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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第7章 再起
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第5話 日常


 昼下がり。

 本部の食堂。

 瀧本、マルティネス、ヨナタンの三人が、テーブルを囲んでいた。

 瀧本の前には山盛りのカオマンガイ。マルティネスはトムヤムクン。ヨナタンはガパオライス。三人とも、黙々と食べている。

 「なあ」瀧本が口を開いた。

 「何だ」マルティネスが答えた。

 「俺たち、半年前と比べてどのくらい強くなったと思う」

 「知らん。計ったことがない」

 「計れよ」

 「どうやって」

 「……確かに」

 会話が途切れた。また黙々と食べる。

 ヨナタンが、ふと顔を上げた。「お前、最近よく喋るな」

 「俺?」瀧本は箸を止めた。「前から喋ってただろ」

 「違う。前はもっと……何というか……」

 「何だよ」

 「うるさかった」

 「褒めてんのか貶してんのか分かんねえよ」

 「褒めてない」

 マルティネスが笑った。低い、腹の底から出るような笑い。「お前ら、相変わらずだな」

 「相変わらずって何だよ」

 「仲がいい」

 「仲良くねえよ」瀧本とヨナタンが同時に言った。

 マルティネスはまた笑った。

 食堂の入り口から、ダニエルが入ってきた。作業着姿。手が油で汚れている。

 「おう、ダニエル」瀧本が声をかけた。「飯か」

 「ああ」ダニエルは三人のテーブルの近くに座った。「腹減った」

 「車、直ったのか」

 「直った。ハンヴィーの足回り、全部やり直した」ダニエルは疲れた顔をしていた。「あれ、相当無茶な使い方されてたな。サスペンションがイカれてた」

 「誰だよ、無茶な使い方したの」

 「お前だ」

 「……あー」

 瀧本は目を逸らした。半年前、結婚式襲撃の後、ハンヴィーでビルに突っ込んだのは自分だった。

 「まあ、直ったからいいけど」ダニエルはカオパットを注文した。「次からは、もう少し丁寧に乗ってくれ」

 「善処する」

 「善処じゃなくて、約束しろ」

 「……善処する」

 ダニエルは諦めたように溜息をついた。

 エイブラハムも食堂に入ってきた。こちらも作業着。ダニエルの隣に座った。

 「お、エイブラハム」マルティネスが声をかけた。「久しぶりだな」

 「久しぶりじゃない。昨日も会った」

 「そうだっけ」

 「俺が運転した車に乗ってただろ」

 「あー、そうだったか」

 エイブラハムは呆れた顔をした。「お前、俺のこと空気だと思ってるだろ」

 「思ってねえよ」

 「思ってる。絶対思ってる」

 瀧本が横から口を出した。「エイブラハム、気にすんな。マルティネスは俺のことも空気だと思ってるから」

 「思ってねえよ」マルティネスが言った。

 「思ってる。絶対思ってる」

 「お前らの会話、ループしてるぞ」ヨナタンが冷静に指摘した。

 テーブルに笑いが起きた。小さな、だが温かい笑い。

 食事が進む。

 ダニエルが瀧本に聞いた。「そういえば、バイクはどうなった」

 「まだ届かない。あと二週間くらいって言われた」

 「BMW、また同じやつ?」

 「同じやつ。R1250 GS Adventure。白」

 「お前、あれ何台目だ」

 「……数えてない」

 「数えろよ」

 「数えたくない」

 エイブラハムが言った。「俺が整備した車も、お前に乗られると寿命が縮む」

 「人聞きの悪いこと言うなよ」

 「事実だ」

 「事実だけど」

 ダニエルとエイブラハムが顔を見合わせた。「開き直った」「開き直ったな」

 食堂の奥から、ナターシャとラッタナーが出てきた。昼食を終えたらしい。トレイを片付けている。

 ナターシャが瀧本たちのテーブルに気づいた。「あら、皆さんお揃いで」

 「おう、ナターシャ」瀧本が手を挙げた。「経理の仕事、忙しいか」

 「忙しいわよ」ナターシャは溜息をついた。「組織再編で、人員の配置転換があったでしょう。給与体系も全部見直し。書類の山よ」

 「大変だな」

 「大変よ。特に、あなたの医療費の処理が」

 「……すまん」

 「半年で何回入院したか、覚えてる?」

 「……覚えてない」

 「六回よ。六回」

 マルティネスが吹き出した。「六回は多いな」

 「お前も四回だ」ナターシャが冷たく言った。

 マルティネスは黙った。

 ラッタナーが横から言った。「私、医療費の請求書を整理してるんですけど、瀧本さんとマルティネスさんの分だけで、他の全員の合計より多いんですよ」

 「……」

 「……」

 二人は目を逸らした。

 ヨナタンが静かに言った。「俺は入院してない」

 「あなたは別の意味で大変なの」ナターシャが言った。「装備の消耗が激しいのよ。ナイフだけで今年何本替えた?」

 「……十二本」

 「十二本よ。一ヶ月に一本のペース」

 「使い捨てだから」

 「使い捨てにしては高いのよ」

 ヨナタンも黙った。

 ダニエルとエイブラハムが顔を見合わせた。「俺たち、まともな方だな」「まともだな」

 食事が終わった。

 瀧本たちがトレイを片付けていると、プラウィットが食堂に入ってきた。

 「あ、瀧本さん」プラウィットが近づいてきた。「局長が呼んでます」

 「俺を?」

 「はい。三人とも、だそうです」

 瀧本、マルティネス、ヨナタンは顔を見合わせた。

 「何だろうな」マルティネスが言った。

 「分からん」瀧本が答えた。

 「また何かやらかしたか?」ヨナタンが聞いた。

 「やらかしてねえよ」

 「やらかしてないか?」

 「……たぶん」

 プラウィットは苦笑した。「詳しいことは聞いてません。でも、怒ってる感じではなかったですよ」

 「ならいいけど」

 三人は食堂を出た。

 廊下を歩く。

 瀧本が隣のマルティネスに聞いた。「なあ、お前、最近どうだ」

 「どうって、何が」

 「体調とか。傷とか」

 マルティネスは少し黙った。それから、言った。「まあまあだ。胸の傷は、もう痛まない。でも、たまに夢を見る」

 「夢?」

 「柏木の夢だ。あいつが俺を撃つ夢。目が覚めると、胸が痛い。傷じゃなくて、何か別のところが」

 瀧本は頷いた。「俺もだ。柏木を撃つ夢を見る」

 ヨナタンが言った。「俺は、マリーの夢を見る。あいつが瀧本を撃つところ。何度も、何度も」

 三人は黙った。

 しばらく歩いてから、瀧本が言った。「まあ、しょうがねえよな」

 「しょうがない」

 「しょうがない」

 「時間が解決する、とか言うけど」マルティネスが言った。「解決するのかな」

 「分からん」瀧本は肩をすくめた。「でも、今日飯食って、明日も飯食って、そうやって生きてれば、いつか楽になるんじゃねえの」

 「楽観的だな」

 「楽観的じゃねえよ。ただ、他にやりようがねえだけだ」

 マルティネスは少し笑った。「お前らしいな」

 「らしいって何だよ」

 「死なない男らしい」

 「こんなんで死んでたまるかボケェ、だろ」

 マルティネスも言った。「こんなんで死んでたまるかボケェ」

 ヨナタンは黙って聞いていた。それから、小さく言った。「俺もそれ、言っていいか」

 「いいよ」

 「こんなんで……死んでたまるかボケェ」

 「棒読みだな」

 「慣れてない」

 「練習しろ」

 「……こんなんで死んでたまるかボケェ」

 「まだ棒読み」

 「うるさい」

 三人は笑った。廊下に笑い声が響いた。

 壊れた日常。失った仲間。消えない傷。

 それでも、彼らは歩いていた。前に向かって。

 局長室の前に着いた。

 瀧本がドアをノックした。

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