表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第1章 支援機関の外へ
23/131

第23話 偵察

翌朝、六時。


 シェルターの食堂で朝食を取った。カオトム。米の粥だ。ノックが作ってくれた。


 ニコライは三杯食べた。


 「よく食うな」


 柏木が言った。


 「体が大きいからな」


 「それにしても多い」


 「ロシアの朝食はもっと重い。これは軽い」


 アレクセイが言った。


 「タイの朝食に慣れろ」


 「慣れる前に痩せる」


 「痩せた方がいい。動きやすくなる」


 「これ以上痩せたら、ただの棒だ」


 「棒でいい」


 「よくない」


 柏木は二人の会話を聞き流しながら、粥を食べた。


 ファリダーは黙って食べていた。昨日より静かだった。


---


 朝食の後、スッティンが柏木を呼んだ。


 「ニコライの銃が手に入った」


 「早いな」


 「チャイロン少佐じゃない。別のルートだ」


 「別のルート」


 「軍の横流し品だ。プラチャーの知り合いが持っていた」


 スッティンは布袋をテーブルに置いた。


 柏木が開けた。


 グロック17が入っていた。


 オーストリア製。9ミリパラベラム。マガジン装弾数十七発。ポリマーフレーム。軽い。


 柏木はスライドを引いた。動きは滑らかだった。整備されている。


 「弾は」


 「五十発。これが限界だった」


 「マガジンは」


 「二本」


 柏木は頷いた。


 「十分だ」


---


 ニコライを呼んだ。


 グロックを渡した。ニコライは手に取って、重さを確認した。


 「グロック17か」


 「知っているか」


 「知っている。悪くない銃だ」


 スライドを引いた。薬室を確認した。マガジンを抜いた。また装填した。一連の動作に無駄がなかった。


 「どこで手に入れた」


 「軍の横流し品だ」


 「横流しか」


 ニコライは少し笑った。


 「どこの国でも同じだな。軍の物資は流れる」


 「ロシアもか」


 「ロシアは特にひどい。戦車まで流れる」


 「戦車は要らない」


 「要らないな」


 ニコライはグロックをベルトに挟んだ。上着で隠した。


 「弾は五十発だ。補充は難しい」


 「分かった。大事に使う」


---


 八時。


 ペットの車で出発した。


 運転はペット。助手席にスッティン。後部座席に柏木、アレクセイ、ニコライ。ファリダーは別の車で後を追う形になった。警察車両で一緒に動くわけにはいかない。


 市街地を抜けて、北へ向かった。


 道が狭くなっていく。舗装が荒れてくる。農地が広がり、集落が点在する。


 一時間ほど走った。


 ペットが車を止めた。


 「ここから先は車で行けない」


 スッティンが言った。


 「歩くのか」


 「二キロほどだ」


 全員が降りた。ファリダーも後から合流した。


 「ここからは静かに動く。見張りがいる可能性がある」


 柏木が言った。


 全員が頷いた。


---


 農道を歩いた。


 両側に田んぼが広がっている。乾季で水は抜けていた。土が乾いて、ひび割れている。


 三十分ほど歩いた。


 スッティンが立ち止まった。


 「あの丘の向こうだ」


 小さな丘があった。木が生えている。


 「丘の上から見えるか」


 「見える。だが長居はできない。見張りに気づかれる」


 柏木は丘を見た。


 「俺とニコライで行く。他は待機だ」


 「私も行きます」


 ファリダーが言った。


 柏木はファリダーを見た。


 「なぜだ」


 「警察として、現場を確認する必要があります」


 「足手まといになる」


 「なりません」


 柏木は少し考えた。


 「……いい。ただし俺の指示に従え。勝手に動くな」


 「分かりました」


 ファリダーの声は静かだった。昨日のような張り合う調子がなかった。


---


 三人で丘を登った。


 木の陰に隠れながら、慎重に進んだ。


 頂上に近づいた。柏木が手で止まれの合図を出した。


 腹這いになった。三人で並んで、丘の向こうを覗いた。


 五百メートルほど先に、廃工場があった。


 建物が三棟。スッティンの情報通りだ。周囲を鉄条網が囲んでいる。高さは二メートルほど。有刺鉄線が巻かれている。


 監視塔が二つ。正門の両側に立っている。塔の上に人影が見えた。


 「見張りは二人」


 柏木が呟いた。


 「正門に一人。もう一人は塔の上」


 ニコライが言った。


 「武装は」


 「塔の上の男はライフルを持っている。AKだろう」


 柏木は双眼鏡を目に当てた。スッティンから借りたものだ。


 正門を見た。鉄製の門扉。車一台が通れる幅。門の横に小屋がある。見張りの詰め所だろう。


 建物を見た。一番大きい棟は二階建て。窓がいくつかある。窓には格子がはまっている。


 「あれが本棟だ」


 柏木が言った。


 「被害者はあの中か」


 ニコライが聞いた。


 「おそらく。窓に格子がある。逃げられないようにしている」


 ファリダーが双眼鏡を借りた。


 しばらく見ていた。


 「裏口があります」


 「どこだ」


 「右側の棟の裏。小さな扉が見えます」


 柏木は双眼鏡を受け取って、確認した。


 確かに扉があった。人一人が通れる程度の大きさだ。


 「よく見つけた」


 「……ありがとうございます」


 ファリダーは小さく頷いた。


---


 十分ほど観察した。


 見張りの動きを確認した。塔の上の男は三十分おきに周囲を見回している。正門の男は詰め所から出たり入ったりしている。


 「夜の見張りは四人だとスッティンが言っていた」


 柏木が言った。


 「今は昼だから二人。夜になると増える」


 「夜に動くのか」


 ニコライが聞いた。


 「そうなる。見張りは増えるが、暗闘は俺たちに有利だ」


 「根拠は」


 「向こうは待ちの姿勢だ。どこから来るか分からない。こっちは動く側だ。ルートを選べる」


 ニコライは頷いた。


 「理屈は分かる」


 「だが」


 「戦闘要員が少なすぎる」


 柏木は黙った。


 「俺とお前だけだ」


 ニコライが続けた。


 「アレクセイは医者だ。撃ち合いはできない。ファリダーは警察官だが、実戦経験がない。ペットは運転手。スッティンは指揮官タイプで、現場向きじゃない」


 「分かっている」


 「向こうは見張りだけで四人。中に何人いるか分からない。最低でも十人はいるだろう。武装している」


 「分かっている」


 「二人で十人以上を相手にするのか」


 「そうなる」


 ニコライは廃工場を見た。


 「……やったことはある」


 「俺もある」


 「ロシア軍か」


 「自衛隊だ」


 「自衛隊でそんな経験があるのか」


 柏木は答えなかった。


 ニコライはそれ以上聞かなかった。


---


 丘を降りた。


 全員と合流した。


 「どうだった」


 スッティンが聞いた。


 「情報通りだ。建物三棟、鉄条網、監視塔二つ。見張りは今のところ二人。武装はAK」


 「裏口は」


 「あった。右側の棟の裏だ」


 「ファリダーが見つけた」


 ニコライが付け加えた。


 スッティンはファリダーを見た。


 「……そうか」


 ファリダーは何も言わなかった。


---


 車に戻った。


 帰り道、柏木は考えていた。


 正面から突入するのは無理だ。監視塔からの射線がある。鉄条網を越える間に撃たれる。


 裏口を使う。だが裏口にも見張りがいるかもしれない。夜の四人がどこに配置されるか、まだ分からない。


 二人で突入する。ニコライと俺。


 アレクセイは後方で待機。負傷者が出たら対応する。


 ペットは車で待機。脱出ルートを確保する。


 ファリダーは被害者の保護。中から出てきた人間を安全な場所に誘導する。


 スッティンは全体の指揮。外部との連絡。


 役割分担は明確だ。だが戦闘は二人でやるしかない。


 もう一度偵察が必要だ。夜の配置を確認しないと、作戦が立てられない。


---


 シェルターに戻った。


 夕食の後、柏木は一人で庭に出た。


 煙草に火をつけた。


 タイの夜は虫の音がうるさい。湿度が低い乾季でも、虫は鳴いている。


 ニコライが来た。


 「考えてるな」


 「ああ」


 「作戦か」


 「そうだ」


 ニコライは柏木の隣に立った。


 「二人で十人以上。正直、厳しい」


 「分かっている」


 「だがやるんだな」


 「やる」


 「なぜだ」


 柏木は煙草を吸った。


 「中に人がいるからだ」


 「それだけか」


 「それで十分だ」


 ニコライは少し笑った。


 「お前、変わってるな」


 「よく言われる」


 「褒めてる」


 「そうか」


 「俺も同じだ。理屈じゃない。やるべきことがあるから、やる」


 柏木はニコライを見た。


 「だからチェルニヒウで腸が出ても戦ったのか」


 「アレクセイから聞いたか」


 「聞いた」


 「あの時は死ぬと思った。だが止まれなかった」


 「止まれない人間は、二種類いる」


 「何だ」


 「馬鹿か、正義か」


 「お前はどっちだ」


 「両方だ」


 ニコライは声を出して笑った。


 「俺もだ」


 二人は黙って、夜の空を見た。


 虫の音が続いていた。


---


 ファリダーが来た。


 「柏木さん」


 「……何だ」


 「明日の夜、また偵察に行くんですか」


 「そうだ」


 「私も行っていいですか」


 「なぜだ」


 「昼と夜で、見張りの配置が変わるなら、両方見ておきたい」


 柏木は少し考えた。


 「……いい」


 「ありがとうございます」


 ファリダーは頭を下げた。


 「一つ聞いていいですか」


 「何だ」


 「戦闘は、柏木さんとニコライさんの二人だけでやるんですか」


 「そうだ」


 「私は」


 「お前の仕事は被害者の保護だ。中から出てきた人間を、安全な場所に誘導しろ。それが警察の仕事だ」


 「……分かりました」


 「勝手に突っ込むな。自分の役割を守れ」


 「守ります」


 ファリダーは頭を下げて、中に戻っていった。


 ニコライが言った。


 「成長したな」


 「何がだ」


 「昨日よりマシになってる」


 「そうか」


 「お前の影響だ」


 「知らん」


 柏木は煙草を灰皿に落とした。


 新しいのに火をつけた。


 明日の夜、もう一度偵察する。夜の配置を確認して、作戦を立てる。


 二人で十人以上。


 やるしかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ