第2話 増強
三日後。
拠点の駐車場に、巨大なトレーラーが到着した。
全員が集まった。
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トレーラーの荷台が開いた。
中から出てきたのは、四台の車両だった。
白く塗装されている。
だが、ハイラックスではなかった。
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「ハンヴィー......」
ジョンソンが呟いた。
「本物か」
「本物だ」
柏木が答えた。
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HMMWV。High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle。
アメリカ軍の主力軍用車両。
四台が並んでいた。
全て白。金のストライプ。金のガルーダエンブレム。
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「局長からだ」
柏木が説明した。
「聖域攻略には、ハイラックスでは不十分だと判断された」
「確かに、装甲車相手では厳しかったな」
「だから、軍用車両を調達した」
「調達って、簡単に言うな」
「局長が何とかした」
「また『何とかした』か」
「そうだ」
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ニコライがハンヴィーに近づいた。
触った。叩いた。
「装甲バージョンだな」
「分かるのか」
「分かる。重さが違う。M1114だろう」
「正解だ。アップアーマード・ハンヴィー。7.62ミリ弾と砲弾片に耐える」
「イラクで使われていた型だな」
「そうだ」
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ジョンソンが屋根を見た。
ターレットが付いている。
「武装用のリングだ」
「GAU-19を載せられる」
「載せる。一号車に」
「最高だな」
ジョンソンは嬉しそうだった。
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「二号車にはM2を載せる」
柏木が続けた。
「ニコライ、お前が撃て」
「了解」
「三号車には......」
柏木はトレーラーの奥を指した。
「新しい武装が来ている」
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別の木箱が降ろされた。
開けた。
中から出てきたのは、巨大な武器だった。
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「Mk19」
マルティネスが声を上げた。
「知っているか」
「知っている。40ミリ自動グレネードランチャーだ。米軍で使っていた」
「お前が運用しろ」
「本当か」
「本当だ。お前なら扱えるだろう」
マルティネスの目が輝いた。
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Mk19 Mod 3。
40mm×53グレネード弾を使用。
毎分325〜375発。
有効射程1,500メートル。
対人、対軽装甲、対建造物。
汎用性の高い制圧火器。
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「これで、倉庫群を制圧できる」
柏木が言った。
「壁を吹き飛ばすのか」
「必要なら」
「豪快だな」
「聖域には豪快さが必要だ」
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「四号車は」
サラが聞いた。
「医療・支援車両だ。アレクセイと支援要員が乗る」
「武装は」
「M60を一丁。自衛用だ」
「了解」
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四台のハンヴィーが並んだ。
白い軍用車両。金のエンブレム。
一号車:GAU-19
二号車:M2重機関銃
三号車:Mk19グレネードランチャー
四号車:M60(医療・支援)
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「火力が倍増したな」
ニコライが言った。
「倍どころじゃない」
「三倍か」
「もっとだ」
「計算が面倒だな」
「計算は要らない。撃てば分かる」
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「ハイラックスはどうする」
エイブラハムが聞いた。
「予備車両として残す。偵察や輸送に使う」
「了解」
「ハンヴィーは重い。小回りが利かない場面もある」
「使い分けか」
「そうだ」
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ジョンソンがハンヴィーの運転席に乗り込んだ。
「懐かしいな」
「乗っていたのか」
「イラクで。三年間、毎日乗っていた」
「運転できるな」
「目を閉じてもできる」
「目は開けておけ」
「冗談だ」
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マルティネスがMk19を持ち上げた。
重い。だが、扱える。
「久しぶりだな、こいつは」
「アフガンで使っていたか」
「使っていた。タリバンの陣地を吹き飛ばした」
「今度は麻薬王の倉庫を吹き飛ばせ」
「任せろ」
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ニコライがM2のターレットを確認した。
「取り付けは簡単だな」
「できるか」
「できる。一時間あれば」
「やってくれ」
「了解」
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全員が動き始めた。
ハンヴィーの点検。
武装の取り付け。
弾薬の積み込み。
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二時間後。
四台のハンヴィーが完成した。
白い軍用車両が並んでいる。
それぞれの屋根に、重火器が据えられている。
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「試射はどうする」
ジョンソンが聞いた。
「明日、演習場で行う」
「楽しみだ」
「楽しむな。訓練だ」
「訓練を楽しんで何が悪い」
「......まあ、いい」
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マリーがハンヴィーを眺めていた。
「派手だな」
「派手だ」
「目立つ」
「目立っていい。俺たちは隠れない」
「狙撃手としては、少し不安だ」
「お前は別行動だ。心配するな」
「分かっている」
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サラが柏木の隣に来た。
「すごい火力になったわね」
「聖域を攻めるには、これだけ必要だ」
「三百人相手に」
「そうだ」
「勝てる?」
「勝つ。勝たなければ意味がない」
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ファリダーが言った。
「警察学校では、こんな車両、見たこともありませんでした」
「警察じゃないからな。俺たちは」
「そうですね。突撃隊ですもんね」
「そうだ」
「......かっこいいです」
「かっこいいか」
「はい。すごく」
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川島が通信機器を確認していた。
「ハンヴィーには、通信システムも内蔵されていますね」
「そうだ。車両間で連携できる」
「便利です」
「便利だが、敵に傍受される可能性もある」
「暗号化します」
「頼む」
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アレクセイが四号車の中を確認していた。
「医療機器を積むスペースがある」
「必要なものは全部積め」
「積む。担架も入るな」
「負傷者が出たら、すぐに搬送できる」
「出さないのが一番だが」
「出さないようにする。だが、備えは必要だ」
「分かっている」
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夕方。
全員が食堂に集まった。
柏木が立ち上がった。
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「現状を報告する」
全員が注目した。
「車両は揃った。武装も揃った。あとは、作戦計画だ」
「偵察は」
「明日から開始する。ドローンを使って、聖域の内部構造を把握する」
「何日かかる」
「三日から四日。その後、作戦を立案する」
「突入はいつだ」
「一週間後を予定している」
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「質問は」
沈黙。
「では、今日は休め。明日から、忙しくなる」
「了解」
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全員が散っていった。
柏木は一人、窓の外を見ていた。
白いハンヴィーが、月明かりに照らされている。
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サラが戻ってきた。
「考え事?」
「少し」
「何を」
「聖域のことだ」
「不安?」
「不安じゃない。だが、慎重に行く必要がある」
「今までと違う?」
「違う。今までは、犯罪組織だけが相手だった」
「今度は」
「政治家がいる。軍がいる。警察がいる。企業がいる」
「国家の一部と戦う」
「そうだ」
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柏木は煙草を取り出した。
火をつけた。
「失敗すれば、俺たちは終わりだ」
「終わり?」
「組織ごと潰される。陛下の信任も失う」
「失敗しないわ」
「なぜ分かる」
「あなたがいるから」
「......」
「あなたは、失敗しない。今まで、一度も」
「今までは、な」
「これからも」
サラは柏木を見た。
「私は、信じている」
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柏木は煙草を吸った。
「......ありがとう」
「どういたしまして」
「お前がいると、気が楽になる」
「そう?」
「ああ」
「......嬉しいわね」
サラは少し笑った。
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夜が更けていく。
聖域への戦いが、近づいていた。




