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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
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最終話 新生

バンコク。王宮。


 異例の勅令が発布された。


---


 「王室犯罪対策局を設立する」


 陛下の言葉だった。


 タイ全土に、その報せが広がった。


---


 勅令の内容は、以下の通りだった。


 一、王室犯罪対策局(Royal Crime Suppression Bureau)を設立する。


 二、本局は、王家直轄の組織とする。警察にも軍にも属さない。


 三、本局は、タイ国内のあらゆる場所において、捜査・逮捕の権限を有する。


 四、本局の活動に対し、いかなる機関も干渉してはならない。


 五、本局の予算は、王室より直接支出する。


 六、本局の長は、余が直接任命する。


---


 政府は震撼した。


 これは、王室が直接、治安維持に乗り出すという宣言だった。


 警察でも軍でもない。


 政治家の手が届かない。


 完全に独立した、王家直轄の犯罪対策組織。


---


 プラソンは、勅令を読んで青ざめた。


 「これは......」


 「我々の手が、完全に届かなくなる」


 ピチット中将が言った。


 「王家直轄だ。干渉すれば、陛下に逆らうことになる」


 「つまり......」


 「終わりだ。我々には、もう何もできない」


 タナコーン議員が、力なく座り込んだ。


---


 王宮警察本部。


 ウィチャイ大佐が、勅令を手にしていた。


 その顔には、静かな喜びがあった。


 「大佐」


 チャイロン少佐が入ってきた。


 「見たか」


 「見ました。王室犯罪対策局......」


 「我々は、独立する」


 「独立......」


 「王宮警察ではなくなる。王家直轄の組織になる」


 「それは......」


 「もう、誰にも邪魔されない。政治家にも、軍にも、汚職警察にも」


 ウィチャイは、窓の外を見た。


 「本当の戦いが、これから始まる」


---


 勅令には、もう一つ、重要な内容があった。


 「王室犯罪対策局の初代局長に、ウィチャイ・スリヤウォンを任命する」


 ウィチャイ大佐から、ウィチャイ局長へ。


 階級ではない。地位だ。


 王家に直接仕える者としての、地位。


---


 「局長......」


 チャイロンが呟いた。


 「実感がないな」


 「ないでしょうね」


 「だが、やることは変わらない」


 「はい」


 「犯罪を潰す。人を守る。それだけだ」


---


 チェンマイ。


 柏木班の拠点。


 全員が集まっていた。


 大佐——いや、局長からの連絡を受けた後だった。


---


 「王室犯罪対策局」


 柏木が言った。


 「俺たちは、そこに移籍する」


 「王宮警察ではなくなるんですか」


 川島が聞いた。


 「そうだ。王家直轄の組織になる」


 「具体的に、何が変わるんですか」


 「権限が変わる。どこにでも踏み込める。誰にも邪魔されない」


 「どこにでも......」


 「今まで手が出せなかった場所にも、踏み込める」


---


 ニコライが言った。


 「つまり、聖域がなくなる」


 「そうだ」


 「聖域?」


 ファリダーが聞いた。


 「今まで、政治的な理由で手が出せなかった場所がある」


 柏木が説明した。


 「汚職政治家や軍幹部が関わっている拠点。証拠があっても、踏み込めなかった」


 「なぜ」


 「捜査しようとした警察官が異動させられた。軍が立入禁止にした。記者が消された」


 「そんな場所が......」


 「ある。バンコク近郊に。東南アジア最大級の麻薬集積拠点だ」


---


 サラが言った。


 「そこに、踏み込むの」


 「そうだ。次の目標は、そこだ」


 「今まで誰も手を出せなかった場所に」


 「ああ。俺たちが、初めて踏み込む」


---


 ジョンソンが言った。


 「規模は」


 「今までで最大だ。構成員は三百人以上と推定されている」


 「三百人」


 「武装も重い。装甲車複数。重機関銃。対空ミサイルまであるという情報もある」


 「対空ミサイル......」


 「ヘリで接近できないかもしれない」


 「どうやって攻めるんだ」


 「これから考える」


---


 マリーが言った。


 「面白くなってきた」


 「面白い、か」


 「ああ。今までは、雑魚ばかりだった。やっと、本物の敵が出てきた」


 「本物の敵」


 「政治家。軍。警察。その全部が守っていた場所。そこを潰す」


 「......ああ」


 「楽しみだ」


 マリーの目が、光っていた。


---


 柏木は、全員を見渡した。


 十五人。


 様々な国から来た、様々な過去を持つ人間たち。


 今は、王家直轄の犯罪対策組織の一員だ。


 「俺たちは、新しい組織の核になる」


 「核」


 「そうだ。王室犯罪対策局の実働部隊。俺たちが、その第一陣だ」


 「第一陣......」


 「これから、仲間も増えるだろう。組織も大きくなる。だが、核は俺たちだ」


 「了解」


---


 「一つ、言っておく」


 柏木は続けた。


 「これからの戦いは、今までより危険だ」


 「分かっています」


 「敵は、犯罪組織だけじゃない。政治家がいる。軍がいる。警察がいる」


 「......」


 「奴らは、俺たちを潰そうとしてくる。あらゆる手を使って」


 「受けて立ちます」


 ジョンソンが言った。


 「俺たちは、ここまで生き延びてきた。これからも生き延びる」


 「ああ。生き延びろ。全員」


---


 「最後に」


 柏木は言った。


 「陛下から、言葉をいただいた」


 「また、ですか」


 「ああ。新組織設立に際して」


 全員が、姿勢を正した。


 「『汝らは、余の剣である。悪を断ち、民を守れ。余は、汝らを信じている』」


---


 沈黙が落ちた。


 重い言葉だった。


 王の剣。


 それが、自分たちだ。


---


 ニコライが口を開いた。


 「剣か」


 「ああ」


 「悪くない」


 「ああ」


 「俺は、誰かの剣になったことはなかった。ロシア軍では、使い捨ての駒だった」


 「......」


 「だが、今は違う。王の剣だ。誇りを持てる」


 「俺もだ」


 マルティネスが言った。


 「CIDでは、官僚主義に潰された。ここでは、違う」


 「俺も」


 ジョンソンが言った。


 「やっと、本当の仕事ができる」


---


 川島が言った。


 「隊長。俺は、隊長についてきてよかったです」


 「そうか」


 「自衛隊を辞めた時、どうしていいか分からなかった。でも、今は分かります」


 「何が」


 「俺がやるべきことが。俺がいるべき場所が」


 「......」


 「ここです。隊長の隣が、俺の居場所です」


 「ありがとう」


---


 ファリダーが言った。


 「私も、ここが居場所です」


 「そうか」


 「警察学校を出た時、理想がありました。正義を守る。悪を倒す。でも、現実は違った」


 「汚職だらけだったな」


 「はい。でも、ここは違います。本当に、正義のために戦える」


 「ああ」


 「だから、ここにいます。これからも」


---


 サラが、柏木の隣に来た。


 「あなた、変わったわね」


 「また言うのか」


 「何度でも言うわ。最初に会った時より、ずっと......」


 「ずっと?」


 「人間らしくなった」


 「......そうか」


 「そうよ。笑うようになった。仲間を信じるようになった。弱さを見せるようになった」


 「弱さ?」


 「ゴーゴーバーで泣いたでしょう」


 「泣いていない」


 「嘘。動画に映っていたわ」


 「......あの動画は消せ」


 「消さない」


---


 全員が笑った。


 柏木も、少しだけ笑った。


---


 「さて」


 柏木は言った。


 「新しい戦いが始まる」


 「はい」


 「王室犯罪対策局。俺たちの新しい名前だ」


 「了解」


 「聖域を潰す。東南アジア最大の麻薬拠点を」


 「了解」


 「準備を始めろ。一週間後に、作戦会議を行う」


 「了解」


---


 十五人が、動き始めた。


 新しい戦いに向けて。


---


 柏木は、窓の外を見た。


 タイの空。青い空。


 ここに来て、一年が経とうとしていた。


 日本を出た時、何もなかった。


 居場所も、目的も、希望も。


 今は、ある。


 仲間がいる。


 使命がある。


 王に認められた。


 国民に愛された。


 「......悪くない人生だ」


 呟いた。


---


 ポケットから、煙草を取り出した。


 火をつけた。


 深く吸い込んだ。


 「まだ、終わりじゃない」


 呟いた。


 「これからだ」


---


 新しい章が、始まろうとしていた。


 王室犯罪対策局。


 王の剣。


 聖域を断つ者たち。


---


 柏木勇気の戦いは、続く。

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