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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
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第1話 人材難

一週間が過ぎた。


 捜査本部のオフィス。会議室のテーブルを囲んで、四人が座っていた。


 柏木。ニコライ。アレクセイ。そしてファリダー。


 全員が黙っていた。


 テーブルの上に、書類が散らばっている。履歴書。経歴書。推薦状。すべてボツになったものだ。


 「どうする」


 ニコライが言った。


 誰も答えなかった。


---


 問題は単純だった。


 人がいない。


 採用権はある。資金もある。だが、基準を満たす人間がいない。


 「もう一度確認する」


 柏木が言った。


 「条件は三つ。一、外国人であること。タイ人の汚職ネットワークに繋がっていないこと。二、戦闘経験があること。素人は使えない。三、金で動かないこと。正義のために戦える人間であること」


 「三番目が無理だ」


 アレクセイが言った。


 「なぜだ」


 「そんな人間は滅多にいないからだ。いても、すでにどこかで働いている。NGOか、国連か、別の政府機関か」


 「引き抜けないのか」


 「引き抜けるような条件を出せない。うちは給料が安い」


 ファリダーが口を挟んだ。


 「給料の問題ですか」


 「給料だけじゃない。安定性だ。うちは新設の部隊で、いつ潰れるか分からない。問題が起これば切り捨てられる。そんな場所に来る奴は、よほどの物好きか、他に行き場がない人間だ」


 「アレクセイさんとニコライさんは来ましたよね」


 「俺たちは特殊だ」


 ニコライが言った。


 「どう特殊なんですか」


 「柏木がいたからだ」


 ファリダーは柏木を見た。


 柏木は黙っていた。


---


 この一週間で、三十人以上の候補者を検討した。


 バンコクの外国人コミュニティ。元軍人。元警察官。元傭兵。セキュリティ会社の社員。


 全員がボツだった。


 理由は様々だ。


 「金次第で寝返る」「過去に犯罪歴がある」「酒癖が悪い」「精神的に不安定」「単純に能力が足りない」


 一番多かったのは、「金で動く」だった。


 当たり前だ。金で動かない人間が、わざわざ危険な仕事を引き受けるわけがない。引き受けるのは、金が目的か、他に理由がある人間だけだ。


 他に理由がある人間。


 それが柏木であり、ニコライであり、アレクセイだった。


 だが、そういう人間は滅多にいない。


---


 「俺の知り合いを当たってみた」


 ニコライが言った。


 「結果は」


 「駄目だ。バンコクのロシア人コミュニティには、元軍人が何人かいる。だが、ほとんどが金目当てだ。傭兵仕事を探している連中だ」


 「使えないのか」


 「使えない。金で雇えば、金で裏切る。そういう人間は信用できない」


 アレクセイが付け加えた。


 「俺も当たった。前線で一緒だった人間に連絡を取った」


 「何人いる」


 「三人。だが、一人はドイツにいる。一人はカナダにいる。最後の一人は......死んだ」


 「死んだ」


 「先月だ。持病が悪化したらしい」


 沈黙が落ちた。


---


 ファリダーが言った。


 「警察学校の同期はどうですか」


 「お前の同期か」


 「はい。外国人じゃないですけど、信頼できる人間はいます」


 「外国人じゃないと駄目だ」


 「なぜですか」


 「タイ人は汚職ネットワークに繋がっている可能性がある。本人が清廉でも、親戚や友人が組織と繋がっていれば、情報が漏れる」


 「私は大丈夫ですか」


 「お前は少佐が保証した。それに、お前の家族は調べた。問題ない」


 「調べたんですか」


 「当然だ」


 ファリダーは少し不満そうな顔をした。だが、何も言わなかった。


---


 柏木は煙草を取り出した。火をつけた。


 「選択肢を整理する」


 全員が柏木を見た。


 「一つ目。このまま四人で動く。人数は少ないが、信頼できる。小規模な作戦なら対応できる」


 「大規模な作戦は」


 「無理だ。限界がある」


 「二つ目は」


 「基準を下げる。金で動く人間でも、管理できれば使う。だがリスクは上がる」


 「三つ目は」


 「待つ。適任者が現れるまで、情報収集に専念する。実働は最小限にする」


 ニコライが言った。


 「どれも微妙だな」


 「微妙だ」


 「お前はどうしたい」


 柏木は煙草を吸った。煙を吐いた。


 「......分からない」


 珍しい言葉だった。柏木が「分からない」と言うのは。


 アレクセイが言った。


 「考え方を変えた方がいいかもしれない」


 「どういう意味だ」


 「俺たちみたいな人間を探すんじゃなく、俺たちみたいな人間を作る」


 「作る?」


 「訓練だ。素質のある人間を見つけて、育てる」


 「時間がかかる」


 「かかる。だが、外から連れてくるより確実だ」


 柏木は少し考えた。


 「素質のある人間をどうやって見つける」


 「それが問題だ」


 また沈黙が落ちた。


---


 ファリダーが何か言いかけた。だが、止まった。


 「何だ」


 柏木が聞いた。


 「いえ......馬鹿な考えかもしれないので」


 「言え」


 「救出した被害者の中に、使える人間がいるかもしれません」


 全員がファリダーを見た。


 「被害者」


 「はい。リクルート拠点で保護した二十三人。本拠点で保護した二十一人。合計四十四人の外国人がいます」


 「被害者を兵士にするのか」


 「全員じゃないです。でも、中には元軍人もいました。見張り役をやらされていた男たちの中に」


 柏木は黙った。


 ソムチャイのことを思い出した。日本人に幼馴染を犯されて、日本人を憎むようになった男。


 被害者だが、見張り役として組織に加担していた。


 使えるか。


 使えるとしたら、どう使う。


 「......」


 柏木は煙草を灰皿に押し付けた。


 「リストを出せ。保護した外国人全員の経歴を」


 「分かりました」


 ファリダーが立ち上がった。


---


 ファリダーが部屋を出た後、ニコライが言った。


 「被害者をリクルートするのか」


 「可能性の一つだ」


 「賭けだな」


 「賭けでも、選択肢がないよりはマシだ」


 アレクセイが言った。


 「被害者は心に傷を負っている。使い物になるかどうか分からない」


 「分からない。だから調べる」


 「調べて、使えそうな人間がいたら」


 「会う。話す。それから決める」


 ニコライは腕を組んだ。


 「お前らしくないな」


 「何がだ」


 「慎重だ。いつもはもっと早く決める」


 柏木は新しい煙草に火をつけた。


 「人の命がかかっている。慎重になって悪いことはない」


 「人の命は、いつもかかっていただろう」


 「今回は違う。俺の部下になる人間だ。俺の判断で死ぬかもしれない人間だ」


 ニコライは黙った。


 アレクセイが言った。


 「責任を感じているのか」


 「感じている」


 「お前は変わったな」


 「そうか」


 「タイに来た頃より、人間らしくなった」


 柏木は答えなかった。


 窓の外を見た。バンコクの街並み。高層ビル。渋滞。喧騒。


 この街のどこかに、適任者がいるはずだ。


 見つける。


 必ず見つける。


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