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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
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第10話 改革

ハーパーとルノーが着任して、三日目。


 二人は、拠点内を視察していた。


---


 「ひどいな」


 ハーパーが言った。


 「ひどい」


 ルノーが同意した。


---


 通信指令室。


 機材が乱雑に置かれている。


 配線がむき出し。


 マニュアルがない。


 シフト表がない。


 引継ぎ手順がない。


---


 「これで、どうやって回していたんだ」


 「根性だ」


 川島が答えた。


 「根性?」


 「はい。気合と根性で、何とかしていました」


 「......」


---


 ハーパーは頭を抱えた。


 「米軍なら、即座に懲戒処分だ」


 「懲戒処分......」


 「冗談じゃない。本気だ」


---


 ルノーが言った。


 「まず、ここから立て直す」


 「そうだな」


 「一週間で、形にする」


 「一週間か。厳しいが、やるしかない」


---


---


 改革が始まった。


---


 初日。


 ハーパーが通信指令室を改造した。


---


 「配線を整理しろ」


 「はい」


 「機材の配置を変える。動線を確保しろ」


 「動線?」


 「人が動く経路だ。今の配置だと、通報を受けながら地図を確認できない」


 「確かに......」


 「机を並べ替える。通信担当と分析担当を隣に配置。情報共有を即座にできるようにする」


 「了解です」


---


 二日目。


 ルノーがシフト表を作成した。


---


 「今まで、シフトはどうしていた」


 「適当に決めていました」


 「適当?」


 「はい。誰かが疲れたら、交代する感じで」


 「......」


---


 ルノーは紙を広げた。


 「これが新しいシフト表だ」


 「これは......」


 「八時間三交代制。通信担当二人、分析担当一人を常時配置」


 「二人と一人?」


 「そうだ。一人だと、トイレにも行けない。最低二人は必要だ」


 「確かに......」


 「休憩時間も明確にする。二時間ごとに十五分。これを厳守しろ」


 「了解です」


---


 三日目。


 ハーパーがマニュアルを作成した。


---


 「通報受付マニュアル」


 分厚い冊子だった。


 「これは......」


 「通報を受けた時の手順だ。最初に何を聞くか、どう記録するか、誰に報告するか。全て書いてある」


 「今まで、こういうのはなかったです」


 「なかったから、混乱した」


 「......」


 「これを読め。暗記しろ。そして、実行しろ」


 「了解です」


---


 四日目。


 ルノーが優先順位判断基準を策定した。


---


 「出動要請の判断基準」


 壁に大きな表が貼られた。


---


 「Aランク。即時出動。人質事件、テロ、重武装犯」


 「Bランク。状況により出動。武装強盗、立てこもり、銃撃戦」


 「Cランク。地元警察対応。その他の犯罪」


---


 「これは、柏木隊長が作ったものと同じでは」


 川島が言った。


 「骨格は同じだ。だが、詳細が違う」


 「詳細?」


 「各ランクの判断基準を、数値化した」


---


 ルノーは表を指差した。


 「人質の人数、犯人の武装レベル、現場までの距離、地元警察の対応能力。これらを点数化する」


 「点数化」


 「そうだ。合計点が一定以上なら、出動。以下なら、地元に任せる」


 「感覚ではなく、数字で判断するんですね」


 「そうだ。感覚は、疲労で鈍る。数字は、鈍らない」


---


 五日目。


 ハーパーが隊員たちを集めた。


---


 「作戦報告書のフォーマットを統一する」


 「フォーマット?」


 「今まで、報告書はどう書いていた」


 「各自、適当に......」


 「適当に?」


 「はい」


 「......」


---


 ハーパーはテンプレートを配った。


 「これが新しいフォーマットだ。日時、場所、犯人数、人質数、使用武器、作戦経過、結果、反省点。全て、この順番で書け」


 「これを毎回?」


 「毎回だ。作戦が終わったら、二十四時間以内に提出」


 「二十四時間......」


 「遅れたら、俺が書かせる。手書きで。三回」


 「三回」


 「そうだ。嫌なら、期限を守れ」


---


 六日目。


 ルノーが補給システムを整備した。


---


 「弾薬の在庫管理は」


 「ダニエルがやっています」


 「在庫表は」


 「......ありません」


 「ない?」


 「頭の中にあります」


 「頭の中?」


 「はい。ダニエルが全部覚えています」


 「......」


---


 ルノーは溜息をついた。


 「ダニエルが倒れたら、どうする」


 「......」


 「ダニエルが死んだら、どうする」


 「......」


 「在庫表を作れ。紙でもデジタルでもいい。とにかく、記録を残せ」


 「了解です」


---


 七日目。


 二人は、柏木を呼んだ。


---


 「報告する」


 ハーパーが言った。


 「聞こう」


 「通信指令室の改革が完了した。シフト表、マニュアル、判断基準、全て整備した」


 「早いな」


 「これでも遅い方だ。米軍なら、三日で終わる」


 「......」


---


 ルノーが続けた。


 「報告書フォーマット、補給管理システムも整備した」


 「ありがとう」


 「礼は要らない。これが俺たちの仕事だ」


---


 柏木は二人を見た。


 「正直に言う」


 「何だ」


 「俺たちは、運営を舐めていた。戦闘ができれば、それでいいと思っていた」


 「知っている」


 「だが、お前たちが来て、目が覚めた」


 「......」


 「感謝している」


---


 ハーパーは少し笑った。


 「柏木、お前は戦闘の天才だ。だが、運営は俺たちに任せろ」


 「ああ」


 「餅は餅屋だ。お前は撃つことに集中しろ。俺たちが、後ろを支える」


 「頼む」


---


---


 改革の効果は、すぐに現れた。


---


 通信指令室。


 川島が通報を受けていた。


---


 「こちら王室犯罪対策局。通報内容をお聞きします」


 手元にはマニュアル。


 「場所は。犯人の人数は。武装の有無は。人質はいますか」


 質問項目が明確になっていた。


---


 通報が終わった。


 隣のカルロスに、すぐに情報を共有。


 カルロスが判断基準表を確認。


 「Bランク。合計点は......十八点。出動基準ギリギリだ」


 「出動するか、地元に任せるか」


 「ハーパー少佐に確認する」


---


 ハーパーが判断した。


 「地元警察の対応能力は」


 「バンコク中央警察。SWATあり」


 「なら、任せろ。俺たちは、より緊急度の高い案件に備える」


 「了解」


---


 判断が明確だった。


 迷いがなかった。


---


---


 一週間後。


 局長に報告。


---


 「状況は」


 「改善しました」


 柏木が答えた。


 「具体的には」


 「一日の出動要請、平均二十二件。対応件数、十二件。地元警察への振り分け、十件」


 「対応率が上がったな」


 「はい。以前は三分の一。今は半分以上です」


 「通信担当の負荷は」


 「大幅に軽減しました。シフト制が機能しています」


---


 局長は頷いた。


 「ハーパーとルノーのおかげか」


 「そうです」


 「やはり、餅は餅屋だな」


 「痛感しています」


---


---


 夜。


 拠点の食堂。


---


 ハーパーとルノーが、ビールを飲んでいた。


 他の隊員たちも集まっていた。


---


 「お疲れ様です」


 川島がビールを持ってきた。


 「ああ、ありがとう」


 「本当に助かりました。今まで、どれだけ無茶をしていたか......」


 「無茶というか、無知だったな」


 「無知......」


 「悪い意味じゃない。お前たちは、戦闘のプロだ。運営のプロじゃない。知らないことは、恥じゃない」


 「......ありがとうございます」


---


 ニコライがルノーに聞いた。


 「外人部隊では、こういう運営を学ぶのか」


 「学ぶ。将校になるには、戦闘だけでなく、運営も学ばなければならない」


 「ロシア軍では、将校は命令するだけだった」


 「命令するだけ?」


 「そうだ。計画は参謀が立てる。補給は後方部隊がやる。将校は、ただ『突撃しろ』と言うだけ」


 「......それで、戦えるのか」


 「戦える。だが、効率は悪い」


 「だろうな」


---


 ジョンソンがハーパーに聞いた。


 「お前、タイに来て後悔していないか」


 「後悔?」


 「ああ。モンタナの牧場は、静かだっただろう」


 「静かだった」


 「ここは、騒がしい」


 「騒がしい」


 「それでも、来てよかったか」


---


 ハーパーは少し考えた。


 「......分からない」


 「分からない?」


 「正直に言う。まだ、分からない」


 「......」


 「だが、一つだけ言える」


 「何だ」


 「ここには、目的がある。牧場にはなかった」


 「目的」


 「そうだ。人を守るという目的が。俺には、それが必要だったのかもしれない」


---


 ルノーも言った。


 「俺も同じだ」


 「同じ?」


 「ブドウを摘んでいても、何も変わらなかった。毎日、同じことの繰り返し」


 「......」


 「ここでは、毎日が違う。毎日、誰かを助けている」


 「......」


 「それが、俺には必要だった」


---


 柏木が二人を見た。


 「......ありがとう」


 「また礼か」


 「何度でも言う。お前たちが来てくれて、本当に助かった」


 「礼は仕事で返せ」


 「返す」


 「期待している」


---


---


 深夜。


 通信指令室。


---


 通報が入った。


 「こちらプーケット警察。武装グループがリゾートホテルを占拠。人質多数。至急、応援を」


 「了解。詳細を」


 「犯人、推定十人。自動小銃で武装。人質は五十人以上」


---


 川島が判断基準表を確認した。


 「Aランク。合計点、四十二点。即時出動」


---


 ハーパーが立ち上がった。


 「全員、起こせ。出動だ」


---


 サイレンが鳴った。


 隊員たちが、装備を身につけ始めた。


---


 日常は続く。


 だが、もう、崩壊寸前ではない。


 組織が、機能し始めていた。

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