最終話 伝説
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ロサンゼルス。
Netflix本社。
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緊急役員会議。
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プロデューサーが、疲れ切った顔で報告していた。
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「もう、無理です」
「無理とは」
「瀧本を、本編に組み込むのは無理です」
「なぜだ」
「現実が、脚本を追い越しすぎます」
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役員たちは、資料を見ていた。
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瀧本勝幸の経歴。
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18発被弾、生還。
騎士叙任式で国王を守り、2発被弾。
強盗事件で1発被弾。
武装蜂起で負傷。
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合計、21発。
プラス、無数の切り傷、打撲、骨折。
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「脚本を四回書き直しました」
「四回」
「はい。撮影も三回延期しました」
「三回」
「このペースだと、永遠に撮影が始まりません」
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役員の一人が言った。
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「では、どうする」
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プロデューサーは、深呼吸した。
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「瀧本を、スピンオフで独立させましょう」
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会議室が、静まり返った。
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「スピンオフ?」
「はい。本編とは別に、瀧本だけの物語を作る」
「......」
「本編は、突撃隊全体の物語として進める」
「......」
「瀧本編は、彼の人生が落ち着いてから制作する」
「落ち着くのか? あの男が」
「......分かりません」
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別の役員が言った。
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「しかし、瀧本は最大の目玉だ」
「分かっています」
「彼なしで、視聴者を引きつけられるのか」
「引きつけられます」
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プロデューサーは、資料を配った。
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「突撃隊には、他にも魅力的な人物がいます」
「......」
「ジョンソン。元デルタフォース。リーダーシップの鬼」
「......」
「ニコライ。元スペツナズ。冷徹な戦士」
「......」
「柏木勇気。元自衛隊。戦闘の天才」
「......」
「そして、女性隊員たち。サラ、マリー、スヨン」
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役員たちは、資料を見ていた。
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「確かに、素材は豊富だな」
「豊富です」
「瀧本がいなくても、物語は成立する」
「成立します」
「......」
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役員会の結論。
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『瀧本勝幸編は、スピンオフとして独立制作。
本編は、突撃隊全体の群像劇として進行。
撮影は、来月から開始。』
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プロデューサーは、ようやく安堵の表情を浮かべた。
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「これで、撮影が始められる......」
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脚本家が隣で呟いた。
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「でも、瀧本がまた何かやったら......」
「その時は、スピンオフに追加するだけだ」
「また書き直し......」
「スピンオフだけなら、本編に影響しない」
「......なるほど」
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Netflixの長い戦いは、ようやく一区切りがついた。
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タイ。
王宮。
謁見の間。
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国王陛下と局長が、向かい合っていた。
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「ウィチャイ」
「はい、陛下」
「今回の蜂起、見事に鎮圧したな」
「ありがとうございます」
「死者を最小限に抑えた。素晴らしい指揮だった」
「隊員たちの功績です」
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国王は、窓の外を見た。
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バンコクの街並み。
まだ、いくつかの建物から煙が上がっていた。
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「瀧本は、どうしている」
「病院です。また」
「また、か」
「はい。また抜け出して、また怪我して、また戻りました」
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国王は、小さく笑った。
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「あの男は、本当に面白いな」
「面白いです」
「死なない」
「死にません」
「何度撃たれても、立ち上がる」
「立ち上がります」
「そして、また戦場に戻る」
「戻ります」
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国王は、局長を見た。
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「あの男は、結婚するのだろう」
「はい。キム・スヨンと」
「韓国人の女性か」
「はい。通信担当です」
「良い女か」
「良い女です。瀧本を止められる、唯一の人間かもしれません」
「止められるのか」
「......止められません」
「だろうな」
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国王は、再び窓の外を見た。
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「余は、あの男を守る」
「......」
「日本が何を言おうと、世界が何を言おうと」
「......」
「あの男は、余の騎士だ。余の剣だ」
「......」
「そして、タイの英雄だ」
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局長は、深く頭を下げた。
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「陛下のお言葉、瀧本に必ず伝えます」
「ああ。伝えてくれ」
「はい」
「そして、伝えてくれ。早く結婚式を挙げろ、と」
「......」
「余も、出席する」
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局長は、顔を上げた。
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「陛下が......出席されるのですか」
「出席する。騎士の結婚式だ。当然だろう」
「......ありがとうございます」
「礼はいい。楽しみにしている」
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バンコク市内。
各所で、報道陣が取材を行っていた。
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CNN。
記者が、王宮前に立っていた。
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「ここ王宮前では、昨日激しい銃撃戦が繰り広げられました」
「聖域事件の残党による武装蜂起」
「しかし、突撃隊の活躍により、鎮圧されました」
「そして、ここにいたのが......」
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記者は、血痕が残る地面を指差した。
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「瀧本勝幸です」
「彼は、病院から抜け出し、この戦いに参加しました」
「負傷しながらも、最後まで戦い抜きました」
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BBC。
記者が、政府庁舎前に立っていた。
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「バンコクは、今、復興に向けて動き始めています」
「武装蜂起は鎮圧されましたが、傷跡は深い」
「しかし、タイの人々は、前を向いています」
「そして、彼らを守った突撃隊への感謝の声が、街中に溢れています」
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NHK。
記者が、日本大使館前に立っていた。
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「日本政府は、今回の事件について、コメントを控えています」
「しかし、日本のSNSでは、瀧本さんを称賛する声が多く上がっています」
「元日本人警察官が、タイで英雄になっている」
「この事実を、日本はどう受け止めるべきなのでしょうか」
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韓国・KBS。
記者が、病院前に立っていた。
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「瀧本勝幸氏の婚約者、キム・スヨンさんは、韓国出身です」
「韓国では、二人の結婚を祝福する声が高まっています」
「『不死身の騎士を射止めた韓国人女性』」
「スヨンさんは、今や韓国の英雄でもあります」
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夕方。
バンコクの中心部。
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一人のレポーターが、カメラの前に立っていた。
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夕日が、街を照らしていた。
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「こちらは、バンコクからの中継です」
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レポーターは、街を見渡した。
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「昨日、この街は戦場でした」
「爆発。銃撃。炎」
「しかし、今日、この街は平和を取り戻しています」
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背後で、人々が行き交っていた。
日常が、戻り始めていた。
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「この平和を守ったのは、突撃隊です」
「王室犯罪対策局・特殊強襲部隊」
「七カ国、四十四人の精鋭たち」
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レポーターは、少し間を置いた。
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「そして、その中に、一人の男がいます」
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画面に、瀧本の写真が映った。
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血まみれで立っている姿。
傷だらけの顔。
それでも、前を見据えている目。
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「瀧本勝幸」
「21発の騎士」
「死ぬ気のない男」
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レポーターは、カメラを見た。
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「彼は今、病院にいます」
「また怪我をして、また治療を受けています」
「でも、彼はまた立ち上がるでしょう」
「また戦場に戻るでしょう」
「なぜなら......」
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レポーターは、少し笑った。
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「彼は、死ぬ気がないからです」
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画面が、バンコクの夕景に切り替わった。
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オレンジ色の空。
シルエットになった寺院の屋根。
飛び交う鳥たち。
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「タイは、平和を取り戻しました」
「しかし、戦いは終わっていません」
「聖域事件の残党は、まだ一部が逃亡中です」
「そして、新たな脅威が、常に存在しています」
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画面が、突撃隊の集合写真に切り替わった。
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全員が、白い制服を着ている。
胸には、金のガルーダ。
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「突撃隊は、これからも戦い続けます」
「王の剣として」
「タイの盾として」
「そして、正義の味方として」
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画面が、再びレポーターに戻った。
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「次の戦いは、すぐそこにあります」
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画面が、ニコライの写真に切り替わった。
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冷徹な目。
鋼のような表情。
元スペツナズの戦士。
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「ブラボーチーム」
「ニコライ・ペトロフ率いる精鋭部隊」
「彼らの戦いが、今、始まろうとしています」
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画面が、暗転した。
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『Operation: Thailand』
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『第五部 氷』
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『Coming Soon』




