終話 The Man Who Would Not Die!
一週間前、瀧本勝幸が死んだ。
任務中の事故。詳細は非公開。それだけが発表された。
世界中のメディアが報じた。BBC、CNN、Al Jazeera、NHK。すべてが同じニュースを流した。
「18発の男」が死んだ、と。
◆
バンコク。王室墓地。
外国人がここに埋葬されるのは、タイの歴史上初めてのことだった。
石畳の道に黒い車列が並んでいる。各国の大使館車両。報道各社の中継車。カメラが墓地を囲み、レポーターたちがマイクを握っている。
墓地の中央に、白い花で埋め尽くされた祭壇。その中央に、黒い棺。
蓋は閉じられたままだった。
最前列に、国王陛下が立っていた。
白い礼服。胸には勲章。表情は厳粛で、微動だにしない。
隣には王妃陛下。白い喪服を纏い、静かに目を伏せている。
参列者の中に、見覚えのある顔がいくつもあった。
ジャン=クロード・ヴァンダム。黒いスーツ。顔は硬い。目は乾いている。
トニー・ジャー。石像のように動かない。涙は流れていない。
イコ・ウワイス。腕を組んで立っている。
サモ・ハン・キンポー。静かに棺を見つめている。泣いてはいない。
ドニー・イェン。サングラスをかけている。
スコット・アドキンス。直立不動。
マイケル・ジェイ・ホワイト。腕を組んでいる。
全員、泣いていない。
その隣に、ライアン・レイノルズがいた。
彼は泣いていた。
声を殺して、肩を震わせて、涙を流していた。ハンカチで何度も目元を拭っている。
隣のブレイク・ライブリーが背中をさすっている。
ドウェイン・ジョンソンも目を潤ませていた。唇を噛んでいる。
突撃隊のメンバーもいた。
サラ・コールマン。黒いドレス。泣いてはいない。
アレクセイ。黒いスーツ。表情は読めない。
ファリダー・チャンチャイ。時折、腕時計を見ている。
ヨナタン。陳志明。ナリン。
全員、泣いてはいない。
ジョンソンがいない。
ニコライがいない。
マルティネスがいない。
ンゴマがいない。アブドゥルがいない。ジェームズがいない。
局長がいない。
報道陣は全社来ている。BBC、CNN、NHK、Al Jazeera。
Netflixだけがいない。
葬儀が進む。
僧侶が経を唱える。
参列者たちが順番に花を捧げる。
国王陛下が最初に進み出た。白い花を棺の上に置く。深く一礼する。
格闘スターたちが続く。
ヴァンダムは花を置いた。何も言わなかった。棺を見つめて、小さく頷いただけだった。
トニー・ジャーは合掌した。その目は棺ではなく、どこか遠くを見ていた。
ライアン・レイノルズは花を置く時、また涙を流した。棺に手を置いて、何かを呟いた。
全員が花を捧げ終わった。
僧侶の経が終わった。
静寂が訪れた。
その時だった。
側近の一人が、国王陛下に近づいた。
手にスマートフォンを持っていた。
何かを囁く。国王陛下が小さく頷く。
スマートフォンが、国王の手に渡された。
国王陛下が耳に当てた。
「……」
「……そうか」
「……」
「……よくやった」
「……」
「……待っている」
国王陛下の唇が動いた。
「——我が騎士よ」
通話が終わった。
国王陛下はスマートフォンを返した。
そして——微かに、笑った。
The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか!
The END
同時刻。
どこかの山岳地帯。
岩と砂と、乾いた風。
空は青かった。
男が立っていた。
白いBDU、プレートキャリア、そして白いマフラー。
四十代半ば。髪は短い。目つきは鋭い。
彼の周囲に、突撃隊のメンバーが散開していた。
ジョンソン
ニコライ
マルティネス
ンゴマ
アブドゥル
ジェームズ
そして、局長が双眼鏡を構えている。
空から音が聞こえた。
ローター音。
一機ではない。
十機。二十機。それ以上。
UH-60ブラックホーク。CH-47チヌーク。MH-6リトルバード。
星条旗が描かれている。
米軍だった。
次々とヘリが降下してくる。
ロープが投げられ、兵士たちが滑り降りてくる。完全武装。最新鋭の装備。
デルタフォース。
別の方向からも音が聞こえた。
ユニオンジャック。イギリス軍。
SASの隊員たちが展開していく。
さらに別の方向から。
トリコロール。フランス軍。
GIGNの文字が見えた。
ドイツ。GSG-9。
イスラエル。サイェレット・マトカル。
オーストラリア。SASR。
各国の特殊部隊が、次々と降下してくる。
百人。二百人。それ以上。
山岳地帯が、黒い影で埋まっていく。
男の隣に、カメラを担いだ男が立っていた。
Netflixのマイクだ。
「……撮っていいか」
前を向いたまま答えた。
「好きにしろ」
デルタフォースの指揮官が近づいてきた。
敬礼。
「騎士殿。お待ちしておりました。後始末は我らにお任せを」
男は敬礼を返しながら言った。
「敬語はいらん」
「了解」
「展開完了は?」
「二時間後。全部隊の包囲を以て完了します」
「了解、後始末は頼む」
男は空を見上げた。
ヘリが次々と旋回している。
青い空を、黒い影が横切っていく。
バンコクの空と、同じ色だった。




