幕間 同類
バンコク。
突撃隊の拠点。正門。
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一人の男が立っていた。
日本人。三十代後半。短髪。鋭い目。
隣に、タイ人の女性がいた。二十代後半。長い黒髪。どこか、怯えたような目。
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「柏木勇気に会いたい」
男が言った。
守衛が困惑した顔をした。
「アポイントは」
「ない」
「では、お会いすることは......」
「伝えてくれ。瀧本勝幸。元警察官。日本から来た、と」
守衛が躊躇していると、男は肩をすくめた。
「あと、『ヤクザみたいな見た目の日本人に会いに来た』って言えば通じるかもな」
「は......?」
「冗談だ。半分くらい」
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十分後。
柏木が正門に来た。
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足が止まった。
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女性を見た。
長い黒髪。小柄な体。タイ北部の顔立ち。
見覚えがあった。
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「......ナリン?」
柏木の声が、少し震えた。
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女性が顔を上げた。
目が合った。
「柏木......さん......」
その目が、潤んだ。
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瀧本が驚いた顔をした。
「知り合いなのか」
「ああ」
柏木は静かに言った。
「俺が二年間、担当していた」
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会議室。
三人が座っていた。
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「ナリン・チャットウィット」
柏木は名前を呼んだ。
「二十八歳。ウドンターニー出身。特定技能一号。食品製造業」
「覚えて......いてくれたんですね」
「忘れるわけがない」
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柏木はナリンを見た。
「最後に会ったのは、三年前だ。俺が日本を出る直前」
「はい」
「ボドイを追い払った夜だ」
「はい......」
「あの夜、お前が俺を『バーミーブン』と呼んだ」
「......覚えて、いてくれたんですね」
「忘れるわけがない」
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柏木は続けた。
「お前が、故郷の知人に俺のことを話した」
「はい」
「スッティン・パイブーン。ウドンターニーの」
「はい。私の......遠い親戚みたいな人です」
「そいつが、俺にメッセージを送ってきた。『タイに来い。お前の戦いが報われる場所がある』と」
「......」
「俺がタイに来たのは、お前のおかげだ」
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ナリンの目が、大きく見開かれた。
「私の......?」
「お前がスッティンに話さなければ、俺はここにいない。突撃隊もない。聖域も潰せなかった」
「......」
「お前が、全ての始まりだ」
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ナリンは何も言えなかった。
涙が、頬を伝っていた。
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「だから」
柏木は言った。
「お前がここに来たのは、偶然じゃない。必然だ」
「必然......」
「お前は、俺たちの仲間になるべき人間だ。最初から」
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瀧本が、静かに言った。
「......知らなかった」
「何を」
「ナリンが、お前をタイに導いたことを」
「ナリンは言わなかったのか」
「言わなかった」
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ナリンは首を振った。
「言えませんでした。柏木さんがどうなったか、知らなかったから」
「......」
「日本を出てから、連絡が取れなくなって。心配していました。ずっと」
「......」
「SNSで突撃隊のことを見た時、柏木さんだと分かりました。生きていてくれて、嬉しかった」
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柏木は、少しだけ笑った。
初めての笑顔だった。
「......心配かけたな」
「はい。心配しました」
「すまなかった」
「いいえ。会えて、嬉しいです」
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瀧本が口を開いた。
「俺から説明する。ナリンに何があったか」
「ああ。聞かせろ」
「あの後、どうなった」
ナリンは目を伏せた。
答えなかった。
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柏木は黙っていた。
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「SNSで見た」
瀧本は言った。
「突撃隊。タイで犯罪と戦う部隊。元自衛隊の日本人が率いている」
「ああ」
「報道も見た。聖域を潰した。麻薬王を逮捕した。汚職政治家を引きずり出した」
「ああ」
「最初は、信じなかった」
「信じなかった?」
「日本人が、外国で正義のために戦う? 嘘だと思った。何か裏があると思った」
「......」
「だが、調べるほど、本当らしく見えてきた」
「本当だ」
「だから、確かめに来た。自分の目で」
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柏木は瀧本を見た。
「お前は、なぜ日本を出た」
瀧本の目が、一瞬、暗くなった。
「人を殺したからだ」
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沈黙が落ちた。
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「殺した?」
「ああ。連続殺人犯を。射殺した」
「......詳しく聞かせろ」
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瀧本は話し始めた。
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「俺は、白バイ隊員だった。交通取り締まりが仕事だ」
「ああ」
「二年前、ある事件が起きた。連続強姦殺人」
「......」
「被害者は、外国人女性。ベトナム人、フィリピン人、タイ人。全員、特定技能の労働者だった」
柏木の目が鋭くなった。
「特定技能」
「ああ。お前も知っているだろう。登録支援機関に管理されている、外国人労働者」
「知っている。俺は、そこで働いていた」
「......そうか。なら、話が早い」
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「犯人は、山本という男だった」
瀧本が言った瞬間、柏木の体が固まった。
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「......山本」
柏木の声が低くなった。
「名前は。フルネームは」
「山本健二。元グローバルキャリアの営業課長だ」
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柏木の拳が、震えた。
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「......知っているのか」
瀧本が聞いた。
「知っている」
柏木の声は、氷のようだった。
「同僚だった。俺がグローバルキャリアで働いていた時の、営業課長だ」
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瀧本の顔が変わった。
「同僚だと......」
「ああ。退職願を出した時、部長の隣に座っていた」
「......」
「あいつは、営業担当だった。中小企業のクライアントを回っていた。外国人労働者と接点があった」
「そうだ。山本は、支援機関の社員として、外国人女性に接触していた」
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柏木は立ち上がった。
窓に向かって歩いた。
背中を見せたまま、言った。
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「グローバルキャリアは、俺が辞めた後、どうなった」
「知らないのか」
「タイに来てから、日本のことは追っていない」
「崩壊した」
「崩壊?」
「ああ。代表の矢崎が逮捕された。外国人技能実習生に対する人権侵害の幇助罪で」
「......」
「会社は解散した。社員は散り散りになった」
「山本は」
「山本は、逮捕を免れた。証拠がなかったらしい。だが、会社を辞めて、その後......」
「その後」
「狂った」
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瀧本は続けた。
「山本は、外国人女性を狙い始めた。特定技能の女性を」
「......」
「仕事を紹介する、在留資格を助ける、そう言って近づいた。そして、襲った。脅した。『警察に言ったら、強制送還だ』と」
「......」
「外国人女性は、逆らえなかった。在留資格を握られている。借金もある。逃げ場がない」
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柏木はナリンを見た。
ナリンは、目を伏せていた。
肩が震えていた。
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「ナリンも、やられたのか」
柏木の声は静かだった。だが、怒りが滲んでいた。
「やられた」
瀧本が答えた。
「俺がナリンと出会ったのは、交通事故の処理だった。彼女が被害者だった」
「......」
「話を聞いた。山本のことを。他の被害者のことを」
「......」
「俺は、許せなかった」
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柏木は拳を握りしめた。
「俺がボドイから守った。三年前に。だが、山本からは守れなかった」
「お前のせいじゃない」
「俺のせいだ。俺が日本を出なければ、ナリンを守れた」
「違う」
ナリンが初めて声を上げた。
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「違います、柏木さん」
ナリンの目には涙があった。
「柏木さんがいなくなった後も、私は、柏木さんの言葉を覚えていました」
「言葉?」
「『逃げろ。何かあったら、すぐに逃げろ。お前の命より大事なものは、何もない』」
「......」
「だから、逃げました。山本に襲われた時、逃げました。殺されずに済みました」
「......」
「柏木さんのおかげです」
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柏木は黙っていた。
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瀧本が続けた。
「被害者は、分かっているだけで十二人。殺されたのは、五人」
「五人」
「告発しようとした女性たちだ。山本は、口封じのために殺した」
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瀧本の拳が、震えていた。
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「警察は、何をしていた」
柏木が聞いた。
「......何もしなかった」
「何も?」
「証拠がない、と言われた。被害者が外国人だから、証言の信憑性が低い、と」
「......」
「それに、グローバルキャリアには、政治家との繋がりがあった。上からの圧力があった」
「圧力」
「捜査を打ち切れ、と。俺は、それに従えなかった」
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瀧本の声が、低くなった。
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「捜査は打ち切られた。山本は、野放しになった」
「......」
「俺は、個人的に追跡を始めた。勤務時間外に。警察の情報を使って」
「違法だな」
「違法だ。だが、それしか方法がなかった」
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「三ヶ月かかった」
「三ヶ月」
「山本の行動パターンを把握するのに。次のターゲットを予測するのに」
「そして」
「ある夜、山本を見つけた。新しいターゲットを物色していた」
「......」
「俺は、声をかけた。『警察だ』と」
「......」
「山本は、逃げようとした。俺は、追いかけた」
「......」
「路地裏で、山本が振り向いた。ナイフを持っていた」
「......」
「俺は、撃った」
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沈黙。
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「正当防衛には、ならなかったのか」
「ならなかった」
瀧本は肩をすくめた。
「日本の法律はクソだからな。俺は白バイ隊員だ。捜査権がない。山本を追跡する権限がない」
「......」
「しかも、山本は、その時点では容疑者ですらなかった。捜査は打ち切られていた」
「......」
「俺がやったのは、私刑だ。法的には、殺人だ。まあ、法律がクソなら、俺がクソになるしかなかったってことだ」
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「逮捕されたのか」
「されかけた。だが、逃げた」
「逃げた?」
「ああ。ナリンと一緒に、日本を出た。タイに来た」
瀧本はナリンの手を握った。
「俺は死ぬ気はないからな。生きて、ナリンと幸せになる。それが俺の計画だ」
「......」
「ナリンの故郷だ。ここなら、日本の警察は追ってこない。来たとしても、俺は逃げ切る。死ぬ気はないんでな」
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瀧本は、柏木を見た。
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「俺は、正義のために殺した。少なくとも、そう思っている」
「......」
「だが、法的には、俺は殺人犯だ。日本に戻れば、逮捕される」
「......」
「だから、タイに来た。ここで、新しい人生を始めようと思った」
「......」
「だが、普通の生活は、できなかった」
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「できなかった?」
「ああ。俺は、警察官だった。十五年。それしか、知らない」
「......」
「普通の仕事をしても、虚しい。俺は、悪を追いかけることしか、できない」
「......」
「だから、お前を探した。お前なら、俺を使えると思った」
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瀧本は、真っ直ぐに柏木を見た。
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「俺を、雇ってくれ」
「......」
「俺は、戦える。悪と戦える。お前の下で」
「......」
「お前が本物なら、俺は、お前についていく」
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柏木は、しばらく黙っていた。
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「一つ、聞いていいか」
「何だ」
「殺した時、どう思った」
「......」
瀧本は、少し考えた。それから、皮肉っぽく笑った。
「何も感じなかった」
「何も?」
「ああ。撃った瞬間、何も感じなかった。後悔も、満足も、何も」
「......」
「強いて言えば、『やっと終わった』と思った。あと、『弾代がもったいねえな』とも思った」
「弾代」
「ああ。警察官の給料じゃ、弾は高いんだよ。一発百円くらいする」
「......」
「まあ、山本一人に一発なら、安い買い物だったかもな」
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柏木は頷いた。
「分かる」
「分かる?」
「ああ。俺も、同じだった」
「お前も......」
「ウクライナで、人を殺した。何も感じなかった。ただ、終わった、と思った」
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二人の男は、しばらく黙っていた。
同じ闘を見てきた者同士の、沈黙だった。
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「お前を雇うことは、できない」
柏木が言った。
瀧本の顔が、少し曇った。
「そうか......」
「だが」
柏木は続けた。
「仲間になることは、できる」
「仲間?」
「そうだ。俺たちは、雇用関係ではない。仲間だ」
「......」
「お前が本物なら、俺たちの仲間になれる」
「俺が本物かどうか、どうやって分かる」
「分かる。見れば分かる」
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柏木は立ち上がった。
「お前は本物だ」
「......」
「山本を追いかけた。三ヶ月、一人で。証拠がなくても、諦めなかった」
「......」
「それは、正義だ。法律ではないかもしれない。だが、正義だ」
「......」
「俺は、お前を認める」
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瀧本の目が、少し潤んだ。
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「ありがとう」
「礼は要らない。これから、一緒に戦う。それだけだ」
「了解」
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「ナリンは」
柏木は女性を見た。
「彼女は、どうする」
瀧本はナリンを見た。
ナリンが、初めて口を開いた。
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「私も、戦いたい」
小さな声だった。だが、震えていた。怒りで。
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「私みたいな女性を、助けたい」
「......」
「特定技能で日本に来て、騙されて、傷つけられた女性を」
「......」
「私は、戦えない。銃も撃てない。だが、何かできることがあるはず」
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柏木は頷いた。
「ある。通訳。相談窓口。被害者支援。色々ある」
「私に、できますか」
「できる。お前の経験が、他の被害者を救う」
「......」
ナリンの目から、涙がこぼれた。
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「ようこそ、王室犯罪対策局へ」
柏木が言った。
「これから、お前たちは、俺たちの仲間だ」
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瀧本は敬礼した。
ナリンは、深く頭を下げた。
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「よろしくお願いします」
二人の声が重なった。
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その夜。
食堂。
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瀧本とナリンが、他の隊員たちと食事をしていた。
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「白バイか」
ニコライが言った。
「ああ。十五年乗ってた。バイクと俺は一心同体だ。嫁より長い付き合いだな。まあ、嫁いないけど」
「バイクは得意か」
「得意どころじゃない。目を瞑っても乗れる。瞑らないけど。死ぬ気はないからな」
「なら、偵察に使えるな」
「使える。バイクでの追跡なら、日本で百回以上やった。逃げられたことは一度もない」
「一度も?」
「一度もだ。俺から逃げられると思うな。俺は生きる気満々だが、相手を生かす気はないからな」
ニコライは少し笑った。
「気に入った」
「そりゃどうも。ロシア人に気に入られるとは思わなかったな」
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「ナリンさん」
ファリダーが話しかけた。
「はい」
「タイ語と日本語、両方できるんですよね」
「はい。あと、英語も少し」
「すごい。私、日本語は全然できないから」
「教えましょうか」
「本当ですか?」
ナリンは、少し笑った。
初めての笑顔だった。
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柏木は、窓際で煙草を吸っていた。
サラが隣に来た。
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「また、傷ついた人を拾ったわね」
「拾った」
「柏木は、そういう人を引き寄せるのね」
「そうかもしれない」
「......」
「俺たちは、みんな傷ついている。だから、傷ついた人間が集まる」
「そうね」
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「瀧本は、本物か」
サラが聞いた。
「本物だ」
「どうして分かる」
「目を見れば分かる。同じ目をしている」
「同じ目?」
「俺と同じ目だ。正義のために、全てを捨てた人間の目」
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サラは瀧本を見た。
ナリンと話している。
何か冗談を言ったらしく、ナリンが笑っていた。
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「彼、よく喋るわね」
「喋る。皮肉屋だ」
「でも、ナリンさんのこと、本当に大切にしているのね」
「大切にしている。口は悪いが、根は真っ直ぐだ」
「いいわね」
「......」
「柏木も、誰かを大切にしなさい」
「......」
「私とか」
「......」
柏木は、煙草を吸った。
返事をしなかった。
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サラは少し笑った。
「相変わらずね」
「相変わらずだ」
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突撃隊は、四十人になった。
あと四人。
だが、それは、時間の問題だった。
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仲間は、増え続ける。
傷ついた人間が、集まり続ける。
そして、共に戦う。
正義のために。




