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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか!  作者: Operator3118
第3章 聖域
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幕間 崩壊

バンコク。


 聖域制圧の報せが、政府内を駆け巡った。


 混乱が始まった。


---


 プラソン・チャルーンポンの執務室。


 国家安全保障会議副議長は、電話を握りしめていた。


 手が震えていた。


---


 「何だと......ウィワットが捕まった?」


 「はい。今朝、突撃隊が聖域を制圧しました」


 「帳簿は」


 「押収されました」


 「通信記録は」


 「押収されました」


 「取引データは」


 「全て、押収されました」


 プラソンの顔から、血の気が引いた。


---


 帳簿には、全てが記録されている。


 誰に、いくら払ったか。


 いつ、どんな便宜を図ったか。


 プラソンの名前も、当然、載っている。


---


 「......終わりだ」


 電話を切った。


 すぐに別の番号に電話した。


---


 「ピチットか。聞いたか」


 「聞いた」


 陸軍中将の声は、震えていた。


 「どうする」


 「知らん。俺に聞くな」


 「お前も帳簿に載っているんだぞ」


 「分かっている!」


 「証拠隠滅は」


 「無理だ。全て押収された」


 「では、口封じを」


 「誰の口を封じる。ウィワットは既に捕まった。俺たちが動けば、余計に怪しまれる」


 「では、どうすれば」


 「逃げるしかない」


 「逃げる? どこへ」


 「国外だ。タイにいたら、捕まる」


 電話が切れた。


---


 プラソンは、机の引き出しを開けた。


 パスポートがある。


 現金もある。


 「逃げるか......」


 呟いた。


---


 だが、すぐに気づいた。


 空港には、監視がいるだろう。


 陸路で国境を越えるか。


 だが、それも危険だ。


---


 「くそ......」


 プラソンは頭を抱えた。


---


---


 同じ頃。


 バンコク警察本部。


 ソムチャイ大佐の執務室。


---


 ソムチャイは、書類をシュレッダーにかけていた。


 狂ったように。


---


 「間に合え......間に合え......」


 ウィワットとのやり取りの記録。


 賄賂の受領書。


 便宜を図った証拠。


 全て、処分しなければ。


---


 部下が入ってきた。


 「大佐、何をしているんですか」


 「見て分からんのか! 邪魔するな!」


 「しかし......」


 「出ていけ!」


 部下は、怯えた顔で出ていった。


---


 シュレッダーが止まった。


 紙詰まりだ。


 「くそ! くそ! くそ!」


 ソムチャイは機械を殴った。


---


 携帯電話が鳴った。


 非通知。


 恐る恐る出た。


---


 「ソムチャイ大佐ですね」


 知らない声だった。


 「誰だ」


 「王室犯罪対策局です」


 血の気が引いた。


 「我々は、ウィワット・チャロエンスックを確保しました。彼は、協力的です」


 「......」


 「あなたの名前も、出ています」


 「......」


 「逃げても無駄です。空港、港、国境、全てに手配が回っています」


 「......」


 「自首を勧めます。今なら、まだ司法取引の余地があります」


 電話が切れた。


---


 ソムチャイは、電話を床に叩きつけた。


 「終わりだ......終わりだ......」


---


---


 国会議事堂。


 タナコーン・シリワット議員の事務所。


---


 七十代の老政治家は、窓の外を見ていた。


 表情は、意外にも穏やかだった。


---


 秘書が入ってきた。


 「先生、マスコミが集まっています」


 「そうか」


 「コメントを求められています」


 「何も言うことはない」


 「しかし......」


 「何も言うことはない。帰れと伝えろ」


 「はい......」


---


 秘書が出ていった後、タナコーンは椅子に座った。


 引き出しを開けた。


 拳銃があった。


---


 「五十年、政治をやってきた」


 呟いた。


 「最初は、国のためだと思っていた。いつから、道を外れたのか」


 銃を手に取った。


 「覚えていない。気づいたら、こうなっていた」


---


 銃口を見つめた。


 「逮捕されて、裁判にかけられて、刑務所に入る。それが、私の最期か」


 「それとも......」


---


 長い沈黙。


---


 タナコーンは、銃を引き出しに戻した。


 「まだ、死ぬ時ではない」


 立ち上がった。


 「やれることをやろう。最後まで」


---


 電話を取った。


 弁護士に連絡した。


 「私だ。......ああ、そうだ。......自首する」


---


---


 陸軍本部。


 ピチット中将の執務室。


---


 中将は、軍服を着替えていた。


 私服に。


---


 「中将、どこへ行くのですか」


 副官が聞いた。


 「カンボジアだ」


 「カンボジア?」


 「知り合いがいる。匿ってもらえる」


 「しかし、軍務が」


 「軍務? そんなものは、もう終わりだ」


 「中将......」


 「俺は、逃げる。お前も、好きにしろ」


---


 ピチットは、鞄を持って執務室を出た。


 廊下を歩いた。


 出口に向かって。


---


 だが、出口には、人が立っていた。


 白い制服。


 金のエンブレム。


---


 「ピチット中将ですね」


 ジョンソンだった。


 隣にマルティネスがいた。


---


 「王室犯罪対策局です。ご同行願います」


 「......逮捕か」


 「任意同行です。今のところは」


 「今のところは、か」


 ピチットは笑った。


 「逃げ切れると思ったんだがな」


 「残念でしたね」


 「ああ、残念だ」


---


 ピチットは、おとなしく連行された。


---


---


 夕方。


 テレビのニュース。


---


 「本日未明、王室犯罪対策局が、サムットプラカーン県の物流会社を強制捜査しました」


 「この会社は、東南アジア最大の麻薬集積拠点と見られており、CEOのウィワット・チャロエンスック容疑者が逮捕されました」


---


 「また、この事件に関連して、複数の政府高官が取り調べを受けています」


 「国家安全保障会議のプラソン・チャルーンポン副議長は、現在、所在不明となっています」


 「陸軍のピチット中将は、本日午後、王室犯罪対策局に任意同行されました」


 「バンコク警察のソムチャイ大佐は、本日夕方、自宅で身柄を確保されました」


 「与党のタナコーン・シリワット議員は、自ら警察に出頭しました」


---


 「政府内に激震が走っています」


 「野党は、内閣総辞職を要求する声明を発表しました」


 「首相は、緊急記者会見を開き、『徹底的な捜査を支持する』と述べました」


---


---


 チェンマイ。


 突撃隊の拠点。


---


 全員が、テレビを見ていた。


---


 「すごいことになっているな」


 ニコライが言った。


 「政府が、ひっくり返りそうだ」


 「ひっくり返ればいい」


 柏木が答えた。


 「腐った政治家は、全員引きずり出す」


---


 「プラソンは逃げたのか」


 サラが聞いた。


 「逃げた。だが、長くは続かない」


 「なぜ」


 「国際手配が出る。どこに逃げても、追いかける」


 「世界中を?」


 「必要なら」


---


 ファリダーが言った。


 「タナコーン議員は、自首したそうですね」


 「したらしい」


 「意外です。逃げると思っていました」


 「逃げる奴と、逃げない奴がいる。人それぞれだ」


 「......そうですね」


---


 川島が聞いた。


 「隊長、これからどうなるんですか」


 「どうなる、とは」


 「政府が混乱しています。俺たちは、どこまでやるんですか」


 「最後までだ」


 「最後?」


 「腐敗を根絶するまでだ。政治家だろうが、軍だろうが、警察だろうが、容赦しない」


 「......」


 「俺たちは、王の剣だ。悪を断つために存在する」


---


 ジョンソンが入ってきた。


 「局長から連絡だ」


 「何と」


 「『プラソンの居場所が分かった。確保に向かえ』」


 「どこにいる」


 「チャンタブリー県。カンボジア国境に近い」


 「逃げようとしているな」


 「逃がすのか」


 「逃がさない」


---


 柏木は立ち上がった。


 「アルファチーム、出動準備」


 「了解」


 「プラソンを確保する。国外に逃がすな」


 「了解!」


---


 白い戦士たちが、動き始めた。


 次の標的に向かって。

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