第13話 総力
ターク県。ミャンマー国境沿い。
午前三時。
山の稜線に、柏木班が展開していた。
全員が戦闘装備。プレートキャリア。王宮警察のエンブレム。タイ国旗。
柏木は双眼鏡で下を見た。
谷間に、巨大な施設が広がっていた。
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「でかいな」
ニコライが言った。
「ああ」
建物が二十棟以上。倉庫、製造施設、宿舎、事務所。
鉄条網で囲まれている。監視塔が六つ。機関銃座が四つ。
車両が十台以上停まっている。トラック、ピックアップ、装甲車まである。
「装甲車があるぞ」
ジョンソンが言った。
「見えている」
「GAU-19で抜けるか」
「抜ける。.50口径だ」
「よし」
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マリーが狙撃ポイントに着いた。
「位置についた。目標を視認」
「敵の数は」
「外に見えるのは......三十人以上。中にはもっといる」
「推定は」
「二百人以上。情報通りだ」
柏木は頷いた。
「予定通りやる」
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作戦は単純だった。
全火力を投入する。
正面から叩く。
派手にやる。
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「編成を確認する」
柏木が言った。
「第一波。ヘリによる強襲。俺、ニコライ、ヨナタン。M134で制圧射撃をかけながら降下」
「第二波。車両突入。ジョンソンのGAU-19搭載Hiluxが先頭。マルティネス、サラ、ファリダーが続く」
「第三波。マリーの狙撃支援。監視塔と機関銃座を潰す」
「後方支援。川島とカルロスが通信管制。アレクセイが医療待機。エイブラハム、イーゴリ、ダニエルが車両とヘリを運用」
「全員、役割は分かったな」
「了解」
十五人の声が重なった。
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午前三時三十分。
作戦開始。
UH-1のローターが回り始めた。
イーゴリが操縦桿を握った。
「離陸する」
ヘリが浮き上がった。
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柏木、ニコライ、ヨナタンが乗っている。
M134ミニガンが機首に据えられている。
M60が両側のドアに。
「高度を下げる。三、二、一」
ヘリが急降下した。
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施設が近づいてくる。
監視塔の見張りが気づいた。
サイレンが鳴り始めた。
遅い。
「撃て」
M134が火を噴いた。
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毎分六千発。
監視塔が粉砕された。木片と金属片が飛び散る。
次の監視塔。
粉砕。
機関銃座。
粉砕。
「大佐の言う通りだな」
ニコライが叫んだ。
「何が」
「火力は正義だ」
M134の轟音の中で、ニコライは笑っていた。
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マリーが狙撃を開始した。
千メートル先。
監視塔から逃げようとする男。
一発。
倒れた。
次。機関銃座に駆け寄る男。
一発。
倒れた。
「三つ目の監視塔、クリア」
「四つ目、クリア」
「機関銃座、全滅」
マリーの声は平坦だった。
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「降下する」
イーゴリがヘリを低空で安定させた。
柏木がロープを握った。
「行くぞ」
三人が降下した。
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地面に着いた瞬間、走り出した。
敵が集まってきている。建物から飛び出してくる。
AKの銃声が響く。
柏木は止まらなかった。
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紅色のシュマグが風に揺れる。
ベレッタを抜いた。体の中心に引き付ける。
敵。十五メートル。
走りながら撃った。
肩に命中。倒れた。
次。十メートル。
撃った。腹に命中。
次。八メートル。
銃を向けてくる。
柏木は距離を詰めた。五メートル。
敵が発砲。弾は横を抜けた。
三メートル。
敵のAKを左手で掴んだ。上に逸らす。
右手のベレッタを敵の脇腹に押し当てた。
撃った。
敵が崩れた。AKを奪った。
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ニコライが横で戦っていた。
AK-103を腰だめで撃っている。
「来るぞ、右から五人!」
柏木は振り向いた。
奪ったAKで撃った。
一人が倒れた。
ニコライが残りを撃った。
四人が倒れた。
「クリア」
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ヨナタンは影のように動いていた。
タボールを構えて、建物の陰から陰へ。
敵が気づいた時には、既に撃たれていた。
「左翼、クリア」
ヨナタンの声。
「中央に向かう」
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その時、地響きが聞こえた。
正門の方向。
車両が突入してきた。
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先頭はジョンソンのHilux。
荷台にGAU-19が据えられている。
ジョンソンが銃座についていた。
「突入する!」
GAU-19が火を噴いた。
.50口径。毎分二千発。
正門の鉄柵が吹き飛んだ。
見張りの詰所が粉砕された。
「道を開けろ!」
ジョンソンは笑っていた。
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装甲車が動き出した。
敵の装甲車。機関銃を搭載している。
Hiluxに向かってくる。
「装甲車だ!」
運転しているエイブラハムが叫んだ。
「任せろ」
ジョンソンがGAU-19の銃口を向けた。
.50口径の弾丸が、装甲車に叩き込まれた。
一発。二発。三発。
装甲が貫通した。
装甲車が停止した。煙を上げている。
「抜けた!」
「.50口径は伊達じゃないな!」
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二台目のHiluxが続いた。
マルティネスがM240を構えている。
窓から身を乗り出して、建物に向かって撃っている。
「右の建物から敵!」
「見えている!」
M240が火を噴いた。
建物の窓が粉砕された。敵の射撃が止まった。
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三台目のHilux。
サラとファリダーが乗っている。
サラが運転。ファリダーが助手席からHK416を撃っている。
「前方クリア!」
「左に回り込む!」
車が急旋回した。
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施設の中央。
大きな倉庫がある。
敵が集結している。五十人以上。
「本丸だな」
柏木が言った。
ニコライとヨナタンが合流した。
「三人で五十人か」
「問題あるか」
「ない」
ニコライはPKMを構えた。
「援護する。お前は突っ込め」
「了解」
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ニコライがPKMを撃ち始めた。
7.62ミリ弾が、敵の陣地に降り注ぐ。
敵が頭を下げた。
その隙に、柏木が走った。
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距離が縮まる。
三十メートル。二十メートル。
敵が頭を上げた。柏木を見た。
銃を向けようとした。
遅い。
柏木は既に十メートルまで詰めていた。
奪ったAKを撃った。
二人が倒れた。
弾が切れた。
AKを投げた。敵の顔面に当たった。
ベレッタを抜いた。
五メートル。
撃った。一人。
撃った。二人。
三メートル。
敵が殴りかかってきた。
柏木は体を沈めた。拳が頭上を通過した。
立ち上がりざま、肘を敵の顎に叩き込んだ。
敵が崩れた。
その敵のAKを奪った。
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ヨナタンが別方向から突入していた。
タボールを撃ちながら、敵の側面を突く。
「右翼、制圧中」
ヨナタンの声。
敵が混乱している。正面からも側面からも攻撃されている。
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ジョンソンのHiluxが倉庫の前に停まった。
GAU-19が倉庫の壁に向かって撃った。
壁に穴が開いた。大きな穴。
「入り口を作った!」
「感謝する!」
柏木は穴から倉庫に突入した。
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中は広かった。
麻薬の袋が山積みになっている。
武器の箱もある。
そして、敵が三十人以上。
「来たな」
奥から声が聞こえた。
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男が立っていた。
五十代。大柄。軍服を着ている。階級章がある。
ミャンマー軍の将校。
「お前が柏木か」
「そうだ」
「噂は聞いている。王宮警察の狂犬」
「狂犬か。悪くない」
「褒めていない」
「分かっている」
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将校の周りに、部下が銃を構えている。
「ここで死ね」
「断る」
柏木は動かなかった。
「強がりか」
「強がりじゃない。お前たちの負けだ」
「負け? 数を見ろ。お前は一人だ」
「一人じゃない」
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その時、壁が崩れた。
ジョンソンのHiluxが倉庫に突っ込んできた。
GAU-19が火を噴いた。
敵が吹き飛んだ。
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同時に、天井のガラスが割れた。
マリーの狙撃。
将校の隣にいた男が倒れた。
「狙撃手!」
敵が混乱した。
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柏木は走った。
将校に向かって。
敵が銃を向けてくる。
柏木は撃ちながら走った。奪ったAK。
一人倒した。二人倒した。
弾が切れた。
AKを投げた。三人目の顔に当たった。
ベレッタを抜いた。
四人目。撃った。
五人目。撃った。
将校まで、あと五メートル。
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将校が拳銃を向けた。
柏木は止まらなかった。
将校が撃った。
弾が柏木の左肩を掠めた。紅色のシュマグに血が滲んだ。
止まらない。
三メートル。
将校がもう一度撃とうとした。
柏木は将校の手首を掴んだ。外側に捻った。
銃が落ちた。
ベレッタを将校の額に当てた。
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「終わりだ」
柏木の声は静かだった。
将校は動かなかった。
「......殺すのか」
「殺さない。お前は逮捕だ」
「逮捕? 俺はミャンマー軍の将校だぞ」
「元、だろう。今は犯罪者だ」
「......」
「膝をつけ」
将校は膝をついた。
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午前五時。
制圧完了。
作戦開始から一時間三十分。
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敵の構成員、二百十七人を確保。
死者、三十一人。
重傷者、四十八人。
味方の負傷者、四人。全員軽傷。
押収した麻薬、末端価格で二百億バーツ相当。
押収した武器、三百丁以上。
押収した現金、八億バーツ。
そして、ミャンマー軍元将校の身柄。
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柏木は倉庫の前に立っていた。
紅色のシュマグに血が滲んでいる。左肩の傷だ。
アレクセイが駆け寄ってきた。
「見せろ」
「掠り傷だ」
「見せろ」
柏木はプレートキャリアを外した。
アレクセイが傷を確認した。
「浅い。縫う必要はない」
「だろう」
「だが、また増えたな。傷が」
「慣れている」
「慣れるな。そのうち、慣れでは済まなくなる」
「......」
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全員が集まってきた。
十五人。全員が無事だった。
「やったな」
ジョンソンが言った。
「ああ」
「GAU-19、最高だった」
「壁に穴を開けたのは助かった」
「いつでも開ける。言ってくれ」
「頼む」
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ニコライが言った。
「二百人以上を、十五人で制圧した」
「そうだな」
「世界記録じゃないか」
「記録は興味ない」
「つまらん奴だ」
「よく言われる」
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マリーが山から降りてきた。
「十二発撃った。十二人倒した」
「外さなかったのか」
「外さない」
「千メートルでも」
「千二百メートルだった。スコープのおかげだ」
「大佐に感謝しろ」
「している」
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サラが柏木の横に来た。
「また怪我したの」
「掠り傷だ」
「掠り傷でも怪我よ」
「分かっている」
「分かっているなら、もう少し気をつけて」
「気をつけている」
「嘘ね」
「......」
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ファリダーが報告した。
「王宮警察の後方支援部隊が到着します。三十分後です」
「了解。それまで現場を確保しろ」
「分かりました」
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川島が近づいてきた。
「隊長」
「何だ」
「バンコクから連絡です。大佐から」
「内容は」
「『派手にやったな。だが、気をつけろ。政治が動いている』」
「政治か」
「はい」
柏木は空を見上げた。
朝日が昇り始めていた。
「政治は大佐に任せる。俺たちは、やるべきことをやる」
「やるべきこと」
「犯罪者を捕まえる。麻薬を止める。人を守る。それだけだ」
「......はい」
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ヘリのローターが回り始めた。
撤収の準備だ。
柏木は施設を見渡した。
煙が上がっている。壁には穴が開いている。
派手にやった。
大佐の指示通りだ。
だが、これで終わりじゃない。
まだ、戦いは続く。




