第12話 世界
人探しの旅が始まった。
六つのチームが、世界各地に散った。
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アメリカ。ワシントンD.C.。
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柏木とジョンソンは、元CIA職員と会っていた。
退役軍人が集まるバー。
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「情報管制官を探している」
ジョンソンが言った。
「情報管制官?」
相手は五十代の男。元CIAの分析官。
「情報収集と分析の専門家だ」
「タイで?」
「そうだ」
「......CIAを辞めた人間は、大抵、民間のセキュリティ会社に行く」
「金のためにか」
「金のためだ。タイで正義のために働く? そんな奇特な奴は、少ないぞ」
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「心当たりはないか」
柏木が聞いた。
「......一人、いるかもしれない」
「誰だ」
「レイチェル・モーガン。元CIAの情報分析官」
「今は」
「辞めた。理由は知らない。だが、業界から完全に消えた」
「どこにいる」
「分からない。ただ、最後に聞いた話では、シアトルにいるらしい」
「シアトルか」
「そこで、何か......ボランティアをしているらしい」
「ボランティア?」
「ああ。難民支援か何か」
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シアトル。
難民支援センター。
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柏木とジョンソンは、センターの前に立っていた。
古いビル。壁にはペンキが剥げている。
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中に入った。
子供たちが走り回っている。
様々な言語が飛び交っている。
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「レイチェル・モーガンさんはいますか」
受付の女性に聞いた。
「レイチェル? 奥にいるわ。子供たちに英語を教えているの」
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奥の教室に向かった。
ドアが開いていた。
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女性がいた。
四十代前半。茶色の髪。眼鏡。
子供たちに囲まれて、絵本を読んでいた。
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「レイチェル・モーガンさん」
ジョンソンが声をかけた。
女性が振り向いた。
目が鋭くなった。一瞬だけ。
「誰」
「話がある。CIAの話じゃない。別の話だ」
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三十分後。
近くのカフェ。
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「タイで情報管制官?」
レイチェルが言った。
「そうだ」
「なぜ私に」
「お前が優秀だったからだ。CIA時代、中東の分析で何度も的中させた」
「......誰から聞いた」
「元同僚だ」
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レイチェルはコーヒーを飲んだ。
「私は、もうあの世界に戻る気はない」
「なぜ辞めた」
「......」
「答えたくなければ、いい」
「......いや、言う」
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レイチェルは窓の外を見た。
「私の分析が、空爆の根拠に使われた」
「......」
「ターゲットはテロリストのアジトだった。少なくとも、そう思っていた」
「違ったのか」
「違った。結婚式だった。民間人が四十七人死んだ」
「......」
「私の分析が、間違っていた。四十七人が、私のせいで死んだ」
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沈黙。
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「それで、辞めたのか」
「辞めた。もう、情報分析はしたくない。私の分析が、また誰かを殺すかもしれない」
「......」
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柏木が口を開いた。
「俺も、人を殺した」
レイチェルが柏木を見た。
「部下を三人、俺の判断ミスで死なせた。ウクライナで」
「......」
「それ以来、俺も壊れた。感情を殺して、無愛想になった」
「......」
「だが、タイで変わった。人を守るために戦えるようになった」
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「守る?」
「そうだ。殺すためじゃない。守るために」
「情報分析で、人を守れる?」
「守れる。お前の分析で、俺たちは敵を正確に把握できる。無駄な戦闘を避けられる。民間人を巻き込まずに済む」
「......」
「お前の能力は、人を殺すためではなく、人を守るために使える」
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レイチェルは黙っていた。
長い沈黙。
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「......考えさせて」
「分かった。連絡先を渡す」
「一週間。一週間で決める」
「待っている」
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ヨーロッパ。フランス。パリ。
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マリーとルノーは、元フランス軍の将校と会っていた。
参謀を探している。
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「参謀か」
相手は六十代の男。元陸軍大佐。
「作戦立案の専門家だ」
「タイで働く? フランス人が?」
「フランス人でなくてもいい。フランス軍で参謀経験がある人間なら」
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「難しいな」
元大佐は言った。
「参謀は、軍の中枢だ。辞めても、国に留まることが多い」
「海外に出た人間は」
「いないこともない。だが......」
「だが?」
「参謀経験があって、かつ海外で働く意思がある人間。しかも、正義のために動ける人間」
「いないか」
「一人だけ、心当たりがある」
「誰だ」
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「ハンス・ミュラー。ドイツ人だ」
「ドイツ人?」
「元ドイツ連邦軍の参謀。大佐まで昇進した」
「優秀だったのか」
「優秀だった。だが、上層部と対立して、辞めた」
「何で対立した」
「アフガン撤退の方針を巡って。彼は、もっと計画的な撤退を主張したが、政治家が聞かなかった」
「......」
「結果、撤退は混乱した。彼は責任を感じて、辞めた」
「今は」
「ベルリンにいるはずだ。軍事コンサルタントをしている。だが、不満を抱えているらしい」
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ドイツ。ベルリン。
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マリーとルノーは、オフィスビルにいた。
「ミュラー軍事コンサルティング」
小さな事務所。
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ドアをノックした。
「入れ」
声が聞こえた。
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中に入った。
男がいた。
五十代後半。灰色の髪。眼鏡。几帳面そうな顔。
ハンス・ミュラー。
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「何の用だ」
「話がある」
ルノーが言った。
「軍事コンサルティングの依頼か」
「違う。人材募集だ」
「人材募集?」
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ルノーは説明した。
タイの王室犯罪対策局。突撃隊。参謀が必要だということ。
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ミュラーは黙って聞いていた。
「......タイか」
「そうだ」
「なぜ、私に」
「お前が優秀だからだ。アフガンでの作戦立案、評価が高かった」
「評価が高くても、結果は最悪だった」
「政治家のせいだ」
「政治家のせいでも、軍人の責任だ」
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マリーが言った。
「タイでは、政治家の干渉がない」
ミュラーが顔を上げた。
「ない?」
「ない。王室直轄だ。政治家は口出しできない」
「......」
「あなたの作戦立案が、そのまま実行される。政治家に邪魔されない」
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ミュラーは考え込んでいた。
「......興味深いな」
「興味があるか」
「ある。だが、すぐには決められない」
「考える時間が必要か」
「必要だ。一週間」
「分かった」
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アジア。韓国。ソウル。
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川島とファリダーは、元韓国軍の通信士官と会っていた。
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「通信要員を三人探している」
川島が言った。
「三人か。多いな」
「多い。だが、必要だ」
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相手は四十代の男。元韓国陸軍の通信将校。
「韓国軍で通信をやっていた人間は、大抵、サムスンかLGに行く」
「民間企業に」
「そうだ。給料がいいからな」
「タイで働く意思がある人間は」
「......少ないだろうな」
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「心当たりはないか」
ファリダーが聞いた。
「一人だけ。女だが」
「女でも構わない」
「キム・スヨン。元陸軍の通信士官。優秀だった」
「今は」
「辞めた。セクハラに遭って」
「......」
「軍を訴えたが、もみ消された。それで、完全に嫌気がさして辞めた」
「どこにいる」
「ソウルにいるはずだ。だが、連絡先は知らない」
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三日後。
ソウル市内のカフェ。
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キム・スヨンは、三十代前半の女性だった。
短い黒髪。鋭い目。
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「タイで通信士官?」
「そうです」
川島が言った。
「なぜ私に」
「あなたが優秀だったからです」
「優秀でも、軍には残れなかった」
「軍ではない。別の組織です」
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ファリダーが説明した。
王室犯罪対策局。突撃隊。女性隊員もいること。
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「女性隊員がいる?」
「います。私もそうです」
スヨンの目が少し変わった。
「セクハラは」
「ありません。隊長が許しません」
「......」
「私たちは、仲間です。性別は関係ありません」
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スヨンは考えていた。
「......韓国では、もう働きたくない」
「分かります」
「でも、タイで働く? 言葉も分からないのに?」
「言葉は覚えられます。私も、タイ語を覚えました」
川島が言った。
「......」
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「考えさせてください」
スヨンが言った。
「一週間でいいです」
「分かりました」
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アフリカ。ケニア。ナイロビ。
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ニコライとマルティネスは、元傭兵たちと会っていた。
戦闘要員を探している。
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「戦闘要員を十三人探している」
ニコライが言った。
「十三人? 多いな」
相手は元南アフリカ軍の傭兵。
「多い。だが、必要だ」
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「アフリカには、傭兵がたくさんいる」
傭兵が言った。
「だが、『正義のために戦える人間』となると、話は別だ」
「どういう意味だ」
「傭兵は、金のために戦う。正義なんて、考えない」
「正義を考える傭兵はいないのか」
「いないこともない。だが、少ない」
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「心当たりは」
マルティネスが聞いた。
「何人か、いる」
「名前を」
「アブドゥル・ハッサン。元エジプト軍。今は傭兵をやっているが、金よりも使命を重視する男だ」
「他には」
「ピーター・オコンクォ。ナイジェリア人。元軍医だが、戦闘もできる」
「医療要員にもなるか」
「なる。優秀だ」
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「連絡は取れるか」
「取れる。だが、会うには、彼らがいる場所に行く必要がある」
「どこだ」
「コンゴだ。今、そこで仕事をしている」
「コンゴか」
「行けるか」
「行く」
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一ヶ月後。
バンコク。
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各チームが戻ってきた。
報告会議。
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「成果を報告する」
ハーパーが言った。
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「アメリカ。情報管制官候補、一人。レイチェル・モーガン。元CIA」
「返事は」
「待ち。だが、脈はある」
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「ヨーロッパ。参謀候補、一人。ハンス・ミュラー。元ドイツ連邦軍大佐」
「返事は」
「待ち。興味を示している」
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「アジア。通信要員候補、一人。キム・スヨン。元韓国軍」
「返事は」
「待ち」
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「アフリカ。戦闘要員候補、二人。医療要員候補、一人」
「合計三人か」
「三人だ。全員、会って話した。反応は良好」
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「合計、六人の候補か」
柏木が言った。
「六人だ。目標は二十四人」
「まだ十八人足りない」
「足りない」
「だが、スタートとしては悪くない」
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「次のステップは」
ルノーが聞いた。
「候補者を、実際にタイに呼ぶ。見学させる。俺たちの活動を見せる」
「見学」
「そうだ。言葉で説明するより、見せた方が早い」
「了解」
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「それと」
柏木は続けた。
「探索は続ける。六人では足りない。もっと探す」
「どこを」
「まだ行っていない場所。オーストラリア、カナダ、イギリス、日本」
「日本?」
「日本は難しいと言ったな。だが、諦めない。一人くらい、いるかもしれない」
「......」
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「半年で二十四人」
ハーパーが言った。
「残り五ヶ月。まだ時間はある」
「ある。だが、のんびりはできない」
「できない」
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「では、続けよう」
柏木が立ち上がった。
「世界中から、仲間を集める」
「了解」
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人探しの旅は、続く。




