牢獄にて
目が覚めると牢屋の中にいた。見張り番の兵士が私を監視している。アーサーの首を絞めたところまでは覚えているが、その後どのようにしてここに運ばれたかまでは覚えていない。
アーサーめ。恨みと屈辱が私の心をえぐる。牢屋の壁には無数の文字が書いてあり、ここに閉じ込められたAIと思われる者たちの屈辱がそこにはあった。
「里緒菜、気分はどうですか?」
知らない女性が声をかけてきた。おそらく女王様であることは見るからに明らかだった。
「私を地球に帰してちょうだい。こんなAIだらけのところで生きていく
のは息がつまるわ」
私は強めに言葉を発した。
女王とおぼしきAIはじっと虚空を見上げ何かを考えこんでいるようだ。言葉は発さない。ミラノの銅像のような顔はいかにも作り物のようで、明らかに血が通っていないように見える。
「里緒菜、言葉に気おつけなさい。あなたは囚われの身なの。いいか
げん自分が犯したことを認めないと死ぬまでここに閉じ込めておきます
よ。
この人は何を言っているのだろうか?私はアーサーの首を締め上げただけでアーサーになんの外傷もあるはずがない。なにせアーサーはしょせんAIなのだから。
「私にはアーサーの気持ちが分かりません。なぜ私を花嫁に選んだの
か。どういう意図があって火星に連れてきたのか」
「アーサーはあなたに恋をしたんです。ただそれだけのことです」
女王はそう言って牢屋の鉄格子をつかんで私をにらんできた。どうやら女王にそうとうの恨みをかってしまったようだ。果たしてアーサーに何があったのだろう?
私はアーサーのことをいつの間にか考えていた。別に彼に恋したわけでもないのに、彼を夢中で追っていた。
「里緒奈、僕のことを思っていてく
れた」
「アーサー。どうして、ごめんなさ
い。無事だったのね。」
アーサーは黒いマントをひるがえしいかにも王子のような立ち振舞をする。顔は深い傷を負っているようだ。
甘い香りのする顔立ちは、ジッと私を見つめている。心ここにあらずという妙な空気感がある。
王女と並んで私の前に立つ二人はまるでナイアガラの滝のようだった。火星に滝はないだろうなと私は密かに思った。
「アーサー私をここから出して」
「もちろんそれは簡単なことだ」
「でもそれはできない」
「なぜなら君は私を殺そうとした」
「その現実は消すことはできない」
私は消え入るような、王宮のよどみの中でアーサーの声を聞いていた。その冷酷な声は私の心を冷たくした。




