幕間 武装
バンコク。王宮警察本部。
会議室に、いつものメンバーが集まっていた。
ウィチャイ大佐、チャイロン少佐、ナロン、そして柏木。
議題は作戦報告と今後の方針だった。
はずだった。
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「百二十億バーツか」
ウィチャイ大佐が報告書を見た。
「そうです」
「一回の作戦で、これだけの成果。素晴らしい」
「ありがとうございます」
「負傷者は」
「三人。全員軽傷です。既に復帰しています」
「死者は」
「ゼロです」
大佐は頷いた。
「装備を変えた効果が出ているな」
「はい。プレートキャリアがなければ、俺は死んでいました」
「だから言っただろう」
「はい。感謝しています」
大佐は少し満足そうな顔をした。
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「だが、問題がある」
大佐は立ち上がった。
「問題ですか」
「ヘリだ」
「ヘリに何か」
「武装がない」
柏木は少し黙った。
「......確かに、UH-1には武装がありません」
「輸送ヘリとしては十分だ。だが、戦闘地域で運用するには不安がある」
「敵の対空火器が」
「そうだ。今回は敵にRPGがあった。次はもっと重武装になる可能性がある。丸腰のヘリでは危険だ」
「武装を付けるということですか」
「そうだ」
大佐の目が光った。
「どんな武装がいいと思う」
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その瞬間、会議室の空気が変わった。
大佐の声のトーンが変わっていた。
公式の報告会から、何か別のものに。
チャイロン少佐が小さくため息をついた。
「大佐、また始まりましたか」
「何がだ」
「趣味の話です」
「趣味ではない。実務的な議論だ」
「......はい」
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大佐はホワイトボードに向かった。
「まず、基本的な選択肢を挙げる」
マーカーを手に取った。
「一、M60機関銃。ドアガンとして使用。7.62ミリ。毎分五百五十発。信頼性が高い」
書きながら、熱く語り始めた。
「二、M134ミニガン。毎分三千発から六千発。圧倒的な火力。だが、弾薬消費が激しい」
「三、ロケットポッド。ハイドラ70。対地攻撃に有効。だが、精度に難がある」
「四、グレネードランチャー。Mk19。四十ミリ。面制圧に優れる」
大佐は振り返った。
「私はミニガンを推す」
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柏木は少し驚いていた。
大佐がこんなに熱くなるのは初めて見た。
「ミニガンですか」
「そうだ。毎分六千発。敵が何人いようと、一掃できる」
「弾薬消費が激しいと、さっき言いましたが」
「補給すればいい。火力は正義だ」
「......」
チャイロン少佐が口を挟んだ。
「大佐。ミニガンは維持費が高いです」
「予算はある」
「それでも」
「火力は正義だ」
「......」
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ナロンが発言した。
「M60の方が現実的では。タイ軍でも運用実績があります」
「M60は古い」
大佐が即座に否定した。
「信頼性は高いですが」
「古い。ロマンがない」
「ロマン......ですか」
「そうだ。どうせ武装するなら、最高のものを使うべきだ」
チャイロン少佐が頭を抱えた。
「大佐、これは実務の議論です」
「実務だ。火力は実務だ」
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柏木は黙って聞いていた。
大佐がこんな一面を持っているとは知らなかった。
「柏木、お前はどう思う」
大佐が聞いた。
「俺は......近接戦闘が専門なので、ヘリの武装には詳しくありません」
「意見を聞いている」
「......強いて言えば、ミニガンは重すぎるのでは。UH-1の積載量を考えると」
「積載量は何とかなる」
「本当ですか」
「何とかする」
「......」
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会議室のドアが開いた。
ニコライが入ってきた。
「呼ばれたから来た。何の話だ」
「ヘリの武装についてだ」
大佐が答えた。
「武装?」
「UH-1に武装を付ける。何がいいと思う」
ニコライの目が光った。
「ヤクシャスを付けろ」
「何だ、それは」
「Yak-B。ソ連製の四連装機関銃だ。12.7ミリ。毎分四千五百発」
「ソ連製か」
「最高の機関銃だ」
大佐が首を振った。
「却下だ。ソ連製は部品の調達が難しい」
「アメリカ製より優れている」
「優れていても、部品がなければ動かない」
「......」
ニコライは不満そうだった。
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ジョンソンも呼ばれていた。
「GAU-19を推す」
「何だ、それは」
「.50口径のガトリングガン。毎分二千発。M134より威力がある」
「重くないか」
「重い。だが、威力は正義だ」
大佐が頷いた。
「いい考えだ。だが、UH-1には載らない」
「載せろ」
「物理的に無理だ」
「......」
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ヨナタンも来ていた。
「ラファエルのミニ・タイフーンはどうだ」
「イスラエル製か」
「そうだ。リモート操作式の銃塔。7.62ミリ。精度が高い」
「面白いな」
大佐が興味を示した。
「ドアガンより安全だ。パイロットが操作できる」
「コストは」
「高い」
「どれくらい高い」
「ミニガン三丁分くらいだ」
「却下だ」
「......」
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マルティネスが口を挟んだ。
「M240でいいだろう。シンプルで信頼性が高い。部品も調達しやすい」
「つまらん」
大佐が言った。
「つまらん、ですか」
「M240は普通すぎる。ロマンがない」
「実用性が」
「ロマンだ」
「......」
マルティネスは黙った。
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チャイロン少佐が立ち上がった。
「大佐。そろそろ決めましょう」
「まだ議論が足りない」
「十分です。一時間も議論しています」
「一時間しか経っていない」
「一時間もです」
大佐は不満そうだった。
「......分かった。結論を出す」
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大佐はホワイトボードを見た。
「現実的な選択肢は三つ。M60、M240、M134」
「ミニ・タイフーンは」
ヨナタンが聞いた。
「予算オーバーだ」
「......」
「Yak-Bは」
ニコライが聞いた。
「部品がない」
「......」
「GAU-19は」
ジョンソンが聞いた。
「重すぎる」
「......」
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大佐は少し考えた。
「M134にする」
「ミニガンですか」
チャイロン少佐が聞いた。
「そうだ。火力は正義だ」
「弾薬消費は」
「補給すればいい」
「維持費は」
「予算を取る」
「......分かりました」
チャイロン少佐は諦めた顔をしていた。
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「それと、もう一つ」
大佐が言った。
「何ですか」
「ドアガンとしてM60も付ける。両側に」
「両方付けるんですか」
「そうだ。ミニガンは前方、M60は側面。これで全方位をカバーできる」
「積載量は」
「人員を減らせば載る」
「人員を減らす......」
「突入班は五人だろう。四人でもいい」
柏木が口を挟んだ。
「四人では足りません」
「なら、武装を減らすか」
「......」
「冗談だ。両方載せる方法を考える」
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会議は終わった。
結論。
UH-1にM134ミニガン一門、M60機関銃二門を搭載。
予算は大佐が何とかする。
積載量も大佐が何とかする。
「何とかする」が多すぎる気がしたが、誰も突っ込まなかった。
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会議室を出た後、チャイロン少佐が柏木に近づいた。
「すまない」
「何がですか」
「大佐の趣味に付き合わせて」
「趣味ですか」
「大佐は、ああ見えて銃器マニアなんだ。特にヘリの武装には詳しい」
「気づきました」
「普段は冷静なんだが、この話題になると止まらない」
「......」
「まあ、結果的には良い武装になるはずだ。大佐の目は確かだから」
「そうですか」
「そうだ。任せておけ」
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ニコライが近づいてきた。
「Yak-Bは却下されたが、ミニガンも悪くない」
「そうか」
「毎分六千発だぞ。ロマンがある」
「お前も趣味の話か」
「趣味ではない。実務だ」
「......」
ジョンソンも来た。
「GAU-19が載らないのは残念だ」
「重すぎると言われただろう」
「重くても威力がある」
「積載量の問題だ」
「積載量より威力だ」
「......」
ヨナタンも来た。
「ミニ・タイフーンが却下されたのは理解できない」
「予算オーバーだと言われただろう」
「イスラエル製は高いが、性能は最高だ」
「高すぎる」
「性能は価格に見合う」
「......」
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柏木は一人で廊下を歩いた。
全員が武装の話で熱くなっていた。
大佐も、ニコライも、ジョンソンも、ヨナタンも。
男というのは、こういう話が好きなのかもしれない。
柏木は煙草を取り出した。
火をつけた。
「俺はベレッタ一丁でいい」
呟いた。
誰も聞いていなかった。




