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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
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第4話 掃討

ウィチャイ大佐から連絡があったのは、チーム編成が完了した翌日だった。


 電話は三十秒で終わった。


 「準備はできたか」


 「できた」


 「では始めろ。バンコクからだ」


 「了解した。方針は」


 「派手にやれ」


 「派手に」


 「そうだ。見せしめが必要だ。犯罪組織に恐怖を与えろ。この街で悪事を働けば、どうなるか思い知らせろ」


 「軍や警察との調整は」


 「必要ない。お前たちは独立した部隊だ。誰にも遠慮するな」


 「分かった」


 「期待している」


 電話が切れた。


---


 会議室。


 七人全員が集まっていた。


 「大佐から指令が来た」


 柏木が言った。


 全員が黙って聞いている。


 「バンコクから始める。犯罪組織を一掃する。方針は『派手にやれ』。以上だ」


 ジョンソンが笑った。


 「シンプルだな」


 「シンプルだ」


 「具体的な目標は」


 「これから決める。サラ、リストを」


 サラがテーブルに書類を広げた。


 「ファリダーと一緒にまとめた。バンコクで活動している犯罪組織のリストよ」


---


 リストには十二の組織が載っていた。


 人身売買。麻薬密売。武器密輸。特殊詐欺。賭博。売春。恐喝。誘拐。


 「全部潰すのか」


 マルティネスが聞いた。


 「全部だ。だが、順番がある」


 柏木はリストを指差した。


 「一番上。クロントイの麻薬組織。ここから始める」


 「なぜここだ」


 「三つ理由がある。一つ、規模が中程度。大きすぎず小さすぎない。最初の標的として適切だ。二つ、他の組織との繋がりが薄い。潰しても連鎖反応が起きにくい。三つ、被害者が多い。麻薬中毒で死んだ人間が、この一年で五十人以上いる」


 ニコライが頷いた。


 「最初に成功例を作る。それを見せしめにして、他の組織を萎縮させる」


 「そうだ」


 サラが付け加えた。


 「この組織のボスはソムサック・ウォン。四十代。元警官よ。十年前に汚職で免職されて、その後犯罪組織を作った」


 「元警官か」


 「警察内部に繋がりがある。だから今まで野放しにされてきた」


 ファリダーが言った。


 「私の同僚にも、ソムサックから金をもらっている人間がいます。何人かは知っています」


 「名前は」


 「言えません。証拠がないので」


 「証拠は後で集める。今は作戦に集中しろ」


 「分かりました」


---


 「拠点は」


 アレクセイが聞いた。


 「クロントイ港の近く。倉庫を改装した建物。三階建て」


 サラが地図を広げた。


 「ここよ。周囲は廃墟が多い。住民は少ない」


 「銃声が響いても問題ないということか」


 「そういうこと」


 ジョンソンが地図を見た。


 「警備は」


 「常時五人から十人。ボスがいる時は増える」


 「武装は」


 「拳銃が確認されている。自動小銃があるかどうかは不明」


 「内部構造は」


 「分からない。潜入した情報提供者がいない」


 マルティネスが言った。


 「つまり、入ってみないと分からない」


 「そうなる」


 「いつものことだな」


 マルティネスは笑った。


---


 「作戦を説明する」


 柏木が立ち上がった。


 「突入班は三人。俺、ニコライ、ジョンソン。正面から入る」


 「正面から?」


 ファリダーが聞いた。


 「そうだ。派手にやれと言われた。隠れる必要はない」


 「危険じゃないですか」


 「危険だ。だが、それでいい」


 ニコライが言った。


 「派手にやるというのは、そういう意味だ。敵に恐怖を与える。圧倒的な力で制圧する。逃げる暇も、抵抗する暇も与えない」


 柏木が続けた。


 「マルティネスとサラは裏口を押さえろ。逃げる奴を捕まえる」


 「了解」


 「アレクセイは車で待機。負傷者が出たら対応しろ」


 「分かった」


 「ファリダーは王宮警察との連絡役だ。制圧が終わったら、ナロンを呼べ。逮捕と証拠の押収は王宮警察がやる」


 「分かりました」


---


 「装備を確認する」


 柏木は武器庫に向かった。全員がついてきた。


 「突入班はHK416を使う。サプレッサーは付けない」


 「付けないのか」


 ジョンソンが聞いた。


 「派手にやる。銃声を響かせろ。近隣の組織にも聞こえるくらいに」


 「見せしめか」


 「そうだ」


 柏木はベレッタM92FSをホルスターから抜いた。確認して、また収めた。


 「俺はこれを使う」


 「ライフルじゃなくていいのか」


 「近距離なら、これで十分だ」


 ニコライが言った。


 「CARシステムか」


 「そうだ」


 「俺も見てみたい。お前の戦い方を」


 ジョンソンが興味深そうに言った。


 「見せてやる。現場でな」


---


 夜。二十二時。


 クロントイ。


 三台の車が倉庫の前に停まった。


 柏木、ニコライ、ジョンソンが降りた。


 柏木はいつもの格好だった。黒のスーツに紅色のベスト。ネクタイは外している。動く時は邪魔だ。オールバックの髪。サングラス。ショルダーホルスターはベストの外側に剥き出し。ベレッタが収まっている。隠す気がない。


 ニコライとジョンソンは黒いスーツ姿だった。柏木に合わせて、自然とそうなった。スーツの下に防弾ベストを着込んでいる。HK416を構えている。


 倉庫の前に男が二人立っていた。見張りだ。


 男たちが三人に気づいた。


 「おい、誰だ!」


 タイ語で叫んでいる。


 柏木は歩き続けた。


 「止まれ!」


 男の一人が拳銃を抜いた。


 柏木は止まらなかった。


 距離が縮まる。十五メートル。十メートル。


 男が発砲した。


 弾は柏木の横を抜けた。


 柏木は走り出した。


 五メートル。


 ベレッタを抜いた。体の中心に引き付ける。体ごと目標に向ける。


 銃声。


 男の肩に当たり、倒れた。


 もう一人が逃げようとした。


 ニコライのHK416が火を噴いた。男の足に当たり、転倒した。


 「確保しろ」


 柏木が言った。


 ジョンソンが二人を拘束した。


 「中に入る」


---


 倉庫の扉を蹴り破った。


 中は広かった。棚が並んでいる。麻薬の匂いがする。


 奥から声が聞こえた。銃声を聞いて騒いでいる。


 「来るぞ」


 ニコライが言った。


 三人の男が奥から走ってきた。全員が銃を持っている。


 柏木は前に出た。


 ジョンソンとニコライが左右に散った。


 三方向からの射撃。


 柏木は体を低くしながら前進した。撃ちながら進む。体の軸で狙う。一発、二発、三発。


 一人が倒れた。


 残りの二人がジョンソンとニコライに撃たれて倒れた。


 三秒。


 「階段だ」


 柏木が先頭で階段を上がった。


---


 二階。


 廊下に男が二人。AKを持っている。


 距離、十二メートル。


 柏木は止まらなかった。


 AKが火を噴いた。弾が柏木の周囲を飛び交う。


 柏木は走りながら撃った。一人の腹に当たった。


 もう一人が銃を向け直す。


 柏木は距離を詰めた。五メートル。


 AKの銃身を左手で掴み、上に逸らす。右手のベレッタを男の胸に押し当てる。


 銃声。


 男が崩れた。


 柏木はAKを奪った。マガジンを確認する。半分残っている。


 「ボスは三階だ」


 ニコライが言った。


 「行く」


---


 三階。


 扉が一つだけあった。


 柏木は扉の横に立った。ニコライが反対側。ジョンソンが後ろ。


 「三、二、一」


 ジョンソンが扉を蹴り破った。


 部屋の中にソムサックがいた。


 デスクの後ろに座っている。手に拳銃を持っていた。


 周囲に男が三人。全員が銃を構えている。


 「動くな」


 ソムサックが言った。


 「お前が動くな」


 柏木が答えた。


 「何者だ。警察か」


 「警察じゃない」


 「じゃあ何だ」


 「お前を捕まえに来た」


 ソムサックは笑った。


 「三人で? 俺には部下が——」


 「部下は全員倒した」


 ソムサックの顔が強張った。


 「嘘だ」


 「嘘じゃない。下を見てこい」


 柏木は動かなかった。


 ソムサックは部下の一人に目配せした。男が部屋を出ようとした。


 「行かせない」


 ニコライのHK416が男の足を撃った。男が倒れた。


 残りの二人が銃を向けた。


 ジョンソンが先に撃った。一人の腕に当たり、銃が落ちた。


 最後の一人が発砲した。弾は柏木の横を抜けた。


 柏木は前に出た。AKを投げた。男の顔面に当たる。怯んだ隙に距離を詰める。


 ベレッタを男のこめかみに当てた。


 「終わりだ」


 男は銃を落とした。


---


 ソムサックだけが残った。


 拳銃を持ったまま、デスクの後ろに立っている。


 「撃てば、お前も死ぬ」


 柏木が言った。


 「脅しか」


 「事実だ」


 ソムサックの手が震えていた。


 「俺を殺してどうする。俺には警察に繋がりがある。殺せば、お前たちも追われる」


 「その繋がりは、もう切れている」


 「何?」


 「お前を守っていた警官たちは、今夜から監視下に置かれる。お前に関わった人間は全員、リストに載っている」


 ソムサックの顔が青ざめた。


 「嘘だ」


 「試してみるか?」


 柏木はベレッタを下ろさなかった。


 「銃を置け。投降すれば、命は助かる」


 「投降したら、どうなる」


 「裁判を受ける。刑務所に入る。それだけだ」


 「それだけか」


 「それだけだ。だが、抵抗すれば死ぬ。選べ」


 長い沈黙があった。


 ソムサックの手から、銃が落ちた。


---


 制圧完了。


 二十三時十五分。


 作戦開始から一時間と少し。


 組織の構成員十二人を確保。死者なし。重傷者三人。


 倉庫の中から、大量の麻薬が押収された。ヘロイン、メタンフェタミン、合成麻薬。末端価格で数億バーツ相当。


 王宮警察の担当官が駆けつけた。ウィチャイ大佐の部下だ。名前はナロン。三十代の男で、表情がない。


 「報告を」


 「制圧完了。死者なし。ボスを含む十二人を確保」


 「押収物は」


 「麻薬。大量だ。末端価格で数億バーツ」


 ナロンは倉庫の中を見回した。


 「派手にやったな」


 「大佐の指示だ」


 「近隣の住民から通報が殺到している。銃声がうるさいと」


 「それでいい」


 「それでいいのか」


 「見せしめだ。バンコク中の犯罪組織に聞こえればいい」


 ナロンは柏木を見た。表情は変わらない。


 「大佐に報告する。後処理は我々がやる」


 「頼む」


 ナロンは部下に指示を出し始めた。逮捕と証拠の押収。すべて王宮警察が処理する。一般の警察は関与しない。


 柏木は煙草を取り出した。火をつけた。


---


 翌日。


 ソムサック逮捕のニュースが、バンコク中に広まった。


 犯罪組織のボスが、謎の武装集団に制圧された。警察ではない。軍でもない。誰なのか分からない。


 噂が広がった。


 「王室の秘密部隊だ」「外国人の傭兵だ」「正体不明の処刑人だ」


 どの噂も、半分は正しく、半分は間違っていた。


 だが、効果は絶大だった。


 バンコクの犯罪組織は、震え上がった。


---


 捜査本部。


 七人が会議室に集まっていた。


 「第一段階、成功だ」


 柏木が言った。


 「次はどこだ」


 ジョンソンが聞いた。


 「サムットプラカーンの人身売買組織。規模はソムサックより大きい」


 「いつやる」


 「三日後。準備ができ次第」


 マルティネスが言った。


 「休む暇はないのか」


 「ない。勢いを止めたら意味がない。一気に畳み掛ける」


 サラが頷いた。


 「同感よ。犯罪組織が態勢を立て直す前に、次を潰す。恐怖を与え続ける」


 ニコライが言った。


 「面白くなってきた」


 アレクセイが付け加えた。


 「怪我人が増えそうだな」


 「増える。覚悟しておけ」


 ファリダーが言った。


 「私にできることはありますか」


 「ある。次の標的の情報を集めろ。拠点、人数、武装、警備のパターン。全部だ」


 「分かりました」


 柏木は全員を見渡した。


 「これから忙しくなる。覚悟しておけ」


 「覚悟はできている」


 全員が答えた。


 柏木は少しだけ笑った。


 「なら、始めよう」

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