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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか!  作者: Operator3118
第6章 灰
115/142

幕間 拳

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 瀧本が首を撃たれてから、五日目。


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 病室。


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 局長が入ってきた。


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 「調子はどうだ」


 「最悪だ」


 「動けるか」


 「動けない」


 「嘘をつくな」


 「......少しは動ける」


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 局長は、椅子に座った。


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 「お前、撃たれすぎだ」


 「知ってる」


 「24発だぞ」


 「数えてる」


 「次は25発目だ」


 「25発目は避ける」


 「避けられるのか」


 「......努力する」


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 局長は、溜息をついた。


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 「努力じゃ足りない」


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 「どういう意味だ」


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 「お前は銃の腕は一流だ。バイクの腕も一流だ」


 「ああ」


 「だが、格闘がダメだ」


 「ダメじゃない」


 「ダメだ。お前の格闘は、警察の逮捕術レベルだ。軍人相手には通用しない」


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 瀧本は、黙った。


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 確かに、その通りだった。


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 「お前が撃たれるのは、接近戦で負けるからだ」


 「......」


 「銃を構える前に殴られる。避ける前に撃たれる」


 「......」


 「だから、24発も喰らう」


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 局長は、立ち上がった。


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 「傷が塞がったら、俺のところに来い」


 「何をするんだ」


 「教えてやる」


 「何を」


 「撃たれない方法を」


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 二週間後。


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 本部の地下。訓練室。


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 瀧本は、マットの上に立っていた。


 首の包帯は取れた。腹の傷も塞がった。


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 目の前に、局長がいた。


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 「今日から地獄が始まる」


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 「地獄?」


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 「ムエタイとシラット。この二つを叩き込む」


 「ムエタイ......シラット......」


 「ムエタイはタイの国技だ。膝と肘で相手を破壊する」


 「知ってる」


 「シラットはインドネシアの武術だ。流れるような連続攻撃で相手を制圧する」


 「聞いたことはある」


 「この二つを組み合わせれば、お前は撃たれなくなる」


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 瀧本は、局長を見た。


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 「局長が教えるのか」


 「俺が教える」


 「できるのか」


 「舐めるな。俺は陸軍で格闘教官をやっていた」


 「......知らなかった」


 「知る必要がなかった。今日からは知れ」


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 局長は、構えた。


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 「まず、基本だ。構えを見せろ」


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 瀧本は、警察式の構えを取った。


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 「それがダメだ」


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 局長が言った。


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 「警察の構えは、相手を制圧するための構えだ。殺すための構えじゃない」


 「......」


 「お前が相手にするのは、殺しに来る奴らだ。制圧じゃ足りない」


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 局長は、瀧本の腕を掴んだ。


 一瞬で、瀧本は床に叩きつけられていた。


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 「......速い」


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 「これがシラットだ」


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 局長が言った。


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 「流れを止めない。掴んで、崩して、倒す。一連の動作だ」


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 瀧本は、起き上がった。


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 「もう一回」


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 初日。


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 瀧本は、三十七回床に叩きつけられた。


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 二日目。


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 ムエタイの基本。


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 「膝だ」


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 局長が言った。


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 「ムエタイは膝と肘で戦う。拳は使わない」


 「なぜ」


 「拳は壊れやすい。膝と肘は壊れない」


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 局長は、サンドバッグを指した。


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 「膝蹴りを百回。左右交互だ」


 「百回」


 「百回」


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 瀧本は、膝蹴りを始めた。


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 十回。


 二十回。


 五十回。


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 足が震え始めた。


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 「止まるな」


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 局長が言った。


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 「戦場で足が震えたら、死ぬぞ」


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 八十回。


 九十回。


 百回。


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 「次、肘打ち百回」


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 「......マジか」


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 「マジだ」


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 三日目。


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 シラットの連続攻撃。


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 「シラットの本質は、流れだ」


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 局長が説明した。


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 「止まらない。一つの攻撃が、次の攻撃につながる」


 「......」


 「掴む。崩す。打つ。投げる。全部が一つの流れだ」


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 局長は、瀧本に向かってきた。


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 パンチ。


 瀧本は避けた。


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 だが、局長の手は瀧本の腕を掴んでいた。


 引っ張られる。


 膝が飛んできた。


 腹に入った。


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 「ぐっ......」


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 そのまま、投げられた。


 床に叩きつけられる。


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 「これが流れだ」


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 局長が言った。


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 「避けても終わりじゃない。避けた瞬間が、次の攻撃の始まりだ」


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 瀧本は、起き上がった。


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 「......もう一回」


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 一週間後。


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 瀧本の動きが、変わり始めていた。


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 「来い」


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 局長が言った。


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 瀧本が動いた。


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 低い姿勢から、膝蹴り。


 局長が避ける。


 だが、瀧本は止まらない。


 膝蹴りの勢いのまま、肘を振る。


 局長がガードする。


 その腕を掴む。


 引っ張る。


 崩れたところに、もう一度膝。


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 局長が、バランスを崩した。


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 「......やるな」


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 瀧本は、息を切らしていた。


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 「まだ遅い」


 「遅いか」


 「遅い。でも、形にはなってきた」


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 二週間後。


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 実戦形式の訓練。


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 相手は、アブドゥルとンゴマ。


 二人同時。


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 「始め」


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 アブドゥルが右から。


 ンゴマが左から。


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 瀧本は、動いた。


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 ンゴマのパンチを肘で弾く。


 そのまま回転。


 アブドゥルの腹に膝を叩き込む。


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 「ぐっ......」


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 アブドゥルが崩れる。


 その瞬間、ンゴマが蹴りを放つ。


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 瀧本は、蹴りを掴んだ。


 引っ張る。


 ンゴマがバランスを崩す。


 肘を後頭部に落とす。


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 ンゴマが倒れた。


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 四秒。


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 「合格だ」


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 局長が言った。


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 瀧本は、息を整えた。


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 「まだ遅い」


 「遅くない。十分だ」


 「もっと速くなれる」


 「なれる。だが、今は十分だ」


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 局長は、瀧本の肩を叩いた。


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 「お前は、もう撃たれない」


 「......」


 「撃たれる前に、殴れるようになった」


 「......」


 「25発目は、ないぞ」


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 瀧本は、小さく笑った。


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 「努力する」


 「努力じゃなくて、約束しろ」


 「......約束する」


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 その夜。


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 食堂。


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 瀧本は、ビールを飲んでいた。


 全身が痛い。筋肉痛がひどい。


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 スヨンが隣に座った。


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 「訓練、どうだった」


 「地獄だった」


 「局長、厳しかった?」


 「鬼だった」


 「でも、強くなったでしょ」


 「......少しは」


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 スヨンは、瀧本の手を握った。


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 「これで、撃たれなくなる?」


 「なる。たぶん」


 「たぶん?」


 「努力する」


 「また努力」


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 瀧本は、スヨンを見た。


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 「俺は死なない。それだけは約束する」


 「......」


 「撃たれるかもしれない。でも、死なない」


 「それ、約束になってない」


 「なってる」


 「なってない」


 「なってる」


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 スヨンは、溜息をついた。


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 「......まあ、いいわ。生きて帰ってくれれば」


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 こうして、瀧本は新たな武器を手に入れた。


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 銃だけじゃない。


 拳と膝と肘。


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 撃たれる前に、殴る。


 撃たれる前に、蹴る。


 撃たれる前に、倒す。


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 それが、局長の教えだった。

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