第2話 募集
---
瀧本勝幸が、復帰した。
首に包帯。腹にも包帯。顔色は悪い。
だが、立っていた。
---
「瀧本、本当に大丈夫なのか」
「大丈夫だ」
「首を撃たれて一週間だぞ」
「一週間経った」
「普通、動けない」
「普通じゃないんだろう」
---
局長は諦めた。この男に常識は通じない。
---
---
会議室。
ホワイトボードには問題が並んでいた。
---
『人員不足』
『現在:20名』
『必要:40名』
『募集方法:???』
---
参謀たちが頭を抱えている。
瀧本はホワイトボードを見て、一言。
---
「全世界に募集かければいいんじゃないか」
---
全員が固まった。
---
「MI6もCIAも公募してる。こっちから探すより、来たい奴に来させた方が早い」
---
五秒。
十秒。
---
「それだ!」
---
局長が叫んだ。会議室が一気に動き出した。
---
---
---
三日後。
公式サイトに募集ページが公開された。
---
『王室犯罪対策局・特殊強襲部隊 隊員募集』
---
『応募資格』
・外国籍であること(タイ人は応募不可)
・タイ国籍を取得する意思があること
・健康であること
---
---
ハーパーが首を傾げた。
---
「タイの部隊なのに、タイ人が入れない?」
---
「しがらみだ」
---
局長が答えた。
---
「タイ人は国内にコネがある。家族がいる。汚職警官から圧力がかかる。政治家から脅される。外国人なら、そういうしがらみがない」
---
---
ルノーが気づいた。
---
「犯罪歴の条件がありませんね」
---
「あったら俺がアウトだ」
---
瀧本が言った。
---
「俺は日本から身柄引き渡しを要求されてる。殺人でな」
---
新人スタッフの顔が引きつった。
---
「連続強姦殺人犯を射殺した。日本の法律じゃ、それも殺人だ」
---
---
局長が続けた。
---
「この部隊には、母国に帰れない人間が多い。法的には犯罪者でも、道義的には正しいことをした奴らだ」
---
---
---
一週間後。
応募、三百八十七件。
---
ハーパーが分析結果を報告した。
---
「応募者の約25%が、母国で刑事訴追されているか指名手配中です」
---
「四分の一が追われてる奴か」
---
瀧本が言った。
---
「いい傾向だ」
「いい傾向?」
「そういう奴は、守ることの意味を知ってる。正義なんか振りかざさない。ただ、目の前の人間を守ろうとして、結果的に法を犯した」
---
瀧本は窓の外を見た。
---
「俺と同じだ」
---
---
---
選考。
書類で百二十件。体力テストで五十件。実技で二十五件。
最終面接で、十五件に絞った。
---
---
面接室。
---
---
一人目。アメリカ人。元海兵隊。
---
「なぜ除隊した」
「命令を拒否した」
「どんな命令だ」
「村を焼けと言われた。民間人がいるのに」
---
男は淡々と続けた。
---
「俺は拒否した。上官を殴った。軍法会議で不名誉除隊」
「後悔は」
「ない。あの村を焼いてたら、俺は自分を許せなかった」
---
瀧本は頷いた。
---
「合格だ」
---
---
---
二人目。日本人。元警視庁SAT。
---
「なぜ辞めた」
「瀧本さんと同じです」
---
男は瀧本を見た。
---
「人質を取った犯人を射殺した。投降の意思を示してたのに。人質の少女が今にも殺されそうだったから」
「それで」
「殺人罪で起訴。執行猶予。警察にはいられなくなった」
「後悔は」
「ない。あの少女は今年、大学に入った。手紙をもらった。『ありがとう』と」
---
瀧本は、小さく笑った。
---
「合格だ」
---
---
---
三人目。イギリス人女性。元陸軍衛生兵。
---
「なぜ除隊した」
「上官を撃った」
---
会議室が静まった。
---
「捕虜を拷問しろと命令された。俺は拒否した。上官が自分でやろうとした。止めるには、撃つしかなかった」
「殺したのか」
「足を撃った。殺してない。でも、軍法会議で有罪。不名誉除隊」
「後悔は」
「ない。あの捕虜は、ただの農民だった。ゲリラじゃなかった」
---
瀧本は頷いた。
---
「合格だ」
---
---
---
十五人が、新たに加わった。
---
母国で刑事訴追された者、六人。
不名誉除隊の者、五人。
その他、四人。
---
全員が、何かを守ろうとして、居場所を失った人間だった。
---
---
---
本部。ブリーフィングルーム。
新隊員たちが整列していた。
---
瀧本が前に立った。
---
---
「俺は瀧本勝幸だ」
---
新隊員たちが瀧本を見た。
24発撃たれても死なない男。日本から殺人罪で追われている男。
---
「お前たちの多くは、母国に帰れない。正しいことをして、罰せられた。俺も同じだ」
---
沈黙。
---
「俺たちは、どこにも居場所がない。だから、ここにいる」
---
---
瀧本は、一度言葉を切った。
---
---
「一つだけ言っておく」
---
---
「俺は、正義のために戦ってない」
---
新隊員たちがざわめいた。
---
「正義なんか分からない。誰が正しいか、俺には分からない」
---
「だが、目の前で誰かが傷つけられてたら、止める。それだけだ」
---
---
「柏木は、正義のために戦ってた。悪を裁くために戦ってた。だから壊れた」
---
「お前たちは違う。守ろうとして、ここに来た」
---
「それでいい。それだけでいい」
---
---
瀧本は、新隊員たちを見渡した。
---
「ここでは、守ることが許される。法が邪魔しない。上官が邪魔しない」
---
「目の前で誰かが傷つけられてたら、止めていい」
---
「それが、この部隊のルールだ」
---
---
新隊員たちの目が変わった。
---
---
「あと、死ぬな」
---
瀧本は付け加えた。
---
「俺は24発撃たれても死ななかった。来月結婚するからだ」
---
新隊員たちが、呆気に取られた。
---
「守りたいものがあるなら、死んでたまるかと思え。以上」
---
---
隣でスヨンが小さく笑っていた。




