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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
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幕間 誤算

バンコク。王室犯罪対策局本部。


 局長室。


---


 ウィチャイ局長は、報告書を見ていた。


 通信指令室の稼働状況。


 出動要請件数。対応件数。未対応件数。


---


 「......想定外だ」


 呟いた。


---


 聖域が崩壊した時、ウィチャイは予測していた。


 組織化されていた犯罪が分散する。


 末端の犯罪者が、個別に動き出す。


 重犯罪が増える。


 通報が増える。


---


 だから、突撃隊に直接対応させることにした。


 各警察署から、直接連絡させる。


 俺を経由すると、時間がかかる。


 現場判断で、迅速に対応させる。


---


 計算はしていた。


 一日の出動要請は、最大で二十五件程度。


 突撃隊は十六人。戦闘では世界最高峰。


 優先順位を適切につければ、十件程度は対応できるはず。


 残りは地元警察に任せる。


 それで、回るはずだった。


---


 「回らなかった」


---


 報告書を見た。


 初日の出動要請:二十三件。


 対応件数:八件。


 通信指令室の稼働時間:川島十八時間、カルロス十六時間、プラウィット十四時間。


---


 「崩壊寸前か」


---


 ウィチャイは、窓の外を見た。


 バンコクの夜景。


---


 「俺は、奴らを過大評価していた」


---


 三百人を制圧した。


 装甲車を破壊した。


 麻薬王を逮捕した。


 元将校を追跡して、国境を越えて確保した。


---


 戦闘では、文句なしだ。


 世界中のどの特殊部隊と比べても、引けを取らない。


---


 だから、俺は思った。


 「これだけできる奴らが、通報の振り分けくらいできないはずがない」


 「優先順位の判断くらい、できるだろう」


 「組織運営くらい、できるだろう」


---


 できなかった。


---


 「......戦闘バカだ」


 ウィチャイは、溜息をついた。


 「戦闘しかできない」


---


 柏木は、優秀だ。


 戦術眼がある。判断が速い。部下を率いる力がある。


 だが、組織運営となると、話が違う。


---


 ニコライ、ジョンソン、マルティネス。


 全員、戦闘では超一流。


 だが、デスクワークはできない。


---


 川島、カルロス、プラウィット。


 通信は専門だ。だが、三人で二十四時間体制は無理がある。


 そもそも、通信と運営は違う。


---


 ナターシャ、ラッタナー。


 事務はできる。だが、彼女たちは経理と会計が専門だ。


 作戦運用とは、畑が違う。


---


 「人材が足りない」


 ウィチャイは呟いた。


 「戦闘要員は揃っている。だが、運営要員がいない」


---


---


 翌日。


 柏木が報告に来た。


---


 「局長、対策を立てました」


 「聞こう」


 「通信人員の増加、出動基準の明確化、ヘリによる機動力向上、二チーム制、地元警察との連携強化」


 「......」


 「これで、回ると思います」


---


 ウィチャイは、柏木を見た。


 「回らない」


 「え」


 「焼け石に水だ」


---


 柏木の顔が曇った。


 「......なぜですか」


 「お前の対策は、全て『現有戦力でなんとかする』という発想だ」


 「はい」


 「だが、現有戦力が足りないんだ。根本的に」


 「......」


---


 ウィチャイは立ち上がった。


 「お前たちは、戦闘では世界最高峰だ」


 「ありがとうございます」


 「だが、組織運営となると、素人だ」


 「......」


 「俺は、お前たちを過大評価していた。戦闘ができるから、運営もできると思っていた」


 「......」


 「できなかった。俺の誤算だ」


---


 柏木は黙っていた。


---


 「お前たちが悪いわけじゃない」


 ウィチャイは続けた。


 「お前たちは、戦闘のプロだ。運営のプロじゃない」


 「......」


 「餅は餅屋だ。運営のプロを、探すしかない」


---


 「運営のプロ」


 柏木が言った。


 「どういう人材ですか」


 「部隊運営の専門家だ。将校経験者」


 「将校」


 「そうだ。小隊や中隊を指揮した経験がある人間。作戦計画、人員配置、補給、通信、全てを統括できる人間」


 「......」


 「お前は突入班の指揮官だった。戦闘指揮はできる。だが、部隊運営は別物だ」


 「......はい」


---


 「探せ」


 ウィチャイは言った。


 「部隊運営ができる将校経験者を」


 「条件は」


 「外国籍。タイ国籍を取得する意思がある。正義のために動ける人間」


 「......簡単には見つかりませんね」


 「見つからない。だから、探せ」


---


---


 柏木は、拠点に戻った。


 全員を集めた。


---


 「新しい任務だ」


 「大規模作戦ですか」


 「違う。人探しだ」


 「人探し?」


---


 柏木は説明した。


 「俺たちには、組織運営の専門家が必要だ」


 「組織運営?」


 「ああ。俺たちは戦闘はできる。だが、運営ができない」


 「......」


 「局長に言われた。『戦闘バカだ』と」


 「戦闘バカ」


 「そうだ」


---


 ニコライが言った。


 「否定できないな」


 「できない」


 「俺たちは、撃つことしか考えていなかった」


 「そうだ」


---


 「探す人材の条件は」


 サラが聞いた。


 「将校経験者。部隊運営の経験がある人間」


 「将校か」


 「それも、外国籍で、タイ国籍を取得する意思があり、正義のために動ける人間」


 「......」


 「簡単には見つからない」


 「見つからないですね」


---


 マルティネスが言った。


 「また、世界中を探し回るのか」


 「探し回る」


 「前は戦闘要員だった。今度は運営要員か」


 「そうだ」


 「......神よ」


 「神に祈っても、人は降ってこない」


 「分かっている。だが、祈りたい」


---


 川島が言った。


 「どこから探しますか」


 「まずは、俺たちの伝手だ」


 「伝手」


 「元軍人のネットワーク。知り合いの知り合い。どこかに、条件に合う人間がいるはずだ」


 「......」


 「全員で探せ。一ヶ月以内に見つける」


 「一ヶ月」


 「それ以上かかると、通信指令室が本当に崩壊する」


 「了解」


---


---


 こうして、また全員が奔走することになった。


 今度は、戦闘員ではない。


 組織を動かせる、将校経験者。


 正義のために戦える、運営のプロ。


---


 簡単には見つからない。


 だが、探すしかない。


---


 突撃隊の、新しい戦いが始まった。

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