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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
76/131

幕間 映画

プラソン確保から一週間後。


 突撃隊の拠点。


 食堂に、全員が集まっていた。


---


 大型モニターに、Netflixのロゴが映っていた。


 「今日、公開だぞ」


 マルティネスが興奮気味に言った。


 「俺たちの映画だ」


---


 タイトルが表示された。


 『WHITE STRIKE』


 白い突撃。


---


 「やべえ、かっこいい」


 川島が言った。


 「タイトルだけで興奮する」


---


 映画が始まった。


---


---


 オープニング。


 バンコクの夜景。


 ナレーションが流れる。


 「タイには、闇がある。麻薬、人身売買、汚職。その闘に立ち向かう者たちがいた」


---


 画面が切り替わった。


 黒人の男が映った。


 スーツを着ている。厳格な表情。


 デンゼル・ワシントン。


---


 「マーカス・ジャクソン。元米陸軍CID。タイで犯罪と戦う男」


---


 ジョンソンが声を上げた。


 「俺だ! 俺をデンゼル・ワシントンが演じてる!」


 「名前が違うぞ。ジャクソンになってる」


 「細かいことはいいんだ! デンゼルだぞ! デンゼル!」


 ジョンソンは子供のように興奮していた。


---


 画面が切り替わった。


 別の男が映った。


 黒いスーツ。オールバック。サングラス。


 片目に眼帯。


 キアヌ・リーブス。


---


 「ユーキ。元日本軍特殊部隊。問題児にして、最強の戦士」


---


 柏木は固まっていた。


 「......キアヌ」


 「キアヌ・リーブスだ」


 「俺を......キアヌが......」


 「演じてるな」


 「......」


 柏木の目が潤んでいた。


 「泣いてるのか」


 「泣いていない」


 「泣いてるだろ」


 「......少しだけ」


---


 映画は続いた。


---


 アクションシーン。


 キアヌ演じるユーキが、敵のアジトに単身突入する。


 CARシステム。


 銃を体の中心に引き付け、走りながら撃つ。


 一人、また一人と倒していく。


 敵の銃を奪い、それで次の敵を撃つ。


 流れるような動き。


---


 「すげえ......」


 川島が呟いた。


 「ジョン・ウィックじゃん」


 「ジョン・ウィックだな」


 「でも、隊長の動きに似てる」


 「似てるな。ちゃんと研究したんだろう」


---


 柏木は無言で見ていた。


 感動していた。


 自分の戦い方が、映画になっている。


 キアヌ・リーブスが、自分を演じている。


 「......夢みたいだ」


---


---


 次のシーン。


 巨大なロシア人が映った。


 金髪。無精髭。190センチ超え。


 ドルフ・ラングレン。


---


 「ニコライ。元ロシア軍。火力の権化」


---


 ニコライが目を見開いた。


 「ドルフ・ラングレン......」


 「お前を演じてるな」


 「ロッキーのドラゴだぞ」


 「知ってる」


 「エクスペンダブルズの」


 「知ってる」


 「......最高だ」


---


 画面の中で、ドルフ演じるニコライが戦っていた。


 両手に軽機関銃。


 PKMを二丁。


 同時に撃っている。


 弾幕が敵を薙ぎ払う。


---


 「二丁撃ち!?」


 本物のニコライが叫んだ。


 「俺、そんなことしてないぞ!」


 「映画だからな」


 「いや、でも、物理的に無理だろう! PKMは10キロ以上あるんだぞ!」


 「ドルフだからできるんだ」


 「......まあ、かっこいいからいいか」


 「いいだろう」


---


---


 映画は、派手なアクションの連続だった。


 爆発。銃撃戦。カーチェイス。


 白いハンヴィーが敵を蹴散らす。


 ヘリからの強襲。


 建物の崩壊。


---


 「ハリウッドだな」


 マルティネスが言った。


 「派手すぎる」


 「でも、楽しいだろう」


 「楽しい」


---


 男性陣は、完全に映画に夢中だった。


 ジョンソンは、デンゼルが映るたびに歓声を上げた。


 ニコライは、ドルフの二丁撃ちに興奮した。


 柏木は、キアヌのアクションに見入っていた。


 川島は、自分が映画に出ていないことを少し残念がっていた。


---


---


 そして、問題のシーンが来た。


---


 ユーキが、一人の女性と出会う。


 タイ人。美しい。長い黒髪。知的な目。


 タイの人気女優が演じていた。


---


 「私はサイ。ジャーナリストよ。あなたたちのことを取材したいの」


---


 ユーキは最初、冷たく断る。


 だが、サイは諦めない。


 何度も接触してくる。


 次第に、二人の距離が縮まっていく。


---


 「ユーキ、あなたはなぜ戦うの」


 「......正しいことをしたいからだ」


 「正しいこと?」


 「ああ。俺は日本で報われなかった。だが、ここでは違う」


 「タイで、あなたは報われている?」


 「......ああ」


 二人の目が合う。


 音楽が流れる。


 キスシーン。


---


 「えっ」


 食堂の空気が、凍った。


---


---


 サラの顔が、無表情になっていた。


 完全に、無表情。


 だが、拳が震えていた。


---


 「......何、これ」


 サラの声は、静かだった。


 静かすぎた。


---


 「映画だから......」


 ジョンソンが言いかけた。


 「黙って」


 「はい」


---


---


 マリーも、無表情だった。


 だが、目が据わっていた。


 狙撃手の目だ。


 獲物を狙う時の目だ。


---


 「......ジャーナリスト」


 マリーが呟いた。


 「なぜ、ジャーナリストなんだ」


 「映画だから......」


 「私たちは、一緒に戦っている。命を懸けて。なのに、ヒロインはジャーナリスト?」


 「ま、まあ、創作だし......」


 「創作?」


 マリーの声が低くなった。


 「創作なら、何をしてもいいのか」


 「いや、そういうわけでは......」


 「私たちは、映画に出ていない。女性隊員は、一人も出ていない」


 「......」


 「なのに、架空のジャーナリストがヒロインになっている」


 「......」


 「これは、侮辱だ」


---


 ニコライが、そっとジョンソンに耳打ちした。


 「やばいぞ」


 「分かってる」


 「マリーが怒ってる」


 「見れば分かる」


 「あいつ、『興味ない』って言ってたよな」


 「言ってた」


 「嘘だったな」


 「嘘だった」


---


---


 映画は続いていた。


 クライマックス。


 ユーキとサイが、敵のボスと対峙する。


 サイが人質に取られる。


 ユーキが単身で乗り込む。


 激しい戦闘。


 そして、サイを救出。


---


 「ユーキ、愛してる」


 「俺も......愛している」


 二人が抱き合う。


 エンドロール。


---


---


 映画が終わった。


 沈黙。


 長い沈黙。


---


 「面白かった......な」


 川島が、恐る恐る言った。


---


 サラが立ち上がった。


 「私、部屋に戻るわ」


 「サラ......」


 「何でもないの。ただ、少し疲れただけ」


 サラは出ていった。


 ドアが、静かに閉まった。


---


 マリーも立ち上がった。


 「私も戻る」


 「マリー......」


 「製作会社にメールを送る」


 「メール?」


 「抗議のメールだ」


 「抗議って......」


 「事実に基づいていない。女性隊員を無視している。ヒロインの設定が不適切。以上」


 マリーは出ていった。


 足音が、廊下に響いた。


---


---


 残された男性陣は、顔を見合わせた。


 「......やばいな」


 ニコライが言った。


 「やばい」


 「サラは、まだ分かる。十二年前から柏木を想ってるからな」


 「うん」


 「だが、マリーは」


 「興味ないって言ってたよな」


 「言ってた」


 「嘘だったな」


 「完全に嘘だった」


---


 柏木は、困惑していた。


 「......俺、何かしたか」


 「お前は何もしていない」


 「じゃあ、なぜ怒ってる」


 「映画のせいだ」


 「映画?」


 「お前のヒロインが、架空のジャーナリストになってるからだ」


 「俺は何も......」


 「お前は何も悪くない。だが、女は怒っている」


 「......意味が分からない」


 「俺たちにも分からない」


---


 ジョンソンが言った。


 「明日から、気をつけろ」


 「何を」


 「サラとマリーに」


 「何を気をつけるんだ」


 「分からない。だが、気をつけろ」


 「......」


---


---


 その夜。


 マリーは、パソコンの前に座っていた。


 メールを書いていた。


---


 「製作会社殿。


 貴社が制作した映画『WHITE STRIKE』について、以下の点を指摘する。


 一、本作品は、実在の部隊をモデルにしているが、女性隊員が一人も登場しない。これは事実に反する。


 二、主人公の恋人役として、架空のジャーナリストが設定されている。しかし、実際の部隊には、主人公と長年の信頼関係を持つ女性隊員が存在する。


 三、アクションシーンにおいて、軽機関銃の二丁撃ちは物理的に不可能である。PKMの重量を考慮していない。


 四、主人公の眼帯は左目であるべきだが、映画では右目になっている。


 以上の点について、訂正を求める。


 王室犯罪対策局特別強襲部隊 マリー・デュポン」


---


 マリーは、送信ボタンを押した。


---


 そして、もう一通。


 別のメールを書き始めた。


---


 「追伸。


 続編を制作する場合、女性隊員を登場させることを強く推奨する。


 特に、フランス出身の狙撃手は、重要なキャラクターとなり得る。


 参考までに、彼女の戦績を添付する。


 狙撃成功率:百パーセント。


 最長狙撃距離:千三百メートル。


 確保に貢献した敵:四十七人。


 以上。」


---


 マリーは、送信ボタンを押した。


---


---


 隣の部屋。


 サラも、パソコンの前に座っていた。


 メールを書いていた。


---


 「製作会社様。


 映画『WHITE STRIKE』を拝見しました。


 アクションシーンは素晴らしかったです。


 しかし、一点、重大な問題があります。


 主人公ユーキの恋人役についてです。


 実際の部隊には、主人公と十二年来の関係を持つ女性隊員がいます。


 彼女は、主人公と共に戦い、命を懸けてきました。


 その存在を無視し、架空のジャーナリストをヒロインにしたことは、極めて不適切です。


 続編では、この点を改善することを強く要望します。


 敬具。


 王室犯罪対策局特別強襲部隊 サラ・コールマン


 追伸:私の役は、シャーリーズ・セロンでお願いします。」


---


 サラは、送信ボタンを押した。


---


---


 翌朝。


 食堂。


---


 空気が重かった。


 サラとマリーは、柏木を見ていなかった。


 見ていないふりをしていた。


---


 柏木は困惑していた。


 「......おはよう」


 「おはよう」


 サラの返事は、短かった。


 マリーは、無言だった。


---


 ニコライがジョンソンに耳打ちした。


 「まだ怒ってるな」


 「怒ってる」


 「いつまで続くんだ」


 「分からない」


 「柏木が可哀想だ」


 「可哀想だが、俺たちにできることはない」


 「ないな」


---


 ファリダーが、困惑した顔で言った。


 「あの......私は映画、面白かったと思いますけど」


 「ファリダー、黙れ」


 サラが言った。


 「は、はい」


---


 ナターシャが小声で言った。


 「私も面白かったと思うけど......」


 「ナターシャ」


 マリーが振り向いた。


 「は、はい」


 「あなたは、アレクセイがいるでしょう」


 「い、います」


 「なら、黙って」


 「はい」


---


 ラッタナーは、完全に黙っていた。


 関わりたくなかった。


---


---


 一週間後。


 Netflixから返信が来た。


---


 「マリー・デュポン様、サラ・コールマン様。


 貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。


 続編の制作が決定しました。


 女性隊員の登場について、前向きに検討いたします。


 キャスティングについては、追ってご連絡いたします。


 敬具。」


---


 マリーは、少しだけ笑った。


 「......悪くない」


---


 サラも、少しだけ笑った。


 「続編があるのね」


 「あるらしい」


 「シャーリーズ・セロン、本当に来るかしら」


 「来るといいな」


---


 柏木は、まだ困惑していた。


 「......結局、何が起きたんだ」


 「お前は知らなくていい」


 ニコライが言った。


 「知らなくていい?」


 「知らなくていい。そういうことだ」


 「......」


---


 平和が、少しだけ戻った。

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