第1話 白装
チェンマイ。
旧柏木班拠点。
いや、もう「柏木班」ではない。
王室犯罪対策局特別強襲部隊。
通称、突撃隊。
それが、新しい名前だった。
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倉庫に、全員が集まっていた。
目の前には、大きな木箱がいくつも並んでいる。
バンコクから届いた。局長——元ウィチャイ大佐——からの贈り物だった。
「開けろ」
柏木が言った。
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川島とカルロスが、木箱を開けた。
中から出てきたのは、真っ白な装備だった。
「......白?」
ニコライが眉を上げた。
「白だ」
「なぜ白だ」
「潔白を意味する」
柏木が説明した。
「俺たちは、汚職と戦う。腐敗と戦う。だから、白だ」
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全員が装備を手に取った。
白のBDUジャケット。
白のBDUパンツ。
白の防弾アーマー。白のタクティカルベスト。
黒のニーパッド。黒のエルボーパッド。
黒のコンバットブーツ。黒のタクティカルグローブ。
そして、金色に輝くエンブレム。
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エンブレムを見た。
ガルーダが剣を咥えている。
背景に王冠。
縁取りは紫と金。
「王室犯罪対策局特別強襲部隊」
タイ語と英語で刻まれていた。
「RCSB-SAU」
Royal Crime Suppression Bureau - Special Assault Unit.
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「かっこいいな」
マルティネスが言った。
「ガルーダか。タイ王室の象徴だ」
ファリダーが説明した。
「神鳥だ。悪を滅ぼす力を持つと言われている」
「俺たちにぴったりだ」
ジョンソンが笑った。
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柏木が装備を見渡した。
「二種類ある。重装型と機動型だ」
「重装型?」
「襟付きの防弾アーマー。首まで防護する。正面火力を担当する者向けだ」
「機動型は?」
「タクティカルベスト。軽量で動きやすい。突入や近接戦闘を担当する者向けだ」
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「割り振りを発表する」
柏木が言った。
「重装型。ニコライ、ジョンソン、マルティネス、ヨナタン」
「了解」
「機動型。俺、サラ、ファリダー、川島、アレクセイ」
「了解」
「マリーは狙撃手仕様。白のギリースーツを別途用意する」
「分かった」
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全員が、装備を身につけ始めた。
白のBDUを着る。
防弾アーマー、またはタクティカルベストを装着する。
ニーパッドとエルボーパッドを付ける。
ブーツを履く。グローブをはめる。
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ニコライが襟付き防弾アーマーを着た。
白い装甲が、巨体を包む。
首まで覆う襟。肩パッド一体型。
「重いな」
「その分、防護力がある」
「悪くない」
ニコライは黒のバラクラバを首に下げた。
白と黒のコントラスト。
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ジョンソンも重装型を着た。
大柄な体に、白い装甲が映える。
金の腕時計が、白の中で輝いていた。
「いいじゃないか」
「紳士的に見えるか?」
「......白い戦車に見える」
「戦車か。悪くない」
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マルティネスが胸のエンブレムを見た。
シルバーのクロスと、金のガルーダが並んでいる。
「神の加護と、王の加護か」
「最強だな」
「最強だ」
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ヨナタンは無表情で装備を着けた。
だが、目に光があった。
「白か」
「気に入らないか」
「気に入った。目立つ」
「目立っていいのか。元モサドだろう」
「モサドは辞めた。今は、王の剣だ。隠れる必要はない」
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柏木はタクティカルベストを着た。
白のBDU。白のベスト。
そして、紅色のシュマグを首に巻いた。
白と赤。
「指揮官の印だな」
ニコライが言った。
「そういうわけじゃない」
「そういうわけだろう」
「......まあ、いい」
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サラがタクティカルベストを着た。
白の装備。金髪が映える。
「似合うわね」
「お前もな」
「ありがとう」
サラは髪を後ろで結んだ。
白と金。
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ファリダーがタクティカルベストを着た。
首には紫に金刺繍のタイシルクスカーフ。
王室カラーだ。
「このスカーフ、新しい装備に合いますね」
「合う。お前にぴったりだ」
ファリダーは少し照れた。
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川島がタクティカルベストを着た。
「隊長、似合っていますか」
「似合っている」
「本当ですか」
「本当だ」
川島は嬉しそうだった。
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アレクセイがタクティカルベストを着た。
胸には赤十字の医療パッチ。
白と赤。
「医者らしくなったな」
「医者だからな」
「戦場の医者だ」
「そうだ」
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マリーは別の箱を開けた。
白のギリースーツ。
「雪山用か」
「タイに雪山はない」
「だが、白は目立たない場所もある」
「どこだ」
「建物の中。壁が白ければ」
「なるほど」
マリーは軽装ベストを手に取った。
「これで十分だ。重い装備は、狙撃には向かない」
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全員が装備を身につけた。
十五人が並んだ。
白い戦士たち。
「壮観だな」
ニコライが言った。
「ああ」
「映画みたいだ」
「映画より派手だ」
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別の木箱が開けられた。
武装だ。
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「対装甲火器を追加する」
柏木が言った。
「聖域には装甲車がある。現行の火力では不足だ」
「何を使う」
「AT4とカールグスタフM4」
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AT4が並んでいた。
使い捨ての対戦車ロケット。
「これは、一発撃ったら終わりだ。だが、確実に装甲を貫通する」
「誰が持つ」
「ニコライとジョンソン。各二本ずつ」
「了解」
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カールグスタフM4も出てきた。
再装填可能な無反動砲。
「これは、ニコライが運用する。お前なら扱えるだろう」
「扱える。ロシア軍で似たようなものを使っていた」
「頼む」
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ブリーチングショットガンが出てきた。
「ドア破壊用だ。ヨナタン、お前が持て」
「了解」
「突入時に使う。鍵も蝶番も吹き飛ばせる」
「便利だな」
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閃光弾と煙幕弾が大量に出てきた。
「全員、携行しろ。突入支援に使う」
「了解」
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小型ドローンが出てきた。
「偵察用だ。川島、カルロス、お前たちが操作しろ」
「了解」
「聖域は広い。事前に内部構造を把握する必要がある」
「任せてください」
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最後の木箱。
大きかった。
「これは」
ジョンソンが聞いた。
「M2重機関銃だ」
「M2?」
「.50口径。Hilux 2号車に搭載する」
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M2が姿を現した。
巨大な機関銃。
「GAU-19と並ぶ火力だな」
「発射レートは劣るが、信頼性が高い。弾薬消費も少ない」
「誰が撃つ」
柏木はニコライを見た。
「お前だ」
「俺か」
「PKMもあるが、車載火力としてはM2の方が強力だ」
「了解。任せろ」
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「車両とヘリも一新される」
柏木が言った。
「白に塗り替えだ。金のストライプとエンブレム付き」
「派手だな」
「派手でいい。俺たちは隠れない」
「堂々と正面から行く」
「そうだ」
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全員が、新しい装備を見渡した。
白のBDU。
白の防弾アーマーとタクティカルベスト。
黒のパッド、ブーツ、グローブ。
金のガルーダエンブレム。
AT4、カールグスタフ、ブリーチングショットガン。
ドローン。
M2重機関銃。
「完全武装だな」
ジョンソンが言った。
「聖域を潰すには、これだけ必要だ」
「必要だろうな」
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柏木は全員を見渡した。
十五人の白い戦士。
王室犯罪対策局特別強襲部隊。
突撃隊。
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「聖域について説明する」
柏木が言った。
全員が姿勢を正した。
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「バンコク近郊。サムットプラカーン県」
地図を広げた。
「表向きは、物流会社の倉庫群だ。『サイアム・ロジスティクス』という会社」
「物流会社」
「表向きはな。実態は、東南アジア最大級の麻薬集積・配送センターだ」
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「規模は」
「敷地面積、約五万平方メートル。倉庫が十二棟。事務所が三棟。宿舎が二棟」
「でかいな」
「構成員は三百人以上。武装は、自動小銃、重機関銃、RPG、装甲車複数。対空ミサイルの存在も確認されている」
「対空ミサイル」
「SA-7かSA-14と推定される。ヘリは近づけない」
「地上からの攻撃になるな」
「そうだ」
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「なぜ今まで手が出せなかったのですか」
ファリダーが聞いた。
「政治的な理由だ」
柏木は写真を並べた。
「この男は、プラソン・チャルーンポン。国家安全保障会議副議長」
「会議で俺たちを潰そうとした男だな」
「そうだ。サイアム・ロジスティクスの株主の一人だ」
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「この男は、ピチット中将。陸軍の高官」
「軍が絡んでいるのか」
「絡んでいる。だから、この地域は『国防上の理由』で立入禁止になっていた」
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「この男は、ソムチャイ大佐。バンコク警察」
「以前、俺たちの拠点に乗り込んできた奴だな」
「そうだ。捜査しようとした警察官を、異動させていた」
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「この男は、タナコーン・シリワット。与党の重鎮」
「政治家も」
「そうだ。法案を通して、この地域の捜査を困難にしていた」
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「そして、この男」
柏木は最後の写真を出した。
「ウィワット・チャロエンスック。サイアム・ロジスティクスのCEO」
「企業家か」
「表向きはな。実態は、東南アジア最大の麻薬王だ」
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「政治家、軍、警察、企業家。全員がグルだ」
柏木は写真を見渡した。
「彼らが作った『聖域』。誰も手が出せなかった場所」
「だが、今は違う」
ニコライが言った。
「ああ。今は、俺たちがいる」
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「作戦は」
サラが聞いた。
「これから立案する。一週間かけて、情報を収集し、計画を練る」
「ドローンを使う」
「使う。施設の内部構造を把握する」
「潜入調査は」
「危険すぎる。外部からの偵察に留める」
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「敵は三百人以上。対空ミサイルもある。正直、今までで最も困難な作戦だ」
柏木は全員を見た。
「だが、やるしかない。ここを潰せば、タイの麻薬流通の心臓部を止められる」
「止めましょう」
ファリダーが言った。
「止めます。タイのために」
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「準備を始めろ。装備の点検、武器の調整、体調の管理。一週間後に、作戦会議を行う」
「了解」
全員が動き始めた。
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柏木は窓の外を見た。
白い装備が、陽光に輝いている。
王の剣。
潔白の戦士たち。
「聖域を、断つ」
呟いた。




