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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第1章 支援機関の外へ
25/132

第25話 突入

二十三時。


 月のない夜だった。


 柏木とニコライは、廃工場の裏手に潜んでいた。鉄条網から三十メートル。木の陰に隠れている。


 裏口の見張りが見える。


 壁に寄りかかって、スマートフォンをいじっていた。顔が画面の光に照らされ、男は周囲を見ていない。


 柏木は手信号を出した。


 行け。


 ニコライが動く。


 音がしない。百九十センチの大男が、影のように滑っていく。木から木へ。草を踏む音すら聞こえない。


 鉄条網に近づいた。


 裏口の横に、鉄条網が緩んでいる場所がある。持ち上げれば人が通れる程度の隙間ができる。


 ニコライが鉄条網をくぐった。


 見張りとの距離、十メートル。


 八メートル。


 五メートル。


 見張りはまだスマートフォンを見ている。


 三メートル。


 ニコライの腕が伸びた。


 左手が見張りの口を塞いだ。右腕が首に回り、締め上げる。


 見張りの体が痙攣。スマートフォンが男の手から滑り落ちる...だが、音はしなかった。ニコライの足が受け止めていた。


 十秒。


 見張りの体から力が抜けた。


 ニコライは見張りを地面に横たえた。呼吸を確認。生きている。気絶しているだけだ。


 手信号。


 クリア。


---


 柏木が鉄条網をくぐり、ニコライと合流した。


 裏口の扉を確認する。


 金属製だ。鍵がかかっている。


 ニコライが見張りのポケットを探ると、鍵が出てきた。


 音を立てないように、ゆっくりと開ける。


 中は暗かった。廊下が続いており、その奥に明かりが微かに見える。


 柏木が先に入った。


 ベレッタを抜き、構える。CARシステム。銃を体の中心に引き付け、両肘を体に寄せる。銃口を前に向けたまま、体ごと進む。


 ニコライが後ろについた。グロックを構え、後方を警戒しながら柏木の背中を守る。


 廊下を進んだ。


 足音を殺し、壁際を歩く。影に溶け込むように。


 右側に扉があった。


 柏木は手信号を出す。


 止まれ。


 扉に耳を当てた。


 中から声が聞こえる。タイ語だ。複数の声。笑い声も混じっている。


 柏木は指を三本立てた。


 三人。


 ニコライが頷いた。


---


 柏木は深呼吸した。


 一度だけ。


 扉を蹴り開けた。


 部屋の中には三人。テーブルを囲んで、酒を飲んでいた。机の上にはカードが散らばっている。


 一人が立ち上がった。腰に手を伸ばし、銃を抜こうとしている。


 柏木は体ごとその男に向いた。


 銃声。


 弾は男の肩に当たり、叫んで倒れた。


 二人目が銃を抜いた。柏木より早い。


 だが柏木は止まらなかった。


 前に出る。銃を持った男の腕を左手で払い、銃口を逸らす。発砲音。弾は壁に当たった。


 柏木は右手のベレッタを男の腹に押し当てた。


 銃声。


 男が崩れる。


 三人目がテーブルの下に潜り込もうとしていた。武器を持っていない。


 柏木は三人目の襟首を掴んで引きずり出し、顔面を床に叩きつけた。動かなくなる。


 三秒。


 三人を無力化した。


---


 ニコライが部屋に入ってきた。


 「早いな」


 「遅れる理由がない」


 柏木は倒れた男たちを見た。


 一人目は肩を撃たれて気絶している。二人目は腹を撃たれて動かない。三人目は顔面を床にぶつけて気絶している。


 柏木は二人目の銃を拾った。古いリボルバー。使えない。捨てた。


 一人目の腰を探る。何もない。


 「武器が少ない」


 ニコライが言った。


 「ここは詰め所だ。武器庫じゃない」


 「本棟に行けばあるか」


 「あるはずだ」


 柏木は廊下に戻った。


---


 右側の棟を抜けた。


 本棟との間に、十メートルほどの空間がある。


 明かりが漏れている。本棟の一階だ。


 柏木は立ち止まった。


 本棟の入口に一人。AKを持っている。立ったまま、煙草を吸っていた。


 柏木は距離を測った。


 十五メートル。


 遠い。CARシステムの有効距離を超えている。


 ニコライが横に来た。


 「俺がやる」


 「当たるか」


 「十五メートルなら当たる」


 ニコライはグロックを構えた。両手で保持し、腕を伸ばす。正統的な構え方だ。


 銃声。


 男の胸に当たり、倒れた。AKが地面に落ちる。


 音が響いた。銃声は隠せない。


 「急ぐぞ」


 柏木が走った。


---


 本棟の入口に着いた。


 倒れた男からAKを拾う。


 AK-47。7.62ミリ弾。マガジンは三十発。重い。だが火力がある。


 柏木はAKを構えた。


 右手でグリップを握り、左手でハンドガードを支える。ストックは肩に当てない。体の前で保持する。


 CARシステムの応用。ライフルを体の中心に引き付け、腰の高さで構える。体ごと目標に向ける。


 近距離なら、これで当たる。


 「入るぞ」


 柏木が先に入った。


---


 本棟の中は暗かった。


 廊下が左右に伸びている。正面に階段。


 左の廊下から足音が聞こえた。


 柏木は体ごと左を向いた。


 男が二人、走ってくる。銃声を聞いて駆けつけたのだろう。一人がAKを持ち、もう一人は拳銃。


 距離、八メートル。


 柏木はAKを撃った。腰だめのまま、体の軸で狙う。


 三発。


 AKの男が倒れた。


 拳銃の男が足を止め、銃を向けようとする。


 柏木は前に出た。


 距離を詰める。五メートル。四メートル。


 男が発砲。弾は柏木の横を抜けた。


 三メートル。


 柏木は止まらなかった。


 左手でAKのバレルを掴み、振った。銃身が男の拳銃を弾く。拳銃が飛んだ。


 同時に右手がベレッタを抜いていた。


 男の顔の前に銃口を突きつける。


 「動くな」


 男は動かなかった。


 柏木は男を床に押し倒し、ニコライに任せた。ニコライが手首を縛る。


 柏木は倒れたAKの男に近づいた。マガジンを抜く。ベルトに予備が二本あった。拾う。


 AKの弾が増えた。三十発のマガジンが三本。合計九十発。


 火力が逆転した。


---


 階段を上がった。


 二階。廊下の両側に扉が並んでいる。全部で六つ。


 どこかから泣き声が聞こえた。女の声。


 「被害者がいる」


 ニコライが言った。


 「分かっている」


 柏木は最初の扉に近づいた。鍵がかかっている。蹴り破った。


 中に人がいた。


 女が三人。若い。二十代か、もっと若いかもしれない。部屋の隅で固まっている。怯えた目で柏木を見ていた。


 柏木はAKを下ろした。


 「助けに来た。外に出ろ」


 タイ語だった。スッティンから習った言葉だ。


 女たちは動かない。


 柏木は銃をニコライに渡し、両手を見せた。


 「大丈夫だ。もう安全だ」


 一人が立ち上がった。おそるおそる、柏木に近づく。


 「本当に、助けに来たの」


 「本当だ。外に仲間がいる。そこまで連れていく」


 女は泣き出した。


---


 六つの部屋を全部開けた。


 被害者は二十三人。女が十八人。男が五人。タイ人、ラオス人、ベトナム人。


 全員を階段に集めた。


 「ここから出る。静かについてこい」


 柏木が先頭に立った。AKを構えている。


 ニコライが最後尾。後方を警戒。


 階段を降りた。


 一階の廊下に出る。


 左側から足音。


 柏木は被害者たちを壁際に寄せた。


 「動くな」


 自分は廊下の中央に出た。


 男が三人、走ってくる。全員がAKを持っている。


 距離、十メートル。


 柏木の体が動いた。


 低くなる。AKを腰の高さで構える。体の軸を敵に向ける。


 一発目。先頭の男の胸。


 前に出ながら、二発目。二人目の腹。


 さらに前に出る。三発目。三人目の足。


 三人が倒れた。


 三人目はまだ動いていた。銃を向けようとしている。


 柏木は止まらなかった。


 距離を詰め、AKのストックで男の顔面を殴った。男が倒れる。


 そのまま屈み込み、男のAKを奪った。マガジンを抜く。ベルトに挟む。


 立ち上がる。


 一連の動作に淀みがなかった。撃つ、進む、殴る、奪う。流れるように繋がっていた。


 四本目のマガジン。


 弾薬は潤沢になった。


---


 裏口に戻った。


 アレクセイとファリダーが待っていた。


 「二十三人だ。保護しろ」


 柏木が言った。


 ファリダーが被害者たちに近づいた。


 「大丈夫です。私は警察です。安全な場所に連れていきます」


 被害者たちの顔が少し緩んだ。警察の制服が効いている。


 アレクセイが負傷者を確認した。被害者の中に、怪我をしている者が何人かいた。


 「軽傷だ。応急処置で済む」


 「頼む」


 柏木は建物の方を振り返った。


 「まだ終わっていない」


 「中に残っているのか」


 「分からない。確認する」


 柏木はAKを構えて、また中に入っていった。


---


 本棟を隅々まで確認した。


 一階に組織の人間が二人、隠れていた。倉庫の中だ。


 柏木が扉を開けた瞬間、銃声。弾が柏木の横を抜けた。


 柏木は扉の陰に隠れた。


 「投降しろ。抵抗しても無駄だ」


 返事は銃声だった。


 柏木は床に伏せた。扉の隙間からAKの銃口を突き出す。


 音で位置が分かる。


 三発。


 悲鳴。


 「もう一度言う。投降しろ」


 沈黙。


 それから、金属が床に落ちる音がした。


 「……撃たないでくれ」


 柏木は立ち上がり、扉を開けた。


 男が二人。一人は足を撃たれて倒れている。もう一人は両手を上げて立っていた。


 柏木は両手を上げている男に近づいた。


 「武器を捨てろ」


 男は腰のナイフを抜いて、床に落とした。


 柏木は男を壁に向かせ、手首を縛った。


 もう一人は足を撃たれて動けない。放っておく。アレクセイが後で処置する。


---


 建物の外に出た。


 ニコライが待っていた。


 「終わったか」


 「終わった」


 「何人だった」


 「組織の人間は十二人。負傷者が複数。残りは拘束した」


 「被害者は」


 「二十三人。全員保護した」


 ニコライは空を見上げた。まだ月は出ていない。星だけが見える。


 「二人で十二人か」


 「そうだ」


 「お前の動き、見ていた」


 「どうだった」


 「止まらなかった。撃ちながら進んで、殴って、奪って、また撃つ。一連の流れだった」


 柏木は黙っていた。


 「訓練でやったのか」


 「いや」


 「じゃあ何だ」


 「分からない。体が勝手に動いた」


 ニコライは少し笑った。


 「嘘だな」


 「嘘じゃない」


 「じゃあ、本能か」


 「そうかもしれない」


 柏木はAKを肩にかけた。ベレッタはホルスターに戻っている。


 ベレッタの弾は四十一発残っていた。AKの弾は敵から奪ったもので戦った。


 敵の武器を奪い、敵の弾を使い、自分の弾を残す。


 近接戦闘の中で敵を無力化し、その流れで装備を奪取する。


 CARシステムは、そこまで拡張できることが分かった。


 銃を撃つ。前に出る。格闘で崩す。武器を奪う。また撃つ。


 一つの動作が次の動作に繋がる。止まらない。流れる。


 まだ粗い。まだ完成していない。だが、形が見えた。


 柏木の中で、何かが芽生えていた。


---


 ペットが車を回してきた。


 被害者たちを乗せた。一度に全員は乗れない。二往復することになった。


 スッティンが無線で報告した。


 「プラチャー刑事に連絡した。警察が来る」


 「チャイロン少佐は」


 「動けないと言っていた。だがプラチャーは来る」


 「分かった」


 柏木は煙草を取り出した。


 火をつけようとして、手が震えていることに気づいた。


 アドレナリンが切れ始めている。


 「大丈夫か」


 ニコライが聞いた。


 「大丈夫だ」


 「手が震えてるぞ」


 「分かっている」


 柏木は煙草に火をつけた。深く吸い込む。


 「生き残ったな」


 「ああ」


 「言った通りだ」


 「何がだ」


 「死ぬわけにいかないから、死なない」


 ニコライは笑った。


 柏木も少しだけ笑った。


 遠くでサイレンの音が聞こえ始めた。


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