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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
77/131

幕間 新居

バンコク郊外。


 広大な土地が、突撃隊に与えられた。


---


 局長——元ウィチャイ大佐——が、全員を集めた。


 「新しい基地を建設する」


 「新しい基地?」


 「そうだ。今までの仮設宿舎では手狭だ。戦績に見合った施設を用意する」


---


 局長は地図を広げた。


 「敷地は十万平方メートル。訓練場、車両庫、ヘリポート、事務棟、そして......」


 局長は少し笑った。


 「各自の住居だ」


 「住居?」


 「そうだ。全員に、一軒ずつ家を建てる」


---


 全員が顔を見合わせた。


 「一軒ずつ?」


 「そうだ。お前たちは、タイのために命を懸けている。それに見合った待遇を用意する」


 「ありがとうございます」


 「礼は要らない。当然のことだ」


---


 局長は咳払いをした。


 「それと、一つ、お願いがある」


 「何ですか」


 「家は......二人以上で住めるように設計してくれ」


 「二人以上?」


 「そうだ。将来、家族ができた時のために」


 「......」


 「家族だ。分かるな。伴侶。子供。そういうものだ」


---


 全員が気づいた。


 また始まった。


 局長の「家族を持て」圧力。


---


 「局長、また......」


 「何だ」


 「いえ、何でもありません」


 「何でもないなら、設計を始めろ。予算は一軒あたり五百万バーツだ」


 「五百万バーツ!?」


 「足りないか」


 「いえ、多すぎます」


 「多いことはない。好きなように使え」


---


---


 翌週。


 各自が設計案を提出した。


 局長は、期待に胸を膨らませていた。


 「さて、どんな家族向けの家ができるか......」


---


 最初の提出者。ニコライ。


---


 「これが俺の設計だ」


 図面を見た。


 局長の顔が固まった。


---


 一階:リビング、キッチン、ダイニング。


 これは普通だ。


 二階:寝室、バスルーム。


 これも普通だ。


 地下一階:ウォッカセラー。


 「......ウォッカセラー?」


 「そうだ。五百本収納できる」


 「五百本」


 「少ないか?」


 「多い」


 地下二階:武器庫。


 「武器庫?」


 「私物の武器を保管する。PKM、AK-103、グレネード......」


 「私物の武器がそんなにあるのか」


 「ある」


 「......家族用のスペースは」


 「ない」


 「ない?」


 「必要ない」


 「なぜ」


 「俺は一人で住む」


 局長は頭を抱えた。


---


 次の提出者。ジョンソン。


---


 「これが俺の設計だ」


 図面を見た。


 局長の眉が上がった。


---


 一階:リビング、キッチン、ダイニング。シアタールーム。


 「シアタールームか」


 「そうだ。150インチのスクリーンを置く」


 「映画を見るのか」


 「見る。俺の映画を」


 「お前の映画?」


 「デンゼル・ワシントンが俺を演じた映画だ。毎日見る」


 「......」


 二階:寝室、バスルーム、ゴルフシミュレーター室。


 「ゴルフシミュレーター?」


 「そうだ。退役したらゴルフをやりたい」


 「退役の予定は」


 「ない」


 「ないのにゴルフシミュレーターを」


 「備えあれば憂いなしだ」


 「......家族用のスペースは」


 「ゲストルームがある」


 「ゲストルームは家族用ではない」


 「客が来たら家族みたいなものだろう」


 「違う」


---


 次の提出者。マルティネス。


---


 「これが俺の設計だ」


 図面を見た。


 局長の目が点になった。


---


 一階:リビング、キッチン、礼拝堂。


 「礼拝堂?」


 「そうだ。毎朝、祈りを捧げる」


 「家の中に礼拝堂を作るのか」


 「作る。十字架を三十個飾る」


 「三十個」


 「足りないか?」


 「多い」


 二階:寝室、バスルーム、テキーラバー。


 「テキーラバー?」


 「そうだ。百種類のテキーラを揃える」


 「礼拝堂の上にバー?」


 「祈った後に飲む。最高だ」


 「......家族は」


 「神が俺の家族だ」


 「そういう意味じゃない」


---


 次の提出者。ヨナタン。


---


 「これだ」


 図面を見た。


 局長は首を傾げた。


---


 一階:リビング兼寝室兼キッチン。ワンルーム。


 「ワンルーム?」


 「そうだ」


 「予算が余るぞ」


 「余った分は、セキュリティに使う」


 「セキュリティ?」


 「監視カメラ三十台。赤外線センサー。圧力センサー。指紋認証ドア。網膜認証金庫」


 「家か要塞か分からないな」


 「要塞だ」


 「......家族は」


 「興味がない」


 「知ってた」


---


 次の提出者。川島。


---


 「これが僕の設計です」


 図面を見た。


 局長は少し安心した。


---


 一階:リビング、キッチン、ダイニング、和室。


 「和室?」


 「はい。畳を敷きます。障子も」


 「日本風か」


 「日本風です」


 二階:寝室二つ、バスルーム。


 「寝室が二つ。いいな」


 「はい。一つは僕用、一つは......」


 「家族用か?」


 「いえ、サーバールームです」


 「サーバールーム?」


 「通信機器を置きます。ラック十台分」


 「なぜ自宅にサーバールームが必要なんだ」


 「趣味です」


 「趣味」


 「はい」


 局長は溜息をついた。


---


 次の提出者。アレクセイ。


---


 「これが私の設計だ」


 図面を見た。


---


 一階:リビング、キッチン、診療室、手術室。


 「手術室?」


 「そうだ。緊急時に対応できるように」


 「自宅に手術室を作るのか」


 「作る。無影灯、手術台、麻酔機、心電図モニター......」


 「病院だな」


 「病院だ」


 「......家族は」


 「患者が家族みたいなものだ」


 「違う」


---


 次の提出者。マリー。


---


 「これだ」


 図面を見た。


 局長の顔が引きつった。


---


 一階:狙撃練習場。


 「一階が全部、狙撃練習場?」


 「そうだ。百メートルのレーンを作る」


 「家の中に?」


 「家の中に」


 二階:寝室、バスルーム、銃器整備室。


 「銃器整備室」


 「狙撃銃の手入れをする」


 「......リビングは」


 「要らない」


 「キッチンは」


 「要らない」


 「何を食べるんだ」


 「レーションでいい」


 「......家族は」


 「興味がない」


 「本当か?」


 マリーは少し黙った。


 「......敷地の配置図を見せてくれ」


 「なぜだ」


 「柏木の家の位置を確認したい」


 「なぜ柏木の位置を」


 「......何でもない」


 局長は、何かを察した。


---


 次の提出者。サラ。


---


 「これが私の設計よ」


 図面を見た。


---


 一階:リビング、キッチン、ダイニング。普通だ。


 二階:寝室二つ、バスルーム、バルコニー。


 「普通だな」


 「普通よ」


 「家族用のスペースもある」


 「まあね」


 局長は安心した。


 「やっと、まともな設計が......」


 「一つ、条件があるわ」


 「何だ」


 「柏木の家の隣に建てて」


 「......」


 「隣じゃないと意味がないの」


 「......分かった」


---


 次の提出者。ファリダー。


---


 「これが私の設計です」


 図面を見た。


---


 一階:リビング、キッチン、ダイニング。タイ式の仏間。


 「仏間か」


 「はい。毎朝、お祈りします」


 二階:寝室二つ、バスルーム。


 「普通だな」


 「普通です」


 「家族用のスペースもある」


 「まあ......将来、もし......」


 ファリダーの顔が赤くなった。


 局長は微笑んだ。


 「川島の家の隣でいいか」


 「え、あ、いえ、そんな、別に......」


 「隣にしておく」


 「......ありがとうございます」


---


 次の提出者。プラウィットとラッタナー。


 二人で来た。


---


 「これが......私たちの設計です」


 図面を見た。


 局長の目が輝いた。


---


 一軒の家。


 一階:リビング、キッチン、ダイニング。


 二階:寝室二つ、バスルーム、書斎。


 「二人で一軒?」


 「はい......」


 「つまり、一緒に住むのか」


 「はい......」


 「結婚するのか」


 二人の顔が真っ赤になった。


 「ま、まだそこまでは......」


 「するんだな」


 「......はい」


 局長は立ち上がった。


 「よくやった」


 「え」


 「お前たちは、俺の期待に応えた。唯一だ」


 「唯一......」


 「他の奴らは、武器庫だの狙撃練習場だの、ふざけた設計ばかりだ」


 「......」


 「だが、お前たちは違う。ちゃんと家族のことを考えている」


 「ありがとうございます......」


 「結婚式には呼んでくれ」


 「は、はい......」


---


---


 最後の提出者。柏木。


---


 「これが俺の設計だ」


 図面を見た。


 局長は、期待していなかった。


---


 一階:リビング、キッチン、ダイニング。喫煙室。


 「喫煙室」


 「煙草を吸う」


 「知ってる」


 二階:寝室一つ、バスルーム、トレーニングルーム。


 「寝室は一つか」


 「一つでいい」


 「家族は」


 「考えていない」


 「考えろ」


 「考えていない」


---


 局長は溜息をついた。


 「お前は、いつになったら家族を持つんだ」


 「分からない」


 「サラがいるだろう」


 「サラは仲間だ」


 「仲間じゃなくて、女だろう」


 「女?」


 「お前を好きな女だ」


 「......は?」


 「気づいていないのか」


 「何を」


 「サラがお前を好きなことを」


 「......」


 柏木は固まった。


 「マリーもだ」


 「......は?」


 「二人とも、お前を狙っている」


 「狙っている?」


 「ライフルでじゃない。恋愛的にだ」


 「......」


 柏木は、さらに固まった。


---


 「お前は鈍感すぎる」


 局長は言った。


 「十二年だぞ。サラは十二年、お前を想っている」


 「十二年......」


 「マリーは最近だが、かなり本気だ。映画のヒロインにキレるくらいには」


 「あれは、そういう......」


 「そういうことだ」


 「......」


---


 柏木は、頭を抱えた。


 「どうすればいいんだ」


 「知らん。自分で考えろ」


 「局長」


 「俺に相談するな。俺は独身だ」


 「独身なんですか」


 「独身だ。だから、お前たちには家族を持ってほしい」


 「......」


 「俺にできなかったことを、お前たちにはしてほしい」


 「......」


 局長の目が、少しだけ寂しそうだった。


---


---


 三ヶ月後。


 新基地が完成した。


---


 訓練場。車両庫。ヘリポート。事務棟。


 そして、住居エリア。


---


 ニコライの家:地下にウォッカセラーと武器庫。


 ジョンソンの家:150インチシアタールームとゴルフシミュレーター。


 マルティネスの家:礼拝堂とテキーラバー。


 ヨナタンの家:ワンルーム+要塞レベルのセキュリティ。


 川島の家:和室とサーバールーム。


 アレクセイの家:診療室と手術室。


 マリーの家:百メートル狙撃練習場。


 サラの家:普通。柏木の隣。


 ファリダーの家:タイ式。川島の隣。


 プラウィットとラッタナーの家:二人で一軒。


 柏木の家:シンプル。喫煙室付き。


---


 局長は、完成した住居エリアを見渡した。


 「......予想通りだな」


 呟いた。


 「趣味に走りやがって」


---


 だが、少しだけ笑っていた。


 「まあ、いい。生きているうちは、好きに生きろ」


---


 新しい基地で、新しい生活が始まった。

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