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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
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第9話 奔走

一週間が過ぎた。


 全員が動いていた。


 作戦を続けながら、同時に人材を探す。睡眠時間を削って、連絡を取り、交渉し、説得する。


 条件は厳しかった。


 タイに来ること。タイ国籍を取ること。危険な仕事をすること。給料は安い。保証はない。


 それでも来る人間を探していた。


---


 柏木は諦めて、自衛隊時代の元部下に連絡を取った。


 特殊作戦群で一緒だった人間。除隊して、今は民間にいる者たち。


 三人に連絡した。


 一人目は断った。家族がいる。子供が生まれたばかりだと。


 二人目も断った。今の仕事が安定している。リスクを取る理由がないと。


 三人目。


 川島誠。三十二歳。元特殊作戦群の通信担当。柏木が小隊長だった頃の部下だ。


 「タイですか」


 電話の向こうで、川島の声が響いた。


 「そうだ。来れるか」


 「......今、何をしているんですか」


 「対犯罪組織捜査班だ。王宮警察の下で動いている」


 「王宮警察」


 「そうだ」


 「隊長らしいですね」


 「何がだ」


 「どこに行っても、戦っている」


 沈黙があった。


 「条件は厳しい。タイ国籍を取る必要がある。日本人じゃなくなる」


 「......」


 「断っても構わない。無理強いはしない」


 「隊長」


 「何だ」


 「俺、今の仕事が嫌いなんです」


 「何をしている」


 「セキュリティ会社です。金持ちの護衛。つまらない仕事です」


 柏木は黙って聞いていた。


 「特殊作戦群を辞めてから、ずっと退屈でした。何のために訓練したのか分からなくなった」


 「......」


 「行きます。タイに」


 「本当か」


 「本当です。隊長の下で働けるなら、国籍なんてどうでもいい」


 柏木は少し笑った。


 「相変わらずだな」


 「隊長も相変わらずですよ」


---


 アレクセイは、ウクライナ時代の知り合いに連絡を取った。


 イーゴリ・ペトレンコ。三十八歳。元ロシア空軍パイロット。


 ウクライナの前線で、アレクセイと一緒だった。負傷した兵士を運ぶヘリを操縦していた男だ。


 「アレクセイか。久しぶりだな」


 「久しぶりだ。元気か」


 「生きている。それだけだ」


 「今はどこにいる」


 「ジョージアだ。トビリシ」


 「何をしている」


 「何もしていない。金がない。仕事もない」


 アレクセイは説明した。タイのこと。柏木のこと。仕事の内容。


 「......犯罪組織と戦うのか」


 「そうだ」


 「危険だな」


 「危険だ」


 「給料は」


 「安い」


 「条件は」


 「タイ国籍を取ること」


 「ロシア人じゃなくなるのか」


 「俺はもうロシア人じゃない。お前もそうだろう」


 沈黙があった。


 「......そうだな」


 「来るか」


 「行く。どうせ、ここには何もない」


---


 サラは、元CIDの同僚に連絡を取った。


 ダニエル・オブライエン。三十五歳。元米陸軍。ヘリの整備士だった。


 「サラ? 本当にサラか?」


 「本当よ。久しぶり、ダン」


 「五年ぶりか。元気だったか」


 「色々あった。今はタイにいる」


 「タイ? 何をしている」


 サラは説明した。


 「......お前らしいな」


 「どういう意味よ」


 「正義のために戦っている。CIDの時と同じだ」


 「そうかもしれない」


 「俺も誘ってくれるのか」


 「そうよ。来る?」


 「条件は」


 「タイ国籍を取ること」


 「アメリカ人じゃなくなるのか」


 「そうなる」


 ダニエルは少し考えた。


 「......俺、離婚したんだ」


 「知らなかった」


 「二年前だ。子供はいない。アメリカに残る理由がない」


 「じゃあ」


 「行く。面白そうだ」


---


 ニコライは、ロシア人コミュニティを当たった。


 バンコクには、ロシアから逃げてきた人間が何人かいる。動員令を拒否した者。プーチン政権に反対する者。


 その中に、一人の女性がいた。


 ナターシャ・ソコロワ。二十九歳。元ロシア軍の事務官。


 「事務の仕事か」


 「そうだ。書類作成、予算管理、補給調達。そういう仕事だ」


 「戦闘はないのか」


 「ない。後方支援だ」


 ナターシャは少し考えた。


 「......私、ロシアを出たのは、軍にいたくなかったからよ」


 「分かっている」


 「でも、あなたたちの仕事は違う。犯罪者と戦っている」


 「そうだ」


 「それなら、意味がある」


 「来るか」


 「行くわ。ロシアには戻れないし、ここで何もしないのも退屈だから」


---


 ジョンソンは、元米軍の知り合いに連絡を取った。


 エイブラハム・ワシントン。四十歳。元米陸軍のトラック運転手。イラクとアフガンで物資を運んでいた。


 「ジョンソン? あのジョンソンか?」


 「あのジョンソンだ。元気か、エイブ」


 「元気じゃない。腰が痛い。年だな」


 「お前はまだ若い」


 「四十だぞ」


 「俺より若い」


 エイブは笑った。


 「何の用だ」


 ジョンソンは説明した。


 「......タイか。行ったことがない」


 「暑いぞ」


 「イラクより暑いか」


 「分からない。似たようなものかもしれない」


 「仕事は運転か」


 「そうだ。車両の運転と整備。できるか」


 「できる。俺が運転できない車はない」


 「じゃあ来い」


 「条件は」


 「タイ国籍を取ること」


 「アメリカ人じゃなくなるのか」


 「そうだ」


 エイブは少し黙った。


 「......俺の親父は、アメリカのために戦った。ベトナムで。お袋は、その親父を待っていた」


 「......」


 「でも、今のアメリカは、親父が戦った国とは違う。俺はそう思っている」


 「来るか」


 「行く。お前と一緒に戦える。それで十分だ」


---


 マルティネスは、ラテン系のコミュニティを当たった。


 バンコクにもラテン系の人間がいる。数は少ないが、いる。


 その中に、一人の男がいた。


 カルロス・メンドーサ。三十三歳。メキシコ人。元メキシコ軍の通信士。


 「通信の仕事か」


 「そうだ。無線通信、暗号化、傍受。そういう仕事だ」


 「なぜ俺なんだ」


 「お前がメキシコ軍にいたと聞いた。通信担当だったと」


 「誰から聞いた」


 「バーで会った奴だ。名前は覚えていない」


 カルロスは少し警戒していた。


 「......俺は、メキシコから逃げてきた」


 「知っている」


 「カルテルに追われている」


 「それも聞いた」


 「危険だぞ。俺と関わると」


 「俺たちは、カルテルより危険な連中と戦っている。お前が追われている理由なんて、どうでもいい」


 カルロスは黙った。


 「......タイ国籍を取れば、メキシコ人じゃなくなる」


 「そうだ」


 「カルテルも追いにくくなる」


 「そうだな」


 「......行く。他に選択肢がない」


---


 ファリダーは、タイ国内で探した。


 警察学校の同期ではなく、別のルートで。


 チェンマイのNGOで働いていた女性。


 ラッタナー・ピチット。二十六歳。タイ人。元NGOスタッフ。事務と会計が専門。


 「あなたが、あの捜査班の人?」


 「そうです」


 「噂は聞いています。王宮警察の特殊部隊。犯罪組織を次々に潰している」


 「噂は大げさです。でも、間違ってはいない」


 「私に何ができるんですか」


 「事務です。書類作成、会計、予算管理。後方支援の仕事」


 「戦闘は」


 「ありません。あなたを戦場に送るつもりはない」


 ラッタナーは少し考えた。


 「......私、NGOを辞めたんです」


 「なぜ」


 「限界を感じたから。被害者を助けても、犯罪組織は減らない。根本的な解決にならない」


 「俺たちは、根本を潰している」


 「知っています。だから興味がある」


 「来るか」


 「行きます。タイ人だから、国籍の問題もないし」


 ファリダーは少し笑った。


 「あなたが初めてです。国籍の問題がない人」


 「そうですか」


 「他の全員、外国人なので」


---


 三週間が過ぎた。


 全員が揃った。


 チェンマイの拠点。会議室。


 元のメンバー七人。新しいメンバー八人。合計十五人。


 柏木は全員を見渡した。


 日本人が二人。ロシア人が三人。アメリカ人が四人。メキシコ人が一人。タイ人が二人。ウクライナ出身が一人。イスラエル出身が一人。フランス出身が一人。


 人種も国籍もバラバラだった。


 共通点は一つだけ。


 全員が、何かを捨ててここに来た。


 国籍を捨てた者。家族を捨てた者。安定を捨てた者。過去を捨てた者。


 そして、全員がタイ人になる。


---


 「自己紹介をしろ」


 柏木が言った。


 新メンバーが一人ずつ名乗った。


 川島誠。日本人。通信担当。


 イーゴリ・ペトレンコ。ウクライナ出身、元ロシア国籍。パイロット。


 ダニエル・オブライエン。アメリカ人。ヘリ整備。


 ナターシャ・ソコロワ。ロシア人。事務・経理。


 エイブラハム・ワシントン。アメリカ人。運転・車両整備。


 カルロス・メンドーサ。メキシコ人。通信・傍受担当。


 ラッタナー・ピチット。タイ人。事務・会計。


 そして、もう一人。


 ヨナタン・レヴィ。三十七歳。イスラエル人。元モサド。


 「モサドだと」


 ニコライが眉を上げた。


 「元モサドだ。今は違う」


 「なぜここに」


 「イスラエルに戻りたくない。理由は聞くな」


 「役割は」


 「何でもやる。戦闘も、諜報も、運転も」


 柏木はヨナタンを見た。


 「誰の紹介だ」


 「サラだ。CID時代に一度会ったことがある」


 サラが頷いた。


 「彼は本物よ。信用できる」


 「本物か」


 「本物だ」


 柏木は少し考えた。


 「......いい。採用だ」


---


 最後の一人。


 マリー・デュポン。三十一歳。フランス人。元フランス外人部隊。


 「外人部隊?」


 ジョンソンが聞いた。


 「そうだ。五年いた」


 「女性で外人部隊は珍しいな」


 「珍しくない。数は少ないが、いる」


 「役割は」


 「狙撃だ。それと、車両の運転」


 「狙撃か」


 柏木はマリーを見た。


 「腕は」


 「八百メートルなら外さない」


 「本当か」


 「本当だ。疑うなら、試してみろ」


 「誰の紹介だ」


 「誰でもない。自分で来た」


 「どうやってここを知った」


 「噂だ。バンコクの外国人コミュニティで、あなたたちの話を聞いた」


 「それで来たのか」


 「そうだ。面白そうだと思った」


 ニコライが言った。


 「理由はそれだけか」


 「それだけだ。他に理由が必要か」


 「必要ない」


 柏木は頷いた。


 「採用だ」


---


 十五人。


 七カ国の出身者。


 全員がタイ国籍を取る。


 全員が王宮警察のエンブレムを着ける。


 全員がタイ国旗を背負う。


 バラバラの過去を持つ人間たちが、一つのチームになる。


 柏木は全員を見渡した。


 「これから一ヶ月、訓練を行う。連携を確認する。その後、本格的な作戦に入る」


 「了解」


 十五人の声が重なった。


 「一つだけ言っておく」


 柏木は続けた。


 「俺たちは、犯罪組織と戦う。金のためじゃない。名誉のためでもない。正しいことをするためだ」


 誰も何も言わなかった。


 「それが嫌なら、今すぐ出ていけ。止めない」


 沈黙。


 誰も動かなかった。


 「いいだろう。では、始めよう」

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