幕間 遺書
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バンコク市内のホテル。
Netflixの制作チームが、会議室に集まっていた。
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テーブルの上には、資料が散乱している。
写真。インタビューの書き起こし。作戦の記録。
そして、一枚の紙。
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マリー・デュボアの死刑執行報告書。
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「......これで、三人だ」
プロデューサーのマイケル・チェンが、椅子の背にもたれた。
「柏木勇気。藤原誠一。マリー・デュボア。二週間で、三人が死んだ」
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脚本家のサラ・ミラーは、報告書を見つめていた。
「マリーは、柏木を愛していた。柏木が死んで、柏木の戦い方を真似て、瀧本を殺そうとした。そして、処刑された」
「......」
「これを、どう描けばいい? 視聴者は、これを見て、何を感じればいい?」
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ディレクターのジェームズ・パークは、窓の外を見ていた。
バンコクの街並みが、眼下に広がっている。
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「俺たちは、最初、これをエンターテインメントだと思っていた」
「......」
「瀧本勝幸。24発撃たれても死なない男。ダイ・ハードの日本版。それを映像化すれば、ヒットする」
「......」
「でも、これは、そんな軽い話じゃなかった」
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マイケルが、テーブルに両手をついた。
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「三日前、俺は瀧本にインタビューした」
全員が、マイケルを見た。
「藤原のこと、マリーのこと、聞いた」
「何て言ってた」
「『俺が連れていった。俺の責任だ』。それだけだ」
「......」
「あの男の目を見た。空っぽだった。何も映してなかった」
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サラが、資料を閉じた。
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「私たちは、この物語を、正しく伝えなければいけない」
「正しく?」
「ええ。エンターテインメントとしてだけじゃなく。人間の物語として」
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ジェームズが振り返った。
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「やり直しだ」
「え?」
「脚本、全部やり直しだ。最初から書き直す」
「でも、もう撮影は......」
「撮影も止める。一から作り直す」
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マイケルが、眉をひそめた。
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「予算は? スケジュールは?」
「知るか。これは、そういう問題じゃない」
「......」
「俺たちは、人の死を扱っている。軽く扱ったら、その人たちに失礼だ」
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サラが、頷いた。
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「同感よ。藤原誠一は、守ろうとして死んだ。マリー・デュボアは、愛した男を追って、道を誤った。柏木勇気は......」
「柏木は?」
「柏木は、何だったんだろう。英雄? 悪役? 被害者?」
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誰も、答えられなかった。
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同じ日。
突撃隊本部。
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局長は、執務室で一人だった。
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机の上に、一通の封筒が置かれていた。
古い封筒だった。端が少し黄ばんでいる。
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柏木勇気の私物を整理している時に、見つかったものだった。
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封筒の表には、こう書かれていた。
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『遺書』
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局長は、しばらく、その封筒を見つめていた。
開けるべきか、開けざるべきか。
迷った。
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だが、結局、封を切った。
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中から、数枚の便箋が出てきた。
柏木の筆跡だった。丁寧で、几帳面な字。
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局長は、読み始めた。
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『この手紙を読んでいるということは、私はもう死んでいるのだろう。
どのような死に方をしたのかは分からない。任務中に死んだのか、それとも、別の理由で死んだのか。
いずれにしても、私は、いくつかのことを記録しておきたいと思った。
誰かに理解してもらいたいわけではない。ただ、記録として残しておきたいだけだ。』
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『私は、壊れていた。
いつから壊れていたのか、自分でも分からない。
だが、振り返ってみれば、聖域作戦の後からだったように思う。』
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局長は、ページをめくった。
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『聖域作戦。
私たちは、人身売買組織「聖域」を壊滅させた。数百人の被害者を救出した。組織の幹部を逮捕し、あるいは射殺した。
あの作戦は、私の人生で最も充実した時間だった。
毎日が戦いだった。毎日が、命をかけた任務だった。
私は、必要とされていた。頼られていた。称賛されていた。
「柏木がいるから大丈夫だ」。そう言われるたびに、私は自分の存在意義を感じた。』
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『だが、聖域作戦が終わると、全てが変わった。
大規模な任務はなくなった。日常的な業務が中心になった。書類仕事。連絡調整。会議。
私は、必要とされなくなった。
いや、正確には、必要とされ方が変わったのだ。
戦場での英雄ではなく、組織の管理者として必要とされるようになった。
私は、それに耐えられなかった。』
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局長は、読み続けた。
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『私は、戦うことに魅了されていた。
それを認めるのは、恥ずかしいことだ。
正義のために戦っていると思っていた。タイの人々を守るために戦っていると思っていた。
だが、本当は違った。
私は、戦うこと自体に魅了されていた。
銃を撃つ感覚。敵を倒す達成感。仲間から向けられる尊敬の眼差し。
それらが、私を生かしていた。』
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『聖域作戦の後、私は何度も思った。
次の大規模作戦は、いつだろう。
次の戦いは、いつ来るのだろう。
だが、来なかった。
平和が続いた。日常が続いた。
私は、平和に耐えられなかった。』
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局長は、ページをめくる手を止めた。
深いため息をついた。
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「......柏木」
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呟いた。
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「お前は、平和を守るために戦っていたんじゃなかったのか」
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次のページを読んだ。
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『瀧本勝幸という男が入ってきた時、私は嫉妬した。
あの男は、私とは違った。
戦うことに魅了されていなかった。ただ、守りたいから戦っていた。
称賛を求めていなかった。ただ、目の前の人間を助けたいだけだった。
私は、あの男になれなかった。
私は、認められたかった。称賛されたかった。英雄でありたかった。
だが、瀧本は、そんなものを求めていなかった。
それが、羨ましかった。
それが、憎かった。』
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『私は、自分が壊れていることに気づいていた。
だが、止められなかった。
戦いたかった。大規模な作戦がほしかった。
自分が必要とされる場所がほしかった。
だから、私は......』
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そこで、文章は途切れていた。
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次のページは、白紙だった。
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局長は、便箋を机に置いた。
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「......だから、お前は反乱を起こしたのか」
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誰もいない部屋で、局長は呟いた。
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「大規模な作戦がほしかった。自分が必要とされる場所がほしかった。だから、自分で戦いを作り出した」
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窓の外を見た。
バンコクの街が、夕日に染まっていた。
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「馬鹿野郎」
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局長の声は、震えていた。
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「お前は、最初から必要とされていた。俺たちは、お前を頼りにしていた。お前がいなければ、この部隊は成り立たなかった」
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「でも、それじゃ足りなかったんだな」
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局長は、目を閉じた。
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「戦場での英雄じゃなければ、お前は自分を認められなかったんだな」
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その夜。
局長は、瀧本を呼んだ。
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「読んでくれ」
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柏木の遺書を、瀧本に渡した。
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瀧本は、黙って読んだ。
表情は、変わらなかった。
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読み終わると、便箋を机に置いた。
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「どう思う」
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局長が聞いた。
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「......柏木は、認められたかったんですね」
「ああ」
「戦うことで、自分の価値を確認していた」
「そうだ」
「それがなくなって、壊れた」
「......ああ」
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瀧本は、窓の外を見た。
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「俺は、柏木を殺した」
「ああ」
「でも、柏木を壊したのは、俺じゃない」
「違う。誰も、柏木を壊してない」
「じゃあ、誰が」
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局長は、首を振った。
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「柏木自身だ。柏木は、自分で自分を壊した」
「......」
「承認欲求。それ自体は、悪いことじゃない。誰だって、認められたい」
「......」
「でも、柏木は、それに呑まれた。戦うこと以外で、自分を認められなくなった」
「......」
「そして、戦いがなくなった時、自分で戦いを作り出した」
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瀧本は、黙っていた。
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「お前は、どうだ」
「俺?」
「お前は、認められたいと思うか」
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瀧本は、少し考えた。
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「......思わない」
「なぜ」
「俺は、守りたいだけだ。認められなくても、守れればいい」
「......」
「俺が守った人間が、幸せに生きていれば、それでいい。俺のことなんか、忘れてくれていい」
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局長は、小さく笑った。
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「お前と柏木は、正反対だな」
「そうかもしれない」
「だから、柏木はお前を憎んだ」
「......そうかもしれない」
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瀧本は、遺書を手に取った。
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「これ、どうするんですか」
「分からん。公開するか、しまっておくか」
「......公開した方がいいと思います」
「なぜ」
「隊員たちは、なぜ柏木が反乱を起こしたのか、知りたがっている。理由が分からないと、前に進めない」
「......」
「柏木は英雄だった。でも、壊れた。その理由を知れば、同じ過ちを繰り返さずに済む」
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局長は、頷いた。
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「分かった。明日、全隊員に公開する」
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翌日。
ブリーフィングルーム。
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全隊員が集まっていた。
局長が、前に立った。
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「柏木勇気の遺書が見つかった」
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ざわめきが起きた。
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「これを、全員に共有する。柏木がなぜ壊れたのか。なぜ反乱を起こしたのか。その理由が、ここに書かれている」
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局長は、遺書の内容を読み上げた。
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隊員たちは、黙って聞いていた。
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読み終わると、沈黙が流れた。
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「柏木は、認められたかった」
局長が言った。
「戦うことで、自分の価値を確認していた。大規模な作戦がなくなった時、自分の存在意義を見失った。だから、自分で戦いを作り出した」
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新隊員の一人、トンプソンが手を挙げた。
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「質問があります」
「何だ」
「俺たちは、柏木と同じにならないと、どうやって分かるんですか」
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局長は、少し考えた。
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「分からん」
「え?」
「分からん。誰が壊れるか、誰が壊れないか、事前には分からん」
「じゃあ、どうすれば......」
「一つだけ、言えることがある」
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局長は、全員を見渡した。
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「戦うことを目的にするな。守ることを目的にしろ」
「......」
「戦いは、手段だ。目的じゃない。守りたいものがあるから、戦う。守りたいものがなくなったら、戦う理由もなくなる」
「......」
「柏木は、守りたいものがなかった。戦うこと自体が目的になっていた。だから、壊れた」
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瀧本が、口を開いた。
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「俺は、来月、結婚する」
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隊員たちが、瀧本を見た。
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「守りたいものがある。スヨンがいる。だから、俺は壊れない」
「......」
「お前たちも、守りたいものを持て。家族でも、恋人でも、友人でも、何でもいい。戦う理由を、戦いの外に持て」
「......」
「そうすれば、柏木のようにはならない」
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新隊員たちは、黙って聞いていた。
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局長が、締めくくった。
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「柏木勇気は、英雄だった。この部隊を作り、育てた。その功績は、消えない」
「......」
「だが、彼は壊れた。その理由を、俺たちは忘れてはいけない」
「......」
「戦うことに魅了されるな。守ることを忘れるな。それが、柏木から学ぶべきことだ」
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解散の後、隊員たちは、それぞれの思いを抱えて去っていった。
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瀧本は、窓の外を見ていた。
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柏木の顔が、浮かんだ。
初めて会った時の、鋭い目。
一緒に戦った時の、頼もしい背中。
そして、最後に向き合った時の、狂気に染まった瞳。
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「柏木」
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瀧本は、呟いた。
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「お前は、認められたかったんだな。でも、俺はお前を認めていた。みんな、お前を認めていた」
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「それでも、足りなかったんだな」
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窓の外で、鳥が飛んでいった。
瀧本は、それを見送った。




