表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
68/131

第9話 追跡

アメリカ。テキサス州。


---


 柏木とジョンソンは、レンタカーで移動していた。


 広大な平原が、どこまでも続いている。


---


 「ハーパーの最後の居場所は」


 柏木が聞いた。


 「ヒューストン。民間軍事会社の本社があった」


 「辞めた後は」


 「分からない。実家に帰ったかもしれない」


 「実家は」


 「テキサス州オースティン。今、そこに向かっている」


---


 三時間後。


 オースティン郊外。


 古い農場があった。


---


 「ここか」


 「ここだ。ハーパー家の農場」


 車を降りた。


---


 玄関をノックした。


 しばらくして、老婆が出てきた。


 「何の用だい」


 「ウィリアム・ハーパーさんを探しています」


 「ウィリアム? 息子かい」


 「はい」


 「いないよ」


 「どこに」


 「知らないね。半年前に出ていった。どこに行ったか、教えてくれなかった」


---


 柏木とジョンソンは顔を見合わせた。


 「連絡は取れますか」


 「取れないよ。電話も出ない。手紙も返ってこない」


 「......」


 「あの子は、戦争から帰ってきてから、ずっとおかしかった」


 「おかしい?」


 「夜中に叫ぶ。酒を飲む。誰とも話さない。PTSDってやつだろう」


 「......」


 「民間軍事会社に入ったけど、すぐ辞めた。『金のために人を殺すのは嫌だ』って」


 「それで、どこに」


 「分からないって言ってるだろう。あんたたち、何者だい」


---


 ジョンソンが答えた。


 「元同僚です。ウィリアムに、仕事を紹介したいんです」


 「仕事?」


 「はい。正義のために働く仕事です」


 「正義......」


 老婆は少し黙った。


 「あの子は、正義って言葉が嫌いだよ」


 「なぜ」


 「アフガンで、正義のために戦ったつもりだった。でも、何も変わらなかった。それで、正義って言葉を信じなくなった」


 「......」


---


 老婆は溜息をついた。


 「一つだけ、心当たりがある」


 「何ですか」


 「モンタナ。あの子の友人が、モンタナに牧場を持っている。そこにいるかもしれない」


 「友人の名前は」


 「トム・ブレイディ。軍で一緒だったらしい」


 「ありがとうございます」


---


---


 同じ頃。


 アフリカ。コートジボワール。


---


 マリーとニコライは、アビジャンの空港に降り立った。


 熱気が、体にまとわりつく。


---


 「ルノーの最後の居場所は」


 ニコライが聞いた。


 「コンゴ民主共和国。傭兵として活動していた」


 「今は」


 「分からない。辞めた後、消息が途絶えた」


 「手がかりは」


 「一つだけ。ルノーが所属していた傭兵会社の事務所が、ここアビジャンにある」


---


 タクシーで移動した。


 アビジャンの市街地。混沌とした街並み。


---


 傭兵会社の事務所は、雑居ビルの三階にあった。


 ドアをノックした。


 返事がない。


 もう一度ノックした。


---


 ドアが開いた。


 白人の男が出てきた。五十代。禿頭。葉巻を咥えている。


 「何の用だ」


 「ジャン=ピエール・ルノーを探しています」


 「ルノー?」


 「ここで働いていたはずです」


 「......中に入れ」


---


 事務所は狭かった。


 机が二つ。ファイルキャビネット。壁に地図。


---


 「お前ら、何者だ」


 男が聞いた。


 「元同僚です」


 マリーが答えた。


 「外人部隊か」


 「はい」


 「ルノーに何の用だ」


 「仕事を紹介したい」


 「仕事? ルノーは、もう傭兵をやらないと言っていたぞ」


 「傭兵ではありません。別の仕事です」


 「別の仕事?」


 「正義のために戦う仕事です」


---


 男は笑った。


 「正義? 傭兵に正義はない。金だけだ」


 「だから、傭兵ではないと言っています」


 「......」


---


 男は葉巻をふかした。


 「ルノーは、一ヶ月前に辞めた」


 「なぜ」


 「コンゴでの任務中に、民間人を殺した」


 「......」


 「敵と間違えた。子供だった」


 「......」


 「それ以来、ルノーは変わった。『もう人を殺すのは嫌だ』と言って、辞めた」


 「今、どこに」


 「知らない。ただ......」


 「ただ?」


 「『南アフリカに行く』と言っていた。ケープタウンに、知り合いがいるらしい」


 「知り合いの名前は」


 「知らない」


---


 マリーとニコライは顔を見合わせた。


 「ケープタウンか」


 「南アフリカだ。遠いな」


 「行くしかない」


---


---


 アメリカ。モンタナ州。


---


 柏木とジョンソンは、さらに北へ移動していた。


 モンタナの大地。山々。牧草地。


---


 トム・ブレイディの牧場は、山の麓にあった。


 牛が草を食んでいる。


---


 車を降りた。


 納屋から、男が出てきた。


 四十代。がっしりした体格。カウボーイハットを被っている。


 「何の用だ」


 「トム・ブレイディさんですか」


 「そうだ」


 「ウィリアム・ハーパーさんを探しています」


---


 トムの表情が変わった。


 「ウィルか」


 「はい。ここにいますか」


 「......」


 トムは黙っていた。


 「いるんですね」


 「いる。だが、誰にも会いたくないと言っている」


 「会わせてください。大事な話があります」


 「大事な話?」


 「仕事の話です」


 「ウィルは、もう仕事をする気がない」


 「それでも、会わせてください」


---


 トムは溜息をついた。


 「......あいつは、壊れている」


 「壊れている?」


 「戦争で壊れた。アフガンで部下を失って、それ以来ずっと」


 「......」


 「民間軍事会社で働いていたが、余計に悪化した。金のために人を殺すのが、耐えられなかったらしい」


 「だから、ここに」


 「ああ。ここで、何もせずに過ごしている。毎日、酒を飲んで、山を眺めている」


---


 ジョンソンが言った。


 「俺も、同じだった」


 「何?」


 「俺も、戦争で壊れた。部下を失った。酒に溺れた。何度も死のうと思った」


 「......」


 「だが、今は違う。タイで、本当の仕事を見つけた。正義のために戦う仕事を」


 「正義?」


 「ああ。金のためじゃない。人を守るための仕事だ」


 「......」


 「ウィルにも、その仕事を紹介したい。彼なら、できると思う」


---


 トムは黙っていた。


 長い沈黙の後、口を開いた。


 「......分かった。会わせてやる」


---


---


 牧場の奥。


 小さな小屋があった。


---


 ドアをノックした。


 返事がない。


 「ウィル、客だ」


 トムが叫んだ。


---


 しばらくして、ドアが開いた。


 男が出てきた。


 四十代前半。痩せている。目の下に隈。無精髭。


 ウィリアム・ハーパー。


---


 「誰だ」


 声がかすれていた。


 「俺はジョンソン。元CIDだ」


 「CID?」


 「こっちは柏木。元日本軍特殊部隊」


 「日本軍?」


 「自衛隊だ」


 「......何の用だ」


---


 「仕事の話だ」


 ジョンソンが言った。


 「仕事? 俺はもう、仕事をする気はない」


 「聞いてくれ」


 「聞く必要はない」


 「五分だけ」


 「......」


---


 ハーパーは、渋々、中に入れた。


---


 小屋の中は、荒れていた。


 空き瓶が転がっている。ベッドはぐちゃぐちゃ。窓は閉め切られている。


---


 「話せ」


 ハーパーが言った。


 「座っていいか」


 「好きにしろ」


---


 ジョンソンが話し始めた。


 「俺たちは、タイで特殊部隊をやっている」


 「タイ?」


 「ああ。王室犯罪対策局。麻薬組織、人身売買、テロ、そういうものと戦っている」


 「......」


 「金のためじゃない。人を守るためだ」


 「......」


 「だが、問題がある」


 「問題?」


 「俺たちは、戦闘はできる。だが、組織運営ができない」


 「......」


 「将校経験者が必要だ。部隊を動かせる人間が」


 「俺に、その役をやれと?」


 「ああ」


---


 ハーパーは笑った。


 乾いた笑いだった。


 「無理だ」


 「なぜ」


 「俺は壊れている。部下を殺した。自分の判断ミスで」


 「......」


 「それ以来、何も信じられなくなった。正義も、国も、自分自身も」


 「......」


 「俺に、部隊を任せる気か? また、部下を殺すぞ」


---


 柏木が口を開いた。


 「俺も、部下を殺した」


 ハーパーが柏木を見た。


 「ウクライナで。非公式の作戦中に、三人の部下を失った。俺の判断ミスで」


 「......」


 「それ以来、俺も壊れた。感情を殺して、無愛想になった。誰も信じられなくなった」


 「......」


 「だが、タイで変わった」


 「変わった?」


 「ああ。正義のために戦える場所を見つけた。信じられる仲間を見つけた。王に認められた」


 「......」


 「お前も、変われる。タイに来れば」


---


 ハーパーは黙っていた。


---


 「考えてくれ」


 柏木は名刺を置いた。


 「連絡先だ。決心がついたら、連絡してくれ」


 「......」


 「俺たちは、一週間後にタイに戻る。それまでに、決めてくれ」


---


 柏木とジョンソンは、小屋を出た。


---


---


 同じ頃。


 南アフリカ。ケープタウン。


---


 マリーとニコライは、ケープタウンの港にいた。


 テーブルマウンテンが、背後にそびえている。


---


 「ルノーの知り合いは」


 ニコライが聞いた。


 「分からない。名前すら分からない」


 「どうやって探す」


 「外人部隊の関係者を当たるしかない。ケープタウンには、元部隊員が何人かいるはずだ」


---


 三日間、二人は聞き込みを続けた。


 バー。退役軍人のクラブ。傭兵のたまり場。


---


 四日目。


 ようやく、手がかりを掴んだ。


---


 「ルノー? 知ってるよ」


 バーの常連客が言った。白人の男。六十代。元傭兵。


 「どこにいる」


 「ここから二十キロ北。ワイナリーで働いている」


 「ワイナリー?」


 「ああ。ブドウを摘んでいるらしい。『静かに暮らしたい』と言っていた」


---


---


 翌日。


 ワイナリー。


---


 広大なブドウ畑が広がっていた。


 遠くに、山々が見える。


---


 マリーとニコライは、畑の中を歩いた。


 働いている人々の中に、ルノーを探した。


---


 「あそこだ」


 マリーが指差した。


---


 男がいた。


 五十代。短い白髪。日焼けした肌。


 ブドウを摘んでいる。


---


 近づいた。


 「ジャン=ピエール・ルノー」


 マリーが呼んだ。


---


 男が振り向いた。


 目が鋭い。だが、どこか疲れている。


 「誰だ」


 「マリー・デュポン。元外人部隊」


 「外人部隊か」


 「話がある」


---


 ルノーは、ブドウを籠に入れた。


 「俺は、もう傭兵はやらない」


 「傭兵の話じゃない」


 「なら、何だ」


 「正義の話だ」


---


 ルノーは笑った。


 苦い笑いだった。


 「正義? 俺に、正義を語る資格はない」


 「なぜ」


 「子供を殺した。民間人を殺した。俺の手は、血で汚れている」


 「......」


 「だから、ここにいる。静かに暮らすために」


---


 マリーは言った。


 「私も、人を殺してきた」


 「......」


 「狙撃手として、数え切れないほど」


 「......」


 「だが、今は違う。タイで、人を守るために戦っている」


 「タイ?」


 「王室犯罪対策局。麻薬組織、人身売買、テロと戦う部隊だ」


 「......」


 「あなたの経験が必要だ。部隊運営ができる将校が」


---


 ルノーは黙っていた。


---


 ニコライが言った。


 「俺もロシア軍で、多くの人間を殺した。汚い仕事もした」


 「......」


 「だが、タイで変わった。初めて、正しいことのために戦えるようになった」


 「......」


 「お前も、変われる。タイに来れば」


---


 ルノーはブドウ畑を見渡した。


 「......ここは静かだ」


 「静かだろう」


 「戦いから離れて、初めて眠れるようになった」


 「......」


 「また戦えと言うのか」


 「戦うのではない。人を守るんだ」


---


 長い沈黙。


---


 「......考えさせてくれ」


 ルノーが言った。


 「考えてくれ」


 「連絡先は」


 マリーが名刺を渡した。


 「一週間後に、タイに戻る。それまでに、決めてくれ」


 「......分かった」


---


---


 一週間後。


 タイ。バンコク。


---


 柏木とジョンソンが戻ってきた。


 マリーとニコライも戻ってきた。


---


 「結果は」


 局長が聞いた。


 「二人とも、見つけました」


 柏木が答えた。


 「だが、まだ返事が来ていません」


 「返事が来なかったら」


 「......分かりません」


---


 三日後。


 柏木の携帯電話が鳴った。


 アメリカからだった。


---


 「柏木か」


 ハーパーの声だった。


 「ああ」


 「考えた」


 「......」


 「行く。タイに行く」


 「本当か」


 「ああ。もう一度、正しいことのために戦いたい。できるかどうか分からないが、試してみたい」


 「......ありがとう」


 「礼は、仕事をしてから言え」


---


 同じ日。


 マリーの携帯電話が鳴った。


 南アフリカからだった。


---


 「マリーか」


 ルノーの声だった。


 「はい」


 「決めた」


 「......」


 「行く。タイに行く」


 「本当ですか」


 「ああ。ブドウを摘んでいても、何も変わらない。それなら、もう一度、人の役に立ちたい」


 「......ありがとうございます」


 「礼は早い。まだ何もしていない」


---


---


 二週間後。


 バンコク。王室犯罪対策局本部。


---


 二人の男が立っていた。


 ウィリアム・ハーパー。元米陸軍大尉。


 ジャン=ピエール・ルノー。元フランス外人部隊大尉。


---


 局長が二人を見た。


 「ようこそ、王室犯罪対策局へ」


 「よろしくお願いします」


 「お前たちには、突撃隊の運営を任せる。作戦計画、人員配置、通信管理、補給。全てだ」


 「了解しました」


---


 「一つ、言っておく」


 局長は続けた。


 「お前たちは、傷ついている。それは分かっている」


 「......」


 「だが、ここでは、傷ついた人間が再び立ち上がれる。俺は、それを信じている」


 「......」


 「期待している」


---


 ハーパーとルノーは、顔を見合わせた。


 そして、敬礼した。


---


 新しい仲間が、加わった。


 組織は、強くなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ