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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
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第6話 日常

聖域崩壊から三ヶ月。


 タイ国内は、激震に揺れていた。


---


 ウィワットの帳簿。プラソンの通信記録。詐欺コンパウンドの資料。


 これらから芋づる式に、汚職と犯罪のネットワークが明らかになった。


---


 王宮警察が動いた。


 警察が動いた。


 軍警察が動いた。


 毎日のように、逮捕者が出た。


---


 政治家。官僚。軍人。警察官。企業家。


 地位に関係なく、容疑者は逮捕された。


 「聖域の浄化」


 メディアは、そう呼んだ。


---


 王室犯罪対策局は、捜査を各機関に引き継いだ。


 突撃隊の大規模作戦は、一時停止。


 事態が落ち着くまで、待機。


---


 だが、暇なわけではなかった。


---


---


 バンコク。王室犯罪対策局本部。


 局長室。


---


 「新しい任務だ」


 局長が言った。


 「大規模作戦ですか」


 柏木が聞いた。


 「違う。日常任務だ」


 「日常任務?」


---


 局長は書類を渡した。


 「突撃隊は、タイ国内の重大犯罪にも対処する。これは、設立当初からの規定だ」


 「重大犯罪」


 「人質事件。立てこもり。武装強盗。テロ。そういったものだ」


 「......つまり」


 「SWATだ」


 「SWAT」


 「そうだ。タイ版SWATとして、各地の重大事件に対応する」


---


 柏木は書類を見た。


 「既に、いくつか要請が来ている」


 「来ている。バンコク警察から三件。チェンマイ警察から一件。プーケット警察から一件」


 「五件」


 「そうだ。選んで対応しろ」


---


---


 拠点に戻った。


 全員を集めた。


---


 「新しい任務だ」


 柏木が言った。


 「大規模作戦ですか」


 川島が聞いた。


 「違う。日常任務だ」


 「日常任務?」


 「重大犯罪への対応だ。人質事件、立てこもり、武装強盗、テロ」


 「......つまり」


 ニコライが言った。


 「SWATか」


 「SWATだ」


---


 沈黙。


---


 「俺たちが、SWATを」


 ジョンソンが言った。


 「そうだ」


 「麻薬王を倒した俺たちが」


 「そうだ」


 「装甲車を破壊した俺たちが」


 「そうだ」


 「三百人を制圧した俺たちが」


 「そうだ」


 「SWATを」


 「そうだ」


---


 マルティネスが天を仰いだ。


 「神よ......」


 「神に祈っても変わらない」


 「分かっている。だが、祈りたい」


---


 川島が呟いた。


 「隊長......もう、これSWATやん......」


 「SWATだ」


 「俺たち、特殊部隊ですよね」


 「特殊部隊だ」


 「なのに、SWATですか」


 「SWATだ」


 「......」


---


 ニコライが言った。


 「まあ、仕方ないだろう」


 「仕方ない?」


 「大規模作戦がないんだ。暇よりはマシだ」


 「それは......そうだが」


 「やることがあるだけ、ありがたいと思え」


 「......そうですね」


---


 「最初の任務を発表する」


 柏木が言った。


 「バンコク市内。銀行強盗。犯人三人が人質を取って立てこもっている」


 「銀行強盗......」


 「人質は十二人。犯人は自動小銃で武装」


 「自動小銃」


 「AK系統と推定」


 「AKか」


 「いつものだな」


---


 「出動は」


 サラが聞いた。


 「即時だ。準備しろ」


 「了解」


---


---


 バンコク市内。某銀行。


 警察車両が取り囲んでいる。


 報道陣も集まっている。


---


 白いハンヴィーが到着した。


 一台だけ。


---


 「王室犯罪対策局、到着しました」


 柏木が警察の指揮官に挨拶した。


 「待っていました。よろしくお願いします」


 「状況は」


 「犯人三人。人質十二人。正面入口は封鎖されています。裏口は不明」


 「要求は」


 「逃走用の車両と、一億バーツの現金」


 「交渉は」


 「難航しています。犯人は興奮状態で、話が通じません」


---


 柏木は銀行を見た。


 三階建て。ガラス張りの正面入口。


 中に、人影が見える。


---


 「突入する」


 「突入ですか」


 「そうだ。交渉が通じないなら、実力行使だ」


 「しかし、人質が」


 「人質は救出する。俺たちを信じてくれ」


---


---


 作戦は単純だった。


 正面と裏口から同時に突入。


 閃光弾で目を眩ませ、制圧する。


---


 「アルファ、正面。俺とニコライとサラ」


 「ブラボー、裏口。ジョンソンとマルティネスとヨナタン」


 「マリーは狙撃支援。向かいのビルから」


 「了解」


---


 全員が配置についた。


---


 「マリー、状況は」


 「犯人三人を視認。一人は窓際。二人は奥。人質は床に伏せている」


 「射線は」


 「窓際の一人は狙える。残り二人は角度的に無理」


 「了解。窓際の一人を頼む。合図で撃て」


 「了解」


---


 「全員、準備はいいか」


 「了解」


 「三、二、一、実行」


---


 マリーが撃った。


 窓ガラスが割れた。


 窓際の犯人が倒れた。肩を撃ち抜かれていた。


---


 同時に、正面と裏口から突入した。


---


 柏木が最初に入った。


 閃光弾を投げた。


 爆発。白い光。


---


 犯人が目を押さえた。


 柏木が距離を詰めた。


 犯人の銃を叩き落とした。


 顎に肘。


 倒れた。


---


 ニコライが二人目に向かった。


 犯人が銃を向けようとした。


 遅い。


 ニコライの拳が、犯人の腹に叩き込まれた。


 犯人が屈んだ。


 後頭部に手刀。


 気絶。


---


 十秒で終わった。


---


 「制圧完了」


 柏木が報告した。


 「犯人三人、確保。人質十二人、全員無事」


---


 警察の指揮官が、唖然としていた。


 「......十秒」


 「十秒です」


 「十秒で終わったんですか」


 「終わりました」


 「......」


---


---


 翌日。別の任務。


---


 チェンマイ。


 武装した男が、元妻の家に立てこもっている。


 元妻と子供二人が人質。


---


 「DV案件か」


 ニコライが言った。


 「DVだ」


 「......また小さい案件だな」


 「小さくても、人質がいる」


 「分かっている」


---


 現場に到着した。


 住宅街の一軒家。


 警察が取り囲んでいる。


---


 「状況は」


 「犯人は元夫。離婚調停中に逆上して、元妻と子供を人質に取りました」


 「武装は」


 「猟銃一丁」


 「猟銃か」


 「はい」


---


 柏木は家を見た。


 二階建て。窓は閉まっている。


 中から、男の怒鳴り声が聞こえた。


---


 「交渉は」


 「試みましたが、話を聞きません。『復縁しなければ全員殺す』と」


 「......」


---


 柏木は溜息をついた。


 「突入する」


 「お願いします」


---


 作戦は単純だった。


 正面ドアを蹴破り、突入。


 閃光弾で制圧。


---


 「俺一人で行く」


 「一人でですか」


 「相手は素人だ。一人で十分だ」


---


 柏木は正面ドアに近づいた。


 蹴破った。


---


 中に入った。


 リビング。


 男がいた。猟銃を構えている。


 その前に、女性と子供二人が震えていた。


---


 「来るな! 撃つぞ!」


 男が叫んだ。


 柏木は止まらなかった。


 歩き続けた。


---


 「撃てない」


 柏木が言った。


 「な、何?」


 「お前の指は、引き金にかかっていない」


 「え」


 男が自分の手を見た。


 本当だった。緊張で、指が引き金から外れていた。


---


 その隙に、柏木が距離を詰めた。


 猟銃を掴んだ。


 捻り上げた。


 男の手から、銃が落ちた。


---


 「終わりだ」


 男の腕を捻り、床に押し倒した。


 「あ、あ、あ......」


 男は泣き始めた。


---


 「確保完了」


 柏木が報告した。


 「人質三人、全員無事」


 所要時間、十五秒。


---


---


 翌日。また別の任務。


---


 プーケット。


 武装強盗グループが、宝石店を襲撃。


 店員と客、合わせて八人が人質。


---


 「今度は宝石店か」


 マルティネスが言った。


 「宝石店だ」


 「犯人は」


 「五人。全員、拳銃で武装」


 「拳銃か。楽だな」


 「楽だな」


---


 突入した。


 三十秒で制圧した。


 犯人五人、全員確保。


 人質八人、全員無事。


---


---


 その後も、任務は続いた。


---


 バンコクの麻薬取引現場。


 突入。制圧。二十秒。


---


 パタヤの違法カジノ。


 突入。制圧。四十五秒。


---


 アユタヤの誘拐犯アジト。


 突入。制圧。三十秒。


 被害者救出。


---


---


 一週間で、七件の任務をこなした。


 全て成功。


 死者ゼロ。


---


 だが、隊員たちの士気は、微妙だった。


---


---


 拠点。食堂。


---


 「疲れた」


 ニコライが言った。


 「疲れたな」


 ジョンソンが答えた。


 「体じゃない。心が疲れた」


 「分かる」


---


 マルティネスが言った。


 「俺たち、何やってんだろうな」


 「SWATだ」


 「分かってる。でも、聖域の時は燃えたのに、今は......」


 「燃えない」


 「燃えない」


---


 川島が言った。


 「三百人と戦った後だと、三人とか五人とか......」


 「物足りない」


 「物足りないです」


 「贅沢だな」


 「贅沢ですね」


---


 ヨナタンが無表情で言った。


 「仕事があるだけマシだ」


 「それはそうだが」


 「文句を言うな。やることがある。それでいい」


 「......」


---


 サラが言った。


 「まあ、平和なのはいいことよ」


 「平和か」


 「大規模な犯罪組織がいないってことでしょう。それは、いいことよ」


 「そうだな」


 「私たちが暇ってことは、タイが平和ってことよ」


 「......そう考えると、悪くないな」


---


 柏木は黙って聞いていた。


 煙草を吸っていた。


---


 「隊長はどう思いますか」


 川島が聞いた。


 「どうとは」


 「この状況。SWATみたいな任務ばかりで」


 「......」


---


 柏木は煙草を消した。


 「悪くない」


 「悪くない?」


 「ああ。人を助けている。それは、悪くない」


 「でも、スケールが」


 「スケールは関係ない。一人を助けるのも、百人を助けるのも、同じだ」


 「......」


 「目の前の人間を助ける。それが、俺たちの仕事だ」


---


 全員が黙った。


---


 「まあ」


 柏木は続けた。


 「大規模作戦がないのは、確かに物足りない」


 「隊長も物足りないんですか」


 「物足りない。正直に言えば」


 「......」


 「だが、いつか来る。また、大きな敵が現れる。その時まで、腕を錆びつかせないようにするのが、今の仕事だ」


 「腕を錆びつかせない」


 「そうだ。SWATでも、実戦は実戦だ。訓練より、よっぽど身になる」


 「......そうですね」


---


 ニコライが笑った。


 「隊長の言う通りだ」


 「珍しく同意するな」


 「珍しくない。いつも同意している」


 「嘘だな」


 「嘘じゃない」


 「嘘だ」


 「......まあ、半分くらいは同意している」


 「半分か」


 「半分だ」


---


 空気が、少し軽くなった。


---


 「よし」


 柏木が立ち上がった。


 「明日も任務がある。今日は早く寝ろ」


 「了解」


 「文句は、大規模作戦が来てから言え」


 「了解」


---


 全員が散っていった。


---


 柏木は窓の外を見た。


 バンコクの夜景。


 平和な夜。


 「......悪くない」


 呟いた。


---


 だが、心のどこかで分かっていた。


 この平和は、長くは続かない。


 いつか、また、大きな敵が現れる。


 その時まで、備えておく。


 それが、俺たちの仕事だ。

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