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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
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幕間 広報

バンコク。首相官邸。


 緊急閣議が開かれていた。


 「何を考えているんだ!」


 外務大臣が叫んだ。


 「ミャンマー軍の将校を逮捕した! 隣国の軍人だぞ!」


 「元将校です。現役ではありません」


 王宮警察の代表が答えた。


 「元だろうが現役だろうが関係ない! ミャンマー政府が抗議してきている!」


 「抗議は想定内です」


 「想定内だと!?」


---


 首相が手を挙げた。


 「静かに」


 閣議室が静まった。


 「王宮警察に聞く。今回の逮捕は、事前に政府と調整したのか」


 「していません」


 「なぜだ」


 「調整している時間がありませんでした」


 「時間がない?」


 「情報が漏れる可能性があったからです」


 首相の目が細くなった。


 「情報が漏れる。誰から」


 「政府内部からです」


 閣議室がざわついた。


---


 「我々を疑っているのか」


 外務大臣が言った。


 「疑っているわけではありません。可能性を排除しただけです」


 「同じことだ」


 「違います」


 「どう違う」


 「我々は、結果を出しました。二百人以上の犯罪者を逮捕し、二百億バーツの麻薬を押収しました。これが事実です」


 「事実だとしても、外交問題になっている」


 「外交問題は、外務省が処理してください。我々は犯罪を取り締まります」


 外務大臣の顔が真っ赤になった。


---


 首相が再び手を挙げた。


 「この件は、後で個別に協議する。今日の議題は、今後の対応だ」


 「今後の対応?」


 「王宮警察は、特別捜査班の存在を公表すると聞いている」


 「はい。公表します」


 「理由は」


 「国民に知らせるためです。我々が何をしているか。何のために戦っているか」


 「それは政府の判断ではないのか」


 「御方の判断です」


 閣議室が静まり返った。


 御方。


 その言葉の前には、誰も逆らえなかった。


---


 同じ頃。


 チェンマイ。柏木班の拠点。


 夜。二十二時。


 柏木の携帯電話が鳴った。


 大佐からだった。


---


 「報告は聞いた。よくやった」


 「ありがとうございます」


 「だが、政府は大騒ぎだ」


 「聞いています」


 「聞いているなら、次の指示も分かるな」


 「何ですか」


 「公表する。特別捜査班の存在を」


 「公表......」


 「そうだ。記者会見を開く。テレビカメラの前で、お前たちの戦果を発表する」


 「俺たちが出るんですか」


 「代表者が出る。全員ではない」


 「代表者」


 「そうだ。広報に使う。一番のイケメンと美女を決めておけ」


 柏木は少し黙った。


 「......イケメンと美女」


 「そうだ。見栄えが大事だ。国民に好印象を与える必要がある」


 「俺は」


 「お前は駄目だ」


 「なぜですか」


 「強面すぎる。片目で、サングラスで、紅色のシュマグ。テレビに映したら、犯罪者にしか見えない」


 「......」


 「異論は認めない。他の人間を選べ」


 「了解しました」


 電話が切れた。


---


 柏木は全員を集めた。


 会議室。深夜。


 十五人が集まった。


 「大佐から指示があった」


 「何ですか」


 「特別捜査班の存在を公表する。記者会見に代表者を出す」


 「代表者?」


 「イケメンと美女を一人ずつ選べ、だそうだ」


 沈黙。


 そして、騒ぎが始まった。


---


 「俺だな」


 マルティネスが言った。


 「お前?」


 「そうだ。ラテン系はテレビ映えする」


 「根拠がない」


 「根拠はある。俺の顔を見ろ」


 「見た。普通だ」


 「普通じゃない。情熱的だ」


 「情熱的と普通は両立する」


 「......」


---


 ジョンソンが言った。


 「俺だろう」


 「お前?」


 「紳士的な黒人は希少価値がある。テレビ受けする」


 「お前、五十代だろう」


 「四十代後半だ」


 「同じようなものだ」


 「違う。四十代と五十代は全く違う」


 「どう違う」


 「......気持ちの問題だ」


---


 ニコライが言った。


 「俺はどうだ」


 「お前は......」


 全員が黙った。


 「何だ」


 「威圧的すぎる」


 「威圧的?」


 「百九十センチ超えで、金髪で、無精髭で、ロシア人。テレビに映したら、悪役にしか見えない」


 「悪役じゃない。ヒーローだ」


 「見た目の話をしている」


 「......」


---


 ヨナタンは無表情だった。


 「俺は興味がない」


 「お前は......そうだな。無表情すぎる」


 「無表情が悪いのか」


 「テレビでは悪い。笑顔が必要だ」


 「笑えない」


 「分かっている」


---


 川島が言った。


 「僕はどうですか」


 「お前は......」


 全員が川島を見た。


 「普通だな」


 「普通......」


 「普通が悪いわけじゃない。だが、インパクトがない」


 「インパクト......」


 「テレビには、インパクトが必要だ」


 「......そうですか」


 川島は少し落ち込んだ。


---


 プラウィットが言った。


 「僕は、タイ人なので、親しみやすいかもしれません」


 「それはある」


 「タイ人がタイの犯罪を取り締まる。分かりやすい」


 「だが、お前は戦闘要員じゃない」


 「通訳です」


 「通訳がテレビに出ても、インパクトがない」


 「......そうですね」


---


 イーゴリが言った。


 「パイロットはどうだ。パイロットはかっこいいだろう」


 「パイロットはかっこいい。だが、お前の顔は」


 「俺の顔がどうした」


 「疲れている」


 「......それは認める」


---


 ダニエルが言った。


 「俺は最初から候補外だろうな」


 「なぜ」


 「整備士だ。油まみれの男がテレビに出ても」


 「確かに」


 「だろう」


---


 エイブラハムは興味なさそうだった。


 「俺は出たくない」


 「なぜ」


 「面倒だから」


 「......」


---


 カルロスが言った。


 「俺は駄目だ」


 「なぜ」


 「カルテルに顔を知られたくない」


 「......それは確かに問題だな」


---


 柏木が口を開いた。


 「男はマルティネスかジョンソンだな」


 「二人に絞るのか」


 「他に候補がいない」


 「プラウィットは」


 「戦闘要員じゃないと、説得力がない」


 「じゃあ、どっちだ」


 柏木はマルティネスとジョンソンを見た。


 「......ジョンソン」


 「俺か」


 「お前の方が落ち着いている。マルティネスは喋りすぎる」


 「喋りすぎない」


 「喋りすぎる。今も喋っている」


 「......」


 「ジョンソン、頼む」


 「了解した」


---


 「次は女だ」


 柏木が言った。


 女性陣が顔を見合わせた。


---


 サラが言った。


 「私は......向いていないと思う」


 「なぜ」


 「怖いと言われる」


 「怖くないだろう」


 「怖いらしい。元CIDだから」


 「......」


---


 マリーは無表情だった。


 「私は論外だ」


 「なぜ」


 「狙撃手だ。顔を出したくない」


 「それは......確かに」


 「次」


---


 ナターシャが言った。


 「私は事務官よ。戦闘要員じゃない」


 「それを言ったら、ファリダーもラッタナーも」


 「ファリダーは警察官でしょう。ラッタナーは......」


 全員がラッタナーを見た。


---


 ラッタナーは慌てた。


 「わ、私ですか」


 「お前はタイ人で、若くて、親しみやすい」


 「でも、私は戦闘に参加していません」


 「後方支援も重要だ」


 「でも......」


 「テレビ映えする」


 「そうでしょうか......」


---


 ファリダーが言った。


 「私は、人前で話すのが苦手です」


 「苦手でも、できるだろう」


 「緊張して、何も言えなくなるかもしれません」


 「練習すればいい」


 「練習しても......」


---


 柏木は女性陣を見渡した。


 サラ。怖いと言われる。


 マリー。顔を出したくない。


 ナターシャ。戦闘要員じゃない。


 ファリダー。人前で話すのが苦手。


 ラッタナー。戦闘に参加していない。


 「......難しいな」


---


 サラが言った。


 「ファリダーがいいと思う」


 「私ですか」


 「あなたは警察官よ。タイの警察官が、タイの犯罪と戦っている。ストーリーとして分かりやすい」


 「でも......」


 「それに、若くて可愛い。テレビ映えする」


 「可愛い......」


 ファリダーの顔が赤くなった。


---


 ナターシャが同意した。


 「私もファリダーがいいと思う」


 ラッタナーも頷いた。


 「私も」


 マリーは無表情だった。


 「異論はない」


---


 柏木は頷いた。


 「決まりだ。ジョンソンとファリダー」


 「え、私......」


 「頼む」


 「でも......」


 「お前なら、できる」


 ファリダーは柏木を見た。


 柏木の目は、真剣だった。


 「......分かりました。やります」


 「よし」


---


 川島が小さく言った。


 「ファリダーさん、テレビに出るんですね......」


 「はい......緊張しますけど」


 「僕、応援します」


 「ありがとうございます」


 二人の間に、何かが流れた。


---


 マルティネスが言った。


 「俺は選ばれなかったか」


 「残念だったな」


 「残念だ。ラテンの魅力を見せたかった」


 「次の機会があるかもしれない」


 「あるといいな」


---


 ニコライが言った。


 「俺も選ばれなかった」


 「威圧的だからな」


 「威圧的じゃない」


 「威圧的だ」


 「......次は俺が出る」


 「威圧感を消せたらな」


 「消せる」


 「本当か」


 「......たぶん」


---


 深夜の会議は、こうして終わった。


 男はジョンソン。


 女はファリダー。


 記者会見は、三日後に行われる。


---


 翌日。


 ファリダーは緊張していた。


 「何を話せばいいんでしょう」


 サラが言った。


 「事実を話せばいい。私たちが何をしているか。なぜ戦っているか」


 「でも......」


 「大丈夫。あなたなら、できる」


 「本当ですか」


 「本当よ。自信を持って」


---


 ジョンソンは落ち着いていた。


 「テレビは初めてじゃない」


 「出たことがあるんですか」


 「CIDの時に、何度か。慣れている」


 「羨ましいです」


 「慣れだ。回数をこなせば、誰でもできる」


 「そうでしょうか」


 「そうだ」


---


 三日後。


 バンコク。王宮警察本部。


 記者会見が開かれた。


 テレビカメラが並んでいる。記者が五十人以上。


 ジョンソンとファリダーが、壇上に立った。


---


 ジョンソンが最初に話した。


 流暢な英語。落ち着いた声。紳士的な態度。


 「我々は、タイの犯罪組織と戦っています。麻薬、人身売買、武器密輸。すべてを止めるために」


 記者たちがメモを取っている。


 「これまでに、二十三の組織を制圧しました。千二百人以上を逮捕しました。麻薬は八百億バーツ相当を押収しました」


 どよめきが起きた。


 「我々は、止まりません。タイから犯罪を一掃するまで」


---


 次に、ファリダーが話した。


 最初は緊張していた。声が震えていた。


 だが、話しているうちに、落ち着いてきた。


 「私は、タイ人です。タイの警察官です」


 記者たちがファリダーを見た。若い。可愛い。だが、目に力がある。


 「私は、この国を守りたい。この国の人々を守りたい。だから、戦っています」


 「犯罪者は、私たちを恐れています。逃げる場所はありません。私たちは、必ず捕まえます」


 ファリダーの声は、もう震えていなかった。


 「これが、特別捜査班です」


---


 記者会見は、大成功だった。


 テレビで放送された。新聞に載った。SNSで拡散された。


 「王宮警察の特別捜査班」「犯罪組織を壊滅させる精鋭部隊」「若き女性警官の決意」


 見出しが躍った。


---


 チェンマイ。


 柏木はテレビを見ていた。


 ファリダーが映っている。堂々と話している。


 「よくやった」


 呟いた。


---


 大佐から電話が来た。


 「成功だ」


 「はい」


 「ファリダーは良かった。ジョンソンも」


 「ありがとうございます」


 「これで、国民は我々の味方になった。政府も、簡単には動けなくなる」


 「政治の話ですか」


 「そうだ。お前は気にするな。戦いに集中しろ」


 「了解しました」


 「次の作戦は、一週間後だ。準備しておけ」


 「了解しました」


---


 電話が切れた。


 柏木は窓の外を見た。


 チェンマイの夜空。星が見える。


 政治が動いている。


 だが、俺たちは止まらない。


 やるべきことをやる。


 それだけだ。

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