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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
74/129

第15話 実戦

訓練が終わった。


 三ヶ月。


 四十四人全員が、同じレベルで戦えるようになった。


---


 そして、実戦の日が来た。


---


---


 バンコク。


 通信指令室。


---


 川島が叫んだ。


 「緊急通報! チョンブリー県! 工場占拠!」


 「詳細を」


 ハーパーが駆け寄った。


 「武装集団が化学工場を占拠。人質は従業員四十人以上。犯人の数は不明。武装している」


 「化学工場?」


 「アンモニア製造工場です。爆発したら、半径五キロが危険区域になる」


---


 柏木が立ち上がった。


 「出動だ」


---


---


 三十分後。


 チョンブリー県。


 アンモニア製造工場。


---


 突撃隊が到着した。


 ハンヴィー四台。UH-1一機。


 そして、白いBMW R1250 GS Adventureが一台。


---


 瀧本は、バイクの上でヘルメットのバイザーを上げた。


 日本から取り寄せたArai製の白バイ用ヘルメット。


 白バイ隊用のロングブーツ。


 プレートキャリア。


 腰にはM93R。


---


 「状況は」


 柏木が聞いた。


 「犯人は推定十五人から二十人」


 ルノーが双眼鏡を下ろした。


 「武装は自動小銃。一部にRPGを確認」


 「RPG?」


 「爆発物を持っている。工場を吹き飛ばす気だ」


---


 「要求は」


 「金だ。五億バーツ。払わなければ、工場を爆破すると」


 「五億バーツか」


 「そして、人質を殺すと」


---


 柏木は工場を見た。


 巨大な施設。複数の建屋。パイプが複雑に絡み合っている。


 「正面突入は難しいな」


 「難しい。RPGを撃たれたら、タンクに引火する」


 「静かに近づく必要がある」


---


 瀧本が口を開いた。


 「俺に任せろ」


 全員が瀧本を見た。


 「任せる?」


 「ああ。俺が先に突入する。注意を引きつける」


 「注意を引きつける? お前一人で?」


 「一人でいい。バイクがある」


---


 柏木は瀧本を見た。


 「......できるか」


 「できる。俺を信じろ」


 「死ぬなよ」


 「死なない。生きる気満々だ」


---


---


 作戦が決まった。


---


 第一段階。瀧本が単独で突入。注意を引きつける。


 第二段階。マリーが狙撃支援。RPG持ちを優先的に排除。


 第三段階。柏木チームが正面から突入。


 第四段階。ニコライチームが裏口から突入。


 第五段階。人質確保。


---


 「全員、準備はいいか」


 「了解」


 「では、始める」


---


---


 瀧本はバイクのエンジンをかけた。


 BMW R1250 GS Adventure。


 1254cc。136馬力。


 白い車体が、陽光を反射した。


---


 「瀧本、聞こえるか」


 無線から柏木の声が聞こえた。


 「聞こえる」


 「無茶はするな」


 「無茶じゃない。計算だ」


 「計算?」


 「俺の計算では、俺は死なない。だから無茶じゃない」


 「......そういうことにしておく」


---


 瀧本はバイザーを下ろした。


 アクセルを開けた。


---


 白いバイクが、疾走を始めた。


---


---


 工場の正門に向かって、まっすぐ。


 時速百キロ。


 門を突き破った。


---


 「何だ!?」


 犯人たちが叫んだ。


 「バイクだ! バイクが来た!」


---


 瀧本は減速しなかった。


 建屋と建屋の間を駆け抜けた。


 パイプの下をくぐった。


 階段を駆け上がった。


---


 「撃て! 撃て!」


 銃声が響いた。


 弾丸が飛んできた。


---


 瀧本は身を低くした。


 バイクを左に傾けた。


 弾丸をかわした。


---


 「当たらねえな」


 独り言を言った。


 「止まってる的を撃つのは簡単だ。だが、動いてる的は難しい」


---


 犯人が三人、前方に現れた。


 AKを構えている。


---


 瀧本はアクセルを全開にした。


 バイクが加速した。


---


 最初の犯人の横を通り過ぎざま、M93Rを抜いた。


 三点バースト。


 命中。


---


 二人目。


 バイクを急旋回させた。


 後輪が犯人の足を払った。


 転倒。


---


 三人目。


 バイクから飛び降りた。


 空中でM93Rを構えた。


 撃った。


 命中。


---


 着地。


 バイクは慣性で前に進んでいた。


 走って追いついた。


 飛び乗った。


---


 「三人、制圧」


 無線で報告した。


---


---


 「瀧本が注意を引きつけている。今だ」


 柏木の声が響いた。


---


 正面から、柏木チームが突入した。


 柏木、サラ、ファリダー、デイヴィッド。


---


 裏口から、ニコライチームが突入した。


 ニコライ、ジョンソン、マルティネス、ヨナタン。


---


 屋上から、マリーが狙撃を開始した。


 AI AXMC。.338ラプア・マグナム。


---


 「RPG持ち、確認」


 マリーの冷静な声。


 「排除する」


---


 銃声。


 一人の犯人が倒れた。


 RPGが地面に落ちた。


---


 「RPG持ち、一人目排除」


 「二人目、発見」


 「排除する」


---


 銃声。


 また一人、倒れた。


---


---


 瀧本は建屋の中に突入していた。


 バイクで。


---


 廊下を走った。


 ドアを突き破った。


 階段を駆け上がった。


---


 「狂ってる......」


 犯人の一人が呟いた。


 「建物の中でバイクって......」


---


 瀧本はその犯人の前でブレーキをかけた。


 後輪がスライドした。


 犯人の足を払った。


---


 「狂ってないぞ」


 瀧本は言った。


 「合理的だ」


---


 M93Rで犯人を撃った。


 「四人目」


---


---


 人質が監禁されている部屋を見つけた。


 二階。大きな会議室。


 ドアの前に、犯人が二人。


---


 瀧本はバイクを加速させた。


 廊下を全速力で。


---


 犯人たちが振り向いた。


 目が見開かれた。


---


 「は?」


---


 バイクが犯人に突っ込んだ。


 一人目を跳ね飛ばした。


 二人目は、瀧本が飛び降りざまに蹴り倒した。


---


 バイクはドアに激突した。


 ドアが吹き飛んだ。


---


 会議室の中に、バイクが滑り込んだ。


 人質たちが悲鳴を上げた。


---


 瀧本は会議室に入った。


 M93Rを構えた。


---


 中には、犯人が三人いた。


 人質を盾にしている。


---


 「動くな! 撃つぞ!」


 犯人のリーダーらしき男が叫んだ。


 「人質を殺すぞ!」


---


 瀧本は動かなかった。


 「落ち着け」


 「落ち着けるか! お前、建物の中でバイクで突っ込んできやがって!」


 「それは謝る。ドアを壊したのは悪かった」


 「そこじゃねえ!」


---


 瀧本は少しずつ距離を詰めた。


 「なあ、お前、名前は」


 「名前?」


 「そうだ。俺は瀧本だ。お前は」


 「......ソムチャイだ」


 「ソムチャイか。いい名前だ」


 「褒めるな!」


---


 瀧本はさらに一歩近づいた。


 「なあ、ソムチャイ。俺は死ぬ気がないんだ」


 「何?」


 「死ぬ気がない。生きる気満々だ」


 「何を言ってる」


 「だから、お前を殺す気もない」


 「......」


 「銃を下ろせ。そうすれば、誰も死なない」


---


 ソムチャイは迷っていた。


 銃を持つ手が、少し震えていた。


---


 その瞬間。


 窓ガラスが割れた。


---


 マリーの狙撃。


 ソムチャイの右手を撃ち抜いた。


---


 「ぐあああ!」


 ソムチャイが銃を落とした。


---


 瀧本が動いた。


 残りの二人に向かって。


---


 一人目の銃を払い落とした。


 肘で顎を打った。


 気絶。


---


 二人目がナイフを抜いた。


 瀧本はナイフを避けた。


 腕を掴んだ。


 捻った。


 投げた。


---


 三人全員、制圧。


---


 「人質、確保」


 瀧本は無線で報告した。


 「全員無事だ」


---


---


 三十分後。


 工場は完全に制圧された。


---


 犯人、十八人。


 全員、確保または排除。


 人質、四十三人。


 全員、無事。


 味方、負傷者なし。


---


 「完璧だ」


 ハーパーが言った。


 「完璧な作戦だった」


---


 柏木は瀧本を見た。


 「お前、マジでバイクで建物の中を走ったな」


 「走った」


 「ドアを壊したな」


 「壊した。弁償する」


 「弁償の問題じゃない」


 「じゃあ何だ」


 「......お前、本当に狂ってるな」


 「褒め言葉として受け取る」


---


 ニコライが近づいてきた。


 「瀧本、お前のバイクは」


 「あれか」


 瀧本は会議室を指差した。


 バイクは、倒れたまま会議室の中にあった。


 「まだ動くか」


 「動く。BMWは頑丈だ」


 「......」


---


 サラが頭を抱えた。


 「信じられない。建物の中でバイク。しかも、成功した」


 「成功した。だから正しかった」


 「論理がおかしいわ」


 「おかしくない。結果が全てだ」


---


---


 その夜。


 拠点。


 食堂。


---


 祝勝会が開かれていた。


---


 「乾杯!」


 全員がグラスを掲げた。


 「初の本格実戦、成功!」


---


 瀧本は、ナリンの隣に座っていた。


 「お疲れ様」


 ナリンがビールを注いだ。


 「ありがとう」


 「怪我はなかった?」


 「ない。かすり傷もない」


 「よかった」


---


 ナリンは少し笑った。


 「テレビで見たわ。バイクで建物に突っ込んでた」


 「見てたのか」


 「見てた。心配した」


 「心配しなくていい。俺は死なない」


 「分かってる。でも、心配はする」


---


 瀧本はナリンの手を握った。


 「俺は、お前のために生きる。だから、死なない」


 「......」


 「お前と幸せになる。それが俺の計画だ」


 「計画通りにいくといいね」


 「いく。俺の計画は、いつも成功する」


 「バイクで建物に突っ込む計画も?」


 「あれも計画通りだ」


 「本当に?」


 「本当だ。半分くらいは」


 「半分!?」


---


 ナリンは笑った。


 瀧本も笑った。


---


---


 別のテーブル。


 柏木は一人で煙草を吸っていた。


---


 サラが隣に来た。


 「一人?」


 「一人だ」


 「隣、いい?」


 「いい」


---


 サラは座った。


 ビールを飲んだ。


---


 「今日の作戦、うまくいったわね」


 「うまくいった」


 「瀧本のおかげね」


 「瀧本のおかげだ」


 「あなた、瀧本のこと気に入ってるでしょ」


 「......気に入っている」


 「珍しいわね。柏木が誰かを気に入るなんて」


---


 柏木は煙草を吸った。


 「瀧本は、俺に似ている」


 「似てる?」


 「正義のために、全てを捨てた。でも、生きることを諦めていない」


 「......」


 「俺も、そうありたいと思っている」


---


 サラは柏木を見た。


 「あなた、変わったわね」


 「変わった?」


 「昔は、もっと......暗かった」


 「暗かったか」


 「暗かった。感情がなかった。笑わなかった」


 「......」


 「今は、少し笑うようになった」


---


 柏木は窓の外を見た。


 「ここに来て、変わったのかもしれない」


 「タイに来て?」


 「ああ。日本にいた頃は、俺は一人だった」


 「......」


 「ここには、仲間がいる。一緒に戦う人間がいる」


 「......」


 「それが、俺を変えたのかもしれない」


---


 サラは少し笑った。


 「私も、変わったわ」


 「お前も?」


 「私も。CIDを辞めた時、私は終わったと思ってた」


 「......」


 「でも、ここに来て、また戦えるようになった」


 「......」


 「あなたのおかげよ」


---


 柏木はサラを見た。


 「俺のおかげか」


 「そうよ。あなたが私を拾ってくれた」


 「拾ったのは、ジョンソンだ」


 「でも、受け入れてくれたのは、あなた」


---


 二人は黙って、酒を飲んだ。


---


 「ねえ、柏木」


 「何だ」


 「私、あなたのこと......」


---


 その時。


 マリーが近づいてきた。


---


 「柏木、隣、いい?」


 「......いい」


---


 マリーはサラの反対側に座った。


 空気が、少し冷たくなった。


---


 「今日の狙撃、良かった」


 柏木が言った。


 「ありがとう。RPG持ちを二人、排除できた」


 「お前のおかげで、爆発を防げた」


 「チームワークよ」


---


 サラは黙っていた。


 マリーも黙っていた。


 柏木は、二人の間に挟まれていた。


---


 「......」


 「......」


 「......」


---


 柏木は煙草を深く吸った。


 「俺、ちょっと外に出る」


 「え?」


 「煙草を吸いに」


 「ここで吸ってたじゃない」


 「外で吸いたくなった」


---


 柏木は立ち上がった。


 逃げるように、食堂を出た。


---


 サラとマリーが残された。


 二人は、互いを見た。


---


 「......」


 「......」


---


 マリーが口を開いた。


 「サラ」


 「何」


 「私たち、話し合うべきじゃない?」


 「話し合う? 何を」


 「柏木のこと」


---


 サラは黙った。


 マリーも黙った。


---


 「......後でね」


 サラが言った。


 「今は、祝勝会だから」


 「そうね。後で」


---


 二人は、ぎこちなく笑った。


---


---


 外。


 拠点の屋上。


---


 柏木は煙草を吸っていた。


 夜風が吹いていた。


---


 「逃げたな」


 声が聞こえた。


 瀧本だった。


---


 「逃げた」


 「女二人に挟まれて、逃げるとは」


 「仕方ない」


 「仕方ないか」


---


 瀧本は柏木の隣に立った。


 「サラとマリーか」


 「そうだ」


 「どっちが好きなんだ」


 「......分からない」


 「分からない?」


 「分からない。考えたことがない」


---


 瀧本は笑った。


 「お前、戦闘では天才だけど、恋愛では馬鹿だな」


 「うるさい」


 「事実だ」


---


 柏木は煙草を吸った。


 「お前は、ナリンとどうやって付き合い始めたんだ」


 「俺か?」


 「ああ」


 「俺は、ナリンを守った。山本から」


 「それで?」


 「それで、ナリンが俺を好きになった。俺もナリンを好きになった」


 「シンプルだな」


 「シンプルだ。恋愛は、シンプルなんだよ」


---


 「シンプルか」


 柏木は呟いた。


 「俺には、難しい」


---


 「難しく考えるな」


 瀧本は言った。


 「どっちと一緒にいたいか。それだけだ」


 「それだけ?」


 「それだけだ」


---


 柏木は黙っていた。


---


 「まあ、急ぐ必要はない」


 瀧本は続けた。


 「戦闘中じゃないんだ。ゆっくり考えろ」


 「......そうだな」


---


 二人は、夜空を見上げた。


 星が瞬いていた。


---


 「瀧本」


 「何だ」


 「お前、いい奴だな」


 「知ってる」


 「自分で言うな」


 「事実だから言う」


---


 柏木は少し笑った。


 瀧本も笑った。


---


 夜風が、二人の間を吹き抜けていった。

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