表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
54/131

幕間 反響

報道は世界を巡った。


---


 アメリカ。


 CNNが特集を組んだ。


 「タイの犯罪組織を壊滅させる精鋭部隊。その中心に、元米軍兵士がいる」


 画面にジョンソンの顔が映った。


 「マーカス・ジョンソン。元米陸軍CID。タイで犯罪と戦うアメリカの英雄」


 コメンテーターが興奮気味に語った。


 「素晴らしい。アメリカ人が世界で正義を貫いている。これこそアメリカの精神だ」


---


 SNSは爆発した。


 「#ThaiCrimeFighters」がトレンド入り。


 「ジョンソンはリアルなアクションヒーロー」


 「アメリカ人であることが誇らしい」


 「彼らに寄付できないのか」


 「映画化希望」


 ハリウッドのプロデューサーが、権利の問い合わせを始めた。


---


 ワシントンでも話題になった。


 上院議員の一人がツイートした。


 「元米軍兵士が、タイで犯罪と戦っている。政府は彼らを支援すべきだ」


 別の議員が反応した。


 「同意する。彼らはアメリカの誇りだ」


 国務省は公式コメントを避けた。だが、内部では好意的な反応が広がっていた。


---


 ロシア。


 国営テレビが報道した。


 「ロシア人がタイで活躍。犯罪組織を壊滅させる英雄たち」


 画面には、ニコライとアレクセイの写真が映った。


 名前は伏せられていた。だが、「ロシア人」であることは強調された。


 「彼らは、祖国で培った技術を活かし、世界の平和に貢献している」


 キャスターが誇らしげに語った。


---


 ウクライナ戦争のニュースは、この日だけ減った。


 視聴者の目が、タイに向いていた。


 プーチン政権にとって、都合のいい話題だった。


 「ロシア人は世界で活躍している」


 「我々の技術は世界一だ」


 そういうナラティブを広めることができた。


---


 SNSでは、ロシア人たちが盛り上がっていた。


 「ロシア人が犯罪と戦っている。誇らしい」


 「西側メディアは、こういうニュースを報じない」


 「ロシア人は世界中で尊敬されている」


 戦争の現実から、目を逸らすことができた。


---


 タイ。


 国内メディアは、大々的に報道した。


 「王宮警察特別捜査班。タイを守る英雄たち」


 ファリダーの顔が、テレビに何度も映った。


 「若き女性警官。犯罪者に立ち向かう勇気」


 国民は熱狂した。


---


 動画サイトでは、ある映像が拡散していた。


 誰かが撮影した、作戦中の映像。


 ターク県の作戦。遠くの山から撮影されたものだった。


 ヘリが接近する。M134が火を噴く。監視塔が崩れる。


 車両が突入する。GAU-19が壁を吹き飛ばす。


 煙が上がる。銃声が響く。


 「すげえ......」


 コメント欄が埋め尽くされた。


 「映画じゃん」


 「本物の戦争だ」


 「タイにこんな部隊がいたのか」


 「最強すぎる」


 再生回数は、三日で一千万回を超えた。


---


 バンコクの街では、特別捜査班のグッズが売られ始めた。


 非公式のTシャツ。マグカップ。ステッカー。


 「CRIME FIGHTERS」と書かれたロゴ。


 若者たちが、それを身につけて歩いていた。


---


 タイ政府は、公式には沈黙していた。


 だが、内部では認識が変わり始めていた。


 「国民は、特別捜査班を支持している」


 「彼らを攻撃すれば、政府への支持が下がる」


 「慎重に対応する必要がある」


 汚職勢力は、動きにくくなった。


---


 そして、日本。


 大炎上していた。


---


 最初に火をつけたのは、週刊誌だった。


 「衝撃! 元自衛官がタイで『戦争』」


 「柏木勇気(38)。元自衛隊特殊作戦群。タイで武装集団を率いる」


 写真は不鮮明だった。だが、「日本人がいる」という情報だけで十分だった。


---


 テレビのワイドショーが取り上げた。


 「日本人が、外国で戦争をしている。これは許されることなのでしょうか」


 コメンテーターが眉をひそめた。


 「元自衛官ということは、日本の税金で訓練を受けた人間ですよね。その技術を、外国で使っている。これは問題ではないでしょうか」


 別のコメンテーターが頷いた。


 「法的にも問題があります。私戦予備罪に該当する可能性があります」


 「日本人として、恥ずかしいです」


---


 SNSは燃え上がった。


 「日本人が人殺しをしている」


 「元自衛官が犯罪者になった」


 「政府は何をしている」


 「即刻辞めさせろ」


 「日本の恥」


 「戦争反対」


---


 野党の議員が国会で質問した。


 「元自衛官が、タイで武装活動を行っているという報道があります。政府は把握しているのですか」


 防衛大臣が答弁した。


 「個人の活動については、コメントを差し控えます」


 「コメントを差し控える? 日本人が外国で戦争をしているんですよ!」


 「当該人物は、既に自衛隊を退職しています。現在の活動について、政府は関知していません」


 「関知していない? それで済むと思っているんですか!」


 議場が騒然となった。


---


 元自衛官のコメンテーターがテレビに出た。


 「柏木という人物は、特殊作戦群にいました。優秀な隊員でした」


 「なぜ辞めたんですか」


 「訓練中の事故で、片目を失ったと聞いています」


 「事故......」


 「その後、民間企業に転職しましたが、うまくいかなかったようです」


 「つまり、落ちこぼれということですか」


 「そうは言っていませんが......」


 「元自衛官が、外国で傭兵になる。これは、自衛隊の教育に問題があるのではないでしょうか」


 「それは......」


---


 ネット掲示板では、柏木の過去が掘り起こされていた。


 「特殊作戦群にいたらしい」


 「訓練事故で片目を失った」


 「除隊後は、外国人労働者の支援機関にいた」


 「退職勧告を受けて辞めた」


 「つまり、クビになった」


 「どこにも居場所がなくて、外国で傭兵になったんだな」


 「惨めな人生だな」


 「自業自得」


---


 擁護する声も、少数だがあった。


 「犯罪者と戦っているんだろ? 悪いことじゃないじゃん」


 「タイでは英雄扱いされているらしい」


 「日本人が活躍しているのに、なんで叩くんだ」


 だが、そういう声は、すぐに埋もれた。


 「犯罪者と戦う方法が間違っている」


 「暴力で解決するのは野蛮」


 「日本人として恥ずかしい」


 「戦争反対」


---


 柏木の母親の家に、マスコミが押しかけた。


 「息子さんがタイで活動していることを知っていましたか」


 母親は何も答えなかった。


 ドアを閉めた。


 それでも、マスコミは帰らなかった。


---


 チェンマイ。


 柏木は、日本のニュースを見ていた。


 画面には、自分の名前が映っている。


 「元自衛官が犯罪者に」


 「日本の恥」


 「即刻辞めさせろ」


 柏木は、煙草に火をつけた。


---


 サラが隣に来た。


 「見ているの」


 「ああ」


 「......ひどいわね」


 「いつものことだ」


 「いつものこと?」


 「日本は、こういう国だ。出る杭は打たれる。正しいことをしても、叩かれる」


 「......」


 「だから、俺は日本を出た」


 柏木は煙草を吸った。


 「俺は、日本人を恨んでいない。だが、日本という国は......合わなかった」


 「合わなかった」


 「ああ。同調圧力。空気を読め。和を乱すな。そういう国だ」


 「......」


 「俺は、正しいと思うことをした。ベトナム人労働者を助けた。犯罪組織と戦った。人を守った」


 「それは、正しいことよ」


 「日本では、正しいことをしても報われない。むしろ、叩かれる」


 「......」


 「だから、ここにいる。タイでは、正しいことが報われる」


 柏木はテレビを消した。


 「日本のことは、もう気にしない。俺は、タイ人だ」


---


 ニコライが入ってきた。


 「ロシアでも報道されている」


 「知っている」


 「俺たちは英雄扱いだ。プーチンに利用されているがな」


 「利用されても構わない」


 「構わないのか」


 「ああ。俺たちがやっていることは変わらない。犯罪者を捕まえる。人を守る。それだけだ」


 「......そうだな」


 ニコライは頷いた。


 「日本の反応は、ひどいな」


 「ひどい」


 「お前は、怒らないのか」


 「怒らない」


 「なぜだ」


 「予想通りだからだ」


 「予想通り......」


 「日本人が日本人を叩く。いつものことだ。俺は、もう日本人じゃない」


 ニコライは柏木を見た。


 「お前は、強いな」


 「強くない。諦めただけだ」


 「諦めた?」


 「日本を変えることを、諦めた。だから、ここにいる」


 「......」


 「ここでは、俺のやることに意味がある。それで十分だ」


---


 川島が入ってきた。


 顔色が悪かった。


 「隊長」


 「どうした」


 「日本の家族から、連絡がありました」


 「......」


 「『お前は何をしているんだ』と。『日本の恥だ』と」


 川島の声が震えていた。


 「俺は......正しいことをしていると思っていました。でも、家族にまで......」


 「......」


 「俺は、間違っているんでしょうか」


---


 柏木は川島の肩に手を置いた。


 「間違っていない」


 「でも......」


 「お前は、正しいことをしている。人を守っている。犯罪者を捕まえている。それは、間違いじゃない」


 「でも、家族が......」


 「家族は、遠くにいる。何が起きているか、分からない。だから、怖いんだ」


 「怖い......」


 「ああ。分からないものは、怖い。だから、叩く」


 「......」


 「お前は、自分が正しいと思うことをしろ。それだけだ」


 川島は俯いていた。


 「......はい」


 「俺たちは、仲間だ。家族が何を言っても、俺たちは仲間だ」


 「......はい」


 川島は少し、顔を上げた。


---


 ファリダーが入ってきた。


 「柏木さん」


 「何だ」


 「タイのSNSを見てください」


 「何がある」


 「応援メッセージが、たくさん来ています」


 ファリダーはスマートフォンを見せた。


 「『ありがとう』『タイを守ってくれてありがとう』『あなたたちは英雄です』」


 「......」


 「日本は叩いているかもしれません。でも、タイは違います。タイ人は、感謝しています」


 柏木は画面を見た。


 タイ語のメッセージが、無数に並んでいた。


 「......そうか」


 「はい。だから、気にしないでください。日本のことは」


 「気にしていない」


 「嘘です」


 「......」


 「柏木さんは、強がっています。でも、傷ついているはずです」


 柏木は何も言わなかった。


 「私たちは、柏木さんの味方です。全員が」


 「......ありがとう」


 「いいえ。当然のことです」


---


 夜。


 柏木は屋上にいた。


 煙草を吸っていた。


 日本のことを、考えていた。


 母親のことを、考えていた。


 もう何年も、連絡を取っていない。


 マスコミに囲まれているだろう。


 迷惑をかけている。


 「......すまない」


 呟いた。


 誰にも聞こえなかった。


---


 サラが来た。


 「まだ起きているの」


 「ああ」


 「眠れない?」


 「少し」


 サラは隣に立った。


 「日本のこと、考えている?」


 「......少し」


 「母親のこと?」


 「......」


 「連絡、取らないの」


 「取れない」


 「なぜ」


 「何を言えばいいか、分からない」


 「......」


 「俺は、日本を捨てた。母親を、捨てた。今さら、何を言えばいい」


 「捨てたんじゃない。離れただけよ」


 「同じことだ」


 「違う」


 サラは柏木を見た。


 「あなたは、正しいことをしている。それを、伝えればいい」


 「伝えても、分かってもらえない」


 「分かってもらえなくても、伝えることに意味がある」


 「......」


 「考えておいて」


 サラは去っていった。


---


 柏木は、空を見上げた。


 星が見える。


 日本でも、同じ星が見えているだろうか。


 母親は、今、何をしているだろうか。


 「......」


 柏木は煙草を消した。


 部屋に戻った。


 眠れない夜が、続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ