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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
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幕間 評価

バンコク。王宮警察本部。


 地下の会議室。


 長いテーブルに、八人の男たちが座っていた。


 ウィチャイ大佐が議長席にいる。その隣にチャイロン少佐。


 他の六人は王宮警察の幹部たちだった。大佐が二人、中佐が三人、少佐が一人。全員が制服を着ている。


 テーブルの上に書類が積まれていた。報告書。写真。地図。統計資料。


 ウィチャイが口を開いた。


 「報告を始める」


---


 「柏木班の活動実績」


 ナロンがスクリーンにデータを映した。


 「バンコクでの活動期間、二週間。制圧した組織、六つ。逮捕者、百十二名。押収した麻薬、末端価格で十二億バーツ相当。押収した現金、三億バーツ。押収した武器、自動小銃四十七丁、拳銃八十三丁」


 幹部の一人が眉を上げた。


 「二週間で、これだけか」


 「そうです」


 「死者は」


 「ゼロです。柏木班による殺害はありません。重傷者は出ていますが、全員が生存しています」


 別の幹部が言った。


 「信じられんな。これだけの規模の作戦で、死者がゼロとは」


 ナロンが続けた。


 「チェンマイでの活動。昨日、麻薬製造拠点を制圧しました。逮捕者三十一名。押収した麻薬、末端価格で四十五億バーツ相当。製造設備も押収。この拠点からの供給は完全に停止しました」


 会議室がざわついた。


 「四十五億バーツ」


 「一つの拠点でか」


 「ゴールデン・トライアングルの規模は、我々の想定を超えている」


---


 ウィチャイが手を上げた。静かになった。


 「柏木班の実績は、予想を大きく上回っている。これは事実だ」


 チャイロン少佐が付け加えた。


 「柏木は期待以上の働きをしています。彼のチームは、わずか七人で、これだけの成果を上げました」


 幹部の一人、プラユット大佐が口を開いた。


 「問題は、これからだ」


 「問題とは」


 「ゴールデン・トライアングルは、一つや二つの拠点を潰しても終わらない。数十、いや数百の拠点がある。ミャンマー、ラオス、タイの国境地帯に散らばっている」


 「承知しています」


 「七人で対処できる規模ではない」


---


 別の幹部、ソムポン中佐が発言した。


 「人員を増やすべきだ」


 「増やすと言っても、どこから連れてくる。柏木班の採用基準は厳しい。外国人で、戦闘経験があり、金で動かない人間。そんな人間は滅多にいない」


 「基準を下げればいい」


 「下げれば質が落ちる。質が落ちれば、死者が出る」


 プラユット大佐が言った。


 「では、どうする。七人のまま続けるのか」


 チャイロンが答えた。


 「柏木に任せるべきです。彼は自分で人材を探してきた。今のメンバーも、彼が集めた。時間をかければ、さらに増やせる可能性がある」


 「時間がない。ゴールデン・トライアングルは待ってくれない。我々が一つ潰している間に、向こうは二つ作る」


---


 議論が熱を帯び始めた。


 「軍に協力を要請すべきだ」


 「軍は使えない。汚職がひどい。情報が漏れる」


 「では国境警備隊は」


 「同じだ。ゴールデン・トライアングルの組織は、国境警備隊に金を払っている」


 「結局、信用できるのは柏木班だけか」


 「そういうことになる」


 プラユットが机を叩いた。


 「七人で国家規模の問題に対処しろと言うのか!」


 「そうは言っていない」


 「では何だ」


 「役割分担だ」


 ウィチャイが静かに言った。


 全員が議長を見た。


---


 「柏木班は、先鋒だ」


 ウィチャイは立ち上がった。


 「彼らの役割は、敵を叩くこと。大きな拠点を潰し、ボスを捕らえ、恐怖を与えること。これは彼らにしかできない」


 「しかし——」


 「待て。話は終わっていない」


 ウィチャイは続けた。


 「柏木班が叩いた後の処理は、我々がやる。逮捕者の取り調べ、証拠の整理、裁判への引き渡し。これは王宮警察の通常部隊が担当する」


 ソムポンが言った。


 「それは今もやっている」


 「そうだ。だが、規模を拡大する。柏木班の後方支援に、専任の部隊を編成する」


 「専任の部隊」


 「五十人規模だ。柏木班が叩いた拠点を即座に確保し、証拠を押収し、残党を追う。柏木班は次の標的に向かう。これで効率が上がる」


 チャイロンが頷いた。


 「柏木班は攻撃に専念できる」


 「そうだ」


---


 プラユットがまだ不満そうだった。


 「それでも七人だ。限界がある」


 「限界はある。だが、今はこれが最善だ」


 「最善か」


 「そうだ。柏木のような人間は、簡単には見つからない。見つかるまでは、今のメンバーで戦うしかない」


 ウィチャイは全員を見渡した。


 「異論はあるか」


 沈黙があった。


 プラユットが口を開いた。


 「......一つだけ」


 「何だ」


 「柏木班の予算を増やすべきだ」


 「予算」


 「装備、車両、通信機器。すべてが足りない。今の予算では、ゴールデン・トライアングル全域をカバーできない」


 ウィチャイは少し考えた。


 「いくら必要だ」


 「現在の三倍」


 「三倍か」


 「最低でもだ。本気でやるなら、五倍は欲しい」


 会議室がざわついた。


 「五倍だと」


 「予算委員会が承認するか」


 「承認させる」


 ウィチャイが言った。


 「必要な予算は、私が確保する。上に話を通す」


 「上とは」


 ウィチャイは答えなかった。答える必要がなかった。


 全員が理解した。御方だ。


---


 「もう一つ議論がある」


 チャイロンが発言した。


 「柏木班の活動範囲だ」


 「範囲」


 「現在はタイ国内に限定されている。だが、ゴールデン・トライアングルはミャンマーとラオスにまたがっている」


 「国境を越えろと言うのか」


 「可能性として検討すべきだ」


 プラユットが首を振った。


 「主権侵害だ。国際問題になる」


 「正規の手続きを踏めば、可能かもしれない」


 「ミャンマー政府が協力するか。ラオス政府が協力するか。どちらも汚職がひどい」


 「政府を通さない方法もある」


 会議室が静まり返った。


 「何を言っている」


 「非公式の作戦だ。政府間の合意なしに、国境を越える」


 「それこそ国際問題だ」


 「バレなければ問題にならない」


 プラユットが立ち上がった。


 「正気か」


 「私は可能性を提示しているだけだ。決定権は大佐にある」


---


 ウィチャイが手を上げた。


 「落ち着け」


 全員が座った。


 「国境を越える作戦は、現時点では検討しない。リスクが大きすぎる」


 チャイロンが頷いた。


 「了解しました」


 「だが、将来的には選択肢に入る可能性がある。そのための準備は進めておけ」


 「準備とは」


 「情報収集だ。ミャンマー側の拠点、ラオス側の拠点、すべてをリストアップしろ。いつでも動けるように」


 「了解しました」


---


 ウィチャイが立ち上がった。


 「今日の議論をまとめる」


 全員が注目した。


 「一、柏木班の活動は継続する。チェンマイを拠点に、ゴールデン・トライアングルの掃討を進める」


 「二、後方支援部隊を編成する。五十人規模。柏木班が叩いた拠点の確保と証拠収集を担当」


 「三、予算を増額する。現在の五倍を目標に、上に申請する」


 「四、国境を越える作戦は、現時点では保留。ただし、情報収集は継続する」


 「以上だ。異論は」


 沈黙。


 「では、決定とする。解散」


---


 幹部たちが部屋を出ていった。


 ウィチャイとチャイロンだけが残った。


 「少佐」


 「はい」


 「柏木を呼べ。直接話がしたい」


 「チェンマイからですか」


 「そうだ。明日、バンコクに来させろ」


 「了解しました」


 チャイロンは敬礼して、部屋を出た。


 ウィチャイは一人で窓の外を見た。


 バンコクの夜景が広がっている。


 「七人か」


 呟いた。


 たった七人の外国人が、タイの闇を切り裂いている。


 誰も信じないだろう。だが、事実だ。


 柏木勇気。


 あの男は、本物だった。


 御方の判断は正しかった。

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