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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
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第5話 連鎖

三日後。


 サムットプラカーン。


 バンコクの南東。工業地帯と港湾施設が広がる地域だ。


 標的は人身売買組織。ボスの名前はチャイヨン・スリヤ。五十代。元軍人。陸軍の中佐だった男が、退役後に闇の世界に入った。


 規模はソムサックより大きい。構成員は二十人以上。拠点は工場を改装した建物。二階建て。周囲には別の工場がある。夜間は人がいない。


 「前回より難易度が上がる」


 会議室で、サラが説明していた。


 「構成員が倍以上。しかも元軍人がボスだ。組織に規律がある」


 ジョンソンが言った。


 「規律があるということは、訓練されているということか」


 「おそらく。元軍人が何人かいるという情報もある」


 マルティネスが腕を組んだ。


 「厄介だな」


 「厄介だ。だが、やることは変わらない」


 柏木が立ち上がった。


 「派手にやる。正面から叩く。恐怖を与える」


---


 「編成を変える」


 柏木が言った。


 「突入班は四人。俺、ニコライ、ジョンソン、マルティネス」


 「俺も入るのか」


 マルティネスが聞いた。


 「足は大丈夫か」


 「問題ない。走れる」


 「なら入れ。人数が必要だ」


 サラが言った。


 「私は」


 「裏口を一人で押さえろ。できるか」


 「できる」


 「ファリダーはサラと一緒だ。逃げてきた奴を捕まえろ。撃つ必要はない。足止めだけでいい」


 「分かりました」


 「アレクセイは車で待機。前回と同じだ」


 「了解」


---


 夜。二十三時。


 四台の車が工場の前に停まった。


 柏木が先頭で降りた。黒のスーツに紅色のベスト。ネクタイは外している。オールバック。サングラス。ショルダーホルスターがベストの外側に剥き出しで、ベレッタが収まっている。


 ニコライ、ジョンソン、マルティネスが続いた。三人は黒いスーツ姿。柏木に合わせた格好だ。


 ダイヤモンド・フォーメーション。突入の基本陣形だ。


 工場の正面に見張りが三人いた。


 柏木たちを見て、何か叫んだ。


 遅い。


 柏木が走り出した。


---


 距離が縮まる。


 十五メートル。十メートル。


 見張りの一人が銃を抜いた。


 ニコライが先に撃った。HK416。男の肩に当たり、銃が落ちた。


 残り二人が逃げようとした。


 ジョンソンが一人の足を撃った。転倒。


 最後の一人が建物に向かって走った。


 柏木が追った。


 五メートルまで詰めた。


 ベレッタを抜いた。体の中心に引き付ける。走りながら撃つ。


 男の背中に当たった。防弾ベストを着ていた。衝撃で転倒した。


 柏木は男を踏み越えて、建物に入った。


---


 中は暗かった。


 工場の機械が並んでいる。使われていない。埃が積もっている。


 奥に明かりが見える。


 足音が聞こえた。複数。


 「来るぞ」


 柏木が言った。


 四人が散開した。機械の陰に隠れる。


 男たちが現れた。六人。全員が銃を持っている。AK。


 「元軍人か」


 ジョンソンが呟いた。


 動きに訓練の跡があった。散開して、射線を確保している。素人じゃない。


 「厄介だな」


 マルティネスが言った。


 「やることは変わらない」


 柏木が答えた。


 銃撃戦が始まった。


---


 機械の陰から撃ち合う。


 相手は訓練されている。簡単には当たらない。


 柏木は動いた。


 機械から機械へ。遮蔽物を使いながら、距離を詰める。


 相手もそれに気づいた。一人が柏木を狙って移動した。


 柏木は待った。


 男が機械の陰から顔を出した瞬間、撃った。


 ベレッタ。五メートル。顔面を狙った。


 外れた。


 だが、男は怯んだ。その隙に距離を詰めた。


 三メートル。


 男がAKを向けた。


 柏木は銃身を掴んだ。上に逸らす。発砲。弾は天井に当たった。


 右手のベレッタを男の脇腹に押し当てた。


 撃った。


 防弾ベストがない場所だ。男が崩れた。


 柏木はAKを奪った。


---


 奪ったAKで撃ち始めた。


 腰だめ。体の軸で狙う。


 一人の足を撃った。転倒。


 別の一人が柏木に向かって突っ込んできた。


 柏木は待った。


 距離が縮まる。五メートル。四メートル。


 男が発砲した。弾は柏木の横を抜けた。


 三メートル。


 柏木はAKのストックで男の顔面を殴った。


 男が倒れた。


 起き上がろうとした。


 柏木はAKの銃口を男の頭に向けた。


 「動くな」


 男は動かなくなった。


---


 残り三人。


 ニコライとジョンソンとマルティネスが処理した。


 一人は足を撃たれて動けない。一人は腕を撃たれて銃を落とした。最後の一人は投降した。


 「一階、クリア」


 ジョンソンが言った。


 「二階に行く」


 柏木が先頭で階段を上がった。


---


 二階は事務所になっていた。


 廊下の突き当たりに扉がある。


 扉の前に男が二人立っていた。最後の護衛だ。


 柏木は歩き続けた。


 男たちが銃を向けた。


 柏木は止まらなかった。


 十メートル。八メートル。


 「止まれ!」


 柏木は答えなかった。


 六メートル。


 男の一人が発砲した。


 弾は柏木の肩を掠めた。スーツが破れた。血が滲んだ。


 柏木は止まらなかった。


 五メートル。


 ベレッタを撃った。一人の膝に当たった。崩れ落ちた。


 もう一人が銃を向け直した。


 柏木は距離を詰めた。三メートル。二メートル。


 男の銃を持つ手を左手で掴んだ。外側に捻る。男が叫んだ。銃が落ちた。


 右手のベレッタを男の顎下に押し当てた。


 「案内しろ」


---


 扉を開けた。


 チャイヨン・スリヤがいた。


 デスクの後ろに座っている。白髪交じりの短髪。軍人の姿勢が残っている。背筋が伸びている。


 手に銃はなかった。


 「遅かったな」


 チャイヨンが言った。


 「待っていたのか」


 「ソムサックが捕まった時から、次は俺だと思っていた」


 「逃げなかったのか」


 「逃げる場所がない。俺を匿う人間は、もういない」


 柏木はチャイヨンを見た。


 諦めた目だった。戦う気力がない。


 「投降するか」


 「する。条件がある」


 「条件」


 「部下の命を保証しろ。殺すな」


 「殺す気はない。最初から」


 チャイヨンは少し笑った。


 「軍人だな。お前も」


 「元軍人だ」


 「分かる。動きを見れば分かる」


 チャイヨンは立ち上がった。両手を上げた。


 「俺の負けだ」


---


 制圧完了。


 二十三時四十五分。


 作戦開始から四十五分。


 構成員二十二人を確保。死者なし。重傷者五人。


 工場の地下から、監禁されていた被害者が見つかった。十四人。タイ人、ミャンマー人、カンボジア人。全員が若い女性だった。


 ナロンが到着した。


 「また派手にやったな」


 「そういう指示だ」


 「被害者は」


 「十四人。保護が必要だ」


 「手配する」


 ナロンは部下に指示を出した。


 柏木は煙草を取り出した。火をつけようとして、手が止まった。


 肩から血が流れていた。


---


 アレクセイが駆け寄ってきた。


 「見せろ」


 「掠り傷だ」


 「見せろ」


 柏木はスーツのジャケットを脱いだ。紅色のベストも外した。シャツに血が染みている。


 アレクセイがシャツを破いて、傷を確認した。


 「浅い。縫う必要はない」


 「だろう」


 「だが、次はもっと深くなるかもしれない」


 「分かっている」


 アレクセイは傷口を消毒して、包帯を巻いた。


 「お前、止まらなかったな」


 「止まれなかった」


 「違う。止まらなかった。撃たれても」


 柏木は煙草に火をつけた。


 「止まったら、もっと撃たれる」


 「それは分かる。だが、普通は怯む。お前は怯まなかった」


 「慣れだ」


 「慣れか」


 アレクセイは柏木を見た。


 「お前の戦い方、俺には真似できない」


 「真似しなくていい。お前は医者だ」


 「そうだな」


---


 ニコライが近づいてきた。


 「二連勝だ」


 「まだ十組織残っている」


 「ペースを上げるか」


 「上げる。三日後に次をやる」


 「休みはないのか」


 「ない」


 ニコライは笑った。


 「お前らしい」


 ジョンソンとマルティネスも来た。


 「見事だったな、カシワギ」


 ジョンソンが言った。


 「何がだ」


 「お前の動きだ。撃たれても止まらなかった。あれがCARシステムか」


 「そうだ」


 「俺にも教えてくれ」


 「時間があればな」


 マルティネスが言った。


 「俺も学びたい。お前の戦い方は、俺たちとは違う」


 「違うか」


 「違う。流れるようだ。一つの動作が次に繋がっている。無駄がない」


 柏木は煙草を吸った。


 「訓練すれば、お前たちにもできる」


 「本当か」


 「本当だ。基本は同じだ。体の軸で狙う。止まらない。距離を詰める。それだけだ」


 サラとファリダーも合流した。


 「裏口から三人逃げてきた。全員捕まえた」


 サラが報告した。


 「怪我は」


 「ない。私もファリダーも無傷」


 「よくやった」


 柏木は全員を見渡した。


 七人。全員が無事だった。


 「次の作戦まで二日ある。休め。ただし、酒は控えろ。体を鈍らせるな」


 「了解」


 全員が答えた。


---


 翌日。


 バンコクの裏社会に衝撃が走っていた。


 三日間で二つの組織が壊滅した。


 ソムサック。チャイヨン。どちらも大物だった。どちらも警察や軍に繋がりがあった。それでも、潰された。


 噂が広がった。


 「黒いスーツの男たちが来る」


 「正面から入ってくる」


 「銃を撃っても止まらない」


 「逃げても無駄だ。裏口にも待っている」


 犯罪組織のボスたちは、怯え始めていた。


 次は自分かもしれない。


 逃げるべきか。隠れるべきか。投降すべきか。


 だが、どこに逃げればいい。どこに隠れればいい。


 王宮警察が動いている。御方の意思だ。逃げ場はない。


---


 捜査本部。


 柏木は窓の外を見ていた。


 バンコクの街並み。高層ビル。渋滞。喧騒。


 この街から、犯罪を一掃する。


 まだ十組織残っている。


 だが、ペースは上がっている。チームの連携も良くなっている。


 あと一ヶ月。


 一ヶ月あれば、バンコクは綺麗になる。


 サラが横に来た。


 「考え事?」


 「そうだ」


 「次の標的のこと?」


 「それもある」


 「それも、ということは、他にもあるのね」


 柏木は煙草に火をつけた。


 「バンコクが終わったら、次はどこだ」


 「まだ先の話でしょう」


 「先の話でも、考えておく必要がある」


 サラは窓の外を見た。


 「チェンマイ。プーケット。パタヤ。犯罪組織はどこにでもいる」


 「そうだ。バンコクだけじゃ終わらない」


 「終わらないわね」


 「終わらなくていい」


 サラは柏木を見た。


 「どういう意味?」


 「終わらない仕事があるということは、俺たちの居場所があるということだ」


 サラは少し笑った。


 「あなた、変わったわね」


 「よく言われる」


 「前は、もっと無愛想だった」


 「今も無愛想だ」


 「少しマシになった」


 柏木は煙草を吸った。


 「仲間がいるからだ」


 「仲間、ね」


 「そうだ。お前たちがいるから、俺は戦える」


 サラは何も言わなかった。


 ただ、少しだけ笑っていた。

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