第1話 公表
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記者会見場。
フラッシュが瞬いた。
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局長ウィチャイは、壇上に立っていた。
マイクの前。
百人以上の記者が、彼を見つめていた。
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「本日、皆様にお伝えしなければならないことがあります」
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局長の声は、静かだった。
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「王室犯罪対策局・特殊強襲部隊において、重大な事案が発生しました」
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記者たちがざわめいた。
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「元総隊長、柏木勇気が――」
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局長は、一度言葉を切った。
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「――反逆罪により、死亡しました」
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会場が、凍りついた。
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三十分後。
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記者会見は、修羅場と化していた。
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「柏木が裏切ったというのは本当ですか!」
「何人の隊員が死亡したんですか!」
「瀧本さんの容態は!」
「なぜ今まで隠していたんですか!」
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質問が飛び交う。
フラッシュが止まない。
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局長は、一つ一つに答えた。
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「柏木元総隊長は、部隊から離反しました」
「理由は、調査中です」
「死亡者は八名。負傷者は六名」
「瀧本隊員は、重傷ですが、命に別状はありません」
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記者が叫んだ。
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「なぜ公表したんですか! 隠蔽もできたはずだ!」
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局長は、記者を見た。
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「国民に嘘はつけません」
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「それは――」
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「それが、王家だからです」
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局長の声は、揺らがなかった。
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「我々は、国王陛下の剣です。陛下は、国民に嘘をつきません。だから、我々も嘘をつきません」
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会場が、静まり返った。
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「柏木勇気は、かつて英雄でした」
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局長は続けた。
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「彼は、タイのために戦いました。多くの犯罪者を倒しました。多くの命を救いました」
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「だが、彼は道を誤りました」
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「その結果、仲間を殺し、国に弓を引きました」
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「彼は、瀧本勝幸隊員によって射殺されました」
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記者が手を挙げた。
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「瀧本さんは、どう思っているんですか」
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局長は、少し黙った。
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「彼は、こう言いました」
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『柏木は英雄だった。だから、英雄のまま殺した』
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会場が、またざわめいた。
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翌日。
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ニュースは、この話題で持ちきりだった。
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『突撃隊、元総隊長の裏切りを公表』
『柏木勇気、反逆罪で死亡』
『瀧本勝幸、仲間を射殺した英雄』
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SNSでは、様々な意見が飛び交っていた。
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『柏木って、あの最強の男だろ? 信じられない』
『瀧本が殺したのか......辛かっただろうな』
『正直に公表した局長、カッコいい』
『隠蔽しなかったのは立派だ』
『でも、なんで裏切ったんだ?』
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答えは、誰にも分からなかった。
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バンコク。
突撃隊本部。
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局長は、面談を始めていた。
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一人一人。
全隊員と。
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最初は、ジョンソンだった。
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「ジョンソン、お前に聞く」
「はい」
「お前は、残るか」
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ジョンソンは、即答した。
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「残ります」
「理由は」
「俺の居場所は、ここだからです」
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局長は、頷いた。
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「総隊長代理を任せる」
「了解」
「重いぞ」
「分かってます」
「それでも、やるか」
「やります」
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局長は、小さく笑った。
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「頼むぞ」
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次は、ヨナタンだった。
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「ヨナタン、お前に聞く」
「はい」
「残るか」
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ヨナタンは、少し黙った。
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「......残ります」
「迷ったか」
「少しだけ」
「なぜ」
「仲間が仲間を撃った。それが、少し堪えました」
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局長は、頷いた。
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「だが、残るんだな」
「はい」
「なぜだ」
「瀧本がいるからです」
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「瀧本?」
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「あいつは、仲間を殺しても、前を向いている」
「......」
「俺が逃げるわけにはいきません」
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局長は、また頷いた。
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「分かった。よろしく頼む」
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面談は、三日間続いた。
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残った者。
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ジョンソン。
ヨナタン。
アブドゥル。
ピーター。
陳志明。
スヨン。
ンゴマ。
ジェームズ。
パク。
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そして、重傷から回復中の者たち。
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瀧本。
マルティネス。
ニコライ。
サラ。
アレクセイ。
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全員が、残ることを選んだ。
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だが、去る者もいた。
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デイヴィッド・ウィルソン。
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元SAS。
ブラボーチームの隊員。
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「局長、俺は去ります」
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局長は、彼を見た。
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「理由を聞いてもいいか」
「家族です」
「家族?」
「妻が妊娠しました。子供が生まれます」
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局長は、目を細めた。
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「おめでとう」
「ありがとうございます」
「だが、それが理由か」
「はい。今回の件で、考えました」
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デイヴィッドは、窓の外を見た。
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「俺は、死ぬかもしれない仕事をしています」
「ああ」
「今までは、それでも良かった。独り身でしたから」
「......」
「だが、子供ができる。父親になる」
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デイヴィッドは、局長を見た。
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「子供に、父親の顔を見せてやりたいんです」
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局長は、立ち上がった。
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デイヴィッドの手を、握った。
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「分かった。お前の決断を尊重する」
「ありがとうございます」
「いい父親になれよ」
「なります」
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デイヴィッドは、敬礼した。
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そして、部屋を出た。
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他にも、去る者がいた。
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カルロス・ガルシア。
通信担当。
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「俺には、もう無理です。仲間が仲間を撃つところを、見てしまった」
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トム・ハリソン。
支援班。
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「家族が心配しています。これ以上は、迷惑をかけられません」
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三人が、去った。
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結果。
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稼働可能な隊員数。
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二十名。
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元の半分以下。
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局長は、報告書を見つめていた。
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「二十人か......」
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ハーパーが言った。
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「去った三人を除いても、拘束中の八人は裁判待ちです」
「分かっている」
「ナリンとファリダは、どうしますか」
「......」
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局長は、考えた。
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「瀧本に聞く」
「瀧本に?」
「ああ。あいつなら、答えを持っているかもしれない」
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病院。
瀧本の病室。
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局長が訪ねてきた。
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「瀧本、相談がある」
「何だ」
「ナリンとファリダのことだ」
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瀧本は、窓の外を見た。
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「あいつらは、柏木に従った」
「ああ」
「だが、戦闘には参加していない」
「そうだ」
「銃を撃っていない」
「確認した」
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瀧本は、局長を見た。
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「俺は、あいつらを許したい」
「許す?」
「ああ。あいつらは、柏木を愛していた。だから、従った」
「それは、理由になるか」
「ならないかもしれない。だが、俺はそう思う」
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局長は、腕を組んだ。
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「お前が許しても、法が許すかは分からない」
「分かってる」
「裁判になれば、有罪になる可能性が高い」
「それでも、俺は許したい」
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瀧本は、天井を見上げた。
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「柏木は死んだ。マリーは逃げた。もう十分だろう」
「......」
「これ以上、誰かを罰しても、何も戻らない」
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局長は、溜息をついた。
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「お前は、甘いな」
「甘いかもしれない」
「だが、お前らしい」
「そうか」
「ああ」
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局長は、立ち上がった。
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「陛下に相談してみる」
「陛下に?」
「ああ。恩赦が出れば、裁判を回避できるかもしれない」
「......ありがとう」
「礼はまだ早い。上手くいくかは分からん」
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局長は、ドアに向かった。
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そして、振り返った。
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「瀧本」
「何だ」
「早く治れ。お前がいないと、本当にどうにもならん」
「分かってる」
「分かってるなら、ベッドで大人しくしてろ」
「......善処する」
「善処じゃなくて、約束しろ」
「約束する」
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局長は、小さく笑って、部屋を出た。
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王宮。
謁見の間。
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局長は、国王の前に跪いていた。
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「ウィチャイ、記者会見は見た」
「恐れ入ります」
「正直に話したな」
「はい。国民に嘘はつけません」
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国王は、頷いた。
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「それでいい。余も、そうありたいと思っている」
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「陛下、お願いがございます」
「何だ」
「ナリンとファリダについて、恩赦をいただきたく」
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国王は、少し黙った。
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「彼女たちは、柏木に従った」
「はい」
「だが、戦闘には参加していない」
「そうです」
「瀧本は、どう言っている」
「許したい、と」
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国王は、小さく笑った。
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「あの男らしいな」
「はい」
「甘いが、嫌いではない」
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国王は、立ち上がった。
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「恩赦を出す」
「ありがとうございます」
「ただし、条件がある」
「条件?」
「彼女たちが、もう一度突撃隊で働くことだ」
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局長は、顔を上げた。
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「陛下......」
「彼女たちは、罪を犯した。だが、償う機会を与えたい」
「......」
「突撃隊で働き、国のために尽くす。それが、彼女たちの償いだ」
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局長は、深く頭を下げた。
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「陛下の御慈悲に、感謝いたします」
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一週間後。
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ナリンとファリダは、釈放された。
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恩赦により、罪は問われなかった。
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代わりに、突撃隊への復帰が条件とされた。
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二人は、本部に戻ってきた。
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出迎えたのは、瀧本だった。
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まだ包帯を巻いている。
まだ完全には治っていない。
だが、立っていた。
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「お帰り」
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ナリンは、泣いた。
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「瀧本さん......私は......」
「いい。何も言うな」
「でも、私は柏木さんについていって......」
「知ってる」
「あなたを裏切って......」
「裏切ってない」
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瀧本は、ナリンの肩に手を置いた。
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「お前は、愛した男についていっただけだ」
「......」
「それは、裏切りじゃない」
「......」
「だから、お帰り」
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ナリンは、声を上げて泣いた。
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ファリダも、泣いていた。
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「私も......私も、許されるんですか」
「許すも何もない」
「でも......」
「お前たちは、仲間だ。それだけだ」
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瀧本は、二人を見渡した。
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「さあ、仕事だ。サボってた分、働いてもらうぞ」
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ナリンとファリダは、涙を拭いた。
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「はい......」
「了解です......」
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突撃隊は、少しずつ再生を始めていた。




