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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか!  作者: Operator3118
第1章 支援機関の外へ
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幕間 勅命

タイという国は、汚職で回っている。


 誰もが知っている。誰も言わない。警察も軍も政治家も、金で動く。正義より金。法より金。それがこの国の現実だった。


 組織犯罪の取り締まりは、特に難しい。


 犯罪組織は金を持っている。金があれば警察を買える。買えない警察官がいれば、脅せばいい。それでも動かなければ、殺せばいい。


 だから見逃しが起こる。


 サーン・トンカムが保釈されたのも、そういうことだった。五百万バーツ。政治家の金。裁判官の目は曇り、書類は処理され、男は出てきた。


 タイ人による取り締まりには限界がある。


 血縁。地縁。学閥。軍閥。あらゆる繋がりが、判断を鈍らせる。従兄弟の従兄弟が組織にいる。同級生の父親が政治家だ。上官の息子が関わっている。


 手心が加わる。見逃しが起こる。正義が腐る。


 だから、外国人が必要だった。


---


 だが、ただの外国人ではいけない。


 ならず者を雇えば、ならず者の仕事しかしない。金で動く人間は、より高い金で寝返る。PMCを雇えば、タイは外国の傭兵に国内の治安を委ねることになる。主権の問題だ。


 必要なのは、タイ人を守る外国人だった。


 タイの法に従い、タイの民を守り、タイの敵を倒す人間。金で動かない人間。脅しに屈しない人間。正義のために戦う人間。


 そんな人間は滅多にいない。


 だが、現れた。


---


 柏木勇気。


 日本人。元自衛隊。片目を失い、国を追われ、タイに流れ着いた男。


 ウドンターニーでNGOに参加し、人身売買組織を単独で壊滅させた。日本に戻り、犯罪ネットワークを解体した。タイに戻り、国境の詐欺拠点を制圧した。


 二人で十二人を相手にした。二人で本拠点に突入し、サーン・トンカムを捕らえた。


 報告書は上に届いた。


 チャイロン少佐から、ウィチャイ大佐へ。大佐から、さらに上へ。


 最終的に、ある御方の目に留まった。


 誰とは言えない。言ってはならない。だが、タイという国で「御方」と言えば、一人しかいない。


---


 御方は判断した。


 この男を使え。


 日本政府と揉めることになるだろう。外交問題になるかもしれない。だが、その価値はある。


 タイには、容赦のない刃が必要だ。汚職を切り、見逃しを許さず、犯罪組織を根絶する刃が。


 タイ人にはそれができない。できる人間がいても、繋がりが邪魔をする。


 外国人にやらせる。だが、タイを守る外国人に。


 柏木勇気は、その条件を満たしていた。


 日本政府との交渉は難航した。だが、最終的にタイ側が押し切った。柏木はタイ国籍を取得した。日本人ではなくなった。日本政府に口を出す権限はなくなった。


 すべては、御方の意思だった。


---


 バンコク。


 新設された捜査本部。


 二階建ての小さなビル。外から見れば、ただの事務所にしか見えない。看板もない。表札もない。


 だが、中には最新の通信機器がある。武器庫がある。車両が三台。資金は潤沢に用意されている。


 柏木、ニコライ、アレクセイ。三人がビルの前に立っていた。


 チャイロン少佐が待っていた。


 「ここがお前たちの拠点だ」


 「小さいな」


 「小さい方がいい。目立たない」


 柏木は建物を見上げた。


 「中を見せてくれ」


 「ついてこい」


---


 一階はオフィスと会議室。二階は武器庫と休憩室。地下に車庫がある。


 柏木は武器庫を見た。


 HK416が六丁。タイ軍の制式小銃だ。グロック17が八丁。SIG P320が四丁。弾薬は十分にある。防弾ベスト。暗視ゴーグル。通信機器。


 柏木のベレッタM92FSは、ここにはない。ポーの遺品は、柏木のホルスターの中にある。それでいい。


 「装備は十分だ」


 「金は惜しまない。上からの指示だ」


 「上とは」


 チャイロンは答えなかった。


 会議室に入った。テーブルの上に封筒が置いてある。


 「これが指令だ」


 柏木は封筒を開けた。


 中に紙が一枚。タイ語で書かれている。


---


 『犯罪班を組織せよ。


 資金と装備は渡す。人材はなんとかしろ。


 問題が起これば、ウィチャイ大佐とチャイロン少佐が連名で全責任を取る。


 忘れるな。』


---


 柏木は紙を見つめた。


 「これだけか」


 「これだけだ」


 「具体的な指示は」


 「ない」


 「目標は」


 「組織犯罪の壊滅だ。人身売買。特殊詐欺。麻薬。武器密輸。すべてだ」


 「範囲が広すぎる」


 「だから『班を組織しろ』と書いてある」


 柏木はニコライを見た。ニコライはアレクセイを見た。アレクセイは肩をすくめた。


 「人材はなんとかしろ、か」


 ニコライが言った。


 「そういうことだ」


 「当てはあるのか」


 「ない」


 「ないのか」


 「これから探す」


 チャイロンが口を挟んだ。


 「一つだけ条件がある」


 「何だ」


 「タイ人を一人入れろ。外国人だけでは、現地の情報が取れない」


 「誰かいるのか」


 「いる」


 チャイロンは窓の外を見た。


 「ファリダーだ」


---


 柏木は少し黙った。


 「あの女か」


 「そうだ。お前と一緒に動いた。経験がある」


 「経験は浅い」


 「だから育てる。お前が育てろ」


 「俺が」


 「そうだ」


 柏木は考えた。


 ファリダー・チャンチャイ。ウドンターニー警察の新人刑事。首席で卒業した女。射撃も一位だった。


 しつこい。うるさい。だが、裏口を見つけたのは彼女だった。被害者を保護したのも彼女だった。


 使えないことはない。


 「......分かった」


 「受けるか」


 「受ける」


 チャイロンは頷いた。


 「ファリダーには俺から話す。一週間後にここに来る」


 「分かった」


 チャイロンは立ち上がった。


 「最後に一つ」


 「何だ」


 「問題が起これば、俺と大佐が責任を取る。だが、それはお前たちを守るためじゃない」


 「分かっている」


 「お前たちが暴走すれば、切り捨てる。それも分かっているな」


 「分かっている」


 「なら、いい」


 チャイロンは会議室を出ていった。


---


 三人が残った。


 ニコライが指令書を見た。


 「シンプルだな」


 「シンプルすぎる」


 アレクセイが言った。


 「犯罪班を組織しろ。人材はなんとかしろ。これだけで何をしろと」


 柏木は窓の外を見た。


 バンコクの街並み。高層ビル。渋滞。喧騒。


 この街のどこかに、犯罪組織がある。人を売り、人を騙し、人を殺している。


 それを止める。


 それが仕事だ。


 「まず情報だ」


 柏木が言った。


 「情報?」


 「今、タイで動いている犯罪組織をリストアップする。規模、活動内容、拠点、構成員。全部だ」


 「どうやって」


 「プラチャーに聞く。スッティンにも聞く。ファリダーが来たら、警察のデータベースにアクセスさせる」


 「それから」


 「優先順位をつける。一番悪質なところから潰す」


 ニコライは少し笑った。


 「分かりやすいな」


 「複雑にする必要がない」


 「そうだな」


 アレクセイが言った。


 「俺は医療の準備をしておく。怪我人が出るだろうからな」


 「頼む」


 柏木は煙草を取り出した。


 火をつけた。


 深く吸い込んだ。


 新しい戦いが始まる。


 資金はある。装備はある。仲間がいる。


 あとは、やるだけだ。


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