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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第6章 灰
122/134

第9話 決着

---


 バンコク郊外。工業地帯。


 廃棄された工場が立ち並ぶエリアだった。かつては繊維工場や食品加工場として稼働していたが、今は錆びた鉄骨と割れた窓ガラスだけが残っている。街灯は少なく、闇が濃い。


 その一角に、黒いバンが数台停まっていた。武装した男たちが、工場の周囲を警戒している。


 工場の中では、リーダーの男が部下と話していた。


 「ヘリは」


 「あと十分で到着します」


 「瀧本は」


 「病院で意識不明だと。もう三日になります」


 「死んだか」


 「分かりません。ただ、左目を失ったのは確実だそうです」


 リーダーは頷いた。だが、その表情は晴れなかった。


 「あの男は死なない。二十発撃たれても死なない化け物だ」


 「まさか、あの状態で──」


 その時、遠くからサイレンの音が聞こえた。


---


 白いバイクが、猛スピードで近づいてきた。


 パトライトが回り、サイレンが鳴り響いている。


 「白バイだ」


 「一台だけ?」


 「警察の先遣隊か?」


 男たちは銃を構えた。


 白バイは止まらなかった。減速すらしなかった。


 工場のゲートに向かって、真っ直ぐに突進してきた。


 「撃て!」


 銃声が響いた。弾丸が白バイに向かって飛んでいく。


 白バイは止まらなかった。


 ゲートに激突した。鉄製のゲートが吹き飛び、白バイはそのまま工場の敷地内に突入した。


---


 瀧本勝幸は、ハンドルを握り締めていた。


 右目だけで前を見ている。左目は黒い眼帯に覆われている。体中が痛む。傷口から血が滲んでいる。


 だが、止まる気はなかった。


---


 敷地内に入った瞬間、敵が四方から銃を向けた。


 瀧本はアクセルを全開にした。白バイが、敵の群れに突っ込んでいった。


 最初の一人を跳ね飛ばした。


 二人目が銃を構えた。瀧本はバイクに跨ったまま横蹴りを放ち、男の顔面を蹴り飛ばした。


 三人目が後ろから撃とうとした。瀧本はM93Rを抜き、振り返りざまに三点バースト。男が倒れた。


---


 白バイが縦横無尽に駆け回る。


 瀧本は撃ち、蹴り、轢き、倒していった。


 敵が銃を撃つ。弾丸が肩を掠めた。


 敵を轢いた。別の敵が飛び出してきた。瀧本は急ブレーキをかけ、バイクを横滑りさせた。タイヤが敵の足を払い、男が転倒した。


---


 敵の数が減っていく。


 だが、瀧本の体も限界に近づいていた。三日間の昏睡から覚めたばかりの体。全身に十二発の銃創。左目は失明。


 視界が霞む。意識が遠のきそうになる。


 だが、止まらなかった。


---


 その時、轟音が響いた。


 工場の反対側から、車両が突入してきた。白いハンヴィー。三台。


 「アルファチーム、到着!」


 ジョンソンの声が響いた。


---


 ハンヴィーから隊員たちが飛び出し、敵を制圧していく。


 瀧本はバイクを止め、周囲を見回した。


 リーダーがいない。


 「ジョンソン! リーダーは!」


 「分からん! 建物の中か!」


 その時、屋上からローター音が聞こえた。


 見上げた。


 ヘリコプターが、工場の屋上から離陸しようとしていた。


---


 「逃がすか」


 瀧本はアクセルを開けた。白バイが、工場の中に突入した。


---


 工場の内部は廃墟と化していた。錆びた機械が並び、天井は崩れかけている。


 瀧本は傾斜路を見つけた。かつて資材を運搬するために使われていたものだ。


 傾斜路に向かってバイクを走らせた。


 二階。三階。四階。


 エンジンが悲鳴を上げる。タイヤが滑る。


 五階。


 傾斜路が途切れた。


 だが、窓があった。大きな窓。その向こうに、隣のビルの屋上が見える。そしてヘリコプター。離陸し始めていた。


 瀧本は、窓とヘリの距離を目測した。


 無理だ、と思った。


 でも、他に方法がない。


 アクセルを全開にした。


 白バイが、窓に向かって突進した。


---


 ガラスが砕け散った。


 白バイが、宙を飛んだ。


 バンコクの夜景が眼下に広がっている。風が顔を打つ。白いマフラーが風になびく。


 ヘリコプターが、目の前にあった。スキッドに手が届く距離。


 バイクから飛び降りた。両手を伸ばした。


 スキッドを掴んだ。


 白バイは、そのまま落下していった。五階の高さから地面に激突し、爆発した。


---


 腕が悲鳴を上げている。傷口が開いている。血が滴り落ちている。


 だが、離さなかった。


 体を振った。勢いをつけて、ヘリの中に飛び込んだ。


---


 狭い機内。


 リーダーと、パイロットの二人がいた。


 リーダーが振り返った。目が見開かれた。


 「お前......! なぜここに......!」


 「追いかけてきた」


 瀧本は息を切らしながら言った。


 「逃がすと思ったか」


 リーダーが、拳銃を抜いた。


---


 瀧本は、その腕を掴んだ。銃口を天井に逸らした。


 発砲。弾丸が天井を貫いた。


 頭突きを叩き込んだ。リーダーの鼻が潰れた。


 だが、リーダーも戦い慣れていた。膝を瀧本の腹に叩き込んだ。


 傷口に直撃した。視界が白くなった。


 リーダーの肘が、瀧本の顔面を打った。眼帯がずれた。潰れた左目が露出した。


 痛みで体が硬直した。


 リーダーが、瀧本の首を掴んだ。壁に叩きつけた。


 首を絞められた。息ができない。


---


 瀧本は、絞め上げる手を掴んだ。


 リーダーの小指を掴んだ。折った。


 リーダーの手が緩んだ。


 瀧本は、その隙に膝を叩き込んだ。リーダーが折れ曲がる。


 肘打ちを後頭部に落とした。リーダーがよろめいた。


---


 だが、リーダーはナイフを抜いた。


 突き出されたナイフが、瀧本の脇腹を掠めた。


 また突き。瀧本は後ろに跳んだ。狭い機内。逃げ場がない。


 ナイフが振り下ろされた。瀧本は腕で受けた。刃が腕に食い込んだ。


 だが、その腕でナイフを固定した。リーダーが引き抜こうとする。抜けない。


 瀧本は、空いた手でリーダーの顔面を殴った。一発。二発。三発。


 リーダーがナイフを離した。


 瀧本は、ナイフを腕から引き抜いた。


 そして、リーダーの襟を掴んだ。


---


 「お前はスヨンを殺した」


 瀧本は言った。息が荒い。血まみれの顔。だが、目は笑っていなかった。


 「俺の嫁になるはずだった女を、目の前で撃ち殺した」


 「......」


 「お前の弟が死んだのは気の毒だと思う。柏木がやったことは、確かにやりすぎだった」


 「......」


 「でもな」


 瀧本は、リーダーをドアの方に引きずった。


 「スヨンは関係なかっただろうが」


---


 「待て......!」


 リーダーが叫んだ。


 「殺すな......! 俺にも家族が......!」


 瀧本は答えなかった。


 「お前も俺の家族のこと、考えなかっただろ」


---


 リーダーを、ドアの縁に押しやった。


 その時、ヘリが大きく揺れた。


 パイロットが気絶している。操縦する者がいない。


 ヘリが傾き始めた。高度が下がっていく。


 ヘリは操縦できない。このままでは墜落する。


---


 リーダーが、その隙を突いた。


 瀧本を突き飛ばし、ドアから離れようとした。


 瀧本は、リーダーの足を掴んだ。


 二人とも、床に倒れた。


 ヘリがさらに傾いた。二人とも、ドアの方に滑っていく。


 瀧本は、何かを掴もうとした。シートの脚を掴んだ。


 リーダーは、何も掴めなかった。


 そのまま、ドアから滑り落ちていった。


 リーダーの叫び声が、夜空に消えていった。


---


 瀧本は、シートの脚にしがみついていた。


 ヘリは、急速に高度を下げている。制御不能だ。


 窓の外を見た。工場の敷地が近づいてくる。


 ドアから、外を見た。


 地面まで、あと二十メートルくらい。


 下を見た。


 トラックの荷台が見えた。幌がかかっている。


 瀧本は、深呼吸した。


 シートの脚を離した。


 ドアから、飛び出した。


---


 落下。


 風が体を打つ。


 地面が迫ってくる。


 トラックの荷台が、下にある。


 幌を突き破って、荷台に落ちた。


 何かが体の下で潰れた。段ボール箱だった。クッションになった。


 全身に衝撃が走った。骨が軋んだ。傷口が開いた。


 だが、生きている。


---


 ヘリが、五十メートル先に墜落した。


 爆発。炎が上がった。


---


 瀧本は、荷台の中で仰向けになっていた。


 息をしている。心臓が動いている。


 生きている。


 血まみれの顔で、星空を見上げていた。


---


 足音が聞こえた。


 ジョンソンの顔が、荷台の縁から覗いた。


 「瀧本! 生きてるか!」


 「生きてる......」


 「動けるか!」


 「無理......」


 「救急車を呼ぶ!」


 「頼む......」


---


 瀧本は、空を見上げていた。


 星が瞬いている。


 スヨンの顔が、浮かんだ。


---


 「スヨン......」


 呟いた。


 「終わったぞ......」


 「約束......守れなかったけど......」


 「あいつは......殺した......」


---


 涙が、頬を伝って流れた。


 血と涙が混じって、顎から滴り落ちた。


---


 「俺は......生きてる......」


 呟いた。


 「お前がいなくても......俺は生きてる......」


 「それが......辛い......」


---


 意識が、遠のいていった。


 だが、死ななかった。


 瀧本勝幸は、死ななかった。

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