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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか!  作者: Operator3118
第7章 再起
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幕間 狂騒曲


 王宮での戦闘から三日後。

 Netflixのドキュメンタリー班は、バンコクの安ホテルで祝杯を上げていた。

 「最高の映像が撮れた」

 ディレクターのマイクが言った。アメリカ人。四十代。禿げかけている。

 「王宮の中で格闘戦だぞ。しかも全員ボロボロになりながら戦ってる。救急車で運ばれるところまで撮った。完璧だ」

 「でもマイク、俺たちも死にかけましたよね」

 カメラマンのトムが言った。

 「撮影中に三回撃たれかけた。一回は本当にかすった」

 「かすっただけだろ。死んでない」

 「死んでないですけど」

 「なら問題ない」

 「その論法、局長と同じですね」

 「局長は正しい」

 音声担当のサラが言った。

 「でも、本当にいい映像ですよ。瀧本がトゥクトゥクで王宮に突っ込むところ。建物の中まで三輪車で入っていくところ。あれ、映画でもやらない」

 「やらないよな。普通は」

 「でも瀧本はやった」

 「だから撮った」

 マイクはビールを飲み干した。

 「前回のドキュメンタリーは二億三千万人が見た。今回はもっと行くぞ。王宮の戦いだ。格闘スターに教わった技を実戦で使ってる。しかも敵は本物のテロリスト。脚本家が書いても、こんな話は通らない」

 「通らないですね」

 「でも現実に起きた。だから撮った」

 「俺たち、よく生きてますね」

 「生きてる。それが大事だ」

 一週間後。

 Netflixはドキュメンタリーの緊急制作を発表した。

 タイトルは『TAKIMOTO II —— 王宮の死闘』。

 前作の続編。王宮での戦いを中心に、半年間の訓練、テロとの戦い、そして逮捕劇までを描く。

 放送日は未定。だが、世界中のメディアが取り上げた。

 「あの男が帰ってきた」

 「今度は王宮でトゥクトゥク」

 「格闘スター直伝の技を実戦投入」

 ネット上では、前回のドキュメンタリーの切り抜きが再び拡散された。

 ロサンゼルス。

 ジャン・クロード・ヴァンダムは、自宅のジムでニュースを見ていた。

 「王宮の戦い? 瀧本が?」

 彼はすぐにNetflixに電話した。

 「俺の弟子が王宮で戦ったって? 映像を見せろ」

 「ヴァンダムさん、まだ編集中で——」

 「編集中でもいい。見せろ」

 Netflixは断れなかった。ヴァンダムは前作のドキュメンタリーで最も印象的なシーンを提供した人物だ。

 映像が送られてきた。

 ヴァンダムは自宅のスクリーンで見た。

 王宮の広間。

 瀧本がスペツナズの男と対峙している。

 ボロボロだ。左腕が動かない。右腿を撃たれている。鼻が折れている。

 それでも立っている。

 男が攻撃してくる。瀧本が投げられる。床に叩きつけられる。

 また立つ。

 また投げられる。

 また立つ。

 「……いいぞ、瀧本」

 ヴァンダムは拳を握った。

 映像が続く。

 サラが男の足首を掴んだ。

 瀧本が跳んだ。

 回転した。

 540度。

 回し蹴りが男の側頭部を捉えた。

 男が吹っ飛んだ。

 ヴァンダムは立ち上がった。

 「やった! やったぞ! 540度だ! 俺が教えた! 俺が!」

 彼は妻に向かって叫んだ。

 「見たか!? 瀧本が540度回転蹴りを実戦で使った! 俺が教えたんだ!」

 「聞こえてるわよ。隣の家まで聞こえてるわよ」

 「聞こえていい! 世界中に聞こえていい!」

 ヴァンダムはすぐにSNSに投稿した。

 「私の弟子、タキモトが王宮で540度回転蹴りを使った。私が教えた。私の技だ。彼は最高の弟子だ」

 投稿は一時間で百万いいねを超えた。

 バンコク。トニー・ジャーの自宅。

 トニー・ジャーも映像を見ていた。

 瀧本がムエタイの技を使っている。膝、肘、膝、肘。流れるように打撃を繰り出している。

 「速くなった」

 トニー・ジャーは微笑んだ。

 「半年前は荒かった。今は滑らかだ。俺が教えた甲斐があった」

 彼もSNSに投稿した。

 「タキモトは私の誇りです。彼のムエタイは、もう荒くない」

 ジャカルタ。イコ・ウワイスの自宅。

 イコ・ウワイスはスマホで映像を見ていた。

 瀧本がシラットの動きを使っている。流れの中で攻撃と防御を行っている。止まらない。

 「流れを掴んだな」

 イコは師匠のミリョク・ヤンに電話した。

 「師匠、見ましたか」

 「見た」

 「瀧本、シラットを使ってました」

 「使っていた。サラも使っていた。二人とも、よくやった」

 「師匠が教えた甲斐がありましたね」

 「ある。だが、まだ伸びる。次に会ったら、もっと教えてやる」

 香港。サモ・ハン・キンポーの自宅。

 サモ・ハンは映像を見て笑っていた。

 ジョンソンが戦っている。体重を活かした戦い方。重くて速い。一人を殴り倒し、別の一人を投げ、三人目に組み付いている。

 「あの黒人、よくやってる」

 サモ・ハンは満足そうだった。

 「体重を活かすってのは、こういうことだ。デブは強い。覚えておけ」

 隣にいた息子が言った。

 「父さん、デブって言っちゃダメだよ」

 「俺がデブだからいいんだ」

 ドイツ。スコット・アドキンスの自宅。

 スコット・アドキンスは映像を見て頷いていた。

 ニコライが蹴りを放っている。見えない蹴り。軌道が読めない。

 「いい蹴りだ。俺が教えた通りだ」

 だが、次の瞬間、ニコライが撃たれた。右足に。倒れた。

 「……くそ」

 スコットは顔をしかめた。

 「でも、その後も戦ってる。足を撃たれても、這ってでも戦ってる。根性がある」

 彼はSNSに投稿した。

 「ニコライは最高の生徒だった。彼の回復を祈っている」

 アメリカ。マイケル・ジェイ・ホワイトの自宅。

 マイケルは映像を見て叫んでいた。

 マルティネスが戦っている。殴り、蹴り、投げ、締める。何でもあり。脇腹を切られても戦い続けている。

 「そうだ! それでいい! 止まるな! 戦え!」

 マルティネスが崩れ落ちた。血が流れている。

 「……くそ」

 マイケルは拳を握った。

 「でも、生きてる。生きてるんだろうな」

 彼はNetflixに電話した。

 「マルティネスは生きてるのか」

 「生きてます。入院中ですが、命に別状はありません」

 「よかった」

 マイケルは息を吐いた。

 「あいつに伝えてくれ。よくやったって」

 タイ。ブアカーオ・バンチャメークの自宅。

 ブアカーオは映像を見ていた。

 局長が戦っている。警察本部で。警官たちを相手に。ムエタイで。

 「いい動きだ」

 ブアカーオは微笑んだ。

 「俺が教えた通りだ。肘の角度、膝の入れ方、全部正しい」

 局長が撃たれた。左腕を。

 「……」

 だが、局長は止まらなかった。そのまま戦い続けた。

 「いい根性だ」

 ブアカーオは頷いた。

 「俺の弟子にふさわしい」

 ロサンゼルス。ヴァンダムの自宅。二日後。

 ヴァンダムはNetflixの幹部と電話していた。

 「だから言ってるだろう。瀧本を主演にしろ」

 「ヴァンダムさん、彼は俳優じゃないんです」

 「俳優じゃなくていい。本人役だ。本人を本人が演じる。最高じゃないか」

 「でも、彼は今入院中で——」

 「退院したら撮ればいい」

 「映画を撮るんですか?」

 「当然だ。ドキュメンタリーもいいが、映画にすればもっといい。俺も出る。トニー・ジャーも出る。イコ・ウワイスも出る。全員出る」

 「全員出るって——」

 「俺たちが教えた技を、瀧本が使う。それを映画にする。脚本は要らない。全部本当のことだからな」

 「いや、でも——」

 「考えておけ」

 ヴァンダムは電話を切った。

 妻が聞いた。

 「また無茶言ったの」

 「無茶じゃない。最高のアイデアだ」

 「瀧本さんに許可取ったの」

 「取ってない」

 「取りなさいよ」

 「取る。退院したら」

 バンコク。病院。

 瀧本は病室のベッドで、スマホを見ていた。

 ヴァンダムのSNS投稿が表示されている。

 「私の弟子、タキモトを主演にした映画を作るべきだ。Netflixに提案した。彼は最高のアクションスターになれる」

 瀧本は天井を見た。

 「……勝手に話進めてる」

 隣のベッドでマルティネスが笑った。脇腹が痛そうだった。

 「お前、映画スターになるのか」

 「ならない」

 「でもヴァンダムが言ってる」

 「勝手に言ってる」

 「断れるのか」

 「……」

 瀧本は黙った。

 ヴァンダムの目を思い出した。あの目で「やれ」と言われたら、断れる気がしなかった。

 「……考えないことにする」

 「逃げるな」

 「逃げる。今は怪我人だ。考える義務はない」

 「怪我人は怪我人らしくしてろってことか」

 「そうだ」

 「じゃあ俺も考えない」

 「そうしろ」

 二人は天井を見た。

 外からサイレンの音が聞こえた。

 バンコクは、まだ騒がしかった。

 Netflixのドキュメンタリー班は、病院にも来ていた。

 「瀧本さん、インタビューいいですか」

 「嫌です」

 「でも、世界中が待ってます」

 「待たせとけ」

 「ヴァンダムさんが、あなたのコメントを求めてます」

 「ヴァンダムさんには、勝手に話を進めるなと伝えてください」

 「それ、本人に言えますか」

 「……」

 瀧本は黙った。

 言えない。絶対に言えない。

 「……インタビューは退院してからで」

 「いつ退院ですか」

 「三ヶ月後」

 「三ヶ月待ちます」

 「待つな」

 「待ちます。俺たちはドキュメンタリー班です。待つのが仕事です」

 瀧本はため息をついた。

 「こんなんで死んでたまるかボケェ」

 「それ、名言ですね。使っていいですか」

 「使うな」

 「使います」

 「だから使うなって」


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