。


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 瀧本は、女の子を抱きしめたまま、倒れた。


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 犯人がマガジンを交換しようとした。


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 その時、轟音が響いた。


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 GAU-19。


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 ジョンソンのハンヴィーが、市場に突入していた。


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 ガトリングが火を噴いた。


 犯人が、蜂の巣になった。


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 「瀧本!」


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 ジョンソンが叫んだ。


---


---


 マルティネスが駆け寄った。


 ヨナタンが駆け寄った。


 アブドゥルが駆け寄った。


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 瀧本は、女の子を抱きしめたまま、地面に倒れていた。


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 背中から、大量の血が流れていた。


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 「瀧本! 瀧本!」


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 マルティネスが瀧本を揺さぶった。


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 返事がなかった。


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 ピーターが駆け寄った。


 医療担当。


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 瀧本の首に手を当てた。


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 「脈が......ない」


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 全員が、凍りついた。


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 「心肺停止! CPR開始!」


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 ピーターが叫んだ。


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 瀧本を仰向けにした。


 胸骨圧迫を始めた。


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 「一、二、三、四、五......」


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 ヨナタンが女の子を抱き上げた。


 女の子は無傷だった。


 瀧本が、全ての弾丸を受け止めていた。


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 「ヘリを呼べ! 今すぐ!」


 ジョンソンが叫んだ。


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 「呼んでる! 五分で来る!」


 アブドゥルが答えた。


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 「頼む......死ぬな......」


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 マルティネスが呟いた。


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 その時。


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 スヨンが到着した。


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 彼女は、瀧本を見た。


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 血まみれの瀧本。


 動かない瀧本。


 ピーターが必死にCPRをしている。


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 「......」


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 スヨンの足が、止まった。


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 「たき......もと......」


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 声が、出なかった。


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 「瀧本......!」


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 スヨンは駆け寄った。


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 瀧本の横に膝をついた。


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 「瀧本! 起きて! 起きてよ!」


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 返事はなかった。


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 「嘘でしょ......嘘よ......」


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 スヨンの目から、涙が溢れた。


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 「死なないでよ......」


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 「死なないって......言ったじゃない......」


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 「生きる気満々だって......言ったじゃない......!」


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 ヘリの音が聞こえた。


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 「ヘリが来た! 急げ!」


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 瀧本が担架に乗せられた。


 ヘリに運ばれた。


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 スヨンも乗り込もうとした。


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 「スヨン、お前は......」


 「行く! 私も行く!」


 「......分かった」


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 ヘリが飛び立った。


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 地上では、ジョンソンたちが残されていた。


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 「......」


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 マルティネスが、地面を殴った。


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 「くそ......!」


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 ヨナタンは、無表情のまま立っていた。


 だが、拳が、震えていた。


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 アブドゥルが祈りを捧げていた。


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 ピーターの手は、瀧本の血で真っ赤だった。


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 女の子が、ヨナタンの腕の中で泣いていた。


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 「おにいちゃん......おにいちゃん......」


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 瀧本は、この子を守ったのだ。


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 自分の体を、盾にして。


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 ジョンソンは、空を見上げた。


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 ヘリが、遠くなっていく。


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 「頼むぞ、瀧本......」


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 「死ぬな......」


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