第11話 三角地帯
夜明け前。
チェンマイ北部。山岳地帯。
十五人が集結していた。
全員が新しい戦闘装備を身につけている。
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柏木は黒のコンバットシャツにプレートキャリア。セラミックプレートが入っている。7.62ミリ弾も止められる。
首には紅色のシュマグを巻いていた。唯一の色。
左胸に王宮警察のエンブレムパッチ。右肩にタイ国旗。
ショルダーホルスターにベレッタM92FS。これだけは変わらない。
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ニコライは黒のタクティカルギアにAK-103。首に黒のバラクラバを下げている。
ジョンソンは黒のスリーピース風コンバットシャツにHK416。左手に金の腕時計が光っている。
マルティネスは黒のコンバットシャツにHK416。首にシルバーのクロスネックレス。
サラは黒のタイトなコンバットシャツにHK416コンパクト。金髪を後ろで結んでいる。
ファリダーは黒のコンバットシャツにHK416。首にタイシルクのスカーフを巻いている。紫に金刺繍。
ヨナタンは黒のタクティカルギアにタボール。無表情。
マリーは黒のギリースーツの上にプレートキャリア。背中にAI AXMCを背負っている。
川島は黒のコンバットシャツに通信機器。グロック17を腰に。
全員が王宮警察のエンブレムとタイ国旗を身につけていた。
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支援要員も準備が整っていた。
イーゴリはパイロットスーツ。UH-1の横に立っている。
ダニエルは整備用のツナギ。ヘリの最終点検をしている。
エイブラハムはHiluxの運転席にいる。
カルロスは通信機器を抱えている。川島と連携する。
ナターシャとラッタナーは後方の指揮所に残る。
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「作戦を確認する」
柏木が全員を見渡した。
「目標はメーサイ北部の製造拠点。ミャンマー国境から五キロの地点だ」
地図を広げた。
「敵の構成員は百人以上。武装は自動小銃、機関銃、RPGも確認されている」
「百人か」
ニコライが呟いた。
「俺たちは十五人。うち戦闘要員は九人」
「九人で百人」
「問題あるか」
「ない」
ニコライは笑った。
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「作戦は三段階に分かれる」
柏木は続けた。
「第一段階。マリーが狙撃ポイントに展開。監視塔と機関銃座を無力化する」
マリーが頷いた。
「第二段階。UH-1で突入班が降下。俺、ニコライ、ジョンソン、マルティネス、ヨナタンの五人。正面から突入する」
「また正面からか」
「また正面からだ」
「狂っているな」
「いつものことだ」
「第三段階。サラ、ファリダー、川島が車両で裏口を押さえる。逃げる敵を捕捉。エイブラハムが運転」
「了解」
「アレクセイは医療待機。カルロスは通信管制。イーゴリは離脱用にヘリを待機させる」
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「質問は」
沈黙。
「では、始める」
全員が動き出した。
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午前五時。
まだ暗い。
UH-1のローターが回り始めた。
柏木、ニコライ、ジョンソン、マルティネス、ヨナタンが乗り込んだ。
イーゴリが操縦桿を握った。
「離陸する」
ヘリが浮き上がった。
山の稜線を越えて、北へ向かう。
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マリーは別ルートで移動していた。
エイブラハムが運転するHiluxで、山道を登る。
「ここで降りる」
マリーは車を降りた。
背中にAI AXMCを背負い、山の斜面を登り始めた。
「狙撃ポイントまで二十分。着いたら連絡する」
「了解」
マリーの姿が暗闘の中に消えた。
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午前五時二十分。
マリーから連絡が入った。
「狙撃ポイントに到着。目標を視認」
「状況は」
「監視塔が三つ。機関銃座が二つ。見張りは......十二人確認」
「多いな」
「問題ない。順番に落とす」
「待機しろ。合図があるまで撃つな」
「了解」
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午前五時三十分。
UH-1が目標上空に接近した。
まだ暗い。だが、東の空が少し明るくなり始めていた。
柏木は下を見た。
製造拠点が見える。建物が十棟以上。鉄条網で囲まれている。中央に大きな倉庫。あれが本丸だ。
「降下準備」
全員がロープを握った。
「マリー、始めろ」
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狙撃が始まった。
最初の弾が、監視塔の見張りを撃ち抜いた。
音は聞こえない。サプレッサーを使っている。
二発目。別の監視塔。
三発目。機関銃座。
四発目。五発目。
十秒で五人が倒れた。
敵はまだ気づいていない。
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「降下」
柏木がロープを滑り降りた。
五人が次々と降下する。
地面に着いた瞬間、走り出した。
敵が気づいた。叫び声が上がる。銃声が響く。
だが遅い。
柏木たちは既に建物の陰に入っていた。
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「散開。俺とニコライが正面。ジョンソンとマルティネスは左翼。ヨナタンは右翼」
「了解」
五人が三方向に分かれた。
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柏木とニコライが正面の建物に向かった。
敵が飛び出してきた。AKを持っている。
ニコライが先に撃った。AK-103。二人が倒れた。
柏木は走り続けた。
距離が縮まる。十メートル。八メートル。
敵が銃を向けた。
柏木はベレッタを抜いた。体の中心に引き付ける。体ごと目標に向ける。
撃った。
敵の肩に命中。倒れた。
止まらない。前に出る。
次の敵。五メートル。
ベレッタを撃った。腹に命中。
敵が倒れる時、AKを掴んだ。奪い取った。
そのまま前進。
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建物に入った。
中は暗い。廊下が続いている。
足音が聞こえた。複数。
柏木は壁に背をつけた。
敵が角から飛び出してきた。三人。
奪ったAKを腰だめで撃った。
一人が倒れた。
残り二人が銃を向ける。
柏木は前に出た。
距離を詰める。四メートル。三メートル。
AKの弾が切れた。
投げた。敵の顔面に当たる。
その隙にベレッタを抜いた。
二メートル。
一人の胸を撃った。
もう一人が銃口を向ける。
柏木は銃身を掴んだ。外側に捻る。男が叫んだ。
ベレッタを男のこめかみに当てた。
「動くな」
男は動かなくなった。
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ニコライが追いついてきた。
「相変わらず速いな」
「遅れるな」
「遅れていない。お前が速すぎるだけだ」
柏木は男を壁に押し付けて拘束した。
「奥に進む」
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左翼。
ジョンソンとマルティネスが建物を制圧していた。
「クリア」
ジョンソンが報告した。
「敵は」
「八人確保。死者なし」
「よし。中央倉庫に向かえ」
「了解」
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右翼。
ヨナタンは一人で動いていた。
無音。影のように。
敵が気づいた時には、既に背後にいた。
ナイフが閃いた。
一人が倒れた。
次の敵が振り向いた。
タボールが火を噴いた。サプレッサー付き。
二人が倒れた。
「右翼、クリア」
ヨナタンの声は平坦だった。
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中央倉庫。
敵が集結していた。
二十人以上。全員が武装している。
倉庫の入り口に機関銃が据えられていた。
「マリー、機関銃座を潰せ」
柏木が指示した。
三秒後。
機関銃手の頭が弾けた。
「クリア」
マリーの声。
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「突入する」
柏木が先頭で走った。
ニコライが続く。
ジョンソン、マルティネス、ヨナタンも合流した。
五人が倉庫に突入した。
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中は広かった。
麻薬の袋が山積みになっている。製造設備がある。
そして、敵が二十人以上。
銃撃戦が始まった。
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柏木は止まらなかった。
撃ちながら前に出る。
敵が撃ち返す。弾が周囲を飛び交う。
プレートキャリアに弾が当たった。衝撃が走る。だが貫通しない。
止まらない。
五メートル。
敵の一人に接近した。
AKを持っている。銃口を向けてくる。
柏木は体を低くした。
銃身の下を潜る。左手で銃を押し上げる。発砲。弾は天井に当たった。
右手のベレッタを男の脇腹に押し当てた。
撃った。
男が崩れる。AKを奪った。
そのまま振り返る。
次の敵。三メートル。
奪ったAKで撃った。
倒れた。
次。
次。
次。
撃つ。進む。奪う。また撃つ。
一連の動作が流れるように繋がっていた。
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ニコライは柏木の動きを見ていた。
止まらない。
撃たれても止まらない。
敵を倒し、武器を奪い、また撃つ。
流れる水のように。止められない。
「......化け物だな」
ニコライは呟いた。
そして、自分も撃ち続けた。
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ジョンソンとマルティネスが側面から攻めた。
「左から三人!」
「見えている!」
HK416が火を噴いた。
敵が倒れた。
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ヨナタンは単独で動いていた。
影から影へ。
敵が気づいた時には、既に撃たれていた。
タボールは正確だった。一発一殺。
「ヨナタン、北側をクリアしろ」
「了解」
ヨナタンが消えた。
十秒後。
「北側、クリア」
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倉庫の奥。
男が一人、逃げようとしていた。
高価な服を着ている。ボスだ。
柏木が追った。
男がドアを開けて外に出た。
柏木も続いた。
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外に出ると、裏口だった。
Hiluxが停まっている。
サラとファリダーが銃を構えていた。
男は足を止めた。
前に柏木。後ろにサラとファリダー。
逃げ場がない。
「終わりだ」
柏木が言った。
男は両手を上げた。
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午前六時十五分。
制圧完了。
作戦開始から四十五分。
敵の構成員、百十三人を確保。死者十二人。重傷者二十三人。
味方の負傷者は三人。全員が軽傷。
倉庫から押収された麻薬は、末端価格で百二十億バーツ相当。
製造設備も全て破壊された。
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柏木は倉庫の前に立っていた。
紅色のシュマグが風に揺れている。
プレートキャリアに弾痕が三つあった。全て止まっていた。
大佐の言う通りだった。スーツでは死んでいた。
ニコライが近づいてきた。
「生きているか」
「生きている」
「何発食らった」
「三発」
「俺は二発だ。お前の勝ちだな」
「勝負じゃない」
「冗談だ」
ニコライは笑った。
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全員が集まった。
十五人。全員が無事だった。
マリーが山から降りてきた。
「八発撃った。八人倒した」
「外さなかったのか」
「外さない。言っただろう」
ヨナタンが言った。
「彼女は本物だ」
「お前もな」
ジョンソンが付け加えた。
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イーゴリがヘリを着陸させた。
「迎えに来た」
「ありがとう」
「礼は要らない。これが仕事だ」
ダニエルがヘリから降りてきた。
「機体に損傷はない。帰れる」
「よし」
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柏木は空を見上げた。
朝日が昇り始めていた。
ゴールデン・トライアングルの中心部を叩いた。
だが、まだ終わりじゃない。
「次はどこだ」
サラが聞いた。
「まだ決まっていない。だが、すぐに来る」
「休む暇はないのね」
「ない」
サラは少し笑った。
「分かっていたわ」
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川島が近づいてきた。
「隊長」
「何だ」
「やっぱり、隊長についてきて良かったです」
「なぜだ」
「こういう戦いがしたかったからです。正しいことのために戦う。それができる場所を、ずっと探していました」
柏木は川島を見た。
「......そうか」
「はい」
「なら、これからも頼む」
「はい。任せてください」
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ヘリのローターが回り始めた。
全員が乗り込んだ。
UH-1がゆっくりと浮き上がった。
眼下に、制圧された製造拠点が見える。
煙が上がっている。
柏木は窓の外を見た。
ゴールデン・トライアングル。
麻薬の生産地帯。
ここを潰せば、何百万人もの人間が救われる。
それが、俺たちの仕事だ。
ヘリは南へ向かった。
チェンマイへ帰還する。




