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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第5章 氷
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第5話 決着

---


 最初の銃声は、警告なく来た。


 瀧本が担架の上で目を閉じていた、その瞬間だった。


 乾いた音が空気を裂いた。


 スヨンが悲鳴を上げた。


 瀧本は反射的に転がった。担架から落ち、アスファルトの上に身を伏せた。左肩の傷が悲鳴を上げたが、無視した。


 銃声が連続した。


 一発。二発。三発。


 弾丸がハンヴィーの車体を叩いた。火花が散る。ガラスが砕ける。


 「伏せろ! 全員伏せろ!」


 ジョンソンが叫んだ。


 狙撃だ。


 複数の方向から。


 柏木が、戻ってきた。


---


---


 マルティネスは、M240を構えて周囲を見回していた。


 敵の位置を特定しようとしていた。


 林の中。道路の北側。そこから撃っている。


 「北だ! 北の林から......」


 その言葉は、途中で途切れた。


 銃声。


 マルティネスの体が、後ろに跳ねた。


 胸を撃ち抜かれていた。


 「マルティネス!」


 ヨナタンが叫んだ。


 マルティネスは、地面に倒れた。目を見開いたまま、動かなくなった。


 「くそ......くそ......!」


 ヨナタンがライフルを構え、林に向かって撃った。だが、敵は見えない。


 また、銃声。


 弾丸がヨナタンの足元を抉った。


 「車内に入れ! 車内だ!」


 ジョンソンが叫んだ。


 だが、ジョンソン自身も動けなかった。GAU-19の銃座にいる。そこから降りれば、狙撃される。


 銃声。


 弾丸がジョンソンの耳元を掠めた。


 「くそ......!」


 ジョンソンは、銃座から飛び降りた。ハンヴィーの影に身を隠した。


 GAU-19は使えない。使おうとすれば、狙撃される。


 アルファチームは、完全に制圧されていた。


---


---


 瀧本は、アスファルトの上に伏せていた。


 マルティネスが撃たれた。


 胸を撃ち抜かれた。


 死んだのか。


 分からない。だが、動いていない。


 「マルティネス......」


 瀧本は、這うように移動した。マルティネスの方へ。


 弾丸が頭上を飛んでいく。


 構わない。仲間を助けなければ。


 マルティネスの傍に辿り着いた。


 首筋に手を当てた。


 脈がある。


 弱いが、ある。


 「生きてる......」


 だが、傷が深い。胸を貫通している。このままでは、長くない。


 「スヨン! 医療キットを!」


 「今、行けない......! 撃たれる......!」


 スヨンは、ハンヴィーの影に隠れていた。


 動けない。


 誰も動けない。


 狙撃が、全員を釘付けにしていた。


---


---


 その時。


 足音が聞こえた。


 林の方から。


 近づいてくる。


 瀧本は、首を動かした。


 人影が見えた。


 黒いスーツ。オールバック。片目のサングラス。


 柏木勇気。


 ベレッタM92FSを構え、ゆっくりと歩いてくる。


 「瀧本」


 柏木の声は、静かだった。


 「まだ生きていたか」


 「......ああ」


 「しぶといな」


 「よく言われる」


 瀧本は、立ち上がろうとした。


 柏木が、ベレッタを構えた。


 「動くな」


 「動く」


 瀧本は、立ち上がった。


 柏木が、撃った。


---


---


 弾丸が、瀧本の胸を打った。


 一発。


 二発。


 三発。


 四発。


 五発。


 瀧本は、後ろによろめいた。だが、倒れなかった。


 防弾ベストが、弾丸を止めていた。


 だが、衝撃は凄まじかった。肋骨が軋む。息ができない。


 「ベストか」


 柏木は、冷静に言った。


 「賢いな。だが、無駄だ」


 柏木が、距離を詰めてきた。


 瀧本は、M93Rを抜こうとした。だが、間に合わなかった。


 柏木の動きは、速かった。


 CARシステム。


 近接射撃の技術。


 柏木の左手が、瀧本の右手首を掴んだ。M93Rを抜かせない。


 同時に、右手のベレッタが、瀧本の腹部に押し当てられた。


 ベストの下。防御がない場所。


 「終わりだ、瀧本」


 柏木の声は、感情がなかった。


 「お前は、ここで死ぬ」


---


---


 瀧本は、柏木の目を見た。


 片目のサングラス越しに、冷たい目が見える。


 かつては、正義を宿していた目だ。


 今は、何もない。


 空洞だ。


 「柏木」


 瀧本は言った。


 「お前は、もう戻れないのか」


 「戻る場所などない」


 「ある。俺たちがいる」


 「お前たちは、敵だ」


 「違う。仲間だ」


 柏木は、トリガーに指をかけた。


 「さよならだ」


 瀧本の左手が、動いた。


 柏木のベレッタを、掴んだ。


 銃身を、握りしめた。


---


---


 銃声が響いた。


 弾丸が、瀧本の腹部を撃ち抜いた。


 「ぐあっ......!」


 激痛が走った。内臓が焼けるような痛み。


 だが、瀧本は手を離さなかった。


 ベレッタを、握りしめたまま。


 「離せ」


 柏木が言った。


 「離さない」


 瀧本は、ベレッタを引いた。


 柏木の手から、奪い取った。


 「何......」


 柏木が、驚きの声を上げた。


 瀧本は、ベレッタを構えた。


 柏木に向けて。


---


---


 「この銃は」


 瀧本は言った。


 血が口から流れていた。腹部から、血が滴っていた。


 だが、声は、はっきりとしていた。


 「守るための銃だ」


 柏木は、後ずさった。


 「返してもらうぞ」


 瀧本は、トリガーに指をかけた。


 「クソ野郎」


---


---


 銃声が響いた。


 弾丸が、柏木の頭を貫いた。


 眉間から入り、後頭部から抜けた。


 血と脳漿が、飛び散った。


 柏木の体が、硬直した。


 目が見開かれたまま、固まっていた。


 そして、崩れ落ちた。


 アスファルトの上に、倒れた。


 動かなくなった。


---


---


 瀧本は、柏木を見下ろしていた。


 かつての仲間。


 かつての英雄。


 そして、今は、ただの死体。


 「......柏木」


 瀧本は呟いた。


 「お前は、英雄だった」


 返事はなかった。


 「だから、英雄のまま殺してやった」


 瀧本は、ベレッタを握りしめた。


 「これ以上、堕ちる前にな」


---


---


 その瞬間。


 銃声が響いた。


 遠くから。


 狙撃だ。


---


---


 弾丸が、瀧本の首を貫いた。


 左側から入り、右側に抜けた。


 鮮血が、噴き出した。


 「......っ」


 瀧本は、声を出せなかった。


 首から、血が溢れている。


 息ができない。


 世界が、揺れた。


 瀧本は、膝をついた。


 そして、倒れた。


---


---


 林の中。


 マリーは、スナイパーライフルを構えていた。


 スコープ越しに、瀧本が倒れるのを見た。


 「......」


 マリーの目から、涙が流れていた。


 「ごめんなさい......瀧本さん......」


 だが、彼女は撃った。


 柏木を殺した男を。


 愛した男を殺した男を。


 「柏木......」


 マリーは、ライフルを下ろした。


 「私は......私は、何をしてしまったの......」


 答えは、なかった。


 風だけが、吹いていた。


---


---


 スヨンが、悲鳴を上げた。


 「瀧本!!!」


 彼女は、ハンヴィーの影から飛び出した。


 狙撃など、もう気にしていなかった。


 瀧本の傍に駆け寄った。


 瀧本は、仰向けに倒れていた。


 首から、血が流れている。


 目は、開いている。だが、焦点が合っていない。


 「瀧本......瀧本......!」


 スヨンは、瀧本の首を押さえた。


 血が、指の間から溢れ出る。


 「死なないで......死なないで......!」


 瀧本の唇が、動いた。


 声は、出なかった。


 だが、口の形で、分かった。


 『大丈夫だ』


 「大丈夫じゃない......!」


 スヨンは泣いていた。


 「死なないでよ......約束したでしょ......!」


 瀧本の手が、スヨンの頬に触れた。


 弱々しく。


 だが、確かに。


 『死なない』


 瀧本の口が、そう動いた。


 『俺は、死ぬ気がない』


 そして、目を閉じた。


---


---


 ジョンソンが駆け寄ってきた。


 「瀧本! くそ、瀧本!」


 ヨナタンも来た。


 「首だ......頸動脈を......」


 「止血しろ! 今すぐ!」


 スヨンは、泣きながら瀧本の首を押さえ続けていた。


 「死なないで......お願い......死なないで......」


 ジョンソンが、無線を取った。


 「こちらアルファチーム! 緊急事態! 瀧本が撃たれた! 首を撃たれた! 至急、医療ヘリを!」


 『了解! 座標を送れ!』


 「座標は......くそ、今送る!」


 ジョンソンは、GPSを確認した。


 「北緯16度33分、東経104度45分! 急げ!」


 『了解! ETA二十分!』


 「二十分も持たない......くそ......」


 ジョンソンは、瀧本を見下ろした。


 首から、まだ血が流れている。


 顔は、蒼白だ。


 「瀧本......死ぬな......」


 返事は、なかった。


---


---


 林の中。


 マリーは、立ち尽くしていた。


 ライフルを持ったまま。


 動けなかった。


 「私は......」


 声が、震えていた。


 「私は、何をしたの......」


 柏木は、死んだ。


 瀧本に、殺された。


 そして、私は、瀧本を撃った。


 復讐?


 違う。


 分からない。


 何も、分からない。


 「柏木......」


 マリーは、膝をついた。


 「私を......どうすればいいの......」


 答えは、なかった。


 風だけが、吹いていた。


 木々が、揺れていた。


 太陽が、空高く昇っていた。


 だが、マリーには、何も見えなかった。


 闘が、彼女を包んでいた。


---


---


 道路の上。


 二つの体が、倒れていた。


 柏木勇気。


 頭を撃ち抜かれ、死んでいた。


 瀧本勝幸。


 首を撃たれ、血を流し続けていた。


 一人は、死んだ。


 もう一人は、死にかけていた。


 スヨンは、瀧本の傍で泣き続けていた。


 「死なないで......死なないで......」


 その声は、誰にも届かなかった。


---


---


 瀧本勝幸。


 被弾数、24発。


 そのうち、致命傷、2発。


 腹部と、首。


 彼は、まだ死んでいなかった。


 だが、生きているとも言えなかった。


 意識は、闇の中を漂っていた。


 光が、遠くに見えた。


 近づいているのか、遠ざかっているのか、分からなかった。


 ただ、一つだけ、はっきりしていることがあった。


 俺は、死ぬ気がない。


 俺は、死なない。


 結婚するんだ。


 子供を作るんだ。


 そんな状態で、死んでたまるか。


 瀧本の意識は、闇の中で、それだけを繰り返していた。

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