幕間 脚本会議
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ロサンゼルス。
Netflix本社。
会議室。
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脚本家たちが、頭を抱えていた。
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「......どうするんだ、これ」
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テーブルの上には、資料が散乱していた。
タイから送られてきた報告書。
記者会見の映像。
ニュース記事のコピー。
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『元総隊長・柏木勇気、反逆罪で死亡』
『瀧本勝幸、仲間を射殺』
『突撃隊、内部分裂の全容を公表』
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プロデューサーが、天井を見上げた。
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「俺たちは、何を作ろうとしてるんだ......」
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脚本家Aが、資料を読み上げた。
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「整理しましょう」
「整理できるのか、これを」
「やるしかないでしょう」
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彼は、ホワイトボードに書き始めた。
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『瀧本勝幸の被弾歴』
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・銃乱射事件:18発
・叙任式テロ:2発
・強盗事件:1発
・ラオス追跡戦:1発(ベスト外)
・柏木との戦闘:1発(腹部)
・マリーの狙撃:1発(首)
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『合計:24発』
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「24発だ」
「24発......」
「しかも、首を撃たれて生きてる」
「心肺停止から蘇生した」
「『こんなんで死んでたまるかボケェ』って叫んで起き上がった」
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沈黙。
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「......脚本に書いても、誰も信じないぞ」
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脚本家Bが、別の資料を取り上げた。
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「柏木の件も整理しましょう」
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『柏木勇気の転落』
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・瀧本が騎士に叙される
・柏木、ウドンターニーに派遣(本人は左遷と認識)
・セックスと暴力に溺れる
・女性隊員三人と関係を持つ
・部隊運営を放棄
・バンコクからの連絡を無視
・帰還命令を拒否
・ブラボーチームのヘリを撃墜
・従わない隊員を射殺
・ラオスへ逃亡
・瀧本に追いつかれる
・瀧本を撃つ
・瀧本に射殺される
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「これ、一人の人間の話か?」
「一人の話だ」
「三ヶ月くらいの出来事か?」
「二週間だ」
「二週間!?」
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プロデューサーが、頭を抱えた。
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「二週間で、ここまで堕ちるのか」
「堕ちた」
「なぜだ」
「瀧本が騎士になったからだ」
「それだけで?」
「それだけで、だ」
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沈黙。
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「......人間って、脆いな」
「脆い。特に、強い人間ほど」
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脚本家Cが、手を挙げた。
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「一つ、提案があります」
「何だ」
「柏木編を、独立したシーズンにしましょう」
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「独立?」
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「はい。シーズン1は、瀧本の英雄譚。シーズン2は、柏木の悲劇」
「悲劇?」
「そうです。柏木は、悪役じゃない。壊れた英雄です」
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脚本家Cは、立ち上がった。
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「柏木は、正義のためにタイに来た。全てを捨てて、戦い続けた」
「......」
「だが、認められなかった。騎士になれなかった」
「......」
「そして、壊れた。暴力とセックスに溺れた」
「......」
「最後は、かつての仲間に殺された」
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脚本家Cは、窓の外を見た。
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「これは、悪役の物語じゃない。英雄が堕ちる物語だ」
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プロデューサーが、考え込んだ。
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「......面白いかもしれない」
「面白いです。絶対に」
「だが、問題がある」
「何ですか」
「柏木を演じる俳優だ」
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沈黙。
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「誰が演じるんだ、これを」
「英雄から堕ちていく男を」
「セックスと暴力に溺れる男を」
「最後は、仲間に殺される男を」
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脚本家Aが言った。
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「相当な演技力が必要ですね」
「必要だ」
「日本人俳優で、できる人はいますか」
「......」
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プロデューサーが、資料をめくった。
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「候補は何人かいる。だが......」
「だが?」
「この役を引き受けてくれるかどうか」
「なぜ」
「役が重すぎる」
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脚本家Bが、別の問題を提起した。
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「マリーの扱いも、考えないといけません」
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『マリー・デュボアの行動』
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・柏木を愛していた
・柏木に体を許した
・柏木についてラオスへ逃亡
・瀧本を狙撃(首に命中)
・現在、逃亡中
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「彼女は、まだ捕まっていない」
「捕まっていない」
「ということは、続編で登場する可能性がある」
「ある」
「どう描くんだ」
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プロデューサーが、溜息をついた。
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「愛した男を殺された女が、復讐のために主人公を撃つ」
「......」
「しかも、主人公は彼女を許している」
「許してるんですか?」
「ああ。瀧本は、恨んでいないと言った」
「なぜ」
「『俺がマリーの立場でも、同じことをした』と」
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沈黙。
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「......瀧本って、本当に人間か?」
「分からない。もう分からない」
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脚本家Dが、最大の問題を提起した。
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「一番の問題は、これです」
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彼は、資料を掲げた。
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『瀧本とマルティネス、同時に蘇生』
『同じ言葉を叫ぶ:「こんなんで死んでたまるかボケェ!」』
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「これ、どう撮るんですか」
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沈黙。
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「二人が、心肺停止から、同時に起き上がる」
「同じ言葉を叫ぶ」
「医者が呆然とする」
「......」
「これ、コメディですか?」
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プロデューサーが、頭を抱えた。
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「シリアスなシーンのはずなんだ」
「はずなんですけど」
「どう考えてもコメディだ」
「コメディですよね」
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脚本家Aが言った。
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「いっそ、そのまま撮りましょう」
「そのまま?」
「はい。シリアスとコメディの境界線を、ぶち壊す」
「......」
「『こんなんで死んでたまるかボケェ』って、真顔で叫ばせる」
「真顔で」
「真顔で。そして、周りは呆然とする」
「......」
「それが、瀧本とマルティネスなんだ、と」
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プロデューサーが、考え込んだ。
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「......それしかないか」
「それしかないです」
「現実がぶっ飛んでるんだから、脚本もぶっ飛ばすしかない」
「そういうことです」
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会議は、六時間に及んだ。
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結論。
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『シーズン1:瀧本の英雄譚(銃乱射事件~騎士叙任)』
『シーズン2:柏木の悲劇(裏切り~死亡)』
『シーズン3:マリーの復讐(予定)』
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脚本は、また一から書き直し。
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撮影は、また延期。
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プロデューサーが、呟いた。
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「瀧本が生きてる限り、脚本は永遠に完成しない」
「しませんね」
「あいつ、また何かやるぞ」
「やるでしょうね」
「また撃たれるぞ」
「撃たれるでしょうね」
「また死にかけるぞ」
「死にかけるでしょうね」
「そして、また生き返るぞ」
「生き返るでしょうね」
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沈黙。
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「......もう、ドキュメンタリーでいいんじゃないか」
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全員が、その言葉に頷いた。
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後日。
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Netflix本社から、突撃隊本部に連絡が入った。
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『ドラマ制作と並行して、ドキュメンタリーシリーズの制作を正式に決定しました』
『タイトル:「TAKIMOTO ─ 死なない男」』
『ライアン・レイノルズが、ナレーションを担当します』
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瀧本は、その報告を聞いて、一言だけ言った。
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「......なんでやねん」




