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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第3章 聖域
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第5話 空白

チャンタブリー県。


 タイ東部。カンボジア国境に近い。


---


 ハンヴィー二台が、山道を走っていた。


 白い車体が、土埃で汚れている。


---


 「情報を確認する」


 柏木が言った。


 「プラソンは、国境の空白地帯に逃げ込んだ」


 「空白地帯?」


 川島が聞いた。


 「タイでもカンボジアでもない場所だ。国境が曖昧な地域がある」


 「そんな場所があるんですか」


 「ある。地図上は線が引いてあるが、実際には誰も管理していない」


---


 ニコライが地図を見た。


 「ここか。山岳地帯だな」


 「そうだ。そして、そこには......」


 柏木は少し間を置いた。


 「特殊詐欺の拠点がある」


---


 「特殊詐欺?」


 ファリダーが聞いた。


 「日本や中国、韓国を狙った詐欺グループだ。国境の空白地帯に拠点を作り、そこから電話やネットで詐欺を行っている」


 「なぜ、プラソンがそこに」


 「繋がっていたんだろう。麻薬だけじゃない。詐欺にも手を出していた」


 「......」


---


 「規模は」


 サラが聞いた。


 「情報では、構成員は百人以上。武装もしている」


 「また百人以上か」


 「そうだ。だが、今回は別の問題がある」


 「何だ」


 「カンボジア軍が動いている」


---


 全員が顔を見合わせた。


 「カンボジア軍?」


 「そうだ。カンボジア政府も、この詐欺拠点を問題視していた。今回、プラソンが逃げ込んだことで、一気に動いた」


 「つまり、俺たちとカンボジア軍が、同時に動いている」


 「そういうことだ」


---


 「競争になるな」


 ジョンソンが言った。


 「競争?」


 「プラソンを先に確保した方が、手柄を取る」


 「手柄の問題じゃない」


 柏木が言った。


 「プラソンをカンボジア軍に渡すわけにはいかない。奴はタイの犯罪者だ。タイで裁かれるべきだ」


 「カンボジアが引き渡さなかったら?」


 「引き渡させる。だが、そのためには、俺たちが先に確保する必要がある」


---


 「局長には連絡したのか」


 マルティネスが聞いた。


 「した。『先に確保しろ。外交問題は後で何とかする』と」


 「『何とかする』か」


 「そうだ」


 「また『何とかする』だな」


 「局長の口癖だ」


---


---


 二時間後。


 国境地帯。


---


 山の中に、施設が見えてきた。


 フェンスで囲まれた、複数の建物。


 詐欺コンパウンド。


---


 「止まれ」


 柏木が言った。


 ハンヴィーが停止した。


---


 双眼鏡で施設を見た。


 「建物が......八棟。フェンスは低い。監視塔はない」


 「聖域より、防御は薄いな」


 「詐欺師の拠点だからな。戦闘部隊じゃない」


 「だが、武装はしている」


 「している。AKを持った見張りが......六人見える」


---


 「カンボジア軍は」


 川島がドローンを飛ばした。


 モニターを見た。


 「南東から接近しています。トラックが......五台。兵士は......五十人以上」


 「五十人か」


 「俺たちより多いな」


 「多い。だが、俺たちの方が速い」


---


 「カンボジア軍との距離は」


 「施設まで、向こうは約三キロ。俺たちは約一キロ」


 「二キロの差か」


 「ハンヴィーなら、五分で詰められます」


 「よし。急ぐぞ」


---


 「作戦は」


 ニコライが聞いた。


 「単純だ。正面から突入。プラソンを見つけて、確保。カンボジア軍が来る前に撤収」


 「時間は」


 「十五分」


 「十五分で百人を制圧するのか」


 「全員を制圧する必要はない。プラソンだけだ」


 「分かった」


---


 「全車両、前進」


---


 ハンヴィーが動き出した。


 山道を下っていく。


 施設に向かって。


---


---


 詐欺コンパウンド。


 正門前。


---


 見張りが、白いハンヴィーに気づいた。


 「何だ、あれは」


 「軍か?」


 「違う。白い車両なんて見たことない」


 「止まれ!」


---


 ハンヴィーは止まらなかった。


 加速した。


---


 「撃て!」


 見張りがAKを構えた。


 弾がハンヴィーの装甲に当たった。


 弾かれた。


---


 M2が火を噴いた。


 .50口径弾が、正門を粉砕した。


 見張りが吹き飛んだ。


---


 「突入!」


---


 二台のハンヴィーが、施設内に突入した。


---


 中は混乱していた。


 人々が走り回っている。


 詐欺師たち。被害者たち。武装した見張りたち。


---


 「民間人に注意しろ! 撃つな!」


 柏木が叫んだ。


---


 詐欺コンパウンドには、騙されて連れてこられた人間もいる。


 彼らは被害者だ。


 撃ってはいけない。


---


 「武装した奴だけを狙え!」


---


 ジョンソンがGAU-19を撃った。


 だが、人のいない方向に。


 建物の壁を粉砕した。


 「威嚇だ! 武器を捨てろ!」


---


 見張りたちが、武器を捨て始めた。


 戦う気力がなかった。


 相手が違いすぎる。


---


 「プラソンはどこだ!」


 柏木が叫んだ。


---


 一人の男を捕まえた。


 「プラソンはどこにいる」


 「し、知らない」


 「嘘をつくな」


 「本当に知らない! 偉い人が来たのは知っているけど、どこにいるかは」


 「偉い人?」


 「バンコクから来たって。VIP扱いで」


 「どの建物だ」


 「あ、あそこ。一番奥の建物」


---


 柏木は建物を見た。


 他より大きい。窓にはカーテンが引かれている。


 「あそこか」


---


 「ニコライ、ジョンソン、ここを押さえろ。俺とサラとヨナタンで、プラソンを確保する」


 「了解」


---


 三人が走った。


 建物に向かって。


---


---


 建物の前に、武装した男が四人いた。


 スーツを着ている。


 プラソンの護衛だろう。


---


 「止まれ!」


 護衛が銃を構えた。


---


 柏木は止まらなかった。


---


 サラが閃光弾を投げた。


 爆発。白い光。


---


 護衛たちが目を押さえた。


 その隙に、柏木が飛び込んだ。


---


 一人目。銃を叩き落とした。顎に肘。倒れた。


 二人目。腹に膝。屈んだところに、後頭部に手刀。倒れた。


 三人目はヨナタンが対処した。無言で首を絞め、気絶させた。


 四人目はサラが撃った。足を。倒れた。


---


 「クリア」


---


 ドアを蹴破った。


---


 中は豪華だった。


 エアコンが効いている。革張りのソファ。大型テレビ。


 詐欺で稼いだ金で、贅沢に暮らしていたのだろう。


---


 奥の部屋に、人の気配があった。


---


 柏木は静かに近づいた。


 ドアを開けた。


---


 プラソンがいた。


 椅子に座っている。


 疲れ切った顔。


 目の下に隈。


 髪は乱れている。


---


 「......来たか」


 プラソンは、柏木を見た。


 「逃げ切れると思ったんだがな」


 「思うのは自由だ」


 「自由か。そうだな、自由だった。今までは」


---


 プラソンの手に、拳銃があった。


 だが、構えていなかった。


 膝の上に置いているだけだった。


---


 「撃つのか」


 柏木が聞いた。


 「撃たない」


 「なぜ」


 「疲れた。もう、疲れたんだ」


---


 プラソンは銃を床に落とした。


 音が響いた。


---


 「私は、六十二歳だ。四十年、政治をやってきた」


 「その四十年で、いくら稼いだ」


 「数え切れない。百億バーツか、二百億バーツか。もう分からない」


 「その金で、何を買った」


 「何も。何も買えなかった」


 「何も?」


 「幸せは、買えなかった。家族も、友人も、全て金で繋がっていただけだ。金がなくなれば、誰もいなくなる」


 「自業自得だ」


 「そうだな。自業自得だ」


---


 柏木はプラソンに近づいた。


 「立て」


 「......」


 「立て。タイに帰るぞ」


 「帰って、どうなる」


 「裁判を受ける。罪を償う」


 「償えるのか。私の罪は」


 「償えるかどうかは、お前が決めることじゃない。被害者が決めることだ」


---


 プラソンは、ゆっくりと立ち上がった。


 「......分かった」


---


 サラが手錠をかけた。


 「プラソン・チャルーンポン。あなたを、汚職、収賄、麻薬取引幇助、その他多数の容疑で逮捕します」


 「......」


 「黙秘権があります。弁護士を呼ぶ権利があります」


 「弁護士か。今さら、何を弁護するんだ」


 「それは、あなたが決めることです」


---


---


 外に出た。


 施設は、既に制圧されていた。


---


 ニコライが報告した。


 「確保者、八十七人。武装した見張りが二十三人。残りは詐欺師と被害者」


 「被害者は」


 「四十人以上。タイ人、中国人、ミャンマー人、ベトナム人......色々だ」


 「保護しろ。後で、大使館に連絡する」


 「了解」


---


 川島が駆け寄ってきた。


 「隊長、カンボジア軍が接近しています。あと五分で到着します」


 「間に合ったな」


 「ギリギリです」


 「ギリギリでいい。撤収するぞ」


---


 プラソンをハンヴィーに乗せた。


 全員が車両に乗り込んだ。


---


 「撤収!」


---


 二台のハンヴィーが、施設を離れた。


---


---


 五分後。


 カンボジア軍が到着した。


---


 指揮官が、施設を見渡した。


 正門は粉砕されている。


 建物には弾痕がある。


 武装した男たちが、地面に伏せている。


---


 「......何が起きた」


 「分かりません。我々が到着した時には、既にこの状態でした」


 「プラソンは」


 「いません」


 「いない?」


 「誰かが、先に連れ去ったようです」


 「誰が」


 「白い車両を見たという証言があります。白い制服の兵士」


 「白い......」


---


 指揮官は、無線を取った。


 「本部、こちら第三中隊。目標は既に確保されていた。白い制服の部隊に先を越された。......はい。......はい、タイの部隊だと思われます。......了解」


 無線を切った。


 「......やられたな」


---


---


 チャンタブリー県。


 タイ領内。


---


 ハンヴィーが停止した。


 全員が降りた。


---


 「任務完了だ」


 柏木が言った。


 「プラソンを確保した。カンボジア軍より先に」


 「ギリギリだったな」


 「ギリギリでも、勝ちは勝ちだ」


---


 プラソンは、ハンヴィーの中で黙っていた。


 目が虚ろだった。


---


 「こいつ、どうする」


 ニコライが聞いた。


 「バンコクに連行する。局長に引き渡す」


 「裁判か」


 「裁判だ。全ての罪を、白日の下に晒す」


---


 サラが柏木の隣に来た。


 「詐欺コンパウンドの被害者、どうなるの」


 「カンボジア軍が保護するだろう。俺たちは、タイ政府を通じて連絡を取る」


 「彼らも、救われるといいわね」


 「救われる。俺たちが、そうする」


---


 夕日が沈んでいく。


 白いハンヴィーが、金色に染まっていた。


---


 「帰るぞ」


 柏木が言った。


 「バンコクへ」


---


 二台のハンヴィーが、西に向かって走り出した。

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