幕間 銃と仲間
瀧本が突撃隊に加わって、三日目。
意外な友人ができた。
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食堂。夜。
瀧本は、三人の男と酒を飲んでいた。
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ヨナタン・レヴィ。元モサド。無表情。
ルイス・マルティネス。元CID。テキーラ狂い。
カルロス・メンドーサ。元メキシコ軍通信士。陽気。
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「で、お前の愛銃は何だ」
マルティネスが聞いた。
「持ってない」
「持ってない?」
「日本の警察官だぞ。拳銃は官給品だ。好きなのを選べるわけじゃない」
「官給品って何だ」
「ニューナンブM60。リボルバー。五発。威力は......まあ、あれだ」
「あれって何だ」
「察しろ」
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ヨナタンが無表情で言った。
「ニューナンブか。聞いたことがある」
「お、モサドでも知られてるのか。光栄だな」
「弱いことで有名だ」
「......褒めてねえじゃねえか」
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カルロスが笑った。
「で、本当に好きな銃は何なんだ」
「本当に好きな銃か」
瀧本は少し考えた。
「ベレッタM92FS」
「おお」
「映画で見てから、ずっと憧れてた。ジョン・マクレーン。ダイ・ハード」
「ダイ・ハードか。いい映画だ」
「いい映画だ。俺のバイブルだ」
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マルティネスがテキーラを注いだ。
「じゃあ、柏木と被るな」
「被る?」
「柏木の愛銃がM92FSだ」
「マジか」
「マジだ。あいつ、ライフル持たないからな。ベレッタ一丁で戦場に出る」
「狂ってるな」
「狂ってる。だから強い」
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瀧本は酒を飲んだ。
「なら俺は別のにするか」
「別の?」
「同じ銃ってのは、なんかな。先輩の真似みたいで」
「先輩って......お前、柏木と同い年だろ」
「タイに来たのは柏木が先だ。先輩だ」
「律儀だな」
「律儀さだけが取り柄だ。あと、生きる気力」
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翌日。
局長室。
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瀧本は、呼び出されていた。
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「瀧本勝幸」
局長が言った。
「はい」
「元白バイ隊員。十五年。山本健二を射殺。日本を出国」
「経歴を暗記してるんですか」
「覚えるのが仕事だ」
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局長は椅子から立ち上がった。
「銃は持っているか」
「持ってません。日本から逃げる時、官給品は置いてきました」
「当然だな。持ち出したら、窃盗罪も追加される」
「そうです。俺は殺人犯ですが、泥棒じゃありません」
「いい心がけだ」
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局長は、デスクの引き出しを開けた。
黒いケースを取り出した。
テーブルの上に置いた。
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「開けろ」
「......」
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瀧本はケースを開けた。
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目が見開かれた。
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「これは......」
「ベレッタM93R」
局長の声が、少し弾んでいた。
「三点バースト。フォールディングストック。フォアグリップ。フルオートも可能だ」
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瀧本は銃を手に取った。
重さを確かめた。
グリップを握った。
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「......最高だ」
「だろう」
局長はニヤリと笑った。
「M92FSは柏木が使っている。お前がマクレーンになりたいなら、こっちを使え」
「こっち?」
「M93Rは、M92FSの強化版だ。バースト射撃ができる。威力も精度も上だ」
「つまり」
「マクレーンより強くなれる」
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瀧本は銃を見つめた。
「局長」
「何だ」
「あんた、ガンマニアだな」
「元大佐だ。銃を愛さない軍人がいるか」
「いない」
「だろう」
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局長は続けた。
「聞いたぞ。お前、ヨナタンやマルティネスと仲がいいらしいな」
「ガンマニア同士、話が合うんです」
「カルロスもか」
「カルロスは通信士ですけど、銃の知識がすごい。どこで覚えたんですかね」
「メキシコだ。銃がないと生き残れない国だ」
「なるほど」
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「お前も、仲間に入れ」
局長は言った。
「仲間?」
「ガンマニア組だ。俺も含めて」
「局長も?」
「当然だ。俺が一番詳しい」
「マジですか」
「マジだ。今度、射撃場で勝負しよう」
「望むところです」
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瀧本はM93Rをホルスターに収めた。
「ありがとうございます。大事にします」
「大事にするな。使い倒せ。銃は道具だ。使ってこそ価値がある」
「了解です」
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その夜。
食堂。
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瀧本がM93Rを見せびらかしていた。
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「見ろ、これ」
「おお」
マルティネスが目を輝かせた。
「M93Rじゃないか。どこで手に入れた」
「局長にもらった」
「局長に?」
「ああ。『マクレーンより強くなれ』って」
「局長、ノリノリだな」
「ノリノリだった。目が輝いてた」
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ヨナタンが銃を手に取った。
「いい状態だ。整備が行き届いている」
「局長の私物だったらしい」
「私物を渡すとは。気に入られたな」
「そうかな」
「そうだ。局長は、気に入らない人間には銃を渡さない」
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カルロスが言った。
「これで、ガンマニア組にベレッタ使いが二人になったな」
「二人?」
「柏木がM92FS。お前がM93R」
「被ってないか?」
「被ってない。全然違う銃だ」
「そうか」
「M92FSは単発。M93Rはバースト。コンセプトが違う」
「なるほど」
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マルティネスがテキーラを注いだ。
「よし、今夜は瀧本の歓迎会だ」
「また飲むのか」
「飲む。テキーラは魂の燃料だ」
「お前、毎晩それ言ってるな」
「毎晩言ってる。真実だからな」
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翌日。
会議室。
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ハーパーとルノーが報告していた。
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「現在の人員、四十一人」
「目標は四十四人」
「あと三人だ」
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柏木が聞いた。
「候補者は」
「いくつかある。だが、決め手に欠ける」
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ハーパーは資料を広げた。
「第一候補。元イギリス陸軍の整備士。技術は確かだが、タイに来る意思が弱い」
「弱い?」
「家族がイギリスにいる。離れたくないらしい」
「無理強いはできないな」
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「第二候補。元オーストラリア軍のパイロット。ヘリの経験が豊富」
「いいな」
「だが、問題がある」
「問題?」
「アルコール依存症だ。回復中だが、完全ではない」
「......リスクがあるな」
「ある。パイロットがアルコール依存では、任せられない」
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「第三候補。元インド軍の通信士官。優秀だが、英語以外の言語が話せない」
「タイ語は」
「全く」
「学ぶ意思は」
「ある。だが、時間がかかる」
「時間か......」
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ルノーが言った。
「正直に言えば、残り三人を見つけるのは難しい」
「難しい?」
「ああ。優秀な人材は、すでに声をかけた。残っているのは、何らかの問題を抱えている人間ばかりだ」
「問題を抱えている」
「そうだ。だからこそ、ここに来る可能性がある。だが、リスクもある」
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柏木は考えた。
「......俺たちも、問題を抱えていた」
「何?」
「俺も、ニコライも、ジョンソンも、サラも。全員、何らかの問題を抱えてここに来た」
「......」
「問題があるから、ダメとは限らない。問題があっても、ここで立ち直れる人間もいる」
「......」
「リスクを取るか、取らないか。それは、俺たちが決めることだ」
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ハーパーは頷いた。
「分かった。候補者を呼ぶ。面接する」
「ああ」
「最終判断は、柏木に任せる」
「任せてくれ」
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三週間後。
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三人の候補者がタイに来た。
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一人目。
デイヴィッド・チェン。元シンガポール軍。三十五歳。通信と電子戦の専門家。
「なぜシンガポール軍を辞めた」
「上官と対立しました。不正を告発しようとして、逆に追い出されました」
「不正?」
「装備の横流しです。上官が、武器を闇市場に売っていました」
「告発したのか」
「しようとしました。だが、証拠を握りつぶされました」
「......」
「悔しかった。だから、辞めました。正義が通らない組織には、いられなかった」
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柏木は頷いた。
「お前は、本物だ」
「......」
「ようこそ、王室犯罪対策局へ」
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二人目。
アンナ・コワルスカ。元ポーランド軍。三十二歳。衛生兵。
「なぜ軍を辞めた」
「燃え尽きました」
「燃え尽きた?」
「アフガンで、何人も死ぬのを見ました。助けられなかった人が、何十人もいます」
「......」
「ある日、もう無理だと思いました。手が動かなくなりました」
「PTSD か」
「はい。治療を受けました。今は、だいぶ良くなっています」
「だいぶ?」
「完全ではありません。でも、また人を助けたい。そう思えるようになりました」
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柏木はアレクセイを見た。
「どう思う」
「俺も、似たような経験がある」
アレクセイは言った。
「燃え尽きた人間は、また立ち上がれる。俺がそうだった」
「彼女を受け入れるか」
「受け入れる。俺が面倒を見る」
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柏木はアンナを見た。
「ようこそ、王室犯罪対策局へ」
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三人目。
陳志明。元台湾軍。四十歳。整備士。
「なぜ台湾軍を辞めた」
「定年です」
「定年?」
「台湾軍は、四十歳で退役します。まだ働けるのに、追い出されました」
「四十歳で定年か」
「そうです。馬鹿げています。俺はまだ動ける。まだ戦える」
「だから、ここに来た」
「そうです。俺を使ってくれる場所を探していました」
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瀧本が口を挟んだ。
「なあ、あんた、バイクの整備はできるか」
「できる。何でもできる」
「何でも?」
「車、ヘリ、バイク、銃。整備できないものはない」
「マジか」
「マジだ。四十年、機械と生きてきた」
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柏木は笑った。
「ようこそ、王室犯罪対策局へ」
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こうして、三人が加わった。
デイヴィッド・チェン。通信・電子戦。
アンナ・コワルスカ。衛生兵。
陳志明。整備士。
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合計、四十四人。
目標達成。
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夜。
拠点の屋上。
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柏木は煙草を吸っていた。
瀧本が隣に来た。
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「四十四人か」
「四十四人だ」
「すげえな。半年前は二十人だったのに」
「倍以上になった」
「倍以上だ」
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瀧本はM93Rを取り出した。
「これ、いい銃だな」
「局長にもらったやつか」
「ああ。『マクレーンより強くなれ』って言われた」
「局長らしいな」
「あんた、局長と仲いいのか」
「仲がいいかは分からない。だが、信頼している」
「信頼か」
「ああ。局長は、俺たちを信じてくれている。だから、俺も信じる」
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瀧本は銃をしまった。
「なあ、柏木」
「何だ」
「俺、ここに来てよかったと思ってる」
「そうか」
「ああ。日本じゃ、俺は殺人犯だ。でも、ここじゃ、俺は仲間だ」
「仲間だ」
「それが、嬉しい」
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柏木は煙草を吸った。
「俺も、ここに来てよかったと思ってる」
「お前もか」
「ああ。日本じゃ、俺は奴隷商人の手先だった。ここじゃ、俺は正義の味方だ」
「正義の味方か」
「恥ずかしいか」
「恥ずかしくない。いい言葉だ」
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二人は、夜空を見上げた。
バンコクの夜景が広がっていた。
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「さて」
柏木が言った。
「明日から、また忙しくなる」
「忙しい?」
「四十四人になった。訓練を始める。新しい仲間を、俺たちのレベルまで引き上げる」
「大変だな」
「大変だ。だが、やるしかない」
「了解」
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瀧本は笑った。
「俺、死ぬ気はないからな。生き残るために、訓練するさ」
「死ぬ気はないか」
「ない。ナリンと幸せになる。それが俺の計画だ」
「いい計画だ」
「だろ」
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夜風が吹いた。
煙草の煙が、流れていった。
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突撃隊は、四十四人になった。
目標達成。
だが、戦いは終わらない。
むしろ、これからだ。




