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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
84/131

幕間 二人の女

祝勝会が終わった。


 深夜。


---


 サラは、自分の家に戻った。


 柏木の家の隣。


---


 シャワーを浴びた。


 ベッドに横になった。


 眠れなかった。


---


 ドアがノックされた。


---


 「誰」


 「マリー」


---


 サラは少し迷った。


 それから、ドアを開けた。


---


 マリーが立っていた。


 ワインのボトルを持っていた。


---


 「話をしましょう」


 「......入って」


---


---


 リビング。


 二人は向かい合って座った。


 ワインを注いだ。


---


 「乾杯」


 「何に」


 「......分からないわ」


 「じゃあ、とりあえず乾杯」


---


 グラスが触れ合った。


---


 沈黙。


---


 「サラ」


 マリーが口を開いた。


 「あなた、柏木のこと、好きでしょう」


 「......」


 サラは黙っていた。


 「私も、好きよ」


---


 サラはワインを飲んだ。


 「知ってる」


 「知ってたの」


 「見れば分かる」


 「そう」


---


 「いつから」


 サラが聞いた。


 「いつから、柏木のことを」


---


 マリーは窓の外を見た。


 「最初から、かもしれない」


 「最初から?」


 「私がここに来た時。柏木が私を受け入れてくれた時」


 「......」


 「私は、外人部隊を辞めた。行く場所がなかった」


 「......」


 「柏木は、私を仲間にしてくれた。何も聞かずに」


 「......」


 「その時から、かもしれない」


---


 サラはグラスを見つめた。


 「私は、もっと前から」


 「前から?」


 「十二年前。CIDで初めて会った時」


 「十二年......」


 「柏木は、最初から変わっていた」


 「変わっていた?」


 「冷たくて、無愛想で、怖かった」


 「......」


 「でも、正しかった。いつも、正しいことをしていた」


 「......」


 「私は、そういう人に惹かれる」


---


 マリーは少し笑った。


 「私たち、同じ人を好きになったのね」


 「そうね」


 「厄介ね」


 「厄介よ」


---


 沈黙。


---


 「どうする?」


 マリーが聞いた。


 「どうするって?」


 「このまま、二人とも何も言わないでいる?」


 「......」


 「それとも、どちらかが諦める?」


---


 サラは首を振った。


 「諦めない」


 「私も」


 「じゃあ、どうするの」


 「......」


---


 マリーはワインを飲んだ。


 「柏木に決めさせる」


 「柏木に?」


 「そう。私たちが争っても、意味がない」


 「......」


 「柏木が選ぶ。それが、一番公平」


---


 サラは考えた。


 「......そうかもしれない」


 「でしょう」


 「でも、柏木は選ばないわよ」


 「選ばない?」


 「あの人、恋愛には鈍感だから。逃げるわ」


 「今日みたいに?」


 「今日みたいに」


---


 マリーは笑った。


 「じゃあ、私たちが追い詰める」


 「追い詰める?」


 「そう。逃げられないようにする」


 「......」


 「いつか、柏木に選ばせる」


---


 サラはマリーを見た。


 「あなた、意外と強引ね」


 「狙撃手だから。狙った獲物は、逃さない」


 「私も逃さないわよ」


 「知ってる。だから、ライバルなのよ」


---


 二人は、互いを見た。


 敵意はなかった。


 むしろ、奇妙な連帯感があった。


---


 「ねえ、マリー」


 「何」


 「私たち、友達になれると思う?」


 「友達?」


 「そう。同じ人を好きでも」


 「......」


 マリーは考えた。


 「なれると思う」


 「本当?」


 「本当よ。私たちは、仲間だから」


 「仲間」


 「そう。戦場では、背中を預け合う仲間」


 「......」


 「恋愛で争っても、それは変わらない」


---


 サラは少し笑った。


 「変な関係ね」


 「変な関係よ。でも、悪くない」


 「悪くないわね」


---


 二人はワインを飲んだ。


---


---


 「ねえ、サラ」


 「何」


 「柏木って、どんな人だったの。昔は」


 「昔?」


 「CIDにいた頃」


---


 サラは天井を見た。


 「......明るかった」


 「明るかった?」


 「信じられないでしょう。でも、昔の柏木は、笑う人だった」


 「柏木が?」


 「そう。冗談も言った。女好きでもあった」


 「女好き?」


 「そう。口説くのが上手かった」


 「......想像できないわ」


 「でしょうね」


---


 「何があったの」


 マリーが聞いた。


 「何が、柏木を変えたの」


---


 サラは目を閉じた。


 「ウクライナ」


 「ウクライナ?」


 「柏木は、ウクライナで部下を三人、死なせた」


 「......」


 「柏木の判断ミスだった。少なくとも、柏木はそう思っている」


 「......」


 「あの日から、柏木は変わった。笑わなくなった。感情を殺した」


---


 マリーは黙っていた。


---


 「私も、似たようなものよ」


 マリーが言った。


 「あなたも?」


 「外人部隊で、民間人を誤射した」


 「......」


 「子供が、いた」


 「......」


 「あの日から、私も変わった」


---


 二人は黙っていた。


---


 「私たち、みんな傷ついてるのね」


 サラが言った。


 「傷ついてる」


 「だから、ここにいる」


 「そうね」


---


 「柏木は、傷ついた人を集める」


 マリーが言った。


 「集める?」


 「そう。柏木自身が傷ついてるから、傷ついた人の気持ちが分かる」


 「......」


 「だから、みんな柏木についていく」


 「......」


 「私も、あなたも」


---


 サラは頷いた。


 「そうね。柏木は、私たちの光よ」


 「光?」


 「暗闇の中の、光。柏木がいるから、私たちは戦える」


---


 マリーはグラスを掲げた。


 「柏木に」


 「柏木に」


---


 二人は、ワインを飲み干した。


---


---


 深夜三時。


 マリーは帰っていった。


---


 サラは窓から外を見た。


 柏木の家が見えた。


 明かりは消えていた。


---


 「柏木」


 サラは呟いた。


 「いつか、私を見てね」


---


---


 同じ頃。


 マリーは、自分の家に戻っていた。


 一階は、狙撃練習場。


---


 ライフルを手に取った。


 窓から、柏木の家を見た。


---


 「柏木」


 マリーは呟いた。


 「いつか、私を選んでね」


---


---


 そして、柏木は。


 自分の部屋で、眠れずにいた。


---


 煙草を吸いながら、天井を見ていた。


---


 「サラ......マリー......」


 呟いた。


 「俺は、どうすればいいんだ」


---


 答えは、出なかった。

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