表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
57/132

幕間 本性

休暇だった。


 三日間の休養。アレクセイが強制的に取らせた。


 「お前たちは働きすぎだ。遊んでこい」


 そう言われて、追い出された。


---


 チェンマイの繁華街。


 マルティネス、カルロス、ニコライ、そして柏木。


 四人で飲みに出た。


 「たまには、息抜きも必要だ」


 マルティネスが言った。


 「同感だ」


 ニコライが答えた。


 「隊長も、たまには羽を伸ばしてください」


 カルロスが言った。


 柏木は黙って頷いた。


---


 最初は普通のバーに入った。


 ビールを飲んだ。


 マルティネスとカルロスが、ラテン系同士で盛り上がっていた。


 ニコライは、ウォッカを注文した。


 「タイでも、ウォッカは手に入る」


 「当然だ。文明国だからな」


 柏木は、黙ってビールを飲んでいた。


---


 二軒目。


 少し騒がしい店に入った。


 音楽が流れている。踊っている人もいる。


 マルティネスが、テキーラを注文した。


 「隊長も、一杯どうですか」


 「俺は、ビールでいい」


 「まあまあ、そう言わずに」


 マルティネスが、柏木の前にショットグラスを置いた。


 柏木は、少し考えて、飲んだ。


 「......強いな」


 「でしょう。もう一杯」


 「いや、俺は」


 「遠慮しないでください」


 二杯目が注がれた。


---


 ニコライが、ウォッカのボトルを持ってきた。


 「これも飲め」


 「ウォッカか」


 「そうだ。テキーラだけでは物足りないだろう」


 「物足りなくはない」


 「飲め」


 ニコライが、グラスにウォッカを注いだ。


 柏木は、テキーラの後にウォッカを飲んだ。


 「......」


 「どうだ」


 「......効く」


 「当然だ」


---


 三軒目。


 気づいたら、ゴーゴーバーの前にいた。


 「ここにしよう」


 マルティネスが言った。


 「ゴーゴーバーか」


 カルロスが少し躊躇した。


 「問題ないだろう。休暇だ」


 「まあ、そうですけど」


 「隊長、いいですよね」


 柏木は、既にかなり酔っていた。


 「......ああ」


 四人は、店に入った。


---


 店内は、薄暗かった。


 ステージがあり、女性たちが踊っている。


 席に着くと、すぐに女性たちが寄ってきた。


 「こんばんは」


 「飲み物、いかがですか」


 マルティネスは、すぐに馴染んだ。


 「君、可愛いね。名前は?」


 「ヌイよ」


 「ヌイか。いい名前だ」


 カルロスも、女性と話し始めた。


 ニコライは、黙々とウォッカを飲んでいた。


---


 柏木は、隅の席で飲んでいた。


 テキーラとウォッカを交互に。


 女性が話しかけてきた。


 「お兄さん、一人?」


 「......ああ」


 「寂しいね。一緒に飲もうよ」


 「......」


 柏木は、黙って飲み続けていた。


---


 一時間後。


 柏木は、完全に出来上がっていた。


 テキーラのボトルが一本空いていた。


 ウォッカも半分なくなっていた。


 「隊長、大丈夫ですか」


 カルロスが心配そうに聞いた。


 柏木は、ゆっくりと顔を上げた。


 目が据わっていた。


 そして。


---


 「おい、君」


 柏木が、隣の女性に話しかけた。


 「え?」


 「君、可愛いな」


 「......え?」


 女性が驚いた。


 さっきまで無愛想だった男が、急に話しかけてきた。


 「名前、何ていうの」


 「あ、あの、プロイです」


 「プロイか。いい名前だ。俺は柏木。よろしくな」


 柏木は、にっこりと笑った。


---


 マルティネスとカルロスとニコライが、固まった。


 「......隊長?」


 「何だ、カルロス」


 「いや、あの、大丈夫ですか」


 「大丈夫だ。最高に大丈夫だ」


 柏木は、グラスを掲げた。


 「今夜は、楽しもうじゃないか!」


 「......」


 「何だ、その顔は。楽しめよ。休暇だろう」


 「は、はい......」


---


 柏木は、完全に別人になっていた。


 陽気だった。


 饒舌だった。


 そして、女好きだった。


---


 「プロイちゃん、もっとこっちに来なよ」


 「え、あ、はい」


 「俺さ、実は寂しかったんだよ」


 「寂しかった?」


 「ああ。毎日、戦ってばかりでさ。女の子と話す機会がなくて」


 「お仕事、何してるの」


 「犯罪者を捕まえてる」


 「警察?」


 「まあ、そんなようなもんだ」


 「かっこいい」


 「そうか? ありがとう」


 柏木は、上機嫌で笑っていた。


---


 マルティネスが、ニコライに耳打ちした。


 「おい、あれ、本当に隊長か」


 「同じ顔だから、隊長だろう」


 「でも、全然違う」


 「酔っているんだ」


 「酔っているだけで、あんなに変わるか」


 「変わるんだろう」


 「......」


---


 柏木は、さらに加速していた。


 「ねえ、君たちも来なよ」


 別の女性たちを呼んでいた。


 「みんなで飲もう。俺がおごるから」


 「本当に?」


 「本当だ。今夜は無礼講だ」


 「やったー」


 女性たちが、柏木の周りに集まってきた。


---


 「隊長、楽しそうですね」


 カルロスが言った。


 「楽しいぞ。お前も楽しめ、カルロス」


 「は、はい」


 「お前、彼女いないんだろ」


 「いませんけど」


 「じゃあ、今夜は探せ。いい女がたくさんいるぞ」


 「いや、俺は......」


 「遠慮するな。若いんだから、もっと積極的にいけ」


 「......はい」


---


 ニコライが、ウォッカを飲みながら呟いた。


 「......本性が出たな」


 「本性?」


 マルティネスが聞いた。


 「ああ。あれが、柏木の本当の姿だ」


 「本当の姿?」


 「普段は、感情を押し殺している。だが、本当は、ああいう男なんだ」


 「陽気で、饒舌で、女好き」


 「そうだ」


 「......意外すぎる」


 「意外か」


 「意外だ」


 「俺は、少し分かっていた」


 「分かっていた?」


 「ウクライナの話を聞いた時だ。あの事件の前は、もっと明るかったと言っていた」


 「川島が」


 「ああ。あの事件で、柏木は変わった。感情を殺すようになった」


 「......」


 「だが、本当の柏木は、あれだ」


 ニコライは、柏木を見た。


 女性たちに囲まれて、笑っている。


 「あれが、本来の柏木勇気だ」


---


 柏木は、止まらなかった。


 「ねえ、俺の話、聞いてくれる?」


 「うん、聞く聞く」


 「俺さ、昔は自衛隊にいたんだ」


 「自衛隊? 軍人?」


 「そう。特殊部隊」


 「すごい」


 「すごくないよ。でも、楽しかったな。仲間がいて、毎日訓練して、たまに飲みに行って」


 「今は違うの」


 「今は......戦ってばかりだ。楽しいけど、疲れる」


 「大変だね」


 「大変だ。でも、こうして君たちと話していると、元気が出る」


 「嬉しい」


 「俺も嬉しい」


---


 マルティネスが、テキーラをもう一杯注いだ。


 「隊長、もう一杯どうですか」


 「おう、ありがとう」


 柏木は、一気に飲み干した。


 「うまい! テキーラは最高だな!」


 「でしょう。ラテンの酒ですから」


 「ラテンか。俺、ラテン系の女の子も好きだな」


 「そうなんですか」


 「ああ。情熱的でいい」


 「......隊長、本当に酔ってますね」


 「酔ってない。最高に冴えてる」


 「それが酔っている証拠です」


---


 深夜二時。


 柏木は、完全に出来上がっていた。


 女性の一人と、肩を組んで歌っていた。


 タイの歌だった。歌詞は分からないが、ノリで歌っていた。


 「ラララ〜♪」


 「お兄さん、歌上手いね」


 「そうか? ありがとう」


 「もっと歌って」


 「よし、もう一曲いくぞ」


---


 カルロスが、頭を抱えていた。


 「明日、作戦あるんですよね」


 「休暇だ。明後日からだ」


 ニコライが答えた。


 「でも、隊長、明日起きられますか」


 「知らん」


 「知らんって」


 「大人なんだから、自分で何とかするだろう」


 「......」


---


 午前三時。


 さすがに、帰ることになった。


 柏木は、女性たちに別れを告げていた。


 「今夜は、楽しかった。ありがとう」


 「また来てね」


 「ああ、また来る。絶対に」


 「約束だよ」


 「約束だ」


 柏木は、女性の手を握った。


 「君、いい子だな。幸せになれよ」


 「......ありがとう」


 女性が、少し泣きそうな顔をした。


---


 店を出た。


 チェンマイの夜風が、気持ちよかった。


 「さて、帰るか」


 マルティネスが言った。


 「帰る......」


 柏木が、ふらふらと歩いていた。


 「隊長、大丈夫ですか」


 「大丈夫だ。俺は、大丈夫だ」


 「足、ふらついてますよ」


 「ふらついていない」


 「ふらついてます」


 「......少しだけ」


---


 ニコライが、柏木の肩を支えた。


 「俺が支える」


 「悪いな」


 「いい。お前は軽い」


 「軽くない。七十三キロある」


 「俺には軽い」


 「......そうか」


---


 タクシーを拾った。


 柏木は、後部座席で目を閉じた。


 「......楽しかったな」


 「楽しかったですね」


 カルロスが答えた。


 「久しぶりだ。こんなに笑ったの」


 「隊長、普段は笑わないですもんね」


 「笑わない......か」


 「はい」


 「昔は、笑っていたんだ」


 「昔は」


 「ああ。毎日、笑っていた。仲間と一緒に」


 「......」


 「でも、ウクライナで......色々あって......笑えなくなった」


 「......」


 「部下を、三人失った。俺のせいで」


 「隊長のせいじゃ」


 「俺のせいだ。俺が、もっとうまくやれていれば」


 「......」


 「それから、笑えなくなった。感情を、殺すようになった」


 柏木は、目を開けた。


 「でも、今夜は、久しぶりに笑えた。ありがとう」


 「......」


 「お前たちと一緒で、よかった」


---


 マルティネスが、小さく言った。


 「俺たちも、隊長と一緒でよかったです」


 「そうか」


 「はい」


 「......ありがとう」


 柏木は、また目を閉じた。


 すぐに、寝息が聞こえ始めた。


---


 ニコライが呟いた。


 「......いい男だな」


 「はい」


 「普段は、厳しい。無愛想だ。だが、本当は、こういう男なんだ」


 「陽気で、饒舌で、女好き」


 「そうだ。そして、部下思いだ」


 「......」


 「俺は、この男についていく。改めて、そう思った」


 「俺もです」


 カルロスが言った。


 「俺も」


 マルティネスが言った。


---


 タクシーは、拠点に向かっていた。


 チェンマイの夜景が、流れていく。


 柏木は、深く眠っていた。


 久しぶりに、穏やかな顔だった。


---


 翌朝。


 柏木は、二日酔いで動けなかった。


 「......頭が」


 「当然です。テキーラ一本とウォッカ半本飲んだんですから」


 アレクセイが、呆れた顔で言った。


 「そんなに飲んだか」


 「飲みました。三人が証言しています」


 「......」


 「それと、隊長」


 「何だ」


 「ゴーゴーバーで、女の子に囲まれて歌っていたそうですね」


 「......」


 「カルロスが、動画を撮っていました」


 「......消せ」


 「もう、全員に共有されています」


 「......」


 柏木は、枕に顔を埋めた。


---


 食堂。


 全員が集まっていた。


 動画が再生されていた。


 柏木が、女性たちに囲まれて、タイの歌を歌っている。


 満面の笑みだった。


 「ラララ〜♪」


 全員が、唖然としていた。


 「......これ、本当に隊長ですか」


 川島が聞いた。


 「本当だ。俺が撮った」


 カルロスが答えた。


 「信じられない」


 「俺も信じられなかった。でも、本当だ」


---


 サラが、動画を見ていた。


 「......あなた、こんな顔もできるのね」


 「......」


 「可愛いじゃない」


 「可愛くない」


 「可愛い。見て、この笑顔」


 「見るな」


 「見る」


---


 ファリダーが言った。


 「柏木さん、楽しそうですね」


 「......」


 「こういう顔、初めて見ました」


 「見なかったことにしてくれ」


 「無理です。もう見ました」


---


 ニコライが言った。


 「これが、本当の柏木だ」


 「本当の?」


 「ああ。普段は隠している。だが、酔うと出る」


 「陽気で、饒舌で、女好き」


 「そうだ」


 「......意外すぎる」


 「意外か」


 「意外だ」


---


 柏木は、テーブルに突っ伏していた。


 「......もう、飲まない」


 「本当ですか」


 「本当だ」


 「でも、楽しそうでしたよ」


 「楽しかった。だが、代償が大きすぎる」


 「代償?」


 「二日酔いと、この動画だ」


 「動画は永久保存ですね」


 「消せ」


 「消しません」


 「......」


---


 マルティネスが言った。


 「隊長、また飲みに行きましょう」


 「行かない」


 「楽しかったでしょう」


 「楽しかった。だが、行かない」


 「なぜ」


 「また動画を撮られるから」


 「撮らないって約束します」


 「信用できない」


 「......」


---


 その日、柏木は一日中、部屋から出なかった。


 二日酔いと、羞恥心で。


---


 だが、全員が知った。


 柏木勇気という男の、本当の姿を。


 陽気で、饒舌で、女好き。


 そして、誰よりも人間らしい男だということを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ