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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第6章 灰
123/131

最終話

---


 バンコク。王立病院。


 集中治療室の前の廊下は、静まり返っていた。


 隊員たちが、そこにいた。椅子に座っている者。壁にもたれている者。床に座り込んでいる者。誰も言葉を発しない。発する言葉がなかった。


 蛍光灯の白い光が、彼らの顔を照らしていた。疲弊した顔。憔悴した顔。何かが壊れかけている顔。


 結婚式の襲撃から、十二時間が経っていた。


---


 ガラス越しに、瀧本の姿が見えた。


 ベッドに横たわり、全身に管が繋がれている。人工呼吸器が胸を上下させ、心電図が波形を描き続けている。点滴のチューブが何本も垂れ下がり、モニターの数字が明滅している。


 三日前、十二発の銃弾を受けて昏睡状態に陥った体。その体で病院を抜け出し、戦場に向かい、さらに八発の銃弾を受けた。ヘリから飛び降り、肋骨を三本折った。左目は弾丸に貫かれ、二度と光を映さない。


 医師は首を振りながら言った。


 「医学的には、死んでいるはずです」


---


 ジョンソンは、窓の外を見つめていた。


 バンコクの夜が、ゆっくりと明けようとしている。東の空が、かすかに白んできた。


 あの男が病院を抜け出した時、自分は何をしていたのか。


 装備を整えている姿を見た。白いBDUを着る姿を見た。眼帯をつけ、ホルスターにM93Rを差し込む姿を見た。白いマフラーを首に巻く姿を見た。


 止めなかった。


 止められなかった、のではない。止めなかった。


 あの目を見たからだ。スヨンを殺された男の目。底が抜けたような、それでいて燃えているような、矛盾した光を宿した目。何を言っても、誰が立ちはだかっても、止まらない目。


 止める権利が、自分にあるとは思えなかった。


 だが、それは言い訳だ。


 「俺は......」


 ジョンソンは呟いた。声が掠れていた。


 「俺は、総隊長代理だ。あいつを止める義務があった」


 誰も、答えなかった。


 答えられる者は、いなかった。


---


 ニコライは、椅子に座ったまま、微動だにしなかった。


 両手で杖を握り締め、その先端を床に押し付けている。指の関節が、白くなるほど強く。


 結婚式の時、自分は陛下を守っていた。


 それは正しい判断だった。王室騎士として、陛下を守ることは最優先だ。瀧本もそう判断したはずだ。だから、自分たちに陛下を任せて、スヨンを追った。


 だが。


 瀧本がスヨンを追って走り出した時、自分は動けなかった。陛下の護衛を離れることができなかった。仲間が走り去るのを、見送ることしかできなかった。


 正しかったのか。


 陛下は無事だった。だが、スヨンは死んだ。


 正しさとは、何なのか。


 任務を果たすこととは、何なのか。


 ニコライには、分からなくなっていた。分からないまま、ここに座っている。杖を握り締めて。答えの出ない問いを、頭の中で繰り返しながら。


---


 マルティネスは、壁に背を預けていた。


 右足の傷が痛む。聖域作戦での傷。まだ完治していない。だが、そんなものは些細なことだった。今、感じている痛みに比べれば。


 瀧本とは、何度も一緒に死線をくぐってきた。


 撃たれて倒れた時、瀧本が駆けつけてくれた。意識が遠のく中、瀧本の声が聞こえた。「死ぬな」と。「まだ死ぬな」と。


 今度は自分が助ける番だった。


 なのに、何もできなかった。


 瀧本がヘリに飛び乗った時、自分は地上にいた。見上げることしかできなかった。瀧本がヘリから落ちた時、走ることすらできなかった。足が、動かなかった。


 「俺たちは、いつも一歩遅い」


 マルティネスは呟いた。


 「柏木が壊れた時も。藤原が撃たれた時も。スヨンが殺された時も」


 一歩。たった一歩。


 その一歩が、いつも届かない。


---


 陳志明は、廊下の端に立っていた。


 壁にもたれることもなく、椅子に座ることもなく、ただ立っていた。腕を組み、ガラス越しに瀧本を見つめている。


 その顔には、何の感情も浮かんでいなかった。


 泣いていない。怒っていない。震えてもいない。ただ、静かに、瀧本を見つめている。


 「陳」


 アブドゥルが声をかけた。


 「大丈夫か」


 「大丈夫だ」


 陳の声は、平坦だった。


 「負傷者は瀧本を含めて七名。うち重体は瀧本のみ。敵は四十三名中四十三名を無力化。作戦としては成功だ」


 「......」


 「陛下も無事だった。護衛任務は達成された」


 「陳......」


 「スヨンの死亡は、想定外の損害だ。だが、作戦全体の評価には影響しない」


 アブドゥルは、何も言えなかった。


 陳は、まだガラスを見つめていた。


 その目は、乾いていた。何も映していないように見えた。


 だが、腕を組んだその手が、わずかに白くなっていた。


 爪が、自分の腕に食い込んでいた。


---


 サラは、壁にもたれて、天井を見つめていた。


 目が赤かった。何度も泣いた。もう涙は出ない。涙を流す力すら、残っていなかった。


 スヨンとは、よく話をした。女性隊員は少ない。自然と、二人で過ごす時間が増えた。


 結婚式の準備を手伝った。ドレスを選ぶのを手伝った。髪型を一緒に考えた。ブーケの花を選んだ。席順を決めた。


 「瀧本さんと結婚したら、子供は何人ほしい?」


 そう聞いたことがある。


 スヨンは、少し照れたように笑った。


 「二人。男の子と、女の子」


 「名前は決めてるの?」


 「まだ。でも、瀧本さんと一緒に考えたい」


 「きっといいお父さんになるわ」


 「うん。不器用だけど、優しいから」


 その夢は、もう叶わない。


 スヨンは死んだ。白いドレスを赤く染めて。


 もう、名前を一緒に考えることもない。


 「私は......」


 サラは呟いた。


 「私は、あの子に『幸せになれる』と言った」


 声が震えた。喉の奥が詰まった。


 「嘘だった」


 誰も、何も言わなかった。


 嘘ではなかった、とは言えなかった。


---


 ヨナタンは、車椅子のまま、ガラス越しに瀧本を見つめていた。


 マリーに撃たれた傷は、まだ癒えていない。右腕は動かない。歩くこともできない。車椅子がなければ、移動すらできない。


 だが、瀧本は、そんな自分を百キロ担いで帰ってきた。


 ラオスの山中を、四日間。自分を背負い、マリーを連れ、藤原を埋葬して。


 あの時、瀧本は何も言わなかった。「重い」とも「辛い」とも言わなかった。ただ黙々と歩き続けた。汗を流し、血を流し、それでも歩き続けた。


 三日目に瀧本が倒れた時、自分は何もできなかった。車椅子に座って、それを見ていただけだった。マリーが「立ちなさいよ」と言った。自分は、声を出すこともできなかった。


 今も同じだ。


 瀧本が戦っている時、自分は車椅子に座っていた。スヨンが撃たれた時、自分は何もできなかった。瀧本がヘリから落ちた時、自分は祈ることしかできなかった。


 「俺は......」


 ヨナタンは呟いた。


 「俺は、いつも助けられる側だ」


 その言葉は、自分自身を切り裂いた。


---


 新隊員たちは、廊下の端に固まっていた。


 入隊してまだ一ヶ月も経っていない。訓練を終えて、実戦を経験して、そして今、ここにいる。


 藤原を失った。マリーを処刑した。スヨンが殺された。瀧本が倒れた。


 一ヶ月で、これだけの死と重傷を見た。


---


 黒田美咲は、床に座り込んでいた。


 膝を抱えて、顔を埋めている。体が小刻みに震えていた。


 藤原は、同じ日本人だった。言葉が通じる、唯一の先輩だった。


 訓練中、何度も助けてもらった。射撃がうまくいかない時、「焦るな、一つずつやれ」と言ってくれた。タイ語が分からなくて困っている時、通訳してくれた。


 「お前は、ここでやっていける」


 そう言ってくれた。


 その藤原が死んだ。ラオスで、マリーに撃たれて。


 そして今、瀧本が倒れている。スヨンは死んだ。


 「私は......」


 黒田は呟いた。声が震えていた。


 「私は、何のためにここに来たんだろう」


 トンプソンが、黒田の隣にしゃがんだ。


 「俺も分からない」


 「トンプソンさん......」


 「分からない。正直、今も分からない」


 黒田は顔を上げた。涙で濡れた顔。


 「じゃあ、どうすればいいんですか」


 「分からない」


 「分からないって......」


 「分からないんだ。俺にも」


 トンプソンは、床に座り込んだ。


 「でも、逃げない。それだけは決めてる」


 「それだけ?」


 「それだけだ」


 黒田は、また顔を膝に埋めた。


 「私には......私には、それすら分からない......」


 トンプソンは、何も言えなかった。


 黒田の肩に手を置くことも、できなかった。


---


---


---


 廊下の隅。


 ナリンは、一人で座っていた。


 他の隊員たちから、少し離れた場所。壁に背をつけ、膝を抱えて、床を見つめている。


 自分には、彼らの輪に入る資格がない。


---


 ナリンは、瀧本の元恋人だった。


 だが、それだけではない。


 柏木の反乱に参加した。瀧本を裏切った。仲間を裏切った。銃を向けた。


 恩赦で復帰できたのは、瀧本が口添えしてくれたからだ。


 「ナリンは、騙されていただけだ」


 瀧本は、そう言ってくれた。


 騙されていた。確かにそうかもしれない。柏木の言葉を信じた。柏木についていけば、正しい道に行けると思った。


 だが、それは言い訳だ。


 自分は、自分の意思で銃を取った。自分の意思で、瀧本に銃口を向けた。引き金を引く寸前まで、いった。


 それは、消えない。一生、消えない。


---


 「ナリン」


 ファリダが、隣に座った。


 ファリダも、恩赦で復帰した一人だ。同じ罪を背負っている。


 「何か、言いたいことがあるなら」


 「ない」


 ナリンの声は、平坦だった。感情が、どこかに消えていた。


 「私に、言う資格はない」


---


 沈黙が流れた。


 長い沈黙だった。


---


 「私は、瀧本さんを裏切った」


 ナリンは、呟いた。


 「瀧本さんは、それでも私を許してくれた。復帰させてくれた。『お前は騙されていただけだ』と言ってくれた」


 「......」


 「私が壊したものを、スヨンさんが直してくれた。瀧本さんを支えてくれた。笑わせてくれた。私には、できなかったことを」


 「......」


 「私は、スヨンさんに感謝していた。嫉妬もあった。でも、それ以上に、感謝していた。瀧本さんを、幸せにしてくれて」


 声が震えた。


 「私が裏切らなければ」


 「ナリン......」


 「私が柏木さんについていかなければ、瀧本さんはあんなに傷つかなかった。あんなに追い詰められなかった。もっと早く、スヨンさんと結婚できた。幸せになれた」


 「それは......」


 「私のせいだ」


 ナリンの声は、震えながらも、はっきりしていた。


 「全部、私のせいだ」


 涙が、頬を伝った。


 「私は、一生かけて償う。それしか、できない。それしか、ない」


---


---


---


 タイ全土が、悲しみに沈んでいた。


---


 王室結婚式襲撃事件。


 国王陛下が臨席された結婚式が、テロリストに襲われた。陛下は無事だったが、新婦が死亡し、新郎が重体。


 その報せは、瞬く間にタイ全土に広がった。


---


 バンコクの街角。


 屋台の店主が、小さなテレビに見入っていた。客も、料理を忘れて画面を見つめている。


 「かわいそうに......」


 年配の女性が呟いた。


 「結婚式だったんだろう。一番幸せな日だったはずなのに」


 「瀧本さんは、助かるのかい」


 「分からない。でも、あの人は強い。何度撃たれても、死ななかった」


 「神様、どうか......」


---


 王宮前。


 花束を持った人々が、集まっていた。


 門の前に、花が積み上げられていく。白い花。黄色い花。ピンクの花。色とりどりの花が、王宮の門を埋め尽くしていく。


 「瀧本さん、頑張って」


 若い女性が、花束を置きながら呟いた。


 「私たちは、あなたを忘れない」


---


 SNSは、炎上していた。


 ハッシュタグがトレンドを席巻している。


 『#PrayForTakimoto』


 『#RIPSuyeon』


 『#TakimotoIsOurHero』


---


 結婚式の映像が、流出していた。


 誰かのスマートフォンで撮影されたものだ。画質は粗い。手ブレがひどい。だが、何が起きているかは分かる。


 白いタキシードの男が、撃たれながらも、倒れた女に向かって走っている。


 何度も撃たれる。倒れる。それでも、這いずって進む。


 女の手を握る。


 そして、動かなくなる。


---


 コメント欄は、溢れ返っていた。


 『瀧本さん、お願い、死なないで』


 『スヨンさん、安らかに』


---


 だが、全てが祈りではなかった。


 『これが突撃隊の限界だ。身内すら守れない』


 『英雄? 笑わせるな。ただの暴力集団だろ』


 『自業自得。危険な仕事をしてるんだから、こうなるのは当然』


 『瀧本は日本の犯罪者。タイで死んでも、日本は関係ない』


---


 炎上は、止まらなかった。


 擁護する者。批判する者。祈る者。嘲笑う者。


 人間の善と悪が、コメント欄で渦巻いていた。


---


 王宮からは、声明が発表された。


 厳かな文面。一字一句、吟味された言葉。


 『国王陛下は、瀧本勝幸氏の回復を心より祈念しておられます。また、キム・スヨン氏のご冥福をお祈り申し上げます。瀧本氏は、王室騎士として、陛下と国民を守るために戦いました。その勇気と献身を、陛下は決してお忘れになりません』


---


 タイ政府も声明を発表した。


 『今回のテロ行為を、政府は強く非難します。犯人グループは、突撃隊によって全滅させられました。瀧本勝幸氏の治療費は、政府が全額負担します。また、キム・スヨン氏には、国家功労者の称号を追贈します』


---


---


---


 翌朝。


 瀧本は、意識を取り戻した。


---


 最初に見えたのは、白い天井だった。


 右目だけが、世界を映していた。左目は、何も見えない。永遠に、見えない。


 体が痛い。どこが痛いのか分からないほど、全身が痛い。呼吸をするたびに、肋骨が軋む。


 だが、生きている。


---


 「目が覚めたか」


 声がした。


 首を動かそうとした。激痛が走った。動かすのを諦めた。


 視界の端に、局長の姿が見えた。椅子に座っている。


 「どのくらい」


 「一晩だ。昨夜、お前はトラックの荷台に落ちた。覚えているか」


 「......覚えてる」


 局長は、少し黙った。


 「医者が言っていた。『医学的には、死んでいるはずだ』と」


 「......」


 「お前は、死んでいるはずなんだ。なのに、生きている」


---


 瀧本は、天井を見つめた。


 白い天井。蛍光灯の光。病院の匂い。


 三日前にも、同じ天井を見た。同じ匂いを嗅いだ。


 違うのは、左目が見えないこと。


 そして、スヨンがいないこと。


---


 「陛下は」


 「無事だ。お前たちのおかげで」


 「そうか」


 「王宮から、お前宛てに言葉が届いている」


 「陛下から」


 「ああ」


 局長は、封書を取り出した。


 「読めるか」


 「......読んでくれ」


---


 局長は、封書を開いた。


 紙が擦れる音がした。


---


 『瀧本勝幸へ。


 お前は、私を守った。妻を失いながらも、私を守った。


 それは、私が命じたことではない。お前が、自らの意思で選んだことだ。


 お前は、王室騎士だ。私はお前を、その称号に相応しい男だと認めた。その判断は、間違っていなかった。


 お前の妻の死を、私は深く悼む。彼女の魂が、安らかであることを祈る。


 お前は、多くを失った。だが、まだ失っていないものがある。


 仲間がいる。使命がある。そして、私がいる。


 お前が立ち上がる時、私はお前の傍にいる。王として。そして、お前を信じる者として。


 生きよ。戦え。守り続けよ。


 それが、私の願いだ。』


---


 局長は、読み終えた。


 瀧本は、黙っていた。


 しばらく、何も言わなかった。


---


 「スヨンの葬儀は」


 「明後日だ」


 「出る」


 「お前は絶対安静だ。医者が──」


 「出る」


 瀧本は、首を動かした。激痛が走った。だが、局長を見た。右目だけで。


 「俺の嫁の葬式だ」


 局長は、しばらく瀧本を見つめていた。


 そして、頷いた。


 「車椅子を用意する」


---


 瀧本は、また天井を見つめた。


---


 「俺は、スヨンを守れなかった」


 声が、掠れていた。


 「......ああ」


 「走った。撃たれても走った。倒れても這った。スヨンの手を握った」


 「......」


 「でも、守れなかった」


 「......」


 「スヨンは、俺の目の前で死んだ」


---


 瀧本の右手が、シーツを握り締めた。


 指が震えていた。


---


 「スヨンは、夢の中で俺に言った」


 「夢?」


 「『私のために戦うな。みんなのために戦え』と」


 「......」


 「『私に縛られるな。前を向いて生きろ』と」


---


 瀧本は、目を閉じた。


---


 「陛下も言ってくれた。『生きよ。戦え。守り続けよ』と」


 「......」


 「スヨンとの約束がある。陛下との約束がある」


 「......」


 「だから、俺は......」


---


 瀧本の声が、途切れた。


 喉が詰まった。言葉が、出てこなかった。


---


 「だから、俺は......」


---


 また、途切れた。


 右手が、震えている。シーツを握り締める指が、白くなるほど強く。


---


 「生きる」


 やっと、その言葉が出た。


 「生きる。前を向いて、生きる」


 声が震えていた。


 「スヨンがいなくても。左目がなくても。体がボロボロでも」


 「......」


 「生きる」


---


 瀧本は、目を開けた。


 天井を見つめた。


 右目から、涙が流れた。


---


 「本当に、できるのか」


 呟いた。


 「本当に、俺は......」


---


 その問いに、答えはなかった。


 局長も、何も言わなかった。


 言えることは、なかった。言葉を持っていなかった。自分もまた、何が正しかったのか分からないまま、ここにいた。


---


 ただ、局長は、瀧本の震える手を握った。


 それしか、できなかった。


 何も言えない。何も約束できない。ただ、握ることしか。


---


 窓の外で、陽が昇り始めていた。


 バンコクの街が、朝の光に照らされていく。新しい一日が、始まろうとしていた。


---


 瀧本勝幸は、生きていた。


 愛する女を失い、左目を失い、体中に傷を負いながらも。


 生きていた。


---


 スヨンとの約束がある。


 陛下との約束がある。


 守るべき仲間がいる。


 果たすべき使命がある。


---


 だから、生きる。


 ......生きるしかない。


---


 そう、決めた。


 ......はずだった。


---


 だが、手は、まだ震えていた。

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