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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第4章 鋼鉄
87/130

第2話 炎上

アルファチームは、派手だった。


---


---


 チェンマイ県。


 麻薬密造施設の制圧作戦。


---


 ハンヴィーが突入した。


 屋根にはGAU-19。


 ジョンソンが引き金を引いた。


---


 轟音。


 毎分千発の7.62mm弾が、建物を粉砕した。


---


 壁が崩れた。


 窓が吹き飛んだ。


 木造の倉庫が、木っ端微塵になった。


---


 「派手すぎないか」


 陳志明が無線で言った。


 「派手でいいんだ」


 ジョンソンが答えた。


 「敵に考える暇を与えるな」


---


---


 上空。


 UH-1ヘリ。


---


 ヨナタンがドアから身を乗り出していた。


 肩にはRPG-7。


---


 「車両、発見」


 逃走しようとするトラックが三台。


---


 ヨナタンは引き金を引いた。


 ロケット弾が飛んだ。


---


 一台目のトラックが爆発した。


---


 「一台目、破壊」


---


 リロード。


 二発目。


---


 二台目が爆発した。


---


 「二台目、破壊」


---


 三台目は、道を逸れて逃走を図った。


---


 「三台目、追跡する」


 瀧本の声が無線に入った。


---


---


 白いBMW R1250 GS Adventureが、トラックを追っていた。


---


 サイレンが鳴り響く。


 時速百二十キロ。


---


 トラックの窓から、男が身を乗り出した。


 AKを構えている。


---


 「また撃ってきやがる」


---


 瀧本はジグザグに走った。


 弾丸を避けた。


---


 距離を詰めた。


 トラックの横に並んだ。


---


 M93Rを抜いた。


 運転席に向けて撃った。


---


 三点バースト。


 運転手の肩に命中。


---


 トラックがコントロールを失った。


 道路脇の田んぼに突っ込んだ。


---


 「三台目、確保」


---


---


 同時刻。


 施設の裏口。


---


 マルティネスがM240を構えていた。


---


 逃走しようとする武装集団。


 十人以上。


---


 「止まれ!」


---


 集団は止まらなかった。


 銃を向けてきた。


---


 マルティネスは引き金を引いた。


---


 7.62mm弾が、毎分五百発の速度で吐き出された。


---


 武装集団が倒れていった。


 一人、また一人。


---


 三十秒後。


 全員が地面に転がっていた。


---


 「裏口、制圧完了」


---


---


 作戦終了。


---


 戦果。


 麻薬密造施設、完全破壊。


 麻薬、五十億バーツ相当を押収。


 犯人、二十三人確保。十二人排除。


 味方負傷者、なし。


---


 「完璧だ」


 ジョンソンが言った。


 「いつも通りだな」


---


---


 だが、問題があった。


---


---


 作戦中、近くの村人が動画を撮っていた。


---


 ガトリングで建物が吹き飛ぶ様子。


 ヘリからRPGが発射される様子。


 白いバイクがトラックを追跡する様子。


 マシンガンが乱射される様子。


---


 その動画が、SNSに投稿された。


---


 二十四時間で、一億回再生。


---


---


 『タイの特殊部隊、ヤバすぎる』


 『ガトリングで建物粉砕www』


 『ヘリからRPGって、映画かよ』


 『白バイがバイクでトラック追跡してる』


 『あの白バイの人、誰?』


---


---


 コメント欄が、瀧本に注目し始めた。


---


 『白バイって、日本の警察のやつじゃね?』


 『なんで日本人がタイにいるの?』


 『調べたら、元神奈川県警らしい』


 『なんで辞めたの?』


---


---


 誰かが、過去の記事を掘り起こした。


---


 『連続強姦殺人事件、容疑者射殺』


 『神奈川県警の白バイ隊員が発砲』


 『被害者は十二人、死者五人』


 『容疑者は元会社員、山本健二(38)』


---


---


 日本のSNSが、炎上し始めた。


---


---


 『え、この白バイの人、人殺しじゃん』


 『容疑者を射殺した警官がタイで傭兵やってるの?』


 『やばくない?』


 『殺人犯がタイの特殊部隊にいるってこと?』


---


 『いや、正当防衛だろ』


 『連続殺人犯を止めたんだから、英雄じゃね?』


 『でも、裁判もせずに射殺はまずいでしょ』


 『人権侵害だ!』


---


 『山本は十二人を強姦して五人を殺した』


 『そいつを撃ったのが悪いのか?』


 『法治国家なら裁判を受けさせるべき』


 『現行犯だぞ? 撃たなきゃ被害者が増えてた』


---


---


 議論が過熱した。


---


 テレビのワイドショーが取り上げた。


---


 『タイの特殊部隊に元日本人警官 過去に容疑者射殺』


---


 コメンテーターたちが語り始めた。


---


 「これは問題ですね。日本の警察官が、海外で傭兵のような活動をしている」


 「いや、彼はすでに警察を辞めています。現在はタイ国籍です」


 「でも、元警察官ですよね。日本の警察のイメージに関わります」


 「そもそも、容疑者を射殺したこと自体が問題では」


 「現行犯だったんですよ。被害者を守るためには、やむを得なかったのでは」


 「それでも、人を殺したことに変わりはない」


---


---


 日本のネットは、二つに分かれた。


---


 瀧本を擁護する派。


 『連続殺人犯を止めた英雄』


 『日本の警察が動かなかったから、彼がやるしかなかった』


 『むしろ感謝すべき』


---


 瀧本を批判する派。


 『人殺しは人殺し』


 『法を無視した私刑だ』


 『こんな人間がタイで銃を持って活動しているのは危険』


---


---


 神奈川県警に、問い合わせが殺到した。


---


 「瀧本勝幸という元隊員について説明しろ」


 「なぜ射殺を許可したのか」


 「なぜ彼を処分しなかったのか」


---


 県警は、コメントを控えた。


---


---


 タイ。


 突撃隊の拠点。


---


 瀧本は、自分の部屋でスマホを見ていた。


---


 日本のSNSが、自分の名前で埋め尽くされていた。


---


 『瀧本勝幸』


 『殺人犯』


 『射殺』


 『白バイ』


---


 メンソールの煙草に火をつけた。


 手が、少し震えていた。


---


 「......まあ、いつかこうなると思ってたよ」


---


---


 ドアがノックされた。


---


 「瀧本」


 ジョンソンの声だった。


 「会議だ。来い」


---


---


 会議室。


 アルファチームのメンバーが集まっていた。


---


 ジョンソン、マルティネス、ヨナタン、アブドゥル、ピーター、スヨン、陳志明。


 そして、局長。


---


 「座れ」


 局長が言った。


---


 瀧本は座った。


---


 「日本で騒ぎになっているのは知っているな」


 「知ってます」


 「お前の過去が掘り起こされた」


 「......はい」


---


 局長は瀧本を見た。


---


 「山本健二を射殺した件だ」


 「......はい」


 「説明しろ。全員に」


---


 瀧本は、メンバーを見回した。


 全員が、瀧本を見ていた。


---


 「......山本健二は、連続強姦殺人犯でした」


 「......」


 「被害者は十二人。うち五人が殺された」


 「......」


 「俺は、三ヶ月間、奴を追跡していた」


 「......」


 「そして、現行犯の場面に遭遇した」


---


 瀧本は目を閉じた。


---


 「奴は、女性を襲っていた。ナイフを持っていた」


 「......」


 「俺は、停止を命じた。奴は従わなかった」


 「......」


 「奴がナイフを振り上げた時、俺は撃った」


---


 沈黙。


---


 「弾は二発。胸に一発、頭に一発」


 「......」


 「山本は死んだ。被害者は助かった」


---


 瀧本は目を開けた。


---


 「それが、全てです」


---


---


 ジョンソンが口を開いた。


 「被害者は、誰だった」


---


 瀧本は、少し黙った。


---


 「......ナリンです」


---


 全員が、息を呑んだ。


---


 「ナリン・チャットウィット。俺の......元恋人です」


 「......」


 「山本は、ナリンを狙っていた。柏木さんの元担当者だったから」


 「......」


 「俺がナリンを守った。そして、山本を殺した」


 「......」


 「それが、俺とナリンの始まりでした」


---


---


 スヨンが、小さな声で聞いた。


 「後悔、してる?」


---


 瀧本は首を振った。


---


 「してない」


 「......」


 「山本を撃ったことは、一度も後悔してない」


 「......」


 「あの時、俺が撃たなかったら、ナリンは死んでいた」


 「......」


 「俺は、正しいことをした。そう思ってる」


---


---


 局長が立ち上がった。


---


 「瀧本」


 「はい」


 「お前は、我々の仲間だ」


 「......」


 「日本が何を言おうと、関係ない」


 「......」


 「お前は、タイ国民だ。タイの法の下にいる」


 「......」


 「そして、お前は、王の剣だ」


---


 局長は瀧本の肩に手を置いた。


---


 「胸を張れ。お前は、正しいことをした」


---


---


 ジョンソンが言った。


 「俺も、同意見だ」


---


 マルティネスが言った。


 「俺も」


---


 ヨナタンが言った。


 「俺も」


---


 アブドゥルが言った。


 「俺も」


---


 ピーターが言った。


 「俺も」


---


 陳志明が言った。


 「俺も」


---


 スヨンが言った。


 「......私も」


---


---


 瀧本は、全員を見た。


---


 「......ありがとう」


---


 声が、少し震えていた。


---


---


 その夜。


 屋上。


---


 瀧本は、一人でメンソールを吸っていた。


---


 「瀧本」


---


 振り向くと、柏木がいた。


---


 「聞いた」


 「......何を」


 「全部」


---


 柏木は瀧本の隣に立った。


---


 「山本は、俺の元同僚だった」


 「知ってます」


 「お前が殺してくれて、良かったと思ってる」


 「......」


 「俺がやるべきだったのかもしれない。でも、俺はここにいた」


 「......」


 「お前が、ナリンを守ってくれた」


---


 柏木は煙草を取り出した。


---


 「ありがとう」


---


 瀧本は、柏木を見た。


---


 「......それ、俺に言うんですか」


 「言う。事実だからな」


 「......」


---


 瀧本は、メンソールの煙を吐いた。


---


 「柏木さん」


 「何だ」


 「俺、ナリンと別れました」


 「......知ってる」


 「知ってるんですか」


 「ニコライから聞いた」


---


 沈黙。


---


 「ナリンは、柏木さんのことが好きです」


 「......」


 「最初から、そうだった」


 「......」


 「俺は、柏木さんの代わりだった」


---


 柏木は黙っていた。


---


 「でも、恨んでないですよ」


 「......」


 「柏木さんは、何も悪くない」


 「......」


 「ナリンも、悪くない」


 「......」


 「誰も悪くない。そういうことも、あるんです」


---


 瀧本は、メンソールを踏み消した。


---


 「俺は、生きます。死ぬ気はない」


 「......」


 「これからも、戦います。それが、俺の仕事だから」


---


 柏木は頷いた。


---


 「お前は、強いな」


 「強くないですよ。泥臭いだけです」


 「泥臭くても、生きてる。それが、強さだ」


 「......」


 「俺は、そう思う」


---


---


 二人は、しばらく夜空を見ていた。


---


 星が、瞬いていた。


---


---


 深夜三時。


---


 瀧本は、荷物をまとめていた。


 最小限の装備。着替え。パスポート。現金。


 M93Rは、机の上に置いた。


---


 「......これは、局長に返さないとな」


---


 メモを書いた。


 『迷惑をかけた。すまない。瀧本』


---


 部屋を出た。


 廊下は暗かった。


 足音を殺して歩いた。


---


---


 正門に向かった。


 夜間は警備が手薄だ。


 今なら、抜け出せる。


---


 門に手をかけた。


---


 「どこに行くんだ」


---


 声が聞こえた。


 振り向いた。


---


 ヨナタンが立っていた。


 無表情。腕を組んでいる。


---


 「......散歩だ」


 「散歩に荷物は要らない」


 「要る散歩もある」


 「ない」


---


 横から、別の声が聞こえた。


 「瀧本、お前、逃げるつもりか」


---


 マルティネスだった。


 テキーラのボトルを持っている。


---


 「逃げるんじゃない。去るんだ」


 「同じだ」


 「違う」


 「どう違う」


 「......」


---


 瀧本は黙った。


---


 「俺がいると、迷惑がかかる」


 「迷惑?」


 「日本が騒いでる。俺のせいで」


 「......」


 「俺は、司法から逃げた人間だ。拳銃を不正に持ち出して、人を殺して、裁判も受けずに国外に逃げた」


 「......」


 「それは、事実だ。日本の批判は、正しい」


---


 足音が聞こえた。


 振り向くと、スヨンがいた。


---


 「瀧本」


 「......お前もか」


 「私だけじゃない」


---


 スヨンの後ろに、ジョンソンがいた。


 アブドゥルがいた。


 ピーターがいた。


 陳志明がいた。


---


 アルファチーム、全員。


---


 「......なんで」


 「カルロスから聞いた」


 マルティネスが言った。


 「お前が荷物をまとめてるって」


 「カルロス......」


 「通信傍受のプロだ。お前の部屋の物音くらい、聞こえる」


 「盗聴かよ」


 「盗聴じゃない。心配だ」


---


---


 スヨンが瀧本の前に立った。


---


 「あなた、馬鹿じゃないの」


 「......また文句か」


 「文句じゃない」


 「文句だろ」


 「違う!」


---


 スヨンの声が震えていた。


---


 「あなたがいなくなったら、誰が医療室の常連になるの」


 「......」


 「誰がバイクで建物に突っ込むの」


 「......」


 「誰が私と喧嘩するの」


 「......」


---


 スヨンの目に、涙が浮かんでいた。


---


 「逃げないで」


---


---


 ヨナタンが近づいてきた。


---


 「瀧本」


 「何だ」


 「お前は、俺を笑わせた」


 「......」


 「モサドにいた十五年間、俺は笑わなかった」


 「......」


 「お前といると、笑える。それが、どれだけ貴重か分かるか」


 「......」


 「お前がいなくなったら、俺はまた笑わなくなる」


---


---


 マルティネスがテキーラを差し出した。


---


 「飲め」


 「......」


 「飲んで、部屋に戻れ」


 「......」


 「お前は、俺たちの仲間だ。日本が何を言おうと、関係ない」


---


---


 ジョンソンが言った。


---


 「瀧本、お前は法から逃げたかもしれない」


 「......」


 「だが、お前は正しいことをした」


 「......」


 「連続殺人犯を止めた。被害者を守った。それは、正義だ」


 「......」


 「法と正義は、いつも一致するとは限らない」


 「......」


 「俺たちは、正義の側にいる。お前も、だ」


---


---


 瀧本は、全員を見た。


 アルファチーム。


 自分の仲間。


---


 荷物を、地面に落とした。


---


 「......お前ら、ずるいな」


 「ずるくない」


 「ずるい。こんなこと言われたら、逃げられないだろ」


 「逃げなくていい」


 「......」


---


 瀧本は、メンソールを取り出した。


 火をつけた。


 手が、震えていた。


---


 「......ありがとう」


---


 声が、かすれていた。


---


---


 スヨンが瀧本の腕を掴んだ。


 「部屋に戻るわよ」


 「......ああ」


 「明日から、また訓練。怪我しないでよ」


 「無理だ。俺は毎回怪我する」


 「だから言ってるの」


 「......高飛車女」


 「......無謀男」


---


 二人は歩き出した。


 後ろから、アルファチームがついてきた。


---


---


 夜空には、星が瞬いていた。

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