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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
66/129

第7話 崩壊

突撃隊は、調子に乗っていた。


---


 「十秒で制圧」


 「三十秒で解決」


 「楽勝だな」


 そんな言葉が、隊員たちの口から漏れていた。


---


 大規模作戦に慣れてしまった。


 三百人を相手にした。装甲車を破壊した。麻薬王を逮捕した。


 それに比べれば、銀行強盗や立てこもりなど、子供の遊びのようなものだ。


 そう思っていた。


---


 だが、現実は違った。


---


---


 ある日。


 局長から通達が来た。


---


 「突撃隊への出動要請は、各警察署から直接連絡させる」


 「直接ですか」


 「そうだ。俺を経由すると、時間がかかる。緊急事態には対応できない」


 「了解しました」


 「通信指令室を設置しろ。二十四時間体制で、全国からの要請を受け付けろ」


 「......全国から」


 「そうだ。お前たちは、タイ全土の重大犯罪に対処する。それが任務だ」


---


 柏木は、少し嫌な予感がした。


 だが、その時は、まだ甘く見ていた。


---


---


 通信指令室が設置された。


 川島とカルロスが担当。


 プラウィットが通訳として補助。


---


 最初の日。


---


 午前六時。


 最初の通報が入った。


 「バンコク南部。コンビニ強盗。犯人一人、ナイフで武装」


 「了解。出動する」


---


 午前七時。


 「バンコク東部。人質立てこもり。犯人一人、拳銃で武装」


 「了解」


---


 午前八時。


 「チェンマイ。銀行強盗未遂。犯人二人、逃走中」


 「了解」


---


 午前九時。


 「プーケット。ホテルで爆破予告。避難誘導中」


 「了解」


---


 午前十時。


 「パタヤ。暴力団の抗争。銃撃戦発生」


 「了解」


---


 午前十一時。


 「アユタヤ。誘拐事件。被害者は子供」


 「了解」


---


 午前十二時。


 「ノンタブリー。武装した男が役所に立てこもり」


 「了解」


---


 午後一時。


 「ハジャイ。麻薬取引の現行犯。武装グループ」


 「了解」


---


 午後二時。


 「ウドンタニー。外国人観光客の誘拐」


 「了解」


---


 午後三時。


 「コラート。工場で人質事件」


 「了解」


---


 川島の顔が、青くなっていった。


---


 「隊長......」


 「何だ」


 「通報が、止まりません」


 「何件だ」


 「現時点で、十五件です」


 「十五件」


 「まだ午後三時です」


 「......」


---


 午後四時。


 「スラタニー。フェリー内で刃物男」


 「了解」


---


 午後五時。


 「チェンライ。麻薬密輸グループと警察が銃撃戦」


 「了解」


---


 午後六時。


 「バンコク中心部。ショッピングモールで爆破予告」


 「了解」


---


 午後七時。


 「ランプーン。武装強盗団がガソリンスタンドを占拠」


 「了解」


---


 午後八時。


 「サムイ島。リゾートホテルで人質事件」


 「了解」


---


 午後九時。


 「バンコク北部。ギャング同士の抗争」


 「了解」


---


 午後十時。


 「ピサヌローク。逃走中の殺人犯が民家に立てこもり」


 「了解」


---


 午後十一時。


 「ナコンラチャシマー。武装した男が病院を占拠」


 「了解」


---


 深夜十二時。


 川島が、机に突っ伏した。


---


 「......二十三件」


 「二十三件?」


 「今日一日で、二十三件の出動要請がありました」


 「二十三件」


 「対応できたのは、八件です」


 「八件」


 「残り十五件は、地元警察に任せるしかありませんでした」


 「......」


---


 柏木は、天井を見上げた。


 「......舐めてた」


 「はい?」


 「舐めてたんだ、俺たちは」


---


---


 翌日。


 緊急会議。


---


 「昨日の出動要請は、二十三件」


 柏木が言った。


 「対応できたのは、八件。三分の一だ」


 全員が黙っていた。


---


 「俺たちは、十六人だ」


 「はい」


 「タイの面積は、五十一万平方キロメートル」


 「はい」


 「人口は、七千万人」


 「はい」


 「これを、十六人でカバーする」


 「......」


 「物理的に、不可能だ」


---


 ニコライが言った。


 「だが、やるしかないんだろう」


 「やるしかない」


 「どうする」


 「考える」


---


---


 通信指令室。


 川島とカルロスは、限界だった。


---


 「隊長、もう無理です」


 川島が言った。


 「何が無理だ」


 「全部です。通報がひっきりなしに入ってきます。処理が追いつきません」


 「何件だ」


 「今日だけで、既に十二件。まだ午前中です」


 「......」


---


 カルロスが言った。


 「通信機器も足りません。回線がパンクしています」


 「パンク?」


 「同時に五件以上の通報があると、処理できません。待たせることになります」


 「待たせている間に、事件が悪化する」


 「はい」


---


 プラウィットが言った。


 「言語の問題もあります」


 「言語?」


 「地方からの通報は、方言が混じっています。聞き取れないことがあります」


 「......」


---


 「それと」


 川島が続けた。


 「僕とカルロスとプラウィットの三人で、二十四時間体制を回しています」


 「三人で」


 「はい。八時間交代です。でも、通報が多すぎて、休憩が取れません」


 「......」


 「昨日、僕は十八時間連続で働きました」


 「十八時間」


 「カルロスは十六時間。プラウィットは十四時間」


 「......」


 「このままでは、僕たちが倒れます」


---


 柏木は黙っていた。


---


 「すまなかった」


 「え?」


 「俺たちは、調子に乗っていた。日常業務を舐めていた」


 「隊長......」


 「大規模作戦ばかりに目が行って、日常の重要性を見落としていた」


 「......」


 「反省している」


---


 柏木は立ち上がった。


 「対策を考える。お前たちは、少し休め」


 「でも、通報が」


 「俺が代わりに出る」


 「隊長が?」


 「ああ。俺だって、通信くらいできる」


 「......ありがとうございます」


---


---


 柏木が通信指令室に座った。


 ヘッドセットを付けた。


 すぐに通報が入った。


---


 「こちらバンコク中央警察署。武装強盗が発生。犯人二人、拳銃で武装。人質三人」


 「了解。出動部隊を編成する」


---


 通報を切った。


 すぐに次の通報。


---


 「こちらチェンマイ警察。麻薬取引現場を発見。武装グループ、推定十人」


 「了解。待機してくれ」


---


 通報を切った。


 また次の通報。


---


 「こちらプーケット警察。ホテルで人質事件。犯人一人、ナイフで武装」


 「了解」


---


 柏木は、汗をかいていた。


---


 「......これは、きつい」


---


 三十分で、五件の通報。


 全てに対応するのは、不可能だった。


---


 優先順位をつけるしかない。


 人質がいる案件を優先。


 武装の程度が高い案件を優先。


 地元警察で対応可能な案件は、任せる。


---


 だが、判断に迷う案件もあった。


---


 「こちらアユタヤ警察。行方不明の子供が見つかりました。犯人は逃走中。武装の有無は不明」


 「......」


 「出動要請しますか?」


 「......地元で追跡を続けてくれ。犯人が武装していると判明したら、再度連絡を」


 「了解」


---


 正しい判断だったのか。


 分からない。


---


 「......川島たちは、毎日これをやっていたのか」


 柏木は呟いた。


 「舐めてた。本当に、舐めてた」


---


---


 夕方。


 緊急会議。再び。


---


 「対策を発表する」


 柏木が言った。


---


 「第一。通信指令室の人員を増やす」


 「増やす?」


 「ナターシャとラッタナーを追加する。これで五人体制になる」


 「五人でも足りないのでは」


 「足りない。だが、三人よりはマシだ」


---


 「第二。出動基準を明確化する」


 「出動基準?」


 「全ての通報に対応するのは、不可能だ。優先順位をつける」


 「どうやって」


 「Aランク:人質事件、テロ、重武装犯。俺たちが直接対応」


 「Bランク:武装強盗、立てこもり。可能なら対応、無理なら地元警察に任せる」


 「Cランク:その他。地元警察に任せる」


 「......」


 「厳しい判断だが、仕方ない。全部はできない」


---


 「第三。機動力を上げる」


 「機動力?」


 「ヘリを使う。イーゴリ、毎日飛べるか」


 「飛べる」


 「地上移動では時間がかかりすぎる。ヘリで移動すれば、タイ全土をカバーできる」


 「了解」


---


 「第四。チームを分割する」


 「分割?」


 「二チーム制にする。アルファとブラボー。交互に出動する」


 「休憩を確保するためか」


 「そうだ。一チームが出動中、もう一チームは待機。休憩も取れる」


 「了解」


---


 「第五。地元警察との連携を強化する」


 「連携?」


 「俺たちだけでは、限界がある。地元警察のSWATを訓練する。彼らが対応できる案件を増やす」


 「......時間がかかりますね」


 「かかる。だが、長期的には必要だ」


---


 「以上だ。質問は」


 沈黙。


 「では、明日から新体制で動く」


 「了解」


---


---


 その夜。


 柏木は、通信指令室にいた。


 川島たちを休ませて、一人で通報を受けていた。


---


 「......」


 通報が途切れた。


 珍しく、静かな時間。


---


 サラが入ってきた。


 コーヒーを持っていた。


 「お疲れ様」


 「ああ」


 「大変でしょう」


 「大変だ」


---


 サラはコーヒーを置いた。


 「私も手伝うわ」


 「いい。お前は休め」


 「休んだわ。もう十分」


 「......」


 「一人で背負い込まないで」


 「背負い込んでいない」


 「背負い込んでいるわよ」


 「......」


---


 柏木はコーヒーを飲んだ。


 「俺たちは、調子に乗っていた」


 「そうね」


 「大規模作戦に慣れて、日常を舐めていた」


 「そうね」


 「反省している」


 「反省しているなら、いいじゃない。次に活かせば」


 「......そうだな」


---


 通報が入った。


 「こちらバンコク東部警察。ナイフを持った男が暴れています」


 「了解。詳細を」


 「犯人一人。被害者は今のところなし。警察官が対峙中」


 「武装は」


 「ナイフ一本のみ」


 「地元で対応可能か」


 「......はい、おそらく」


 「了解。対応を任せる。状況が悪化したら、再度連絡を」


 「了解」


---


 通報を切った。


 「Cランクだな」


 サラが言った。


 「Cランクだ。地元で対応できる」


 「判断が早くなったわね」


 「慣れてきた」


 「......」


---


 また通報。


 「こちらノンタブリー警察。銀行強盗発生。犯人三人、自動小銃で武装。人質多数」


 「了解。Aランク。出動する」


 柏木は立ち上がった。


 「サラ、ここを頼む」


 「任せて」


---


 柏木は走っていった。


 白い戦闘服に着替えるために。


---


 日常は、続く。


 大規模作戦だけが、戦いではない。


 目の前の人を、一人ずつ助けていく。


 それが、俺たちの仕事だ。


---


 柏木は、そう思い始めていた。

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