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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第4章 鋼鉄
88/129

第3話 期限

組織改編から三週間。


---


 アルファチームは、局長の指揮下で快進撃を続けていた。


---


---


 プーケット県。


 海上での麻薬取引を制圧。


---


 瀧本は、ジェットスキーで逃走する犯人を追っていた。


---


 「バイクじゃないのか」


 マルティネスが無線で言った。


 「海だからな。バイクは無理だ」


 「残念だな」


 「残念だ。ジェットスキーは、建物に突っ込めない」


 「突っ込むな」


---


 瀧本は犯人の船に追いついた。


 ジェットスキーから飛び移った。


 甲板で犯人を殴り倒した。


---


 「確保」


---


 海に落ちた。


 ずぶ濡れになった。


---


 「瀧本、大丈夫か」


 「大丈夫だ。濡れただけだ」


 「また怪我したか」


 「してない。今回は珍しく無傷だ」


 「珍しいな」


 「珍しいだろ」


---


---


 チョンブリー県。


 違法カジノの摘発。


---


 ヨナタンが正面から突入した。


 ブリーチングショットガンでドアを吹き飛ばした。


---


 「突入」


---


 中には、武装した警備員が十人。


---


 ヨナタンは無表情のまま、全員を三十秒で制圧した。


---


 「クリア」


---


 瀧本が後から入ってきた。


 「お前、一人で終わらせるな」


 「終わった」


 「終わったじゃない。俺の出番がない」


 「次は譲る」


 「次も同じこと言うだろ」


 「言わない」


 「嘘だ」


 「嘘じゃない」


---


---


 ジョンソンとマルティネスが入ってきた。


---


 「もう終わったのか」


 「終わった」


 「俺たちの出番は」


 「ない」


 「......」


---


 局長が無線で言った。


 「効率的でいいじゃないか」


 「効率的すぎます」


 「贅沢を言うな」


---


---


---


 アルファチームは、三週間で十二の作戦を完了した。


 全て成功。


 犯人、合計百五十三人を確保。


 死傷者、味方ゼロ。


---


 損害賠償請求は、八千万バーツに達した。


---


 ナターシャとラッタナーが、毎日のように書類と格闘していた。


---


---


---


 そして、日本から連絡が来た。


---


---


 局長室。


---


 局長は、一枚の書類を見ていた。


 外務省経由で届いた、日本政府からの正式文書。


---


 『犯罪人引渡し請求書


  被請求者:瀧本勝幸(38歳、元日本国籍)


  容疑:殺人罪、銃刀法違反、公務員職権濫用罪


  請求国:日本国』


---


---


 局長は書類を机に置いた。


---


 「来たか」


---


---


 会議室。


 緊急会議。


---


 出席者は、局長、ハーパー、ルノー、ミュラー。


 そして、外務省の担当官。


---


 「日本政府からの正式な引渡し請求です」


 担当官が説明した。


 「瀧本勝幸に対する逮捕状が、日本で発行されています」


---


 「容疑は」


 「殺人罪。山本健二を射殺した件です」


 「正当防衛ではないのか」


 「日本の検察は、正当防衛を認めていません」


 「なぜだ」


 「勤務外であったこと。拳銃を不正に持ち出していたこと。そして、裁判前に国外に逃亡したこと」


---


 局長は腕を組んだ。


---


 「タイ政府の立場は」


 「まだ決定していません。局長の意見を聞きたいと」


 「俺の意見か」


 「はい」


---


---


 局長は立ち上がった。


 窓に向かって歩いた。


---


 「瀧本は、我々の仲間だ」


 「......」


 「タイ国籍を取得している。タイ国民だ」


 「......」


 「そして、王室犯罪対策局の隊員だ。王の剣だ」


 「......」


 「日本に引き渡すつもりはない」


---


 担当官は頷いた。


---


 「では、そのように報告します」


 「ああ。頼む」


---


---


 担当官が去った後、ハーパーが言った。


---


 「日本は、引き下がりますかね」


 「引き下がらないだろう」


 「では、どうします」


 「前回と同じだ」


---


 局長は椅子に座った。


---


 「タイ政府が正式に拒否する。日本が抗議する。タイが突っぱねる」


 「国際問題になりますが」


 「なってもいい」


 「......」


 「瀧本は、連続殺人犯を止めた。被害者を守った。それは正義だ」


 「......」


 「法と正義が一致しないなら、俺は正義を取る」


---


---


---


 同じ頃。


 訓練場。


---


 瀧本は、バイクの整備をしていた。


 陳志明が手伝っていた。


---


 「瀧本、エンジンの調子はどうだ」


 「悪くない。お前のおかげだ」


 「俺のおかげじゃない。BMWが頑丈なだけだ」


 「それもある」


---


 スヨンが近づいてきた。


---


 「瀧本」


 「何だ」


 「局長が呼んでる」


 「局長が? 何かあったのか」


 「分からない。でも、重要な話らしい」


---


 瀧本は立ち上がった。


 手を拭いた。


---


 「行ってくる」


 「うん」


---


 スヨンは、瀧本の背中を見送った。


---


---


---


 局長室。


---


 「座れ」


 「はい」


---


 瀧本は座った。


---


 「日本から、引渡し請求が来た」


---


 瀧本の顔が、固まった。


---


 「引渡し......」


 「お前を日本に引き渡せという要求だ」


 「......」


 「殺人罪、銃刀法違反、公務員職権濫用罪。逮捕状が出ている」


 「......」


---


 瀧本は黙っていた。


---


 「俺は、拒否した」


 「......え?」


 「タイ政府に、引渡しを拒否するよう進言した」


 「......」


 「お前は、タイ国民だ。タイの法の下にいる」


 「......」


 「日本に引き渡すつもりはない」


---


 瀧本は、局長を見た。


---


 「......いいんですか」


 「いい」


 「国際問題になりますよ」


 「なってもいい」


 「でも......」


 「瀧本」


---


 局長は瀧本の目を見た。


---


 「お前は、正しいことをした」


 「......」


 「連続殺人犯を止めた。被害者を守った」


 「......」


 「それを罰する法があるなら、その法が間違っている」


 「......」


 「俺は、お前を守る。それが、上官の務めだ」


---


---


 瀧本は、何も言えなかった。


---


 目頭が、熱くなった。


---


 「......ありがとうございます」


---


 声が、かすれていた。


---


---


---


 その夜。


 屋上。


---


 瀧本は、メンソールを吸っていた。


---


 日本からの引渡し請求。


 逮捕状。


 殺人罪。


---


 「......」


---


 覚悟はしていた。


 いつか、こうなると。


---


 だが、局長が守ってくれた。


 タイが、守ってくれた。


---


 「俺は......」


---


---


 足音が聞こえた。


 振り向いた。


---


 スヨンだった。


---


 「何の話だったの」


 「......」


 「瀧本?」


---


 瀧本は、メンソールの煙を吐いた。


---


 「日本から、引渡し請求が来た」


 「引渡し......?」


 「俺を日本に引き渡せって」


 「......」


 「逮捕状も出てる。殺人罪だ」


---


 スヨンの顔が青ざめた。


---


 「そんな......」


 「でも、局長が拒否してくれた」


 「拒否?」


 「ああ。タイは、俺を引き渡さない」


 「......」


 「守ってくれるって」


---


 スヨンは、少し安心した顔をした。


---


 「良かった......」


 「......」


 「本当に、良かった......」


---


 スヨンの目に、涙が浮かんでいた。


---


 「お前、なんで泣いてるんだ」


 「泣いてない」


 「泣いてる」


 「泣いてない!」


---


 瀧本は少し笑った。


---


 「......ありがとう」


 「何が」


 「心配してくれて」


 「心配なんか......」


 「してただろ」


 「......」


---


 スヨンは黙った。


---


 「......してたわよ」


 「だろうな」


 「うるさい」


---


---


 二人は、並んで夜空を見た。


---


 「瀧本」


 「何だ」


 「日本には、帰りたい?」


---


 瀧本は考えた。


---


 「......分からない」


 「分からない?」


 「日本には、もう何もない」


 「......」


 「家族もいない。友達もいない。仕事もない」


 「......」


 「あるのは、逮捕状だけだ」


---


 瀧本はメンソールを踏み消した。


---


 「でも、ここには仲間がいる」


 「......」


 「局長がいる。ジョンソンがいる。ヨナタンがいる」


 「......」


 「お前もいる」


---


 スヨンの顔が、赤くなった。


---


 「私は......」


 「お前は、俺の仲間だ」


 「仲間......」


 「そうだ。大事な仲間だ」


---


 スヨンは、少し残念そうな顔をした。


---


 「仲間、ね......」


 「何だ。不満か」


 「不満じゃない」


 「不満そうだぞ」


 「不満じゃない!」


---


---


 瀧本は首を傾げた。


---


 「お前、最近変だな」


 「変じゃない」


 「変だ。顔が赤いし、泣くし」


 「風邪よ」


 「風邪で泣くのか」


 「泣く風邪もある」


 「ないだろ」


 「ある!」


---


---


 瀧本は溜息をついた。


---


 「まあ、いい。風邪なら早く寝ろ」


 「......」


 「明日も訓練だ」


 「......分かったわよ」


---


 スヨンは屋上を去っていった。


---


---


 瀧本は一人で残った。


---


 「......変な女」


---


 新しいメンソールに火をつけた。


---


---


---


 翌日。


 タイ外務省。


---


 正式な声明が発表された。


---


 『タイ王国政府は、日本国政府からの犯罪人引渡し請求を拒否する。


  瀧本勝幸氏は、タイ王国の国籍を有するタイ国民であり、タイ王国の法の下にある。


  同氏の行為は、タイ王国において犯罪を構成しない。


  よって、引渡しの法的根拠は存在しない。』


---


---


 日本のメディアが騒いだ。


---


 『タイ、引渡し拒否! 殺人犯を匿う』


 『日本政府、強く抗議』


 『外交問題に発展か』


---


---


 だが、国際社会の反応は、前回と同じだった。


---


 『連続殺人犯を止めた男を、なぜ日本は罰しようとするのか』


 『被害者を守った英雄を、殺人犯呼ばわりするのは異常だ』


 『日本の司法制度は、被害者よりも加害者を守るのか』


---


---


 日本政府は、前回の教訓を思い出した。


---


 あの時も、世界中から批判された。


 タイ政府に正式に謝罪させられた。


---


 「......これ以上、騒がない方がいいのでは」


 「しかし、世論が......」


 「世論より、国際的な立場を考えるべきだ」


---


---


 日本政府は、静かに引き下がった。


 抗議は続けるが、強硬手段は取らない。


 そういう方針に落ち着いた。


---


---


---


 同じ頃。


 柏木は追い詰められていた。


---


---


 局長室。


---


 「期限まで、あと一週間だ」


 「......」


 「答えは出たか」


 「......」


---


 柏木は黙っていた。


---


 「サラか。マリーか。ナリンか。それとも、誰でもないか」


 「......」


 「答えろ」


---


 柏木は、ようやく口を開いた。


---


 「......考えました」


 「考えた?」


 「はい。この三週間、ずっと」


 「それで」


---


 柏木は目を閉じた。


---


 「俺は......誰も選べません」


---


 局長は眉をひそめた。


---


 「選べない?」


 「はい」


 「なぜだ」


 「俺には、その資格がない」


---


 局長は黙った。


---


 「サラも、マリーも、ナリンも......俺なんかには、もったいない」


 「......」


 「俺は、戦うことしかできない。組織も運営できない。請求書も処理できない」


 「......」


 「女を幸せにする自信がない」


 「......」


 「だから、誰も選べない」


---


---


 局長は溜息をついた。


---


 「お前、それは逃げだ」


 「逃げ......?」


 「そうだ。逃げだ」


 「......」


 「選ばないことで、傷つくのを避けようとしている」


 「......」


 「だが、選ばないことも、選択だ。全員を傷つける選択だ」


---


 柏木は何も言えなかった。


---


 「いい。分かった」


 局長は立ち上がった。


 「お前が選ばないなら、俺が三人に伝える」


 「局長......」


 「お前が何も決められなかったことを。何も考えていなかったことを」


 「......」


 「それで、三人がどう判断するかは、三人次第だ」


---


---


 柏木は頭を下げた。


---


 「......すみません」


 「謝るな。謝られても、何も解決しない」


 「......」


 「お前は、戦闘に専念しろ。それしかできないんだからな」


---


---


 柏木は、部屋を出た。


---


---


---


 その夜。


 局長は、サラとマリーとナリンを呼んだ。


---


 三人が、局長室に集まった。


---


 「座ってくれ」


 「はい」


---


 三人は座った。


 互いの顔を、ちらりと見た。


---


 「三人に、伝えることがある」


 「......」


 「柏木のことだ」


---


 三人の体が、固くなった。


---


 「俺は、柏木に聞いた。三人の中から、誰を選ぶのかと」


 「......」


 「柏木の答えは......誰も選べない、だった」


---


 沈黙。


---


 「選べない?」


 サラが聞いた。


 「そうだ」


 「なぜ」


 「自分には資格がない、と言っていた」


---


 マリーが眉をひそめた。


 「資格がない?」


 「ああ。女を幸せにする自信がない、と」


---


 ナリンは黙っていた。


---


 「これが、柏木の答えだ」


 局長は言った。


 「俺から言えることは、以上だ」


 「......」


 「後は、三人で考えてくれ」


---


---


 三人は、局長室を出た。


---


 廊下。


 三人は、並んで歩いた。


---


 沈黙。


---


 「......そう、なのね」


 サラが呟いた。


 「選べない、か」


---


 マリーは無表情だった。


 「予想はしていたわ」


 「予想?」


 「柏木は、そういう人よ。戦闘以外、何も見えない」


---


 ナリンは俯いていた。


 「私のせいかもしれない......」


 「あなたのせい?」


 「私が、瀧本さんを傷つけた。柏木さんは、それを気にしているのかも」


---


 サラは首を振った。


 「あなたのせいじゃないわ。柏木は、最初からこうだった」


---


---


 三人は、中庭のベンチに座った。


---


 「どうする?」


 マリーが聞いた。


 「どうするって?」


 「このまま、待ち続ける?」


---


 サラは考えた。


---


 「......私は、待つわ」


 「待つ?」


 「柏木が、いつか気づくまで」


 「いつまで?」


 「分からない。でも、待つ」


---


 マリーは溜息をついた。


 「私も、同じよ。待つしかない」


---


 ナリンは首を振った。


 「私は......待てない」


 「待てない?」


 「私には、資格がない」


 「......」


 「瀧本さんを傷つけた。柏木さんを待つ資格なんて、ない」


---


 ナリンは立ち上がった。


 「私は、身を引くわ」


 「ナリン......」


 「二人に、任せる。私は、もう......」


---


 ナリンは去っていった。


---


---


 サラとマリーが残された。


---


 「......減ったわね」


 「減ったわ」


 「ライバルが一人減った」


 「そうね」


---


 二人は、顔を見合わせた。


---


 「でも、嬉しくないわ」


 「私も」


 「ナリン、泣いてた」


 「見えた」


---


 沈黙。


---


 「柏木って、本当に罪な男ね」


 「本当にね」


 「自覚がないのが、一番たちが悪い」


 「本当にそう」


---


---


 二人は、夜空を見上げた。


---


 「私たちは、どうする?」


 「待つしかないわ」


 「待って、報われるかしら」


 「分からない」


 「分からないのに、待つの?」


 「待つわ。好きだから」


---


 マリーは少し笑った。


 「私も、同じよ」


---


---


 夜風が、二人の間を吹き抜けた。

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