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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか!  作者: Operator3118
第7章 再起
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第10話 狩り

 テロ発生から十二時間。

 バンコクは完全封鎖されていた。

 主要道路は軍が封鎖。空港は閉鎖。港も封鎖。鉄道は運行停止。

 街はパニック状態だった。人々が逃げ惑い、車が渋滞を作り、サイレンが鳴り響いている。

 その混乱の中で、逃げようとしている者たちがいた。

 王室犯罪対策局本部。作戦室。

 局長が全員を見渡した。

 「王宮の書類を解析した。汚職に関与した人物は二十八名。政治家八名、軍幹部五名、警察幹部三名、財界人十二名。全員を今日中に逮捕する」

 トンプソンが腕を組んだ。元海兵隊。新隊員の中で最も経験豊富。左頬に昨夜の戦闘で受けた痣がある。

 「逃がすつもりはない」

 低い声だった。藤原誠一と何度も訓練で組んだ。言葉は通じなくても、動きで分かり合えた。その藤原は、裏切り者に殺された。そして今、その裏切りを生んだ腐敗の元凶を追う。

 「優先度が高いのは三人だ」

 局長がホワイトボードに名前を書いた。

 「政界のドン、チャイワット・プラサート。陸軍の元将軍、ソムチャイ・ウォンサワット。警察副長官、プラチャ・タンティウォン」

 通信機が鳴った。

 ハーパーが出た。

 「……局長、瀧本から通信です」

 「瀧本? 入院中だろう」

 「病室から連絡してきてます。話したいことがあると」

 局長は通信機を受け取った。

 「瀧本、何だ」

 「局長、チャイワットの逃走ルート、分かりました」

 瀧本の声はかすれていた。だが、意識ははっきりしている。

 「空港じゃないです。あいつ、ヘリを持ってる。自宅の屋上にヘリポートがある。そこから逃げるつもりだ」

 「どこで知った」

 「去年、チャイワットの会社を調査した時の資料を思い出した。ルノーが作ったやつです。あいつは空港嫌いで、国内移動は全部ヘリだった。自宅にヘリポートがあるって書いてあった」

 局長は地図を見た。

 「自宅の場所は」

 「サトーン地区。川沿いの豪邸です」

 「分かった。アルファチームの目標を変更する」

 通信を切った。

 トンプソンが聞いた。

 「目標変更ですか」

 「チャイワットは空港じゃない。自宅からヘリで逃げる。先回りしろ」

 「了解」

 午前五時。

 三つのチームが出発した。

 サトーン地区。チャオプラヤー川沿いの豪邸。

 チーム・アルファは裏口から侵入した。

 「屋上にヘリポートがある。ヘリが見える」

 シュミットがスコープで確認した。元GSG-9の狙撃手。

 「エンジンがかかってる。もう逃げようとしてる」

 「急げ」

 トンプソンが先頭を走った。

 階段を駆け上がる。三階。四階。五階。屋上。

 扉を蹴破った。

 ヘリが目の前にあった。ローターが回っている。

 チャイワットが乗り込もうとしていた。七十代の老人。白髪。高級スーツ。

 ボディガードが六人。全員が銃を構えた。

 「止まれ!」

 トンプソンが叫んだ。

 「王室犯罪対策局だ! チャイワット・プラサートを逮捕する!」

 ボディガードが発砲した。

 トンプソンが横に跳んだ。弾が通過する。

 オコナーが柱の陰に隠れた。応射した。一人のボディガードが倒れた。

 シュミットが狙いを定めた。二発。二人が倒れた。

 エマが走った。残りの三人に向かって。

 一人が銃を向けた。エマは横に跳んで躱し、男の懐に入った。銃を払い、肘を顎に叩き込んだ。男が崩れた。

 二人目が殴りかかってきた。エマは腕を取り、投げた。男が床に叩きつけられた。

 三人目が逃げようとした。トンプソンが追いついて、後ろから首を絞めた。男が動かなくなった。

 六人のボディガードが全員倒れた。

 だが、その間にチャイワットはヘリに乗り込んでいた。

 ヘリが浮き上がった。

 「逃げる気か!」

 トンプソンが走った。

 ヘリのスキッドに飛びついた。掴んだ。

 ヘリが上昇する。トンプソンがぶら下がっている。

 「トンプソン!」

 オコナーが叫んだ。

 トンプソンは片手でスキッドを掴みながら、もう片方の手で銃を抜いた。

 コックピットに向けて撃った。

 ガラスが砕けた。パイロットが倒れた。

 ヘリがバランスを崩した。傾いた。

 トンプソンは手を離した。屋上に落ちた。転がった。

 ヘリは制御を失って、屋上の端に墜落した。爆発はしなかった。だが、動かない。

 トンプソンが立ち上がった。

 ヘリに近づいた。

 ドアを開けた。

 チャイワットがいた。額から血が流れている。意識はある。

 「……終わりだな」

 チャイワットが言った。

 「ああ、終わりだ」

 トンプソンが手錠を取り出した。

 「藤原」

 小さく呟いた。

 「一人目だ」

 陸軍第一師団基地。正門前。

 チーム・ブラボーは待機していた。

 門の向こうに、武装した兵士たちが見える。

 「入れないな」

 ピーターが言った。

 「入れない。でも、待ってれば入れる」

 ベッカーが言った。難民を守ろうとして上官を殴り、軍を追い出された男。

 「軍の連中を知ってる。上からの命令には逆らえない」

 黒田が静かに言った。日本人女性。藤原誠一と同郷だった。

 「私たちは、待つだけです。待って、捕まえる」

 キム・ジュンソが頷いた。韓国人。寡黙。

 通信機が鳴った。

 「ピーター、参謀総長と話がついた。ソムチャイの身柄引き渡しを命じる」

 「了解」

 五分後、基地の門が開いた。

 将校が出てきた。顔が硬い。

 「……ソムチャイ元将軍を引き渡す」

 その後ろから、ソムチャイが連れてこられた。六十代。がっしりした体格。軍服を着ている。

 彼は捜査官たちを睨みつけた。

 「貴様ら、何の権利があって——」

 「王室犯罪対策局です」

 黒田が前に出た。

 「汚職、公金横領、テロ支援の容疑で逮捕します」

 「女に逮捕されると思うか!」

 黒田は動じなかった。

 「思います。私の同郷の仲間が、あなたのような人間のせいで死にました。藤原誠一という名前です。覚えておいてください」

 ベッカーが手錠を取り出した。

 「俺は上官を殴って軍を追い出された。難民を守ろうとしたからだ。お前みたいな奴がいるから、軍は腐る」

 手錠がかけられた。

 ソムチャイが暴れようとした。

 キム・ジュンソが動いた。腕を掴み、関節を極めた。

 「静かに。抵抗すれば、折る」

 ソムチャイは動きを止めた。

 警察本部。

 局長と四名の捜査官が到着した。

 モラレス。元メキシコ連邦警察。麻薬カルテルとの戦いで家族を失っている。

 ワシントン。元米軍MP。規律を重んじる。

 コーエン。イスラエル系。元軍事情報部。皮肉屋。

 イ・スジン。韓国人女性。寡黙だが、笑う時は笑う。

 「局長、本当に正面から行くんですか」

 モラレスが聞いた。

 「正面から行く」

 「俺はメキシコで麻薬カルテルと戦った。正面から行って、何度も死にかけた」

 「死んだか?」

 「死んでない」

 「なら問題ない」

 エレベーターで最上階に向かった。

 エレベーターが開いた。

 廊下に警官が十人立っていた。全員が銃を持っている。

 五人じゃない。十人だ。

 先頭の警部は、目が座っていた。

 「止まれ。これ以上は通さない」

 「王室犯罪対策局だ。プラチャ副長官を逮捕する」

 「副長官は無実だ。お前たちこそ不法侵入で逮捕する」

 局長は逮捕状を見せた。

 「王室の印がある。お前にこれを止める権限はない」

 警部が銃を構えた。

 「王室だろうが何だろうが、通さない。副長官を守る。それが俺たちの仕事だ」

 「お前も金をもらっているのか」

 「もらってる。だから何だ。お前たちに裁く権利があるのか」

 局長は一歩前に出た。

 「ある」

 警部が引き金を引いた。

 局長は横に跳んだ。だが、完全には躱せなかった。

 弾が左腕を掠めた。血が飛んだ。

 「局長!」

 モラレスが叫んだ。

 局長は止まらなかった。

 走った。警部に向かって。

 ブアカーオ直伝のムエタイ。

 警部の銃を払い、肘を顎に叩き込んだ。警部が崩れ落ちた。

 残りの九人が動いた。

 乱戦になった。

 モラレスが二人を相手にした。カルテルとの戦いで鍛えられた技術。一人の銃を奪い、もう一人を殴り倒した。

 ワシントンが三人を相手にした。大きな体を活かして、一人を壁に叩きつけ、二人目を投げ、三人目を殴った。

 コーエンが二人を相手にした。喉に掌底を入れ、膝を蹴り抜いた。

 イ・スジンが二人を相手にした。一人を投げ、もう一人の腕を極めた。

 十人の警官が全員倒れた。

 だが、局長の左腕から血が流れている。

 「局長、大丈夫ですか」

 「問題ない。行くぞ」

 副長官室の扉を蹴破った。

 プラチャがいた。五十代。太った体。

 だが、一人じゃなかった。

 女性を人質に取っていた。若い女。秘書か。首にナイフを当てている。

 「来るな!」

 プラチャが叫んだ。

 「この女を殺すぞ!」

 局長は止まった。

 「人質か。警察副長官が、そこまで落ちたか」

 「落ちた? 俺は生き残るんだ! 何が何でも!」

 プラチャの目が狂っていた。追い詰められた獣の目だ。

 「お前たちが来ることは分かってた! だから保険を用意した!」

 「その女を離せ。お前の罪が一つ増えるだけだ」

 「増えたって同じだ! どうせ死刑だ! なら道連れにしてやる!」

 女が泣いていた。体が震えている。

 局長は一歩前に出た。

 「撃つなら撃て。俺を」

 「何?」

 「その女じゃなく、俺を撃て。俺を殺せば、お前は逃げられるかもしれない」

 プラチャは局長を見た。

 「……何を考えてる」

 「考えてない。お前が人質を取るような卑怯者だと思わなかっただけだ」

 「卑怯? 生き残るためだ!」

 「生き残ってどうする。お前の人脈は全員逮捕される。金も凍結される。逃げる場所はない」

 「……」

 「その女を殺しても、お前は逃げられない。分かってるだろう」

 プラチャの手が震えた。

 「……なぜだ。なぜ、こんなことに……」

 「お前が選んだ道だ」

 局長はゆっくりと近づいた。

 「俺の部下が九人入院している。一人は心臓が三回止まった。一人は二度と歩けないかもしれない」

 「……」

 「それでも誰も死ななかった。全員生きている。お前を捕まえるために」

 プラチャの手からナイフが落ちた。

 女が逃げ出した。イ・スジンが受け止めた。

 プラチャは崩れ落ちた。泣いていた。

 「……終わりだ……全部、終わりだ……」

 「ああ、終わりだ」

 手錠がかけられた。

 午前十時。

 二十八人のうち、二十七人が逮捕された。

 一人だけ、逮捕できなかった。

 財界人の一人、ウィチャイ・スワンナポン。建設会社の社長。

 チームが自宅に踏み込んだ時、彼は書斎にいた。

 机の上に、大量の書類があった。火をつけようとしていた。

 「動くな!」

 捜査官が叫んだ。

 ウィチャイは振り向いた。

 六十代。痩せた男。目が虚ろだった。

 「……遅かったな」

 彼は笑った。

 「でも、これだけは渡さない」

 彼は書類にライターで火をつけた。

 捜査官が飛びかかった。だが、間に合わなかった。

 書類が燃え始めた。

 そして、ウィチャイは窓に向かって走った。

 窓を突き破った。

 十二階から落ちた。

 捜査官が窓から下を見た。

 ウィチャイは、コンクリートの上に横たわっていた。動かなかった。

 午後三時。

 局長は病院にいた。

 左腕に包帯を巻いている。撃たれた傷だ。

 集中治療室の前。

 瀧本が車椅子に乗って出てきた。顔中に包帯を巻いている。左腕が固定されている。

 「局長、腕」

 「掠っただけだ。お前の方がひどい」

 「そうですね」

 瀧本は局長を見た。

 「二十七人、逮捕したんですね」

 「二十七人だ。一人は逃げた」

 「逃げた?」

 「飛び降りた。十二階から。書類を燃やしてから」

 瀧本は黙った。

 「……そうですか」

 「証拠の一部は失われた。完璧な勝利じゃない」

 「でも、二十七人は捕まえた」

 「捕まえた」

 「書類の大部分は無事だ」

 「無事だ」

 瀧本は窓の外を見た。

 「俺たちが守ったものは、無駄じゃなかった」

 「無駄じゃない」

 局長は瀧本を見た。

 「お前の情報がなければ、チャイワットは逃げていた。ヘリで」

 「たまたま覚えてただけです」

 「たまたまでも、役に立った」

 瀧本は少し笑った。顔が痛かった。

 「ニコライは、どうですか」

 「まだ分からない。医者は、歩けるようになるかもしれないと言っている。リハビリ次第だと」

 「ンゴマは」

 「意識が戻った。今朝」

 「……よかった」

 瀧本は天井を見た。

 「完璧な勝利じゃない。一人逃げた。一人死んだ。ニコライは歩けないかもしれない。でも——」

 「でも」

 「全員、生きてる。俺たちは」

 「生きてる」

 局長は窓の外を見た。

 「これから裁判が始まる。証言が集められる。全ての真実が明らかになる。長い戦いになる」

 「俺たちも戦いますか」

 「戦う。だが、今は休め」

 局長は瀧本の肩を軽く叩いた。

 「お前たちの戦いは、一つ終わった。次の戦いに備えろ」

 局長は歩いていった。

 瀧本は車椅子に座ったまま、窓の外を見ていた。

 バンコクの空は、青かった。

 完璧じゃない。

 でも、勝った。

 それで、十分だ。

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