幕間 新居(続)
支援組の設計提出。
局長は、もう期待していなかった。
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最初の提出者。イーゴリ。
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「これが俺の設計だ」
図面を見た。
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一階:リビング、キッチン、フライトシミュレーター室。
「フライトシミュレーター?」
「そうだ。本物のヘリのコックピットを再現する」
「家の中に?」
「家の中に。いつでも訓練できる」
二階:寝室、バスルーム、航空資料室。
「航空資料室?」
「世界中のヘリの資料を集めている。マニュアル、設計図、整備記録......」
「趣味か」
「趣味であり、仕事だ」
屋上:ヘリポート。
「......屋上にヘリポート?」
「通勤用だ」
「通勤? 基地は目の前だぞ」
「ヘリで通勤したい」
「百メートルの距離を?」
「百メートルでもヘリで行きたい」
「......家族は」
「ヘリが家族だ」
「機械だろう」
「機械も家族だ」
局長は頭を抱えた。
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次の提出者。ダニエル。
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「これが俺の設計だ」
図面を見た。
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一階:リビング兼ガレージ。
「リビング兼ガレージ?」
「そうだ。車を見ながらテレビを見る」
「......車は外に置けばいいだろう」
「駄目だ。雨が降ったら錆びる」
「バンコクはそんなに雨降らないぞ」
「降る時は降る」
二階:寝室、バスルーム、工具室。
「工具室」
「整備用の工具を全部置く。五百点以上」
「五百点」
「足りないくらいだ」
敷地内:整備ピット付き駐車場。
「整備ピット?」
「車の下に潜って整備するための穴だ」
「知っている。なぜ自宅に必要なんだ」
「趣味だ」
「また趣味か」
「趣味だ」
「......家族は」
「車が家族だ」
「イーゴリと同じこと言うな」
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次の提出者。エイブラハム。
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「これが俺の設計だ」
図面を見た。
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一階:ガレージ。
「一階が全部ガレージ?」
「そうだ。車を六台置ける」
「六台も持っているのか」
「これから買う」
「買うのか」
「買う。クラシックカーを集めたい」
二階:寝室、バスルーム、小さなキッチン。
「リビングは」
「要らない」
「要らない?」
「ガレージがリビングだ。車を眺めながらビールを飲む。最高だろう」
「......家族は」
「面倒だ」
「また面倒か」
「面倒だ。車の方がいい。文句を言わない」
「車は会話もしないぞ」
「だからいいんだ」
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次の提出者。ナターシャ。
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「これが私の設計です」
図面を見た。
局長は少し期待した。女性なら、まともな設計かもしれない。
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一階:リビング、キッチン、ダイニング。経理事務室。
「経理事務室?」
「自宅でも仕事ができるように」
「......仕事熱心だな」
「領収書は待ってくれませんから」
二階:寝室二つ、バスルーム、ワインセラー。
「ワインセラー」
「ロシアワインを集めています」
「ロシアにワインがあるのか」
「あります。クラスノダール地方の」
「知らなかった」
「美味しいですよ」
「......寝室が二つあるな」
「はい」
「家族用か」
ナターシャの顔が少し赤くなった。
「......もし、将来......アレクセイが......」
「アレクセイの家の隣でいいか」
「......お願いします」
局長は少し笑った。
「分かった」
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次の提出者。カルロス。
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「これが俺の設計だ」
図面を見た。
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一階:リビング、キッチン、通信傍受室。
「通信傍受室?」
「趣味で無線を聞いている」
「趣味で傍受?」
「そうだ。世界中の無線を聞く。飛行機、船、軍、警察......」
「それは合法なのか」
「聞くだけなら合法だ」
「......」
二階:寝室、バスルーム、アンテナ設置スペース。
「アンテナ設置スペース?」
「大型アンテナを十本立てる」
「十本」
「足りないくらいだ」
屋上:さらにアンテナ。
「屋上にもアンテナ」
「パラボラアンテナを三基」
「家がアンテナだらけになるぞ」
「そうだ」
「近所迷惑では」
「近所はみんな仲間だ。文句は言わないだろう」
「......家族は」
「電波が家族だ」
「電波は家族じゃない」
「俺にとっては家族だ」
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局長は、全ての設計を見終わった。
溜息をついた。
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「まとめると」
局長は指を折った。
「ニコライ:ウォッカと武器」
「ジョンソン:映画とゴルフ」
「マルティネス:宗教と酒」
「ヨナタン:セキュリティ」
「川島:日本とサーバー」
「アレクセイ:医療」
「マリー:狙撃」
「イーゴリ:ヘリ」
「ダニエル:整備」
「エイブラハム:車」
「ナターシャ:経理とワイン」
「カルロス:電波」
「柏木:煙草」
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「まともなのは」
局長は続けた。
「サラ、ファリダー、プラウィットとラッタナー、そしてナターシャだけだ」
「四人」
「十六人中、四人」
「二十五パーセント」
「低すぎる」
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局長は窓の外を見た。
「......俺の『家族を持て』作戦は、失敗だな」
呟いた。
「みんな、趣味に走りやがって」
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だが、少しだけ笑っていた。
「まあ、いい。生きているうちは、好きに生きろ」
「死んだら、何もできないからな」
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三ヶ月後。
住居エリアが完成した。
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上空から見ると、異様な光景だった。
アンテナが林立している家。
屋上にヘリポートがある家。
ガレージが家より大きい家。
窓が一つもない要塞のような家。
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「統一感がないな」
柏木が言った。
「ないな」
ニコライが答えた。
「だが、それでいい」
「いいのか」
「いい。俺たちは、そういう奴らだ」
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夕日が沈んでいく。
異様な住居エリアが、金色に染まっていた。
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「悪くない」
柏木は呟いた。
「悪くない」




