第8話 探索
将校探しが始まった。
条件は厳しかった。
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外国籍。
将校経験者。
部隊運営の実績。
タイ国籍を取得する意思。
正義のために動ける人間。
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「全部満たす人間なんて、いるのか」
ニコライが言った。
「いる。どこかに」
柏木が答えた。
「どこだ」
「分からない。だから探す」
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各自が、自分の伝手を使い始めた。
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ジョンソンは、アメリカの元同僚に連絡を取った。
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「ジョンソン、久しぶりだな」
「ああ。元気か」
「元気だ。タイで活躍してるらしいじゃないか。映画にもなったって」
「なった。デンゼル・ワシントンが俺を演じた」
「すげえな」
「すごい。で、頼みがある」
「何だ」
「将校経験者を探している。部隊運営ができる人間だ」
「将校? 米軍の?」
「元米軍でもいい。今は退役していて、タイで働く意思がある人間」
「......難しいな」
「難しいのは分かっている」
「条件は」
「正義のために動ける人間」
「......」
「いないか」
「いや、一人いる。かもしれない」
「誰だ」
「ウィリアム・ハーパー。元陸軍大尉。アフガンで中隊を指揮していた」
「今は」
「退役して、民間軍事会社にいた。だが、辞めたらしい」
「なぜ辞めた」
「会社のやり方に反発した。金のために動くのが嫌だったらしい」
「正義のために動けるか」
「動けると思う。ただ......」
「ただ?」
「今、どこにいるか分からない。連絡が取れない」
「探してくれ」
「分かった」
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ニコライは、ロシアの元戦友に連絡を取った。
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「ニコライか。生きていたのか」
「生きている。お前こそ」
「俺も生きている。ウクライナには行かなかった」
「賢明だ」
「賢明かどうかは分からない。ただ、あの戦争には参加したくなかった」
「同感だ。で、頼みがある」
「何だ」
「将校経験者を探している」
「ロシア軍の?」
「元ロシア軍でもいい。今は退役していて、タイで働く意思がある人間」
「......タイか。遠いな」
「遠い。だが、いい場所だ」
「条件は」
「正義のために動ける人間」
「......正義か」
「難しいか」
「難しい。ロシア軍に、そういう人間は少ない」
「いないか」
「いないとは言わない。だが......」
「だが?」
「ロシアを離れる覚悟がある奴は、もう離れている。残っている奴は、離れる気がない」
「......そうか」
「すまない。力になれなくて」
「いい。ありがとう」
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マリーは、フランス外人部隊の元同僚に連絡を取った。
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「マリーか。久しぶりだな」
「久しぶり。元気?」
「元気だ。お前は」
「元気。タイで働いている」
「聞いた。狙撃手として」
「そう。で、頼みがある」
「何だ」
「将校経験者を探している。部隊運営ができる人間」
「外人部隊の?」
「元外人部隊でもいい。今は退役していて、タイで働く意思がある人間」
「......」
「いる?」
「一人、いるかもしれない」
「誰」
「ジャン=ピエール・ルノー。元大尉。俺の上官だった」
「今は」
「退役して、アフリカで傭兵をしていた。だが、最近辞めたらしい」
「なぜ」
「分からない。ただ、『もう人を殺すのは嫌だ』と言っていたらしい」
「......」
「連絡先は」
「分からない。アフリカのどこかにいるはずだが」
「探せる?」
「探してみる」
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ヨナタンは、イスラエルの元同僚に連絡を取った。
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「ヨナタンか。珍しいな」
「ああ。頼みがある」
「何だ」
「将校経験者を探している」
「IDF(イスラエル国防軍)の?」
「元IDFでもいい。今は退役していて、タイで働く意思がある人間」
「......」
「いるか」
「いない」
「即答だな」
「即答できる。イスラエル人は、イスラエルを離れない。離れたとしても、アメリカかヨーロッパに行く。タイには行かない」
「そうか」
「すまない」
「いい」
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柏木は、日本の元同僚に連絡を取った。
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「柏木か。生きていたのか」
「生きている」
「タイで暴れているらしいな。ニュースで見た」
「暴れている」
「日本では、お前のこと、色々言われているぞ」
「知っている。どうでもいい」
「どうでもいいか」
「どうでもいい。で、頼みがある」
「何だ」
「将校経験者を探している」
「自衛隊の?」
「元自衛隊でもいい。今は退役していて、タイで働く意思がある人間」
「......」
「いるか」
「いない」
「即答だな」
「即答できる。自衛隊の将校で、海外で働く意思がある奴は、ほとんどいない。いたとしても、タイには行かない」
「......そうか」
「それに、お前と一緒に働くとなると......」
「なると?」
「日本政府に睨まれる。誰も、そんなリスクは取らない」
「......そうだな」
「すまない」
「いい。ありがとう」
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一週間が経った。
成果は、ほとんどなかった。
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拠点。会議室。
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「報告する」
柏木が言った。
「候補は、二人」
「二人だけですか」
「二人だけだ」
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「一人目。ウィリアム・ハーパー。元米陸軍大尉」
「経歴は」
「アフガンで中隊を指揮。戦闘経験豊富。退役後、民間軍事会社に所属したが、辞めた」
「なぜ辞めた」
「金のために動くのが嫌だったらしい」
「正義のために動けるか」
「動けると思う。だが、今どこにいるか分からない」
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「二人目。ジャン=ピエール・ルノー。元フランス外人部隊大尉」
「経歴は」
「外人部隊で十五年。大尉まで昇進。退役後、アフリカで傭兵」
「なぜ辞めた」
「『もう人を殺すのは嫌だ』と言っていたらしい」
「......」
「彼も、今どこにいるか分からない」
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「つまり」
ニコライが言った。
「候補は二人いるが、どちらも居場所が分からない」
「そうだ」
「探さないといけない」
「探さないといけない」
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「他には」
サラが聞いた。
「他にはいない。ロシア、イスラエル、日本、全滅だ」
「......」
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「どうする」
ジョンソンが聞いた。
「二人を探す。同時に」
「どうやって」
「俺とジョンソンで、ハーパーを探す。アメリカに行く」
「アメリカ」
「マリーと誰かで、ルノーを探す。アフリカに行く」
「アフリカ」
「残りは、ここで日常業務を続ける」
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「局長の許可は」
「取る。今から」
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局長室。
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「アメリカとアフリカ?」
「はい」
「候補者を探しに行くのか」
「はい」
「......」
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局長は考えていた。
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「許可する」
「ありがとうございます」
「ただし、一週間だ。それ以上は、ここの業務が回らない」
「了解しました」
「見つからなかったら」
「見つけます」
「見つからなかったら」
「......」
「その時は、別の方法を考える」
「別の方法?」
「タイ国内で育てるしかない。時間はかかるが」
「......了解しました」
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翌日。
二つのチームが、出発した。
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アメリカ行き:柏木、ジョンソン
アフリカ行き:マリー、ニコライ
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将校探しの旅が、始まった。




